第34話 「胡散臭い男との出会い」
「いやぁ〜ちょっと簡単すぎたな。」
「上級者向けとか書いてあったから身構えてたのにな。」
「でも、エンディングには少し感動したよぉ。」
「美しい音楽と美しい景色の振り返りがあったので感情が入りやすかったですね。」
そんな感じでみんなで感想を言い合いながらルームサービスを頼みカンパイした。
ちなみに現実世界の時間はあまり進んでおらず本に潜ってから2時間程しか経過していなかった。
目安が4時間だったから半分くらいの時間でクリアしてしまったようだ。
本の中では半年くらいを過ごしたような気がするので脳がバグりそう。
「ふぁ〜。なんか体は全然疲れてないのに心だけ疲れた感じがするなぁ。」
俺が欠伸をしながらそういうとマカフィは笑いながら俺を見た。
「ふふっそうだよね。ブッキンアドベンチャーの中では半年くらい過ごしたはずなのに二時間しか経ってないもんね。あ、僕お風呂入ってきてもいい?誰か先に入る人いるかな??」
「あ、俺も一緒に入る。」
「おっけー!じゃあシャル悪いんだけど僕服とかタオル用意するからお湯ためてきて貰える?」
「おう!」
女子二人は風呂に入るのか。僕も混ぜてください洗ってください隅々まで
と言いたいところを我慢し、仕方が無いのでハルートとツマミの感想を言い合いながらブッキンアドベンチャーのストーリーの矛盾をつついたり高等魔術の論文の脆弱性などを語ったりした。
気がつくと夜はだいぶ更けていた。
窓の外に見えるのは黒い海とそれを照らす地球と似たような月。
この世界は結構地球に似てるところがある...。
のだが微妙に概念や物理法則なんかが違ったりエネルギー源なんかが異なってたりする。
そりゃ魔法の世界だからな、わかるんだけど時々混乱することがある。
例えば今日みたいに満月の日潮の満ち干きに影響があるのはもちろんだがそれの原因が引力とかそういうものではなくマナそのもの流れが変わるというものだったりそれによって未熟な魔法使いは魔力が暴走しやすくなったりするとかしないとか。
地球の常識で考えたら随分ファンタジーな話なのだが俺の今生きてる現実はこれなのだからそうだと思って生きるしかない。
「ダイゴ。すみません私は先に休みますね。」
ハルートは歯を磨き終わるとベッドに横になり俺にそう言った。
「あぁ、おやすみ。」
なんだか....誰かのいる暮らしってのはいいもんだな。
実家を出てからというもの疲れて帰ってきてるのに誰かが居るなんて嫌だし想像もしたくなかったが...今はこの仲間たちとの暮らしが悪くないものに思える。
ホテルのレストラン時代の奴らだったら今でも反吐が出るほど嫌だけど。
こいつらはいい奴らだし。
風呂に入るためマカフィー達のベッドを横切ると丸くなって眠るマカフィーを撫でながらシャルがうつらうつらしている。
なんて人間らしいのだろうか。
獣人になったからと言ってもやっぱり何も変わらない。
常識が通じないことには未だに戸惑うけどこいつらを見ていると人類はどの世界でも人類なのだと思わされる。
俺は愛おしさを感じながら、灯りを消してやった。
月とぼんやりとした他の部屋や船の灯りだけが湯船を照らしていた。
湯船に漬かりながら俺は人差し指から炎の魔法を出してなそれを眺めていた。
ゆらゆらとロウソクの灯火のようにゆらめくそれはなんだか心を落ち着かせてくれた。
これってチルってやつ!?
よくアパートのきったねーユニットバスでもキャンプファイヤーの動画とか見ながら風呂に入ったなぁ。
体毛は水を吸って重くなり顔の毛からは雫が沢山滴り落ちる。
湯船を眺めると換毛期なのかめちゃくちゃ俺の毛が浮いてた。
ちなみにマカフィーとシャルの毛も浮いてるのでかなり毛風呂だ。
このふわふわの体はこんな風に毛が生え変わるのか。
この世界に来てからあまり深く考えずに自分の体を受け入れていたが改めて見るとちゃんと動物的な特徴があるなぁ。
おれってば可愛い子犬ちゃんなんだね。
年上の美人お姉さんの飼い主募集中です。
「はぁ...。」
なんだか突如虚しくなったので、
シャワーを浴び風の魔法で体を乾かしてタオルで拭きあげると腰にタオルを巻き再びマカフィーたちの前を横切り自分たちの部屋に戻るとベッドにそのまま横たわった。
このゆっくりとした時間がたまらなく愛おしい。
ロイズに到着したら少しゆっくりしてからグレイスに行くのもありなのかも。
もちろんマカフィーとシャルが大丈夫ならだけど。
まぁどうなるか分からないし、
あと1週間ほどで恐らく到着するみたいだしこの船の暮らしをのんびりと堪能してこう。
俺は段々とやってくる眠気に身を任せそのまま眠りについた。
ちなみに俺はこの後風邪を引き、しかもそれを強がってこじらせたため、ロイズに行くまで魔法が上手く使えずハルートの歌とマカフィの信仰魔法で看病をされ気がつくと停泊する日になっていた。
トホホ...。
ともわれ新大陸に着いたわけで待ちに待ったレストランにも行ける。
身支度を整え、合計1ヶ月以上世話になった船に別れを告げて陸の上に踏み出した。
二週間以上ぶりの陸地はやはりおかしな感覚。
雑居房の時より船は揺れなかったもののやはり大地とは感覚が違う。
「ロイズについたなぁ。まずはグレイス行きの船のチケット買うかぁ。」
シャルは伸びをしながら俺の方を向いた。
「あぁ、それなんだけどシャルとマカフィーさえ良かったら少しの間だけここに滞在しないか?もちろん急いだ方がいいのはわかってる。しかし金も続かなくなりそうだしなによりグレイスは極寒の地だろ?装備品を買う金を集めたいんだ。」
「あぁ。まぁ多少なら大丈夫じゃね?まぁどっちにしても船のチケットを買って日程を決めてからの方が動きやすいだろ?まずは乗船センターへ行こうぜ。」
「あぁ、そうだな。」
そんなこんなで俺達は船を降りたあと乗船センターを歩いてめざした。
途中物乞いやら商人が沢山寄ってきて色んなものを売りつけようとしてきた。
俺らはそれを物の見事に交わしながら目的地へと急いだ。
しかし、
「おう!そこのあんちゃん達。長旅おつかれさんやで。」
突然の関西弁に俺は思わず振り向いてしまった。
そこには白く美しい毛並みのライオンがスーツ姿で立っていた。
筋骨隆々なのが服の上からでも見て取れる。冒険者か?
「滞在場所に困ったらマーシェット商会にぜひ...宿舎もありますしなによりマルシェや商店街へも近いです。レストラン街へのご案内もできますよ。」
俺たちが不思議そうな顔をしていると、
その怪しげな男の横にいるスタイル抜群のヤマネコかオオカミかよく分からないねーちゃんが笑顔でそう言った。
「うちは安い、親切、素敵な商品をモットーにやらせてもろてますんでいい装備品なんかも紹介できますさかい良かったら贔屓にしてなぁ。」
男がそう笑うとマカフィーは男を一瞬睨みつけた。
しかしすぐにハッとした様子になる。
「マーシェット商会ロージニア大陸代表のアルス!?」
驚いた様子でマカフィーはそう言った。
「お、俺の事知っとるん?嬉しいなぁこないかわい子ちゃんに俺知られとるなんて罪な男やわぁ。」
「知ってるも何も...色んな本出したりていうか商会の中で最も若い頭領だって雑誌やサイトなんかでも取り上げられてて...ていうか僕あなたのグラビア写真持ってます。」
「いやぁ〜。買ってくれたん!?うれしな〜。ま、若気の至りやから恥ずかしいねんけど、うはは。」
「ちょ!アルスさん!なんですかグラビアって。」
横にいた美女は慌ててアルスと呼ばれる男の方を見た。
「あははは...アベちゃんはしらんのか。まぁ進められるがまま出たさかい...乗り気やなかってんで?」
「うそだ!僕写真撮られてるあなたとても楽しそうだと思いました。シャルだって一緒に見ててそう思ったよね?」
「ん?なんだっけ?それ。」
「んもぉ!シャル!」
「あはははは君らおもろいなぁ。申し遅れて偉いすんません。俺、この大陸のマーシェット商会代表アルスいいます。こっちは俺の女のアベル言いますねん。」
アルスはアベルの細い腰を抱き寄せながらそう言った。
その時、俺はアベルとアルスが小声で小競り合ったのを見逃さなかった。
「ちょ...いつからぼ...私がアルスさんの女になんてなったんですかぁ。」
「今や今。いいから合わしときぃ。夫婦っていう設定やったろ?忘れたんけ。」
アベルは顔を赤らめながら会釈をした。
「ところで君らどこへ向かっとるん?」
「グレイスランドに行きたくて船のチケットを買いに行こうとしてたんだ。」
「あぁ!それなら俺が瞬間移動で送ったるで船より早いやろ?それにグレイスには少し用事があるさかい行こうと思ててん。」
「まじ!フープル使えんの!?」
「フープルとはちゃうけど俺は東洋の気術や祈祷術が使えんねん。似たようなもんやけどな。」
「まじかぁ!助かる!」
「ただ条件があるで。俺たちの依頼手伝ってや。見たところ君ら結構強いやろ?
もちろん報酬も出すで。」
「いい!手伝う!何すればいいんだ?」
「とあるダンジョンに行きたいんやけどこの子戦えへんから二人では危険やねん。」
少々怪しいが宿を探す手間や依頼を決める手間も省けて一石二鳥かと思った。
「そのくらいお易い御用だ。いいだろ?みんな。」
俺が皆の方をむくと全員が頷いてくれた。
「きまりやな!まずはうちの商会に来てもらうで。飛ぶから俺の周りに集まってな。」
俺達はアルスに言われるがままアルスの周りへと集まった。
それから程なくして術の準備が出来たようで赤い光に包まれて港町は一瞬で見えなくなった。




