第36話 「二回目の命日」
たどり着いたのは俺が焦がれに焦がれていた日本にとてもよく似た景色。
あぁん。どことなく出汁と醤油の香りがするぅ。
日本人の血が騒ぐぅ。
「ダイゴくんがいた世界もこないな感じなんか?」
アルスはこっそりと俺に話しかけてきた。
「うーん。文明はもう少し発達してて歴史的なこういう建物よりは近代的な建物が多かったり車ってのが至る所走ってたり魔法が無い分科学が発達してて道路や交通機関とかももっとある感じだったかなぁ。」
「なるほどなぁ。俺らの世界からしたら魔法や気術がないんなんて想像もつかんほど不便に思えてしまうなぁ。君が転生してきたことや君が得意なことや何となくどんな環境で育ってきたかはわかるねんけど、君がいた世界のそういう事情までは見えんさかいに今度詳しく聞かせてな。この街君に合ってたみたいでよかったわ。」
それだけ言うとアルスは集団の一番後ろでシャルと喋っていたアベルを連れ先頭を歩き出した。
アベルに対してのさり気ないスマートさ...それも含めて自分の好意も込だよねやっぱり。
ま...どうでもいいんだ...けど。
街を歩き眺めていると文化的な建物が並んでいてなんだか修学旅行に来たみたいだと思った。
「なぁ、ハルート、アベルちゃんかわいいよなぁ。」
「そうですね。とても綺麗な方だと思います。」
「ハルートはどんな子好き?」
「...考えたことありませんね。それよりダイゴ見てくださいこの街並みをあの屋根は瓦屋根と言うんです。」
「知ってるよぉ〜俺のいた世界にそっくりだし。正確に言うと俺のいた国の近隣の文化も混ざってるように見えるけどなんだかとても懐かしいよ。」
「おぉ〜それは興味深い。もっとお話聞かせてください。」
俺とハルートは店までの道のりをのんびり話しながら歩いた。
今までは少し遠慮してたハルートに俺が自分から前の世界の話を振ったことで根掘り葉掘り聞かれてちょっと疲れたよぉ。
アルスが店の前に転移せず俺たちを少し歩かせたのは街を見せるためなんだろうな。
どこまで粋なんだよ。
「なんかいい匂いしない??」
「な!するする。」
シャルマカはキャッキャッ言いながら団子か何が焼かれる匂いに反応してて楽しそう。
女子旅って感じだよなぁ。
歩いてる途中から完成な住宅地...というか門構えからどう考えても金持ちの家が立ち並ぶエリアに入り大丈夫か?これと思っていたらアルスは突然、この世界の文字で料亭 陸 と書かれた看板が門の横に付いてる店...というかでかい敷地への入口の前で立ち止まった。
アルスは俺たちを一旦店の前で待たせて1人で入っていった。
「待たせたな。んじゃ入るで。今日は貸切ったったから好きに食べたり飲んだりしてええで。普段は予約取れへんけど上手いこと言っといたわ。」
サラリとすごいこと言うよね。どう見ても一見さんお断りシリーズの店だよね?
アンタほんとに何もんなんだ。
敷地の中に入ると美しい庭園が広がっており侘び寂びを感じる枯山水がある園庭や鹿威し風の装飾が施された小さな池。
ん〜ここはすげえ日本っぽい。
悪い政治家が作戦会議してそ〜。
「いらっしゃいませ、エルファイ様。」
アルスは軒先に出てきた着物姿で仲居さんのような獣人に軽く会釈した。
「突然すまんせん。」
「いえエルファイ様には大変お世話になってございますのでお気になさらないでください。」
「これ口に合うと良いのだけれど女将と板さんとみなさんで召し上がって貰えるとうれしいんやけど。」
アルスはそういうとアベルがずっと差し出した魔法カバンから紙袋をひとつ出して仲居さんに手渡した。
手渡す時にちらっとだけだがとんでもない数の紙幣が菓子と一緒に入ってるのが見えた。
なんだなんだ...闇取引でもしてんのか??
まぁ...俺の気にすることでは無いよな。
「頂戴いたします。」
仲居さんは丁寧にそれを受け取ると俺たちを茶の間に案内した。
「お部屋の用意をさせていただいておりますのでもう少々お待ちください。」
暫く出された茶菓子なんかをつまんでいると部屋が用意できたとの事で再び仲居さんに連れられ大きなテーブルが置かれた畳の部屋へやってきた。
お座敷って感じの部屋で掛け軸なんかがかってたり透明ガラスの襖の奥には廊下を挟んで庭園が見えた。
「まぁみんな座ろうや。」
カチンコチンに緊張している俺たちをよそに上座に腰をかけるアルス。
アベルはその対極の腰をかける。
「これどこでもいいの?」
シャルが俺に聞く。
「んー通常ならルールがあるんだけど。」
と俺が言いかけるとアルスはそれを遮った。
「かまへん、かまへん。ここには俺たちしかおらんのやから窓ガラス割ったり馬鹿騒ぎしなきゃなにしたってええねん。ええから座り。」
「お、おう。」
「うひゃ〜とはいえ緊張するね!シャル!」
相変わらず楽しそうにするマカフィー。
最初のクールな印象とはだいぶ違ってるなぁ。たぶんこっちが素なんだろうな。
「ダイゴ、あなたは一応上座へ。」
「ハルート、気にするなと言われたろ?逆に失礼になるから適当に座るぞ。」
「はい。失礼しました。」
それから仲居さんがメニューを持ってきた。
「こちら特別に用意させていただきました単品のメニューでございます。本日の用意された食材にてお作りできるものを書いてございます。お気軽にお申し付けください。」
あの言い方からするに、どうも普段は懐石のコースだけらしい。
いや〜フレンチでこんなの絶対できねーし貴重な体験だ。
いや...アルスならフレンチでもやりかねんな。
板さんの手書きなのか墨で書かれたそれは、結構達筆で共通語で書いてあるはずなのにどこか趣を感じさせる。
「ん〜唐揚げがあるぅ。うわぁ!シロメシ!あーまってマル酒ってまさか前にタッカンブルで聞いた噂のあれか?」
俺が目をキラッキラさせてメニューを見ているとアルスはニヤニヤしながらこっちを見た。
「ふふ〜。ロイズの料理よりこっちのがワクワクするやろ??」
それはきっと俺が細かく味を分析して料理人のスキル食材の作り手の技量それら全てを楽しむからという意味だろうか?
ロイズはアクアベリーよりも実は交易が盛んのため料理は向こうの世界で言うイタリアンやそれこそフレンチアジア料理なんかの文化の混ざったものが多く洗練されたものと言うよりは文化を感じるものらしい。
それに俺の育ってきた環境がなんとく見えるのだとしたらこっちのがシンプルに喜びそうだとも思ったのだろう。
ぶち刺さってますよ、ええ。
しかも俺が嬉しそうにするのを見てもっと嬉しそうにするこの男は本当に人たらしそのものだ。
「なぁハルート刺身食べてみようぜ。生の魚だぞ!」
「生のお魚はマルジニアでは美味しいと聞きます。ルコニアではバークサーモンを食べる文化がありましたがグラタンやシチューが一般的でしたし試してみるのもいいかもしれませんね。」
「なあな!ダイゴー!この茶碗蒸しってどんなものなのかなぁ?」
「あぁそれはな出汁で溶いた卵を小さな茶碗に入れて蒸したものを言うんだ。食ってみろよ、美味いぜ。」
思った以上に日本の食文化に近い。
こりゃあマルジニアたのしいじゃん。
フレンチばかりに囚われていたが日本食は日本人なだけにすげー恋しいわけ。
うふっ...やっぱ自分のフレンチの店を出すならマルジニアがいいな。
うおおお!まってくれよメニューをよく見てたら見つけちまった。
これは...赤味噌を使った味噌汁!?白もあるの!?
なになに天国?納豆もある!?
焼き魚は近隣の川で取れた魚だってぇ!?
あ...俺今日が二回目の命日かも。もう二度と触れることの出来ない故郷の飯に触れることができるだなんて。
涙ホロリっていうか嬉しすぎておしっこジョロリって感じ。
「カキフライ!?マジで!牡蠣あるの!?」
「あぁ、海の魔物でだいぶ大きいバリューオイスターというのがいるのですがおそらくそれを使ったフライなのかと。この時期はまだ身は小さいようですが甘みが強いと聞きます。」
ハルート、ナイスアシスト!
「なぁアルスさんや。」
「なんや?」
「おれ...選べねぇよ。でも絶対食いたいのは白米それからマル酒あと味噌汁と唐揚げと刺身。」
「あっはっはっ、片っ端から頼めばええやん。シャルちゃんやったっけ?ようたべる言うてたし大丈夫やろ?」
「うおおお!ありがてぇ。じゃあこれ端から端まで行っていいすか?」
「ええよ。食材も本日分で仕入れてるさかい余らせるんもよーないやろうから好きにしい。」
アルス...あんたは神様だぁ。
俺はしみじみと喜びを噛み締めた。




