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第32話 「アルスとアベル2」

次の日アベルが下の階に降りるとアルスは朝食を食べていた。


「あ!ごめんなさい。今日僕の当番でしたよね。」


「ええよ。当番とか決めたけどできる時は自分でするし。」

アルスは怒っていると言うわけでは全くないが朝でぼーっとしていてので若干冷たい言い方になってしまった。

アベルは生理中で些細なことが気になるので少しだけ表情を曇らせた。

だからと言ってそれに気がつくこともなく目をしょぼつかせながらパンをショリショリと音を立てて少しづつ食べるアルス。

しばらく二人の間には無言が入っていたがアルスが大きな欠伸をしながら口を開いた。


「ふぁ〜〜~。あ、そうや。今日明日は休みにするさかい好きなことしててえで。俺はちっと出かけるけど一緒に来るか?」


「....すみません。今日はすこし体を休ませてもいいですか?洗濯なんかもしておきたいですし。」


「おお、かまへんで。あ、そや、君がなんやこの前行っとった病院から手紙来とったで君宛てやさかいに後で書類ボックスみてみ、入れといたから。」


「ありがとうございます。明日は動けそうなのでお付き合いさせてください。」


「んなむりしなや〜。君ができる範囲でええんや今日明日休み言うたしな〜。」


アルスは歯にパンカスを着けながらニヤニヤしてそう言った。


「ありがとうございます。」


「あ、アベちゃん!そろそろ起きる思てアベちゃんの分もパン焼いてあるで〜。食べ〜。」


アルスは食べ終わって立ち上がるとオーブンの中から食パンを取り出し自分が食べた皿の上にそのまま載せるとアベルに差し出した。

アベルはうっすら嫌だったが出してもらったものにケチをつけるわけに行かないので苦笑いで返事をした。


「ありがとうございます。いただきますね。」


アベルは屁で返事をしてキッチンを後にして自分の部屋へと上がって行った。

 

「ったく。ほんと下品なんだからァ。」


文句言いながらもアルスの焼いたパンの焦げを落として美味しくいただいた。


「うわっ!まだ苦っ!」

一方アルスはその頃部屋でいかがわしい雑誌を読んでいた。


「んふふー。今月のグラビア...ええのぉ。スマホより本やわやっぱり...。」


そしてひとしきり楽しんでスッキリしたあとは筋トレし着替えるとランニングに出かけた。

こういう日のルーティンとしてこの後は市場調査...その後は戦闘訓練、市場でのコミュケーション、また自分の出資している会社店舗の店舗巡回を行う。



パンを食べ終えたアベルは、婦人科から来た手紙をチェックしていた。


「よし...異常はなさそう。」

長い間ピルを飲んでいた影響もあり病気のリスクを踏まえアベルは婦人科に通っている。

ちなみに両性具有の場合人にもよるが通常であれば50日~60日くらい周期で生理がやってくる。

通常の女性の半分のスピードとはいえ生理が来たら商売にならないその為ピルなどでのコントロールを義父に強いられていたため婦人科系の異常がないかをチェックしているようだ。

ちなみにピルの影響もありアベルに関しては男性機能の方はかなり弱いらしく両性具有にもかかわらずかなり男性的なところ弱い上に本体も萎縮してしまっている。

それでもアベルはなるべく男として生きたいと思っているので逆らえない自分の女性的な部分とはかなり葛藤しているらしい。


「はぁ...。お腹痛い、薬貰いに行かないと。」


アベルは立ち上がると街へ出て薬屋に痛めどめを貰いに行った。


薬屋に寄った帰り、グロサリーショップで生理用品を買い揃えているとアルスに声をかけられた。


「アーベちゃん。何こうとるん?」


「う、うわあああ!アルスさん。びっくりした。」


咄嗟にカゴを後ろに隠すアベル。


「俺には見せれんもんかぁ?えろいアイテムかぁ!?」


アルスが茶化すとアベルは顔を赤らめてしまった。


「僕が...望まないものです。」


「....すまん。俺、ノンデリやからほんとやばい時は怒ってええからな。あ、今打ち合わせ中やった。アベちゃんの顔みたら嬉しくて声かけてもうたわ。もう戻るな。」


「お仕事中すみません。」


「何を謝っとるん?俺が声をかけたさかいに。気にせんどき、あ言うとくからレジでそれただにしてもらい。じゃまた家でな。」


アルスはそれだけ言うとバックヤードに消えていった。


アベルは自分の情けなさに恥ずかしくて涙が出そうだった。

アルスは優しいのに突き放すようなことをしてしまった自分が嫌なのだ。

...恐らくアルスは何気なくやっているだけなので何も気にしていないであろうが。


しかし、女性性が強くなってしまっているアベルには些細なことが自責に繋がってしまう。

(せっかく拾ってもらったんだ...弱いままのぼくでいたくない。)

しかし、アベルは意志が強い。

なんとかアルスの邪魔にならないように少しでも役に立ちたいと考え、グロッサリーストアを出たあと帰りに本屋で魔導書を買った。


アルスが用意してくれた自分用のスマホでオンライン魔法教室の予約もとった。


痛み止めを飲み横になりながらアベルは今日本読んだ。

文字は孤児院自体に覚えたので読めるし書ける。

共通語も普通に喋れる。

しかし魔導書となると専門用語も多くいちいち分からないことをスマホで調べながら魔法の基礎を頭に叩きこまなければならない。


初級魔法や簡単な占星術、また回復魔術においても普通は学校で習う。

しかしアベルは学校に通うことができなかった。

アルスはある程度魔法は使えるが教えられるほどではない。何より専門は東洋気術の為なかなか魔術を使う機会もないらしい。


「んで...ここがこうなるからこの術式は...。」

アベルは口に出しながら必死に魔術の術式と仕組みを理解しようとしていた。


「あーん!だめだぁ。わかんない...えーと....?ここのスペルは....こうだからえーと...。」


そんなこんなしているうちすっかりと夕方になってしまった。

魔導レッスンの予約は夜からなのでそれまでに最低限の知識を頭に入れておきたい。

アベルは時間まで必死に基礎的な知識を頭に無理やり詰め込んだ。


「こんばんわ、魔術講師ベルです。本日はよろしくお願いします。」


「はい、よろしくお願いします。」


そこから三時間ほどのスマホを通じてオンラインで行われた講師にアベルは、より火、水、土、回復の基礎魔術はなんとか発動くらいはできるようになった。


「これで風が出来るようになれば簡単に氷の魔術ができるようになります。初級、中級のうちは難しく考えすぎず...元からプログラミングされた言語そのものを思うかべて魔力を込めてみてください。それではまた次回のご予約をお待ちしております。」


講習は終わりスマホの明かりだけが部屋の中を照らしていた。

アベルは夢中になっていた為部屋の明かりもつけずに練習をしていたことに今気がついた。

そこで試しに光の魔術を試すとあかりを浮かび上がらせることができた。

魔力不足ですぐに消えてしまったがアベルにとっては大きな一歩だ。


その光を見ながらにんまりしてアベルは満足しながら眠りについた。


「ぎゃああああ!なにこれー!」

翌朝目が覚めたアベルは真っ赤に染ったシーツを見て叫んだ。


「もぉ...最悪。本当最悪。なんでこんなんなるの??」


泣きながらシーツを外しパンツを下ろすと羽付きのナプキンは見るも無惨に真っ赤に染まりドロドロの血の塊が横から溢れていた。

「羽付きなら...溢れないと思ったのに...二日目の出血舐めてた。」


アベルは新しいナプキンをタンスから出したパンツに当てそれに履き替えると、パンツとシーツとズボンを水道で軽く、水洗いして、

昨日洗うことの出来なかった溜まっている洗濯物と共にランドリーエリアにやってきた。


「...。サイテー、アベルさんのくさい服も洗い忘れてたし。二日経ってえぐい匂いになってるし....。おまけに洗濯機誰か使ってるし。」


アルスの商会の洗濯エリアにある洗濯機は一つ。乾燥機も一つ。空いてなければ使えない。

仕方が無いので街のランドリーまでやってきたアベル。


そこには何故か洗濯物を持ったアルスがいた。


「あはは。アベちゃんも来たんかぁ。俺年甲斐もなく夢精してもうた。だれか洗濯機つこてたからしゃーなしでここに来たんや。アベちゃんもエロい夢でも見たんか?」


「...答えないとダメですか?」

のほほんとするアルスを睨みつけるアベル。


「すまんな...また俺やな事言った?」


「別にいいです。あーお腹痛い。」


「アベちゃんそれ置いとき。嫌じゃなかったら俺が一緒に洗っとくわ。」


「...多分生臭いんでいいです。」


「あっはっはっ!俺のんもアベちゃんのとはちゃうけど生臭いでぇ。お腹痛いんやろ?休んどき?」


「....。」


「女の子日やろ...?あーこれ聞くんもセクハラか!?あちゃぁ〜あかんな俺。」


ひとりでてんやわんやするアルスを見てアベルは思わず吹き出した。


「ぷっ...いいですよ。むしろアルスさんこそ忙しいんですから僕に洗濯預けていいですよ。」


「...ほんまに?この後打ち合わせ入ってねん。帰って着替えなあかんからそれだとほんま助かる...。でもほんまにいいん?」


「良いですよ。」


「ありがとぉ〜。お昼一緒に出かけような。客船がこの街に来るねんて商売になりそうなええ冒険者いたらつかまえよう思ってんねん。面白そうやろ?」


「はははアルスさんお仕事のことばっかり。いいですよ行きましょう。」


「あ、でもお腹痛かったら無理せんでええからな。」


「大丈夫です。昨日よりは出血よ量少ないですし、お腹痛いのも痛み止めでどうにかなりますから。それに僕はアルスさんのお手伝いをする為にここまで着いてきたんですから。」


「ええ子やなぁ〜。んじゃすまんけどまた後でな。」


そう言い残し栗の花を思わせる強烈な香りのパンツとズボンをアベルに渡すとアルスはランニングがてら商会に戻って行った。


アベルはニコニコしながら洗濯が終わるのを待った。

アルスに気を使ってもらったのが嬉しかったのだ。

乾燥までが終わるとアベルは商会に戻り掃除などを済ませシャワー室が空いているのを確認しシャワーを浴び汚してしまった浴室を掃除して身なりを整えた。


アルスが迎えに来てくれるのを待つ間、魔導書を読み直し昨日の復習をした。


「たっだいま〜。アベちゃんちょっときぃ〜。」


戻ってきたアルスに呼び出されたアベルは彼の部屋へと行く。


「遅なってすまんの〜。すまんついでなんやけど俺のお願いもう一個聞いてくれへんか?」


ニヤニヤと笑いなにやら体の後ろに隠しているアルス。


「...ことと次第によってはお断りしますが、なんです?」


「ありがと〜聞いてくれるん。ふふふ、これよこれ!」


そう言ってアルスが差し出したのは綺麗な赤いドレスだ。


「アベちゃんすまんけどこれ着てくれ。」


「....嫌です。」


「いや〜〜旅人誘うんに君の美貌が必要なんや〜女のかっこしたないんは分かるけど協力してや〜。」


アルスはアベルが自分に女性性があるということを理解させられるのが嫌だということを認知している。

にもかかわらず商売のためにはこうやって気軽にアベルを利用しようとする。

その度アベルが渋りアルスが土下座し渋々アベルが着るというのがお約束。


「僕男ですよ?こういうのはちょっと。」


「そこをなんとか!最後の1回や!」


「はぁ...もうこれ多分堂々巡りですね。いいですよ。そのかわり後で僕のお願いも一つ聞いてくださいね。あと絶対お金に変えてくださいね。」


大きな溜め息をつきながらも赤いドレスを受け取るアベル。


「はぁ...トイレは定期的に行かせてくださいね。漏れたら足に血が垂れるんで。」


「ひぃいい....聞いただけで痛そうや。わかった!やばそうなら言うて。俺が間を繋ぐわ。」


「はい。じゃ着替えてくるんで。ついでに化粧もしてくるんで下で待ってて下さい。」


「おう!覗かへんから安心してな!ほんまむむッッッッちゃ気になるけどな!あははははは。」


(アルスさん...あんたって人はもう...。)


アベルは呆れ返り返事もせずに自分の部屋へと戻って行った。


アベルは化粧には慣れている。

娼年をしていた時は毎日していたから。

上手くできなければバカにされてしまうから。


化粧を終えたアベルはナプキンを取り替えアルスが持ってきたドレスに着替える。

髪を巻き耳にはピアスを着け義父時代に娼年の証としてつけられた刻印を消すためにブレスレットをはめる。


「よしっ、こんなところか。」


ヒールを手に持ち裸足で下に降りるとアルスもカチッとした格好でソファに座っていた。


「お待たせしました。」


「おお〜めっちゃかわええなぁ〜。今日は変な虫が付きすぎないようにこの指輪しとき。アベちゃんのサイズに合わして作ってある。俺とは夫婦っていう設定や。さぁて稼ぐで〜。」


鬣をオールバックにして整った顔で無邪気ににこりと笑うアベル。

アルスはそれを見てあぁ...こりゃ女の噂が耐えんわけだなどと考えていた。

ちなみに周りにはアベルは男だと説明しているので性別のことを知っているのは掃除のおばさんとアルスだけである。


「ほな、行くで。アベちゃんヒールは歩きづらいやろ?船着まで瞬間移動するさかい手握っとき。」


アルスはそう言うと気を練り始めた。

気術にはマナを使用し魔法のように作用する祈祷術というものと本当に気だけを使う身体術があるが瞬間移動は祈祷術の方だ。

マナと練った気を合わせて使う為、気を扱える物ならフープルよりも難易度が低い。

とは言え、相当の熟練でないと普通は使えない。


「呼吸整ってきたわ。そろそろ行くで。」


差し出されたアルスの手をアベルはしっかりと掴み、二人は赤い光の中に包まれて消えていった。


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