第23話「出るもんは出るんです」
「あのぉすみません。少しうるさいです。静かにして貰えますかぁ?」
俺たちが馬鹿やってたからなのかデッキに複数いた客のうちの一人の品の良さそうな男から注意をされてしまった。
「あ、すみません。」
「こちらこそすみません。妻が船酔いしてしまってまして...うるさいと響くようなので。」
よく見ると隣にはこれまた品の良さそうなプードルの獣人の女。
「...!あっ俺回復魔法使えます。奥さんを直して差し上げられますがどうですか?」
「...生憎聖職者以外からの魔法は金銭をせびられたら困るので受けないようにしてるんです。」
俺の提案に怪訝そうな顔をするおっさん。
こいつほんまいい加減にせぇよ。
「あ、それなら僕が...一応ビショップです。」
マカフィ...そんなやつ治してやることないと言いたいところだが男はマカフィを見るなりコロッと態度を変えた。
「おぉ...私たちはついていますね。このようなハイプリーストの方と乗り合わせるだなんて。早速なのですが妻の治療をお願いできますか?」
「はい、それでは奥様失礼します。」
マカフィは信仰魔法を使いいやーな感じの夫の妻を治療してやった。
直ぐにそのイヤミ夫人(仮)は顔色を良くして元気になった。
「あぁ、アナタ。あたくしもう、全然気持ち悪くないわ。」
「あぁよかった。ハーメリィ...。ありがとうございます。ハイプリースト様...なんとお礼を言ったら良いか...お供のみすぼらしい旅の方も失礼なことを言ってしまいすみませんでした。」
言ってるよーー今まさにもう一度言ってるよおおおおおお!
みすぼらしい旅の方ってのは俺の事ですよねぇえええ!
ですよねぇええ!?
「ちょっ...おっさん!お前ダイゴにちゃんと謝れや。」
シャルが急に出てきておっさんの前に立ち塞がった。
トラブルのよ、か、ん!
あぁめんどくさいよシャルちゃん...。
血の気が多いのよねほんとにやだわぁ〜。
あたし...獰猛なワンワン連れてます!
猛犬注意!
「シャル...失礼になる。俺のことはいいから下がれ。」
俺は優しい口調でシャルを止める。
うんうん大人だなぁ僕ちゃん。
「でもよぉ!」
「....だめだ。すみません、うちのホーリーナイトが...気性が荒くて。」
俺も少しだけ頭に来ていたのでシャルが聖職者だとおっさんにアピールしてみた。
「そこの大きな方はホーリーナイト様でしたか。それはとんだ失礼を...。」
おっさんは血相を更に変えてシャルに向き直る。
あれれぇ?俺は無視かなぁ。謝ってるのは俺なんだよぉ、おかしいなあ。
「ッチ...。」
シャルちゃん...お行儀が悪いわよぉ。
お船は皆のものなのよ。
「そちらのみすぼらしいあなた...優秀な旅のお供が居て素晴らしいですね。貧乏そうなあなたがどうやってこの方々を雇ったのかは分かりかねますがこの方達に失礼のないようにあなたも身なりを整えなさい。必要なら私が支援します。」
あ〜そろそろ我慢の限界であるからして、
ブチ切れそうであるからして。
「すみません、治療が済んだとはいえ再発する恐れがあります。海風は冷えますからお部屋にお戻りになったらいかがでしょうか?」
俺がぶち切れそうな顔をしていたらマカフィがそう冷たく言い放った。
「ええ、では失敬。」
その一言におっさん達はそう言い残して船のラグジュアリ客室入口の方へ消えていった。
気分が悪いので俺たちもキーキー言いながら客室...もとい雑居房へと戻った。
「んだっあいつら!ありえねーーー!クソ!」
「...恐らくグレイス教団を強く信仰する富裕層だね。教団を主に支援しているのはあの人たちみたいなのばかりだよ。」
「あ〜腐ってんな!全く!」
「...本当にね。」
マカフィは俺の言葉に俯く。
やはり教団を悪く言われるのはあまりいい気分では無いよな。
反省。
「マカフィ...すまねぇな。」
「いいんだよ。事実、腐っていると思う。
法王である父や一部の人たちはみんな慈悲の心を強くもったすごい人たちなんだ。
でも...団員の中には利益や自分の欲に忠実なものがいるのも事実で...あぁいう金持ちを利用している奴がいることも事実なんだよ。」
「...。」
どうしよう...なんて言葉をかけたらいいのだろうか。
マカフィが背負っているものを俺たちが一緒に背負うと啖呵切ったのにこれじゃ何もできてないのと一緒だ。
「...お前は法王になってそういうのも変えようと思っていたのか?」
「...うん。でも僕には背負いきれないよ。」
「...あぁ。お前が背負うべき問題ではないよ。法王になんかならなくていい...。
もう心を痛めなくていいんだよ。お前はお前だ。」
「...でも汚い部分があるんだよ?聖なる職業なのに。」
「...あのな、マカフィ...あの金持ちは不幸に見えたか?」
「...全然。」
「そうだろ?そういうことなんだよ。宗教ってのは救われる人がいたらそれでいいんじゃねぇのかな。信じてんのはそいつらの意思なんだからさ...。それが正しいかどうかで悩んでたらさ...お前の人生全部それになっちまうよ。」
「...。」
「俺もそう思うよ。マカフィ...俺たちはさ教団の為に生きてきた。でも...それが俺たちとって幸せなことだったか?
不幸なことばかり背負ってきただろ?
...終わりにしよう。」
「ぷう...。」
シャルがいいことを言って〆てたのに、やっべ...屁が出ちまった。
さっきからうんこに行くタイミングをずっと探してたんだよ。
「おい!ダイゴ!ふざけんなよてめぇ。ここ密室だぞ!?早くドア開けろ!ハルート!」
「ハルート!?」
ハルートは俺の屁でツボってしまって転げ回っていた。
いい所だったのにい!せっかく俺かっこいいこと言ったのに!
屁で締めるなんて!
サイッッテェだ!
「あのお...毒ガス撒き散らしといてなんなんだけどさ...便所行ってきてもいい?うんこもうすぐそこにいるんだよ。」
俺が申し訳なさそうにそう言うとハルートはさらに笑い転げる。
釣られてマカフィも笑い転げた。
「はぁ...、行ってこいよ。」
「はは!すまんすまん!すぐ出してくる!」
図書館の時とは逆なのね。
俺がため息つかれちゃったよシャルに。
は〜かっこわり!
俺はしょんぼりしながらうんこしに共用トイレのあるホールへ向かう。
ホテルコリドーと呼んでいいのかも怪しい狭さの廊下を通り共用のホールへつづく薄暗くて埃臭い道を便意を押さえつけながら歩く。
まぁ船自体は客船なだけあって揺れは少ない...でもね。
共用のトイレではそれでも、お酔いになる方がいらっしゃって何がと言わんけどこっちまでくらいそうだった。
ひとまず仕方が無いので踏ん張るだけ踏ん張ってそそくさと外に出ると水コーナーで水を飲んで自分に念の為解毒の魔法をかけておいた。
あ〜まったくもう!
トイレのあるこのフロアは一応ウォーターサーバーがあり、ありがたぁいことに新鮮...?なお水だけは飲むことができる。
俺たちの泊まっているスタンダードうんこクラスのグレードの他にもカジュアルのグレードの客も利用はできるようでみすぼらしい客と身なりのそれなりの客が入り交じっていた。
戻るのは少しだけ憂鬱だったがうんこをしてる間にひとつ思いついたことがあるのでハルートに相談する為部屋に戻ることにした。




