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第31話 「アルスとアベル」

マーシェット商会。

勇者レオの幼なじみのマーシェット・ルファードが1代で築き上げたと言われているこの世界でいちばん大きな商会。

世界中のありとあらゆる消耗品、贅沢品、その他必要部品など様々な流通に関与し今や家電メーカーや商業施設をも経営する大企業である。


ちなみにルファードという苗字は、マーシェットが死ぬまで名乗ることなかった彼の本名である。

元々はルファード商会の正式跡取りとして生まれた彼だったが実家の商会をも超えるという夢を持ち家を出た。

手っ取り早くお金を集めること様々な物品や遺物を自らの手で触れて世界中冒険できることにメリットを見出し、メグレスという怪しげな男に誘われてトレジャーハンターギルドに所属する。

ひょんなことから出会った仲間たちと奇妙な冒険を繰り広げ最終的には世界を巻き込んで危機を抜け出し自分の紹介を立ち上げそれを手腕や勇者レオとの繋がりの中で大きくして行った。


そんな彼は聖女の生まれ変わりで少しだけ特別な力を身につけていた。

そして、両性具有者だった。

彼はメグレスと結ばれ後に三人の子供を産んだ。


子供たちはメグレスの狡猾さ、マーシェットの朗らかさと賢さを受け継ぎさらに商会を大きくして行った。

そしてその子供らは商会を世界中で三つの拠点に分けた。


ロージニア、グレイス、シュリ、これら三つの大陸に分かれた商会は地域にさらに根強く拡がっていった。


ダイゴが転生して来たこの現代では、マーシェット商会と取引しない商人は居ないと言われているほどである。

大きいところでいえば、トレジャーハンターギルドとも直接提携を結んでおり、遺物の鑑定や市場操作などまでお手の物である。


そして...そんなマーシェット商会のうちロージニア大陸のロイズの街にあるロージニア本部では今日もそこを取り仕切るルファード家から分家して拡がって行った先の子孫エルファイ家の正式跡取りアルス・エルファイが奇妙な夜一を開いていた。


「あいあい!毎度あり!今日もぎょうさんええもん入ってるさかい...!じっくり見て決めてくれるとうれしいわ〜。」


「アルスさん...。お客様の前ではせめてスーツを着ましょう。」

お付である狼とヤマネコハーフの美しい淡色の髪の青年アベルが白いライオン獣人のアルスを窘める。


「ええんや!これで。俺はたった今こっちに帰ってきたばかりやさかい疲れてんねん。つーか今更やろ?」


アベルが注意するのも無理はない。

アルスの格好は光沢のあるピッチピッチのタンクトップでへそを出し下は動きやすい冒険者が履いているようなズボン...靴は冒険者用のロングブーツでズボンをその中に入れこんでいる。


「お客さんかて、わかっとるやろ?ここには今日は顔なじみしかこんのやからあんまりうるさいこと言わんといてんか〜。」


アルスは筋肉モリモリで豊満な体をしているためピチピチの服は筋肉を隆起させ、ズボンにおいては股間部分は膨らみ...みっともない。


なんというかだらしのない格好というのがふさわしいのだ。

顔馴染み向けの市場とはいえ、仮にも頭首なのだからきちんと正装をするべきというのがアベルの考えである。


「それよりアベちゃ〜ん!今夜どうや?」

アルスはアベルの肩に腕を回し手をクイッとした。


「...っまたですか!?一昨日もアクアベリーで飲みに出たばかりですし!それに!アルスさん!ココ最近取引先の方や飲み友達の方、酒場の方々から男女問わずセクハラが激しいとクレームが来てます。たまにはちゃんとしたらどうですか?」


「わかっとらんなぁ!呑みに行くんも市場調査やで。セクハラは...まぁ人の輪を広げる目的の時もある...。」


「ったく!あなたと言う人は...。」


「お!サルーベルさんそれ気になってはりますか?...今ならこんくらいでどうですか?」


アルスはアベルが怒っているのをすり抜けて商品を手に取るお客の近くに駆け寄った。


お客はトラの獣人の中年の男性だ。

アルスは絶妙な距離感で客に近づき囁き声で何かを囁いた。


「おうそうかそうか!そしたらこれいつも通りうちの店まで納品してくれるか?

小切手を切っておくから。」


虎の男とアルスは不敵な笑みで握手を交わした。

アベルには何が起こっているのか正直よくわかっていない。

お客は商品を手に取っている時は悩んでいる様子...というよりはどんなものなのかを見定めている様子だったのにアルスのなにかの囁きで一瞬で購入を決めたのだ。

ちなみに売られているものが何であるのかアベルには分かっていない。

よく分からないガラクタのようにしか見えないのである。

そんな商売がしばらく繰り広げられたかと思うとアルスはテーブルの上に座り掃除をしていたアベルを呼びつけた。


「アベちゃーん!すまんけどチラホラ物ものーなってきたさかいそろそろ店じまいや。」


「はーい。」


店として使っていた商会のホールを片付けながらアベルは思った。

(...僕は本当にこの人に着いてきて正解だったのだろうか?)


アベルは生まれた頃、孤児院にいた。その孤児院は子供を売りに出し生計を立てていた。

両性具有で美しい見た目をしていた彼は孤児院に闇市に出されてしまい商人に買われ息子として引き取られる事となった。

そしてその義父に娼年として売り物にされていた。

義父はアベルを利用し店を大きくしローズの街の近隣にあるキノコの街メリッサでは中々有名な商人だった。


アルスもちょこちょメリッサを訪れた際にその店と取引をしていた。

アベルを娼年として売る方の商売は、本来は裏稼業的な営業をしていたがアルスは鼻が利く上、顔が広い。

そういう噂は取引をする前から知っていた。

とある日アルスはアベルの義父に自分も買いたいと申し付け実際にその日から何度かアベルを買った。


...と言っても特になにかするという訳ではなく昼間は店の手伝い、夜は娼年になる彼に自由な時間を与え、美味しいものや些細なプレゼントをするなどを繰り返した。


アベルがアルスに買われたから一年ほど経った頃...アルスは突然アベルを引き取りたいと言い出したのだ。


「高くつきますよぉ〜。」


金に目が眩んだアベルの義父はかなりふっかけた金額を言ったがアルスは涼しい顔で小切手を切りアベルの手枷を外した。


「今日からお前の自由やで。さぁどこへなり行って好きなことしぃや。」

アベルを連れ店を後にしたアルスは人のいない所でアベルにそう告げた。


アベルは...アルスに良くしてもらった恩を返したいと考えた。


「ありがとうございます...でも、僕を弟子にでもなんでもしてください。お金を全部返すことはできないけれどあなたの役に立って...恩返しします。性奴隷にでもなんでもなります。」


大粒の涙を流し土下座をするアベルを見てアルスはにっこりと笑った。


「アホやなぁ。そないしたら俺が自由にしたった意味ないやんけ。てか...性奴隷て...。俺君から見てどんなふうに見えてんのよ。」


「だめなんです。僕...一人で生きてたらきっとまた体を売ることしか出来ない。そしたらまた人攫いに攫われて闇市に行くしかない...助けてもらったのにこんなことを言うのは本当に厚かましいと思います...でも...どうか僕に仕事をください。」


消え入りそうな声で地面に頭を着いたたま涙を流すアベルをアルスは優しく立ち上がらせた。


「せやかてなぁ...。んー...どんな事でもすると誓えるか?」


アルスは困り顔でそう言うとアベルは迷わず大きな声でハイと答えた。


「よし!ええ返事や!じゃあ俺のお供になってや。もちろん...商売のな。その為には毎日たくさん勉強してもらうで?んで、俺の手伝いも毎日やるんや。まずは給仕として務めてもらう。それがようできるようになったら俺のビジネスパートナーとしてやってもらうで。」


「...いいんですか?」


「好きなんやろ?物売るん。」


「....はい。本当はずっと商人になりたくて...いつか父が店をくれるってその言葉だけ...信じてきたんです。」


「分かっとるよ。君、昼間店を手伝ってる時誰よりも一生懸命掃除や商品の補充やPOP造り真剣にやっとったし...それになにより君の義理のお父ちゃんが答えられないような商品の知識もあるんやろ?君を買うてデートしてる時にいい目しとるなぁって見とったで。」


アベルはその言葉を聞き初めて自分を理解と承認してくれたアルスに一生ついて行こうと決めたのだった。


「のに...こんなにもだらしない人だったとは...。」


アルスは裸族...と言ってもパンイチで過ごすのが好きらしくお客がみんな帰ったのを確認すると服を脱ぎ散らかした。

アベルは溜息をつきながらそれを広い集める。


「アベちゃん悪いんやけど、その服らよう臭うから洗濯としといてな。」


(...サイテー!)


ちなみにその間アルスは何をしているかと言えばスマホでここ最近の様々なモノの市場価格を見ていた。

テーブルの上に横になっているところがまた行儀悪い。


「ちょっとぉ!そんな汗だくでガラステーブルの上に乗ったら汚れちゃうじゃないですかぁ。ていうか!足元灰皿あるんで気をつけてくださいよぉ。」


「ああ、悪いけどその灰皿も片しといて。俺アホやし足伸ばして蹴っ飛ばしてしまうわ。」


アベルはアルスの足の先にある灰皿を手に取ると溜息をつきながら中身を捨てそれを片付けた。


「すまんの〜。しばらくぶりの我が家やから寛いでまうわ〜。」


アベルとアルスはトレジャーハンターギルドの一員としても活躍をしている。

そのためしょっちゅう冒険に出る。

夜一をやる前の日まではだいたい冒険に出たり市場調査するために世界中を廻っている。


「アベちゃ〜ん!悪い!なんか飲むもんあるー?」


せっせと動くアベルにぐでーっとしたまま声をかけるアルス。


「はいはいたただいま〜。」


アベルは文句こそ言うものアルスの世話は嫌いではないらしい。

義父からは何かあればすぐに性暴力を受けていた。

アルスのだらしなさは半端じゃないがアベルが本当に嫌がることはしない。

それにアルスは戦闘ではあまり役に立てないアベルを守りながらダンジョンに潜る。


「はいこれ。アルスさん。」


「わかってんなぁ〜。大好きやで....

トロピカルジュース。作ってくれたん?」


「はい...まぁ。」


「気ぃ効くなぁ!俺は幸せもんや。あ、アベちゃんもキリのいいところで休みぃ〜。お風呂も先に入ってええからなぁ。」


「ありがとうございます。」


アベルは言われた通り片付けを済ませマーシェット商会ロージニア大陸のメンバーの部屋になっている上の階へと上がった。


この三階フロアは寝泊まりする者の部屋に分かれて寮のようになっている。

アベルはアルスの一番大きな部屋の隣だ。

ほぼ専用のお付の者なので何かあれば直ぐに出られるようにとアベルがアルスにその部屋を与えたのだ。

各自の部屋の中にはシャワーなどはない。

その為、共有のシャワールームと浴槽で各自風呂に入るのだが...。


アベルには両方...あるのだ。

局部だけでなく子宮や卵巣もあるし精巣もあるその為胸の膨らみもありかなり中性的な体格をしている。

両性具有自体はこの世界にそう多くないが一定の確率で産まれてくるようでそれが男性寄りなのか女性寄りなのかは思春期頃分泌されたホルモンの多さで決まるようだ。


つまりアベルの体は第三者と風呂を共有するのには適していない...。

その為彼が入浴する際には専用の立て札を扉に掛け、内側から鍵をかけるということになっている。


本来女性が入ればそのようにするという決まりだが、ここに寝泊まりしている者の中で女性は掃除の婆さんしかないのだ。

そしてその婆さんは必ず朝清掃に入る前に入浴する為、皆その時間を避けるのだ。


「げげ...。生理きちゃったよ。湯船は諦めよう...疲れてたのになあ。」

アベルが風呂に入る前にトイレで用を足そうとパンツを下ろすとそこには鮮血があった。


「はあ...腰とお腹痛い...。明日からもまた連れ回されるしあとで痛み止めを貰いに行かなくちゃ。」


アベルは大きなため息をついて戸棚からナプキンを取り出し下着に装着するとトイレを後にした。


シャワーを浴び終え部屋で髪を乾かしているとアルスがパンイチでアベルの部屋にやってきた。


「おぉ!あがっとるな!んじゃ俺も入ってしまうわ〜。」


「んもぉ!ノックぐらいしてくださいよ!僕が着替えてたらどうするつもりなんですかぁ!」


アベルはドライヤーをしながら出ていってドアの向こう側にいるアルスに向かって怒鳴った。


「ったく...もう。デリカシーないんだから。」


生理で気が立っているため普段より些細なことが気になるアベル。

そんなことを知りもせず尻を掻きながら放屁をして廊下でパンツを脱ぎながら風呂場へ行くアルス。


アベルは寝支度を整え、ベッドのに横になると疲れやら身体の重さやらが一気にやってきて気絶するように意識を失った。

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