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第29話「生きててよかったァ、1回死んでるけど」

船が再出発する日。

俺たちは雑居房から高級ホテル並みの船の部屋へと移った。


「....え!すごなにこれ。」


マカフィはしっぽをピーンと立てて今にも壁を引っ掻きそうな勢いで空中をカリカリしている。

シャルは寝ぼけていて奥にでかい天蓋付きベッドを見つけるなりすぐに横になる。


この部屋の中には大広間のような部屋に扉がありそこを開くともう1つ部屋があった。

そっちはシングルが窓際に二つと壁側に二つで四つある。

寝るだけの部屋って感じだけどベッドの明らかに布団やらサイドテーブルやらはいいものを使っているということがパッと見でもわかるほどの高級感だ。

よく見ると収納なんかも充実していてベッドの上で食事を食ベれるようにするための移動式の折り畳みテーブルなんかもあった。


大広間の方はくそでけーシャンデリアとロイヤルブルーのカーペット....それからでけー天蓋付きベッドに食器棚。

あのシャンデリア...一粒くらいとってもわかんねーんじゃね...。

イヤイヤイヤいかんいかん。

さらにその奥にある書斎のような場所の奥にはガラス張りの風呂場に大理石っぽい浴槽。

なんじゃこりゃ...。

これで真ん中のクラスってことはさもっと上はどうなるわけ?

おしっこ漏れちゃいそう。


ハルートはさっそく荷解きをはじめて、自分のベッドの場所を決めその横に魔法カバンから出した本棚をだしてそこ本を収めたりしていた。

マカフィは買ってきた宝石や宝石のあしらわれた装備品を開封したりそれを丁寧に装飾された可愛らしい箱に収納したりしていた。

シャルはまだ回復しきらないらしく全く目を覚まなくことなく大きないびきを書いてる。

まぁ...普通なら死んでもおかしくないバフのかかり方だったもんね。


ていうか....部屋がこれじゃレストラン相当期待できそうだよなぁ!

ちなみにこのラグジュアリーにはランドリーサービスがある。

部屋にある電話にて係の人を呼び洗濯物を預ければ旅で汚れた服も綺麗にしてくれるそうだ。

俺の一張羅のスーツも綺麗にしてもらって後でレストランに行きたいな。

うひひ...こりゃあたのしみだぞ。


まずは...ランドリーサービスを早速呼び出しついでにお酒を持ってきてもらった。

ビール...ビール!


「お待たせいたしました。ルームサービスにまいりました。」

しばらくするとチャイムがなりシャム猫のギャルソンが俺たちの部屋にやってきた。


「こちら麦酒になります。」


係員がさらに追加でやってきて俺のベッドに折りたたみ机を組み立ててくれる。

...あははは入院患者みたいだな。

そしてその上にビールと高級そうなツマミが何種類か置かれると俺がまとめて袋に入れておいた洗濯物をベッドの上から回収してくれた。


「ありがとうございます。」


「恐れ入ります。快適な船旅を。」

彼らはそれだけ言い残すと部屋を去っていった。


ハルートと俺は乾杯しビールを流し込む。


俺は窓際の方に寝ることに決めたので左には大きな窓があり海の景色がよく見える。

ここは7階なのでかなり遠くまで見渡せる。

あぁ...生きててよかったァ。

まぁ俺一回死んでるけど。


ツマミはナッツと乾物がいくつかと生ハムの様なもの。


これがまた美味い!

見たことの無い形だったが、ナッツはヘーゼルナッツとピスタチオを足したような香ばしさとマカダミアのような甘みがある逸品。

こりゃウィスキーに合いそう。

乾物は小さな小皿に一種類ずつ盛られていてこれがもう...どれも絶品そのもの。

おそらくこの世界のイカの魔物の燻製...。

それからスモークチーズ、最後にスモークサーモンのような何か。

どれも一つ一つ丁寧に造られているのがよく分かる味。

生ハムはおそらく豚系の魔物のベーコンと同じ種類の肉。

バラ肉ならではの上質な脂の甘みとこだわり抜かれた塩を使われているのか幅と深みのある塩辛さと豚系の肉の匂いが強く鼻と喉に拡がる。

ビールがあっという間に終わってしまう。


ハルートは涙を流しながらこの料理を楽しんでいる。

...うんうんわかるぜ。酷かったもんなここの食堂。

今度はここのレストランに行こうな。


「うんめぇな...たまんねぇな。」

と呟いたところ怪物が目を覚ましてこちらにやって来た。

いつの間にかだらしのない格好になった彼女は割れた腹筋と立派な上腕二頭筋とくびれた腹回り...美しいスポーティな女性のシルエットをした食欲モンスター。

今、こちらにじわりじわりと歩いてくる。


「おい!何食ってんだ!つーかここどこだ!?」


俺はそのあまりに間抜けな格好と言葉とギャップのある美しさに思わず吹き出してしまった。


「ぶはっ...お前なんつーかっこしてんだよ。」


「いいだろ!タンクトップとパンツが楽なんだよ!」


全くこの子は...。

マカフィは気にせずキラキラしたものをいじって楽しそうに指にはめたり首にかけたり。

最初にあった時は男に見えるくらいキリッとしてたのにふたりともしっかり女の子だなぁ。


「ハルート!風呂先に入っていいか?」


「ええ、構いませんよ。」


「っておい!俺を無視するなよ!ダイゴ!」


「あはは...シャルすまんな!食いたかったら自分で頼むんだな!たった今、食い終わっちまったよ。それに他にもルームサービスは色々あるぞ!メニュー表がお前のベッドの横にもあったから見てみな。」


「おぉ!まじぃ!!マカフィ!一緒に食うもん見ようぜ!」


シャルはそれだけ言うとマカフィのいるベッドの方に戻って行った。


俺はバスタブにお湯を貯めて内側からロールカーテンをかけると目の前のでかい窓とバスタブ側に拡がる海を一望しながらシャワーを浴びた。


「....ふ...ふぅ〜!」


シャワーを浴びながら俺は突如テンションが高くなってバブリーな感じのくねくねとした踊りを浴室で繰り広げる。

あいつらの前だとね...少し照れくさいじゃん?

ほら?おれって....知的でクールでみんなの支えだからサ。


俺...!いますげー体験してね!?

いや...つーかそもそも生まれ変わって剣と魔法の世界でしかも結構強くて...!

俺すごくねすごくね?

夢を叶えられなかったことの悔しさとこの世界ならではの理不尽さで忘れさせられていた。

でも、転生してだいぶ経った今ではこれってすごいことなのでは?などと浮かれてしまいそうだ。

....ここまで正直なんにも自分の夢には近づいてないけどゆっくりでいいのかもしれない。

だって前世ではどんなに理不尽なことからも逃げずに立ち向かって戦ってきたからこそ掴みかけた夢への切符。

遠回りでも俺ができることをやりながら近づいていけばいいのかもな。

酒のせいなのかあまりに開放的な風呂のせいなのかやけに頭がスッキリとしていてクリアに自分がどうして行けばいいのかわかった気がした。


あァ〜でも今は歌でも歌っちゃおうかなぁ。

こんなにゆっくりしていいなんて最高だ。

あと二週間以上この暮らしが続くんだ。

ハルートに魔導書でも借りて新しい魔法の研究でもすっかねぇ。


窓の外に見える海は転生前とそんなに変わらない...?

チラホラ海の魔物が目に入るけどね。

この船は魔結界で覆われてるから見えないらしいけど。

キラキラと光る海と遠くには水平線。

この穏やかな景色はこの世界の先人たちが研究や戦いで作り上げてきたものなんだろうな。

...俺もいつかこの世界で食のパイオニアになってこの世界の常識では想像もつかねーほど最高の俺のフレンチを轟かせたい。


風呂から出た俺はバスローブ1枚になってベッドの上に横たわる。


「きんもちい〜。ハルート待たせたなーお前も入ってこいよ。」


「はい、そうですね。せっかくですからそうさせてもらいます。」

ハルートはタオルをサイドテーブルの引き出しから取り出しクローゼットからはバスローブを取り出すと風呂に向かった。


ゆめうつつで天井を眺めているといつの間にか眠ってしまったのか窓の外はオレンジ一色に染まっていた。

「ん〜!ねちまった!」

横を見れば隣のベッドでハルートもすやすやと眠っている。

水を飲むために起き上がり広間の方に行くとマカフィがシャルの隣で眠っていた。


備え付けの冷蔵庫から水が入っているポットを出した。

小さなコップやカップやグラスがいくつか入っている食器棚からコップを取り、

そこに氷を魔法で入れ水を注ぐ。

水はキンキンに冷えててさいこーに美味い。

酒と風呂で乾いた喉を潤した俺は部屋の明かりを付けると再びベッドに戻りベッド横のランプも灯しぼんやりと窓の外を眺めていた。


「ん〜いい1日だな。」

俺が伸びをしながらそういうとハルートがうっすらと目を開けたのが横目に見えた。


「あれ?起こしちまったか?」


「いえ、そういう訳では。ダイゴ、悪いのですが私もお水いただけますか?」


「ん?いいよ!取ってきてやるわ。」


ハルートが俺に頼むなんて珍しい事だな。

俺は素直に水をコップに入れハルートのベッドの横の小さなテーブルに置いてやった。

「ありがとう。何だかぼーっとしてしまってすぐに動くことができませんでした。助かります。」


「いいって事よ!あ!それでさ悪いんだけど古代魔術に関する本があったら借りたいんだけど持ってる?」


「ふふ...ありますよ。賢者メトロが後に残した彼の魔法について書かれた文献や彼が使っていた古代魔術のレプリカ本を元に書かれた本など...。」


「おぉ!これでまた戦闘に幅が利かせられそうだ。悪いけど出してもらってもいいか?」


「はい、ダイゴが持ってきてくれた水のおかげでだいぶ気分もスッキリしました。

本棚の方には出してないので今魔法カバンから出しますね。」


ハルートはそう言うと本を10冊以上取り出し俺に渡した。


「せんきゅ!わかんねーことがあったらまた教えてくれ!俺の服が戻ってきたらレストランいこうな!」


「はい!」


そんなこんな好き勝手に過ごして3日くらいが立った。

ちなみにその間の食事といえばルームサービスをちまちま食べるくらい。

なぜって?レストランはすげー値段らしいから行ける回数が限られてそうだなぁと思って。

確実に楽しむためにのこりの日数と財布の中身を計算してこの日は行くこの日は行かないみたいに行く日を予め決めてるのだ。

スーツは早々に戻ってきたけれどなるべくレストランに行く日程は後半の方に固めて今は勉強に集中しても良いかな?と思った。


ちなみにルームサービスも結構美味いんだよ。 

1度に沢山頼める訳じゃないから量は少ないけど贅を極めた味を少しづつ食べるのがまた良い。

腹がいっぱいになりすぎない方が勉強も捗るし、もし眠くなっても寝ればいい。

あぁ幸せだ。

ちなみに量が食べたいシャルは食堂の方に行ってるみたいだけど。

シャル以外の俺たち三人はルームサービスでも充分満足だ。


シャルは大分回復して今は備え付けのジムに行って体を鍛えたりしている。

俺も鈍りすぎては行けないのでたまにシャルについて行って体を鍛える。

マカフィはプレイルームで祈りを捧げに行ったりハルートはデッキに出て演奏してマダムやムッシュたちから好奇の眼差しやらチップやらを貰っていたり。

かなり自由だ。

のんびりさせてもらいますかねぇ。

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