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準備4


グリフォンが去って2日。

アラクネとリャオの治療により、崖から落ちて何本か骨を折っていたティアラと、碧斗を庇って深手を負っていたミーシェは動けるほどに回復した。



今は所謂、ちょっとした作戦会議中である。


「それにしてもリャオ。良い物を選んだの」

「いえ、消去法でしたから」


と言うのは、ティアラとサーラの武器についてだ。


これは碧斗がアラクネと訓練している間にリャオが与えたものだった。

何故持っていたのかについてはまた別の話。


アラクネは武器というものに不快感を覚えながらも、純粋にリャオの采配に得意気だった。

親子としての愛だ。


「本当に助かりました。これで次も戦えそうですわ」


サーラの微笑みに、リャオは照れて俯いた。


元々リャオに新しい武器が欲しいと頼み込んだのはサーラであった。


サーラは接近戦が得意ではない。

このまま戦いに加われば碧斗の手助けをすることができない。むしろ足を引っ張ってしまうかもしれない。


それを受けたリャオの条件は、現在持っている刀との交換だった。それは生まれたときに与えられた群れの者で統一して持っていたものだ。もちろん思い入れもある。

しかしそんな想いが過るも、サーラは躊躇わなかった。


群れを抜けたのも、今回の事も、碧斗を想ってのことである。


サーラの心には助けられたあの瞬間から碧斗へのただならぬ想いがあったわけだが、実際の話、サーラは正しくその心を理解出来ているわけではなかった。


つまり、「碧斗様が好きですわ!」と言うのを深く考えず、好きな碧斗の為に群れを抜けたり身を呈したりするのは普通だと思っているのだ。



リャオに頼み込む時も、それはそれは必死だった。


サーラの気迫にリャオが全力で応えた結果が、今サーラが背負っている『弓矢』だ。


「アラクネ様にも『視眼』の使い方を教えていただいて……」

「まさかそこまで的確に使うとは思っておらんかったがの」


サーラの『視眼』。それは群れにいたときはただ遠くのものを見たりするためだけに使われていた。ただ異常に視力が良いだけのものだったのだ。


だが本来の能力はその名の通り、全てを視る力。サーラは生物のツボとも言える場所が見えるのである。

そのときの筋肉の動きから、刺激を与えれば一瞬痙攣するような場所が見える。


アラクネはその事実を教えた。


サーラは短時間で見事にものにしてみせた。

アラクネが驚いたのは、その能力を生かしきるサーラの弓の腕だ。


リャオの采配はドンピシャだった。


それはティアラに対しても同様である。


リーチが長く重量があって一撃が重い槍、むしろハンマーと言っても妥当であるそれは前の刀より俄然役に立った。



ティアラもあっさりと交換条件に応じたのはリャオにとって意外だったが、理由は至ってシンプルなものだった。


単に獣として、そして男として純粋に新しい武器に興味があり、強くなりたかっただけだ。

きっかけがこの戦いであるだけで、目的はこの戦いだけじゃない。



それでも、この戦いにおいて碧斗に頼らなければならない状況に、最初は苛立っていた。


こんなヘナチョコに。

こんな何の力もない人間に。


だが今は、納得してはいないが不満は消えていた。

頑張っているのは知っているからだ。

あいつなりに頑張ろうとはしているし、何より逃げずに体を張っているだけ凄い。


むしろあいつには相当プレッシャーが掛かっているようだ。



今も。


その作戦会議の中に碧斗の姿は無かった。

少し離れた所、人間の耳じゃここの声は聞こえないような場所で木にもたれ掛かって座り込んでいた。



現在碧斗は深く、深く、落ち込んでいた。


目の前で自分を庇った人が死にかければ無理もないことだ。


ミーシェもティアラも傷ついて、サーラも危うかった。

それもこれも全部、自分が発動を成功させれば何も問題はなかったのだ。


大きく肩を落として、碧斗は三角座りをして顔を埋める。



グリフォンが去った後、治療しながらアラクネとリャオが言い争っているのを聞いた。


何故あそこで止めたのだ、と怒りを露にするアラクネに対して、珍しくリャオが怒鳴り返していた。

目にいっぱい涙を溜めて、

「これ以上戦ったら死んじゃうよ!」


それが、グリフォンに殺られる、という意味には聞こえず後で聞いてみた。


それによると、アラクネの糸は無限に生産される訳ではなく自身で作り出すもので、つまり命を削るようなものなのだ。


グリフォンの出現による、獲物捕獲以外の余分な糸の生産が急激にアラクネのエネルギーを削っていた。



それも、シェルが自分をここに送った理由なのだと悟った。

友人を助けて欲しいというのは本当だったわけだ。


何が足りないのか。


炎を生むのに何が足りない。

アラクネも動きはほぼ完璧だと言っていた。そこが問題ではないのだろう。


そうなると、もっと根本的な話になる。

やはり自分には無理なのか?


自分には使えないのかもしれない。

こいつを使いこなすだけの力がないのかもしれない。



そんなネガティブオーラが碧斗を包み込む。


すぐ近くに居ながら側に来ないあいつらに、さすが獣の世界だなぁと思いつつもありがたくも感じた。



こんな時に必ず邪魔される元の世界は好きではなかった。

いつでもどこでも、皆で支えあい励まし合うのが良いと思っている。でもそうじゃない時もある。


今は泣き言を言って慰めてもらいたい時じゃない。

自分で悩み、考え、突破しなければならない時だ。


考えろ。何が必要なのか。

何が足りないのか。

どうしなければならないのか。

今すべきことはなんだ。


ひたすら考えて、人間は強くなってきたのだ。











「あいつ……大丈夫なのかのう」

「すっげぇブツブツ何か言ってるぞ」

「独り言にしては大きいですね」

「このまま壊れないかな……」

「考えてる碧斗様も素敵です」





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