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準備3


ハァ、ハァ、ハァ、


崖の間に張り巡るアラクネの糸には獲物を捕獲するためのネバネバしたものと、 自分の足の踏み場にするための粘着性のないものがある。


何かの拍子に切れたらしい粘着性の無い糸が垂れ下がっていて助かった。


ロッククライミングのように崖を登りきった碧斗は仰向けに倒れこんだ。

特に腕はパンパンだった。唯一の頼みの綱を離せば一貫の終わりだったのだ。


今思えば、かなり無茶なことをした。


糸が上まで繋がってて、アラクネの糸が切れなくて、体が最後までもって良かった。

かなりの運を使い果たしてしまった気もする。



しかしゆっくりと息を整える猶予は与えてもらえなかった。


「邪魔じゃ、リャオ!殺されたいのか!」


アラクネの怒鳴り声に、仰向けのままその方を見た。

リャオが腕をいっぱいに広げて蜘蛛の前に立ちはだかっていた。何がなんだか分からない。


「これ以上戦ったらアラクネが死んじゃうよ!」


その言葉に、蜘蛛の姿のアラクネが言葉を詰まらせた。

アラクネが、死ぬ?どう言うことだ。

グリフォンとの戦いでそこまでの深手を負ったのだろうか。

遠目ではわからないが……



一方、そのグリフォンの方はというと、ミーシェ、サーラ、ティアラが相手をしていた。


碧斗はサーラとティアラが手にした得物を見て目を見開いた。

それは最初のものとは随分変わっていたのだ。


前はリーチの短い剣だった。

しかしティアラは今、かなり大きく重量もありそうな、あれは槍だろうか。太すぎて分かりにくいが使い方は槍のようだ。突くより殴る方で使っている。そのくらい太い。

あの大きさの物を振り回している腕力が信じられなかった。


そしてミーシェがその跳躍力と素早さで翻弄し、しっかりと地面に踏ん張ったティアラが下で叩くと言った戦いかたをしている少し離れた場所にサーラがいた。

手には大きな弓矢が引き絞られている。


グリフォンが体勢を建て直そうと上空へ上がりかけたところを矢が襲いかかり、的確に翼を狙う。

しかし余程固いのか、矢はさほど突き刺さることなく地面に落ちる。

全く効いていないと眉をしかめた碧斗だったが、よく見るとグリフォンは確実にダメージを受けていた。一瞬翼の動きが止まり、再び地面へ。


ミーシェとティアラ、どちらかが危なくなれば矢がサポートしていた。

かなり際どいところを掠めるときがあったが、ミーシェは軽く交わし、ティアラは完全にサーラを信じて見向きもしなかった。



一瞬、碧斗は『自分は必要なのか?』と感じた。


だが、すぐに現実へ引き戻される。

アラクネの糸に比べれば、ミーシェ達の攻撃は足止めにしかならなかった。

グリフォンは立ち退く様子を一切見せない。



ミーシェが地面に足を着けたところを狙って、翼が振り下ろされる。矢が放たれ、勢いが弱まったそれを避けるのは容易い。

しかしサーラの「危なっ……」という声に反応した時には既に目の前には獅子の足が迫っていた。


サーラの弓は装備に時間もかかり、連発は出来ないのが弱点だ。


ミーシェが吹っ飛ばされたのを見て、一瞬手が止まってしまった。


その間、ミーシェとサーラのサポートが無くなり、武器のせいでスピードの出ないティアラは渾身の力で吹っ飛ばされ、崖の上から落ちた。


「兄さん!!!」


駆け付けようとしたサーラはグリフォンによって阻まれた。


翼を広げ、羽ばたかせながらジリジリと迫り来るグリフォンに気圧される。元々接近戦の強くないサーラはその圧力に尻餅をついた。


殺される……


悲鳴もでない。

呆然とグリフォンを見上げることしかできずにいたとき、急に動きが止まった。


そしてグリフォンは一鳴きすると、サーラから意識を反らして暴れ始めた。


後ろを向いたグリフォンの背には、碧斗が乗っかり剣を突き立てていた。


「!碧斗様!! 」


いくら異例のグリフォンとは言え、竜の牙は突き刺さるらしい。

獣に比べれば劣る碧斗の腕力であっても、半分ほどめり込んで、血飛沫が舞っていた。


「フーー、フーー、フーー、……」


碧斗が冷静に判断して飛び込んだのではないことは明らかだった。


しかしどうにか止めたのも束の間、碧斗は呆気なく振り落とされた。

果敢に剣を握りしめ振り返ると、間近にグリフォンの大きな瞳が。


硬直以外に選択肢は無かった。


グリフォンが獅子の足を振りかぶったのが分かった。

あぁ、死ぬんだなーと、しみじみと感じた。



が、そうはならなかった。


全てがスローに見える。

振りかぶった足が自分の頭に向かって来るのをじっと見つめていた。

瞬きもすることなく見ていると、何か別のものが視界に飛び込んできた。


それは最近見慣れた、真っ青な髪。




衝撃と共に後方へ吹っ飛んだ。


幸いにも頭を打ち付ける事はなく、咳き込みながらも体を起こした碧斗は正気を取り戻した。


「ミーシェ!?」


碧斗の上にミーシェが仰向けに倒れていた。

抱き起こして見ると、その光景に衝撃を受けた。右肩から左の腰あたりにかけてもろに抉られていたのだ。

出血の量は半端ではなく、顔面蒼白で汗が吹き出していた。


サーラは再び駆け寄ろうとするも、またもやグリフォンに阻まれる。よほど矢が警戒されているらしい。


アラクネは怒鳴り散らしながら掴みかかろうとしていたが、リャオが号泣しながら押さえ込んでいた。


未だにティアラの無事は確認出来ていない。


「ミーシェ、できるところまで自分で治療しろ、いいな!?」


ギリギリのところで意識を保っているミーシェは頷く力も無かったが、目をつむって回復を始めた。


「サーラ!」


急に声を張り出した碧斗にサーラもアラクネもリャオも呆気に取られた。

が、すぐに我に返る。


「目を狙え!」

「は、はい!」


矢を引き絞ったサーラに襲いかかったグリフォンだが、背後からのアラクネの攻撃に怯んだ。


そこをサーラは確実に捕らえてくれた。


リャオはまた何やら騒いでいるが、グリフォンは鳴き叫びながら崖の向こうへ引き返した。







アラクネは密かに期待値を膨らませた。

崖っぷちに立ったときの碧斗の精神状態にだ。パニックになることもなく、的確に指示をした。これが魔法発動に役立ってくれればいいのだが。


それよりミーシェだ!



勝利とは決して言えない戦いが終わり、こちらは収穫と犠牲を得た。





皆様、Happy new yearでございます!


ものを書き始めて一年になりました。

読んで下さっている方へ感謝してもしきれません。


これからも根気強く継続していきたいと思います。

是非ともよろしくお願いします。



あなたの人生へほんの少しの刺激を

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