第30話 「ニンニクくせーか?」
部屋を移ってから結構時間が経ち、降りることの出来ない燃料や魔力補充の短い停泊なんかを重ねて残り一週間ほどでロージニアに到着できることとなった。
実はその間にもレストランに行こうとしていのだがハルートが風邪をひいたりマカフィが無くし物をしたりでなかなか行けなかった。
ついに今日は全ての問題もクリアになり昼からレストランにみんなで行こうということになった。
正装をして予約をしていた時間に受付に行くといつも俺たちを世話してくれるギャルソンが案内してくれた。
カジュアルレストランなのでコースではないけれどサービスは抜群だと思う。
「こちらの席へどうぞ。」
俺たちが案内されたのは海側でも客室側でもない真ん中の方にある席。
丸テーブルで誰がどこに座っても良さそうな作りになっている。
ラグジュアリーだと窓際ではないんだな。
でも仲間同士が対等に座れる丸テーブルに案内するところはとてもいいと思う。
「シャル?いいか?今日は大人しくしててくれよ。追い出されちまうからな。」
「わーってるよ!ここに来る前に食堂で飯済ませてきてるから大丈夫だ!」
「ありがとう。それじゃメニューを貰うか。」
俺が目配せするとギャルソンはすぐにこちらにやって来た。
「メニューでございます。本日はローズ料理のメニューとなっております。」
レストランのメニューは日替わりで選べるものが変わるらしい。
今日はロージニア地方の料理が食えるみたいだ。
俺はメニューを軽く一周しハルートへと手渡した。
ハルートも決まったのか今度は隣のマカフィへ回す。
マカフィもさらりとメニューを見ると今度はシャルに渡した。
シャルにはここに来る前に散々メニューは何度も見返さず一度で決める。
決めたらメニューを置いてギャルソンが来るのを待つと言ってあるのでちゃんとやってくれた。
そして俺たちはそれぞれ食べたいものと飲み物をギャルソンに注文しアペリティフで乾杯をした。
マカフィは祈りの時間の前だったのでお酒を飲むのを控えているようでりんごジュースにしてもらっていた。
ロージニア料理は地球で言うところのイタリアとアメリカとちょっぴりフランスも足したっぽい感じだった。
ライスかパンを選ぶのだけれどパンを選んだ俺にはフランスパンのようなものが出てきてこれはローザパンと言うらしい。
バケットとしてこの世界中で親しましれているものだ。
食文化が似ていることが本当に救いだと思った。
人間から獣人に変わっているのに正直人間の頃と食ってるもんは変わらないし俺はこの世界でもやりたいことができるということを改めて考えさせられていた。
俺が頼んだのはシトルイユ...おっとかぼちゃのスープだ。
ロージニアの方ではルーと言うらしい。
つい用語が出てきしまってこの世界のものと噛み合わせるのに自分でも時間がかかってしまう。
ちなみにポタージュとはちがってペースト状にして濾したものでは無いらしく皮ごとミキサーし魔術で皮やあらごしの部分をプレスし滑らかにしたものだそうだ。
メインディッシュは野菜と海の魔物とアルフォンバードをマリーアジュしたアヒージョだ。
運ばれてきた時からニンニクの強い香りを放ちオリーブ黄金色が食材を宝石のように輝かせていて見るからに美味そうだ。
ちなみにハルートはメルツフィッシュ...あ多分ブリのような海の魔物のソテ、マカフィはマルゲリータのようなピザ、シャルはどデカいステーキを頼んでいた。
食べる時にも少しづつゆっくりと教えたマナー通りに食べてくれと散々お願いした甲斐あってかシャルは教えた通り丁寧に切って食べていた。
さて俺も食べますか。
まずはガーリックとバターでこんがりと焼かれたバゲットをそのままひと口。
カリッとした噛み応えのある鋭利な食感の後すぐにじんわりとバターの甘みのある油分と少し絡みのあるニンニクが調和し合い口の中でコンチェルトを奏でる。
一つ一つが主張が強いのに殺し合わないし引き立て会いすぎないこの味はまさにマリアージュだ。
さらにそのバケットをアヒージョに少し浸し口に運ぶ。
...!さっきより鋭利さがなくなりしっとりとした食感ながらも残ったサクサク感が口の中を楽しませる。
それと同時にさっきとは比にならない程のニンニク...その奥にオリーブの上品な香りそしてジュワッと広がるバターと合わさった塩味の強い油。
まるで口がこのパンを食べるために存在しているのかと錯覚するほど強く脳に響く旨味。
「うまい。」
俺は思わず口にしてしまった。
ちなみに飲み物はスパークリングワインを選んでいた。
本当は食前酒のゴールドスパークと被るなぁと思って白ワインを選んだのだがフルボディのものしかなくてあまり気に入らなかったのでロゼのスパークリングにしたのだ。
俺は口直しにそれを口に含んでみる。
...正解だった。
食事が運ばれてきてすぐに飲んだ時はすこし渋みが強く甘みも強く感じたのでバランスを崩すかと思っていたが...。
ニンニクと油でコーティングされた口の中を爽やかな甘い香りで満たし微炭酸の爽やかさがそれらを綺麗にしてくれる。
渋みも料理と一緒であればむしろ上手いと感じるほどで甘さは気にならないほどに変わってどちらかと言うと程よい酸味を感じた。
口の中がリセットされたところで今度はアルフォンバードを一口サイズに切り分け口へと運ぶ。
おぉ…これはやばい。
しっかりと下味がつけられていてまず感じたのは強いハーブの香り。
そしてやはりニンニクたっぷりのオリーブオイルで加熱されたからこそのこってりさ。
閉じ込められた旨みと油が口の上で踊り散らかしているのに畳み掛けるかのように隣にある野菜から出た香りも絡まり...これはパン泥棒だ。
続いて隣のパプリカや芽キャベツ...それからあまり見たことの無い貝も食べてみる。
....どれもこれも別々の旨みがありすぎる。
安いレストランなんかででくるアヒージョってのは同じような大概飽きてきてもういいかなとなるが全くそれがやってこない。
なぜなら野菜は強い甘みと絡みと塩味、鳥からも出た油が絡み合って脳天を突き刺すような強い旨味。
貝類やイカのようなものからは殺されすぎてない海鮮の香り。
こちらからも別の種類のハーブの香りと以下の方は唐辛子につけてあったのか辛味もあってこれまたパンが進む。
船の中では大概食材は新鮮さを保つのが結構大変だし毎日これくらいの味を出してんのなら...やべーな。
そこからはもう目いっぱいと言っていいほど食事をゆっくりと楽しんでテーブルチェックを済ませた。
そして部屋に戻った俺はみんなに笑顔で問いかけた。
「なあ!うまかったな〜。」
しかし、
「ダイゴ!大変申し上げにくいのですが...。」
俺が喜んでハルートの肩を組むとハルートはなんか困った顔をしている。
やべっ!ニンニクくせーか?
俺は咄嗟に手を離した。
「あのですね...味は本当に素晴らしいと思います。ただし...値段がありえないほど高いです。」
「んー?そうなの?」
「ああ、そうだね。ロイズで食べるとなったらたしかにここまで美味しくは無いけどそこそこちゃんとした味のものが十分の一の値段で食べれるよ。」
マカフィもハルートと目を合わせたあと微妙な顔をして俺の方を見る。
「んー?そうなのか。俺としては船上でこんなものを食べられる事とそれを作った料理人や食材たちへ敬意を込めてこの値段でもいいくらいだなぁと思ってしまった。」
「んー...ダイゴがいいならいいんだけどね。例えばすごく高級でここと同じくらい...さらにはサービスが上でヴィラでマッサージが受けられるところでもここよりは安いんだ。だから僕たちとしてはもうあのレストランに行かなくてもいいかなぁって思ってしまったよ。」
「...あーなるほどね。」
「ごめんね。せっかく美味しかったーって喜んでるのにこんなこと言って。」
「...いやありがとな。ハルートも言いづらいだろうに切り出してくれてサンキュ!」
...正直たしかに値段はやばかった。
想像していた値段よりも三倍ほどだし...行けてあと数回かななどと思っていたところだったので...そう聞くと俺ももう行かなくていいかなと思ってしまった。
...こいつらは俺が損しないように考えて言ってくれたのだ。
少し思うところもあるが今回はいい経験だと思うことにしようか。
「空気悪くしちまったな!みんな付き合わせて悪かったな!よーしボードゲームでも借りてやろうぜ!」
電話でルームサービスのボードーゲームを頼むと何種類かこの世界のボードゲームが運ばれてきた。
地球とは全く違って結構特殊なものが多かった。
その中のひとつに本のようなものが入っていた。
「お!ブッキンアドベンチャーあるんだ!やば!懐かしいね!」
マカフィのテンションが上がる。
「だな!ガキの頃よくやったなぁ!つーかよく見たらすげえ新しいやつじゃん!これにしようぜ。」
ブッキンアドベンチャーとはどうやら本の中に入って筋書き通りの冒険をしていくものらしく選択肢によって最後の内容が変わるようだ。
「これ!すげー好きなんだよな。なになに?」
シャルは冒頭のページの説明を読み始めた。
「ブッキンアドベンチャー...空の世界の物語。
この物語では空の世界をめぐりそこでおこる様々な問題を解決していくゲームです。
戦闘などもあるためランク参考値以下の方にはおすすめ出来ません。
本の中で死んでしまった場合は外に排出されますがゲーム終了まで再入場はできません。
消費した魔力は外に出れば戻ります。
又、本の中での時間はこちらの世界と流れが違うため実際のプレイ時間は4時間ほどで遊ぶことができます。
本の中で食事を取った場合味を感じたり満腹感を感じることができますが実際の空間に戻った際には胃袋に影響はありません。
推薦人数は4人以上...冒険者またはトレジャーハンターランクBランク以上の方を推薦している上級者向けの内容になります。
小さなお子様などが誤って入らないようにご注意ください。
また当社はこの本の中で体験で起こったことによるトラウマに関する責任は一切負いかねます。
それでは良い旅を!」
「おぉ!子供の頃やってたやつとは違う本格的なやつだね!これ一つで50万Jとかはするよ!大人向けのガチのやつができるなんてテンション上がるう!」
シャルの説明にマカフィの顔は明るくなる。
「ハルート!これで遊ぶみたいだがいいか?」
俺は念の為に病み上がりのハルートの方を見てみる。
「えぇ構いません。」
ハルートは笑顔でそう答えた。
「あ、ちなみにたしかレベルや魔法には制限がかかってこの中で過ごす時はレベル5くらいのスタートになるみたいだぞ!」
シャルは追加の説明を読み上げた。
「ほぉん?それなら冒険者ランクを限定することもない気がするけどな。」
「...それはなこれ結構リアルなんだよ。だから飢餓とか毒とかで平気で死人が出るから冒険慣れしたヤツ向けって書いてあるんだと思う。ほらレベルの指定はないだろ?前にこれで裁判が起こってるのを聞いたことあるからな。」
「あぁなるほど。」
「用を足すのは?どうなる感じ?」
「あぁ!それな!向こうにもちゃんとトイレがあるぞ!ちなみに中でも尿意とか便意が出るけどリアリティさを出すためのものだから別に外に出た時には飯食ったのと一緒で影響ないみたいだよ。寝て過ごしてるみたいなもんだよ。要は超リアルな自由に動ける夢って考えれば分かりやしーか?」
「あぁ!なるほどね。いいなそれ。で?どうやって始めるんだ?」
「まず説明書を呼んだことを同意するために本の表紙にマナか気を載せる。そうすることでスキャンされて本の中での適正の職業やらステータスが決まる。こっちでのスキルは意味をなさないからな。ちなみに希望があればここで思うだけでも反映されることもあるぞ!物語の特性や筋書きに影響しない程度に反映されることもあるからたまには違うことしてみたいって思うんだったら考えてみてもいいとは思うがやったことないならまずはいつも通りの方がいいと思う。」
「ふむじゃあ早速。」
俺は自分の魔力を本に吸わせるイメージで本の上に人差し指を置いた。
すると指先に乗った魔力が本に吸い込まれた。
「スキャンしました。適正 魔法使いまたは賢者...。」
「おぉ!すげぇ!でも料理人とは言わないんだな。」
「あぁ恐らく本の中の世界の定義で料理人という職業が戦闘ジョブ認定されてないんだろ。その場合は言わないな。」
次にマカフィが指を乗せる。
「スキャンしました。適正 僧侶または気道術師。」
「気道術師?」
「あぁ僕ね東洋の魔法を少しだけ勉強してたんだ。このことはまた後で話すね。」
続いてハルート。
「スキャンしました。適正 吟遊詩人、学者。」
「学者は戦闘ジョブ認定なの?」
「サポーター枠かと思います。」
最後にシャル。
「スキャンしました。適正、パラディン、ホーリーナイト、モンク、ディフェンダー、剣士、戦士、武闘家。」
「えぇ!すげぇ!」
「まあホーリーナイト自体が総合的な職業だからな。色々な武器を使いこなせるように訓練もさせられる。その中でいちばん得意な武器の流儀を叩き込まれるんだ。」
「かっちょいいなぁ!俺なんかありがちな魔法使いと賢者って。」
「何言ってんの?ダイゴ。賢者の適性なんて相当珍しいんだよ!余程強い魔法を使いこなせる適性があるってことなんだから!」
マカフィは俺をフォローするが俺には正直ピンと来なかった。
そしてメンバーが四人揃ったことで本からは強い魔力が放たれる。
「このメンバーで確定します。よろしいですか?音声による認識を行います。」
「はい。」
「メンバーが確定になります。複数職業適性があるためひとつに搾ってください。一番最初に魔力を流した方から順番にどうぞ。」
「賢者!」
「吟遊詩人で」
「僧侶ね!」
「ホーリーナイトだ!」
「職業が確定しました。間もなく皆さんをブッキンアドベンチャーの世界へご案内します。本から離れないでください。」
そして次の瞬間強い光に包まれた。
...光が消えるとあたりは夜で空には一面に星が広がる草原だった。




