第25話「雑居房にグッバイ!」
予定の五日より少し遅れ、約1週間くらいに及んで逃げられない辛い雑居房生活を乗り越えた俺たちはやっとエズルドーラに到着した。
陸地に立つとまだ浮遊感がありこんなに大きな客船でも影響があるのかと思った。
「うひ〜なんかまだ足がふわふわするぜ!」
シャルも久しぶりの陸地にはしゃいでいる。
「それなぁ!ここの停泊の間だけでも野宿でもいいからあの雑居房に戻りたくないなぁ。」
俺も思わず本音が漏れるがハルートは俺のふにゃっとなった心を正してくれた。
「...ん〜そうですねぇ。逆にここで耐えて依頼をこなし予定通り船の部屋のランクをあげるのはどうでしょう?」
「....ん〜そうね。そうしましょうかねぇ。」
「レストランに行く分でお金はとってあるんでしょ?それならここでは依頼に集中してやっぱ船のランクを上げるために稼ご!」
マカフィも優しいのにほんと芯があるよなぁ。俺ってばレストランにいないとこんなにふにゃふにゃさんだったのね。
俺たちは、エズルドーラの街を見て回りながらギルドを目指した。
街の中は白い石造りで漆喰とは違う均一に塗られた美しい四角い建物が立ち並んでいる。
民家のあるエリアは今いる所から少し離れているがマルシェや立ち並ぶ店の人たちが住むようなコンドミニアム的なところがあったりとなんだかとてもリゾートな雰囲気。
「ん〜明らかにリゾートリゾートしてるな。なぁ、ハルート!どんな依頼があるんだろう?余裕があればここでもレストランは絶対に行きたいな。」
「...そうですねぇ。近場の依頼となるとおそらくレストランのことを加味すると受けられるものは限られるかもしれませんね。」
「だよなぁ。つーかギルド遠くね?」
歩けど歩けどギルドには着きません。
アクアベリーもだけどなんで街がこんなにでかいの?
「あははここは王都ですから。アクアベリーよりも広いですよ。ほら!」
とハルートは高台を指さす。
よぉく目をこらすと遠くの方にうっすらお城が...そして段を連なす用に何段にも街が入り組んで広がっている。
あーん。嫌かも、嫌かも嫌かも!
つーか!船だよ!俺たちが乗ってきたイカれた値段の船!
何度も言うけど、日本円で言うと四人で1600万円の...お部屋。
どうなってんねん!あの部屋で1600万円!?
日本なら会社始められますよ!?
どうなってんねん!
「なぁ...もしいい依頼がなくて金ないまま船に戻ったら心折れそう。ハルート俺のフープルで四人でタッカンブルに行こう。ここの魔力配置はもう何となくわかったしいちいち戻ってくればいいと思う。」
「ダイゴ...非常に申し上げにくいのですが。」
...ほよ?
「時差があるためにそれは難しそうです。」
ほよほよ?タッカンブルなら!一晩11Jなんだよ!?
もういいよ!朝でも!泊めてもらおうよぉ。
「...まじか。」
「ええ、あそこはシュリ大陸の中でも真ん中に当たるので...ここからだと 約9時間ほどの時差のためなかなかに...難しいかと。」
「はい...僕頑張ります。温泉は我慢して10Jかかるきったねー船の大浴場で頑張ります。」
「あははは...ダイゴ、ロイズ方面に行ってからでも遅くありませんよ。ロイズにも温泉地はありますし。一度休憩してからグレイスランドに行ってもいいですしそこでタッカンブルへ行っても良いのですから。」
「へーい...。」
シャルはマカフィと楽しそうに話してるので邪魔したら悪い気がした。
ハルートは建物を見てはうんうんと頷き歴史やらそういったものを少しづつ喋っていた。
俺に教えると言うよりはオタクが独り言を言うのに近い感じ。
俺...取り残されちゃってますか?
俺もキュルルン観光モードになっちゃおっか!
「キュルルン!」
俺がひとりでポーズを決めていたらハルートが後ろで吹き出した。
マカフィもシャルと笑ってる。
そうそう笑えばいいさ...俺はピエロ。
いつもみんなの心の真ん中さ。
...やっとギルドに着く頃にはなんか夕方になってましたハイ。
「お疲れ様です。エズルギルド受付ですか?冒険者様ですか?証明書をお願いします。」
こっちの受付はシャム猫のお兄さん。
なぁんだお姉さんがよかったなぁ。
...やっぱりおきんたまは黒いのかしら。
俺は、疲れと余分な考えで上の空になりながらぼーっと冒険者証明書を差し出した。
ギルドの受付は読み取り機に全員分のそれらを通してエズルでの依頼を受けられるようにしてくれた。
「それでは依頼が決まりましたら再びこちらへお願いします。」
証明書を受け取ると俺たちは早速ボードの方へと足を運んだ。
「SSSランクの依頼...場所的にも長期のものばかりだな。」
シャルは髪を揺らしながら目を細める。
「SSの方もわりとここから距離がある場所が多いね!それならSSSでなるべく短いやつを受けたらいいかも!」
俺はとりあえずAランクのところをハルートはSランクのところをと役割を分けて探してみた。
俺たちはじっくり依頼を吟味し良さそうなものを相談しあった。
「あったぞ!SSSランクで良さそうなの!」
シャルは依頼書を手に持ってそう言った。
「おぉ!どんなの!」
「エチュートアリゲータードラゴンの討伐らしい!ここから近い場所に出たらしいぞ。どうも何人も死んでるみたいで、結構やばそうだけどどうする?」
「...行くしかねぇっしょ!今夜中に出発して最短で戻りたい。」
「ハルートは大丈夫?僕らだけで行ってこようか?」
「...。いえ私もお供します。皆さんのカバン持ちくらいにはなれますしそれに私も少し魔力が上がってきています。歌を長く歌えるようになってきましたから皆さんのサポートはお任せ下さい。」
「おっけー!僕もカバーできるように頑張るから前衛はダイゴやシャルに任せて僕たちで援護しようね!」
「あぁとても心強いです。」
...仲間になったんだな。
俺は二人の何気ない会話を聞いてそう思った。
元はと言えば俺が金を集めたいと言って依頼を受けることになったのにありがてぇな。
「よぉし!じゃあ受付に行ってくるぞ!」
シャルがそのまま依頼の受付を済ませるとこちらへ戻ってきた。
「よし!今度は買い出しだ!ダイゴ!装備品買いてぇな!フープルでマルシェまで頼むぜ!」
「あぁ!たすかるぅ!俺にもしもの事があった時や...魔力切れた時のために転移札も買いたいな。エーテルではどうにもならない時もあるかもしれねぇだろ?」
「...考えたくはないですが...備えは必要ですね。それは私が買いますよ。」
「じゃあ僕はベルを買うよ。サポートに回るなら装備はベルの方がいいと思うから。」
みんなすごいなぁ...。え?俺?
「お、俺はみんなの夕飯買ってくるよ!屋台があったから!」
「おう!ダイゴ!あんまり高かったら無理すんなよ!」
泣けてくる〜!俺すげー貧乏じゃん!
「サンキュ...じゃ俺に掴まってくれ!」
フープルでマルシェまで戻ってきた俺達はそれぞれ散り散りになって買い物を済ませた。
マルシェはなんだか昔父さんと旅行しに行ったシチリア的な雰囲気と前世で動画で見たタイのプーケットやパタヤを合わせたような不思議な雰囲気。
どこかドバイやシンガポール的な感じも醸し出していて全くもって不思議な感じ。
マルシェの入口の方に出ている屋台は少し衛生観念が悪そうだったので真ん中辺りにあるケバブのような食べ物が売っている店にやってきた。
クルクルと回し焼きされる肉塊...。
一件普通のケバブ屋に見えるが、日本のように整った調理場でさっきの現地感溢れる屋台とは少し様子が違っていた。
店の前に行くと陽気な感じのアロハシャツに似た服を着た黒い豹の獣人のお兄さんの店員が俺に話しかけてきた。
「いらっしゃい!観光の人!?
いいねぇマルシェは夜市もやってるぜ!」
「おぉ!そうなんですか!?夜と昼だとやってる店が違うんですか?」
「ん〜そうだね!わりと通しでやってるところもあるんだけどさ、食材や売り物を変えるのがこの辺では普通だよ。お兄さん迷わずにこの店に向かってきたように見えるけどもしかして料理人かい!?」
「...なんで分かるんだ!?」
「あっはっはっ!そりゃ観光客なら入口にあるこの辺の名物を買うんだよ!でもアンタは迷わずうちの店にきたろ?
まずアンタはこの辺の名物にも詳しく無さそうだ。
うちの店で売ってるのはこの辺の名物じゃないロージニア方面の名物なんだよ。向こうの店は...衛生的にどうかな?と思ってこっちの屋台まで来たんだろ?」
...この人すげぇぞ。
「あぁ...その通り、なんでそんなことまで分かる?」
「あんたの目線は調理器具や食材に行ってたよ。そんなの真剣に料理に向き合ってる人間にはすぐに分かるさ。」
「あははは...すげえや。アンタはこの辺で店やって長いの?」
「いんや!俺はここら出身なんだがロージニア大陸に料理修行に行ってたんだ!それでこっちでも店をやってみたくなったんだけど...何せ物価がべらぼうに高ぇ!どうにもならねぇから親が持ってるここのスペースを使わせてもらって商売してんだよ。」
「立派だぜ...俺も自分の店を開きたいのに金を集めるため今は冒険者さ...。」
「あっはっはっ!人生色々だよな!いつかあんたが店を開いたらお邪魔させてくれや。
って...いけねぇ!商売商売。
で?何を何個買っていく?」
「あっそうだったな!すまないけどその肉のパンを四つくれないか?」
「お!まいどあり!これの名前な!グルーブって言うんだぜ!
アルフォンバードっていうでっけぇ鳥の魔物の肉を使う料理さ!
それを半分に切り中にオリーブオイルを塗ってレタスやキャベツ玉ねぎトマトなんかをたっぷり詰めてその上にたっくさんの肉を載せるんだ!辛いマヨは平気か?」
やっぱりケバブに似てるな。
「あぁ!平気さ。」
「向こうではこの辛いマヨをカラシマヨって言うんだぜ!」
おお、親近感湧くなぁ。からしマヨ。
「うまそう!楽しみだぜ。」
フレンドリーなあんちゃんは飛沫防止のマスクを付けると、調理をしながら俺にそれ以上質問するでもなくこの辺のことなんかを教えてくれた。
ある程度神からの入れ知恵で知っていることもあったが風土のことなどは知らない知識もあり助かった。
代金はとても安いとは言えない料金だったが感銘した俺はチップまで渡し、グルーブの入った紙袋を持ち解散した広場の方へと戻った。
「おぉ!ダイゴ!」
シャルが一番初めに戻っていた。
「あらかたエーテルやポーション最悪絶命した時の回復薬なんかも買ったぜ!
結構いい値段したけど今回の依頼が成功すればそんなの屁でもねぇからよ!頑張ろうな!」
「あぁ!」
そんなことを話しているとマカフィとハルートも戻ってきた。
俺たちはひとまずグルーブが冷めないうちに食べてみることにして広場にあったベンチに腰掛けた。
袋から取り出して一つずつみんなに手渡した。
「おぉ!グルーブじゃん!こんなとこにもあるんだ!びっくり。」
マカフィは嬉しそうだ。
好物かな?
「ダイゴ!入口の屋台に名物のヤムクルトンがあったのにそちらにはしなかったのですか?」
「あぁ...ちょっと衛生観念が気になってな。」
「流石ですね。」
「なぁ!もう食べていいか?」
俺たちが喋っていたらシャルは待ちきれなくなったのかヨダレを垂らしている。
君本当に女の子ですか?
「あぁごめん、食べようか。」
包み紙を丁寧に剥がすと暖かい煙とスパイシーな鶏肉の香りがほわっと広がった。
...うまそ。
俺はたまらず一口目を齧り付く。
ピタパンのもっちりした食感とオリーブの香りをふわりと広がるとすぐにシャキシャキとした野菜のみずみずしい食感と新鮮な青臭さが脳天を突き抜ける。
かと思えば、トマトの酸味と鶏肉のスパイシーかつ香ばしい醤油ベースのような味わいとからしマヨが上手い具合にマッチした味わいが口いっぱいに広がる。
まるでビックバンが口の中で起こっているように楽しい協奏曲が広がり主旋律の鶏肉を殺さないのに美しく主張する素材それぞれの旨みが口の中で渦巻いている。
トレビアーンって感じ。
「うま!なにこれうまっっっ!」
「屋台のレベルじゃありませんね。これ。」
「さすがダイゴだよ!なんで美味しいものがわかるのぉ。おいしいー!」
みんなそれぞれに喜んでいるところを見て俺はつくづく嬉しくなった。
あの人が積み上げてきた歴史や努力や時間を俺が選びみんなに提供した。
それがみんなに喜ばれる。
シェフを目指す人間にとってこれはけっこう嬉しい。
ここ最近で一番シェフに戻れた気がした。
ありがとな!グルーブ名人のあんちゃん!




