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法務の終焉、統治の始まり

玉座の間に、朝陽が差し込む。

だが、その光はかつての栄光を照らすものではなく、互いに殺し合う愚か者たちの死体と、剥き出しの欲望を照らしていた。


私の足元には、書き上げたはずの『魔界六法全書』が血に染まって転がっている。

この数日間、私は狂っていた。現代の法、知識、道徳――それらをこの異世界に「インストール」すれば、自動的に理想郷が構築されると信じていた。なんと傲慢だったことか。


「……結局、契約なんてものは、それを守るだけの力と、守ることを誓うだけの『心』がない限り、ただのインクのシミに過ぎなかったんだ」


私は呟き、血塗られた六法全書をその場で焼却した。

もう、法務担当としての私は死んだ。


背後で足音がする。生き残った兵士たちのリーダー格たちが、新たな王を求めて玉座の間に詰めかけてきたのだ。彼らの目は血走り、暴力の匂いが鼻を突く。彼らは私に期待している。「法務担当の知恵者」として、自分たちの正当性を証明してほしいと。


私はゆっくりと振り返り、彼らを見渡した。

彼らは私を『支配者』にしようとしている。あるいは、私を使って『他者を支配するための道具』を手に入れようとしている。


私は玉座に座ることはしなかった。代わりに、玉座の目の前の階段に腰を下ろす。


「お前たち。魔王が消えて、自由になったか?」


彼らは怪訝な顔をする。私が法を説くと思っていたからだ。


「お前たちが求めているのは『王』じゃない。お前たちが求めているのは、自分の欲望を正当化してくれる『檻』だ。魔王がいた頃の方が、少なくとも自分の立ち位置ははっきりしていたはずだ」


私は立ち上がり、彼らの中へ歩み寄った。誰一人、私を止める者はいなかった。私の放つ冷徹な空気が、彼らの暴力衝動を一瞬だけ凍りつかせたからだ。


「この世界には、労働基準法も契約法も存在しない。あるのは、今日を生き延びるための糧と、明日を奪うための腕力だけだ。……ならば、俺たちが作るべきは『法』ではない」


私は彼らの中心で、静かに宣言する。


「『約束』だ。奪い合いが終わるまで、次の収穫の時まで、全員で誰の喉元にも刃を突き立てないという、ただ一つの極めて原始的な『誓い』だ」


彼らは困惑した。それは法よりも弱く、しかし暴力よりも強い、脆い糸のようなものだったからだ。


「俺は、新しい魔王にはならない。法廷を開くこともない。だが、俺はこの魔界の『調停人』になる。お前たちが暴力を振るうたびに、俺はその数倍の論理と、泥臭い交渉でお前たちの利益を奪い続け、破滅させる」


それは、法というシステムを捨て、個人の泥臭い「対話と制裁」を繰り返すという、果てしない地獄への道だった。

賢い法務部員として、世界を最適化する夢は終わった。これからは、個々の、そして種族ごとの、どうしようもなく歪んだ欲望と対話し続ける、果てのない「現場」が始まる。


私は荒野を見つめる。

ここには理想はない。だが、ここには確かに、生きようとする者たちの熱がある。

法廷から、現場へ。

私の新しい仕事は、魔界という地獄の、一番深いところで泥をすくうことだ。


……さあ、議論を始めようか。

次に誰の首を差し出すか、それとも明日を生きるための妥協点を探るか。


魔王なき地獄の、最初の朝が始まろうとしていた。


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