第28話「フライパンはいかが?」
しばらくすると透明な瓶に入った酒が運ばれてきてグラスに注がれる。
ギャルソンはそこへ水を入れマドラーでステアをする。
するとどうしたことかそのグラスの中身は白濁した。
あ!これアラックみたいなもん?
それなら父さんが昔どっかの国から買ってきてたな。
「お待たせいたしました。」
たしかアルコール度数高ぇんだよな。解毒の魔法の用意しておこ。
「ありがとう。」
俺はそれを目の前に置いてもらうと一口飲む。
そしてギャルソンへ目配せして大丈夫だということを伝えた。
これで合ってるか分からないけどアペリティフならこんな感じにするし大丈夫だろ?
つーか!甘ぇ!この酒!
ココナッツとかそういう類の甘さ。
なのにスパイシーでコリアンダーとかそっち系の香りも感じる。
なんとも不思議なお味。
予約の時にサイトで見たが料理はコースで決まったものが出てくると書いてあった。
うんうん落ち着くねぇ。
テーブルに置いてある今日来るメニューが書かれたものに目を通すとフレンチとは全く異なった順番で食べ物が出てくるということがわかった。
まず1番初めに運ばれてくるのはプレート料理。
これは鳥の魔物の肉まぁつまりチキン料理のプレートで骨付きの肉をスパイシーに味付け付け合せにはパクチーやら香りの高い野菜や漬物のようなものが着いてくるらしい。
次はサラダ...?にヨーグルトのようなものがかかっているらしい。
メニューの説明がなく名前だけの表記なので予測をすることはできるが実際運ばれてこない限りは何が来るのやらという感じ。
で次がおそらく二回目のメインでファラフェルつまりコロッケやとカブサ...まぁ牛肉の乗った米が来る。
おそらくこのメニュー見るに量自体は少しづつで来るのだろう。
まぁその後もデザートやらなにやらあるけどそれは来てのお楽しみでいいか。
「お待たせいたしました。バルバードカジルードプレートでございます。」
俺の目の前に置かれたそれはおそらく鳥の足部分が一本綺麗に焼かれその上には彩りのある野菜や更新料が散りばめられているものだ。
そこから上がる煙はスパイシーでかつ少し酸味と甘味を感じるような香りがした。
俺はフォークとナイフで綺麗に骨から肉を切り分けまずは一口上に乗った野菜と共に口へと運ぶ。
...うまい!調和の取れた味だ。
チリパウダーやガラムマサラの香りも強く少しだけ辛いがそれを打ち消すヨーグルトの風味と熱で飛んであろう酸味の抜けたまろやかさ...。
あとからくる強い甘みと塩味。
あぁ...これは一つ一つ丁寧に焼いて下ごしらえをしているんだなということが一瞬でわかってしまう味だ。
上に乗っているパクチーやらパプリカも半端じゃなくうまい。
味を邪魔せず香りと食感をプラスしてくれてまさに見た目の通り彩り野菜の名前に恥じない役割を果たしていると言っても過言ではない。
次に運ばれてきたヨーグルトのような何かがかかったサラダ。
こちらはおそらくこちらでは希少と見える葉物野菜にバナナやらザクロやらのっていてその上にヨーグルトソースがかかっている。
結構さっきのチキンが辛いから口直しの役割がありそう。
バランスよくスプーンの上に食材を乗せ食べてみる。
まずは葉物野菜のシャキシャキとしたみずみずしさにザクロのプチプチ弾ける食感と少しだけ残る苦味と種のガリッとした感触がやってくる。
そこにバナナの強い甘みと粘り具合...そこに酸味が強く濃厚なヨーグルトが絡まり合う。
ザクロはエグ味があって好きではなかったけどこれはおそらく下処理がしっかりされてるのか全くもってエグ味がない。
苦味はあるけどそれもバランスをむしろとってくれてバナナの強い甘味を上手い具合に調和させている。
あ〜うまい!昨日までの船上の食堂のまっずい食事を忘れさせてくれる幸せな味だ。
次に運ばれてきたファラフェルもカブサも半端なく美味い。
ファラフェルの方はメインで使われているひよこ豆独特の甘みの強さにコリアンダーやパセリの清涼感ある香りが絡まり、衣の間からは強いオリーブオイルの香りも合わさりさらにはかけられたソースの酸味と甘みと程よいスパイシーさで口の中は異国そのものだ。
あぁこんなにも地球の文化に近いなんてついてるな俺。
カブサの方は牛肉と羊肉まぁ...これも多分魔物の肉だけど。
香辛料たっぷりで炊き込まれたジャスミン米の上にかけられている。
カブサの具の方はこれまたたっぷりの香辛料とトマトやレーズンと一緒に炒められた異国ならではすぎる味。
これがなんとまぁ...美味以外の何物でもない。
1番初めに感じるのはやはり香辛料の強い香りと甘さ。
その後に来る辛さとバランス取れた塩味...。
そしてそれに合わさるジャスミン米の鼻に抜ける華やかな香り。
こんなにも殺し合わず調和の取れた料理が作れるのだからここのシェフは相当に研究を重ねてきたのだろう。
デザートは珍しいザクロのシャーベット。
こちらもザクロの美しい香りと酸味と苦味を蜂蜜の甘さが調和してくれる素敵な逸品。
あぁ...口の中幸せすぎる。
残ったアラック(こっちのせいではエズリアルと呼ぶ)を飲みながらぼーっと過ごした。
するといきなり照明が落ちたかと思ったらステージだけが激しく照らされた。
「皆様。お食事はいかがでしたでしょうか?すべてのお客様にお食事が行き渡ったのでこの後はエズル名物のルビーダンスをお届け致します。」
いきなりのマイクのアナウンスに俺はびっくりした。
が、ルビーダンス?ベリーダンスみたいなもんかな?
「それではエズルの素敵な夜のひと時をお過ごしください。」
そのアナウンスが流れ終わると再び真っ暗になった。
そしてどこからともなくシタールって言うんだっけ?
なんかシャラシャラ音が鳴る元の世界のインドかどっかの楽器。
それの音がしたかと思えば今度はステージの奥で炎が燃え上がり激しいボンゴの音がした。
そして怪しげな笛と今度は柔らかな音楽がなり始める。
そしてどこからともなく現れた美しいダンサーたちがステージ上に並ぶと情熱的な表現のダンスが始まった。
赤と紫とピンクの衣装に身をつつみ体を揺らしながらも花のようにしなやかな湾曲した動きをする彼女たちはまるで宝石のようだった。
クルクルと回る度フワフワと衣装がそれに合わさて動くのでそれがまた美しい。
転生前にベリーダンスを見た事がないので比べることはできないけれどルビーダンスというものはこの国の宝と言って間違いなさそうだ。
日本の舞の様な特殊なものなのだろうか?
みていると文化として大切にされてきたことがよくわかる。
そしてダンスはさらに緩やかになっていき、
演目の時間は静かに暗転することで終わり告げた。
怪しげな煙だけがその場に残りにランタンや青い光が会場を灯す。
「皆様。いかがでしたでしょうか、まだまだエズルの夜は終わりません!華街へ行かれるお客様はどうぞお声がけください。転移にてお送りいたします。」
アナウンスが流れるとそこにいた客たちも散り散りになった。
俺は食器をもう一度だけ眺めてテーブルチェックを済ませるとから店をあとにした。
「美味しかったです。エキゾッチクな夜をありがとう。」
出る時にギャルソンにお礼をいい店を出るとゆっくり歩いてモスクのあるエリアを通り過ぎ中心街の方へと戻ってきた。
中心街は相変わらず賑わっていて怪しげな煙とともに怪しげな女が夜の店の勧誘をしていたり怪しげな裏路地への道へと手招きする男がいたりと...なんともまぁって感じだった。
俺はその雰囲気込みで街が楽しかったので出店でやたら値段の張るごく普通の瓶ビールを買い飲みながら街を港のほうへと下った。
フープルで帰っても良かったけど時間をかけてゆっくりこの街の夜を楽しみたかった。
明日には港をたつから。
「お兄さん!!フライパンどうだーい?」
出店から聞こえる魅力的な声の数々を無視しなんとか港まで辿り着く。
深夜を通り越しなんだか空がしらみ始めていたけどこの街は動き続けているんだと思った。
朝方近くなると今度はヨガだか太極拳だか分からない集団が街の中で堂々とストレッチをはじめたり、ランプを持った警備員がウロウロし始めたり。
世界や種族は変わっても...そこで生きてるやつはは同じだと感じた。
思えばこの世界に来てからなんと慌ただしい日々を過ごしてきたことか。
こんなにものんびりと自分の時間を過ごすのが心地いいとは...。
この世界に来てからとか言ったけど前の世界の方が休みなかったし...もしかしたらこんなにも自由に過ごしたのは子供の頃以来かも。
そう思ったらなんだか泣けてくるぜ。
夢がかなったならまだしもその夢まじかで死んだ俺かわいそすぎない!?
ま...この世界で叶えますか...。
「おかえりなさいダイゴ。」
船内の部屋に戻るとハルートは二段ベッドの上の段でランプを灯し本を読んでいた。
「おお起きてたのか。」
「ええ、あの後休んでから本市へ行ってこの本を買ってしまってから...夢中になっていたらこんな時間になってしまいました。」
「はは...いんじゃねーの?どうせ明日からまたしばらく船の上でつまんねー時間を過ごすことになるしなぁ。俺も少し寝てから本でも買いに行こうかなぁ。ふぁーあ。」
さすがにまる2日寝てないのでそろそろ身体が堪えてきた。
二段ベッドの下の段に横向きで寝転がる。
目線の先には向かい側の二段ベッドの下の段でシャルとマカフィがすやすやと寝ていた。
そんな様子を見ていたら俺も意識が薄れてきて眠気に身を任せて目を閉じた。
「おやすみなさい。ダイゴ。」
ハルートの歌声のような優しい声だけが遠のく意識の中聞こえてきていた。




