2-1(表紙あり)
前回のとなカノ!(勝手に省略)
わたしモア!
どこにでもいる普通の潜入捜査官!
1年間の研修期間を終えてようやく東京の本部に帰ってきたと思ったら・・・
え!?いきなり任務!?しかも憧れの大先輩、クロナ先輩と!?
間違って先輩のおっぱい揉みしだいたり半べそかいたり色々あったけど、とにかく無事任務完了!
・・・と思いきや先輩から衝撃発言
先輩!ナオヤって誰ですか!
わたしとは遊びだったってことですか!?
出張中に他の男にNTRれてしまったわたし・・・
一体これから、どうなっちゃうの~~~~~~~~~!?
ピピピ、ピピピ・・・。
うるさ・・・。
スマホのアラーム音と少女漫画の主人公ムーブをかます夢の中の自分を雑に一言で一蹴する。
・・・そうだった、最近ろくに寝れてなかったから食堂で仮眠取ってたんだった。
寝不足の理由は言うまでもない、先輩の彼氏疑惑だ。
あれから一週間、お互い任務で時間がないこともあってろくに話せていない。
あの時も結局誤魔化してしまった結果、自分から話を切り出しづらくなってしまっているというのもあるのだが。
けどそうだよね、先輩美人だし恋人の1人や2人いてもおかしくないよね。
捜査官が恋しちゃいけないなんて法律もないし。
逆に何で今までそんな相手がいなかったのか不思議なくらいだ。
もし仮に、もう既に先輩がナオヤって人と付き合ってると仮定しよう。
最初は任務を一緒にこなすだけの関係だったけど、次第に2人の仲は進展していってね。
(わたしの知らないうちに)機密情報なんか共有しちゃったりしてね。
(わたしの知らないうちに)一緒の部屋でご飯食べる関係になったり、それで(わたしの知らないうちに)勢いで一線超えちゃったりして。
そして(わたしの知らないうちに)式を挙げて晴れて結婚!!
2人は幸せなキスをして終了・・・。
キッッッッッッッッッッッッッッッッツ!!!
想像しただけでも吐きそう!
特に悪意のないイマジナリーナオヤがわたしを襲う!
何が幸せのキスだ!
できることならそんなのわたしがやりたいわい!
けど、本当に先輩がその人のことを好きならわたしは何もできないし、寧ろ応援するべきなんだ。
小さい頃近所に住んでた美人のお姉さんとかクラスで気になってた女子に実は彼氏がいたって知った時の男の子の気持ちって多分こんな感じなんだろうな。
とはいえ・・・とはいえだ。
男・・・先輩に、男・・・。
ううぅ~~~~~~!
「なに1人で唸ってんのモアち〜」
「んひゃっ!?」
「あっはは!なっさけない反応〜♡」
「なんだあんたか・・・」
「あんたとはご挨拶ですねぇ。ウチには『ヒバリ』っていう立派な名前があるんですけど〜?」
人の苦悩を嘲笑うかのように話しかけてきたこいつは、猫耳ニット帽がトレードマークの捜査官「ヒバリ」。
わたしや先輩と同じ【潜入部】だが、先輩が所属する【潜入課】や、ハッキング等のデジタル専門の
【サイバー課】とは違い、
尾行や張り込みといった原始的な方法で任務に必要な情報を集める【追跡課】に所属している。
「ほらほらぁ〜♡ちゃんと名前で呼んでくださいよ〜♡ヒ?」
「ヒ」
「バ?」
「バ」
「リ♡」
「シリ(火走り)」
「誰の尻が大きいですって!?」
「言ってないが!?」
初めて会った時はこんなに生意気なやつじゃなかったんだけどなぁ。
今では毎度わたしを見かけるたびにこうして突っかかってきては誤魔化されるのがお約束となっている。
「ふん!まあいいです!どうせ先輩絡みのことでしょうし!」
「だ・・・だったら何よ、別にあんたには関係ないでしょ」
「モアちが研修言ってる間、クロナさんの相方だったウチが色々教えてあげようと思ったんだけどな〜」
「はぁっ!?なんであんたが!ていうか相方って・・・!」
先輩からはそんな話一言も・・・。
そう思い身を乗り出した時にはもう遅かった。
この機を逃すまいとヒバリはニヤリと笑ってわたしを挑発する。
「気になるぅ〜?」
「っ・・・!」
「あっは〜♡やっぱ気になるんじゃ〜ん!
『あんたには関係ない』って強がっておいて〜?
モアち意志弱〜、ざぁこ♡ざぁこ♡」
こいつ・・・!言うに事欠いて!
普段なら返り討ちにしているところだが、今回は先輩が関わってる。
ここは我慢、我慢だぞわたし!
わたしの我慢でナオヤの情報を聞き出せるかもしれないんだから。
「まあ相方って言ってもウチが任務で組む回数が多かったってだけなんですけど〜」
苦虫を噛み潰したような顔をしていると、ヒバリもようやく満足したのか隣に座って語り始めた。
「2人だけの秘密作っちゃったり〜」
ん?
「2人でご飯食べたり〜」
んん?
「お泊まりなんかもして〜」
違う、コイツあれだ、ただわたしに先輩と仲良くなったマウント取りたいだけだ。
しかもさっきまで妄想してたイマジナリーナオヤとほぼ流れ一緒だし!
「裸の付き合いもしましたね〜」
上位互換じゃん!!
しかも既成事実があるってだけでイマジナリーナオヤよりよっぽど質が悪い!
あ、なんかだんだん腹立ってきた。
先輩にじゃない、人の恋路に挟まるこの泥棒猫にだ。
「・・・もん」
「へ?」
「わたしだって先輩のおっぱい触ったもん!」
「うへぇっ!!?」
バケモンには何とやらだ。
向こうが既成事実をぶつけてくるなら、こっちも既成事実で対抗するしかない。
「先輩のおっぱい触ったのはあんただけじゃないし!?
先輩のかっこいいところも可愛いところもわたしの方が知ってるし!?
なんならわたしは先輩の手料理食べたことあるし!!」
「急に何ぃ!!?」
なんか変な方向に進んでる気もしなくはないが、わたしだって先輩との思い出たくさんあるってことをこいつに分からせたい!
ナオヤの件は後だ!まずはコイツからねじ伏せる!!
「それに____!」
「2人とも・・・」
瞬間、わたしとヒバリの空間だけ時間が止まる。
「ク、クロナさん・・・」
「いつからそこに・・・?」
振り返ると、そこには珍しく白衣ではなくオフィスカジュアルな服装をした先輩が
羞恥と困惑をごちゃ混ぜにしたような表情を浮かべながら、腕組みして仁王立ちしている。
普段なら「キャー♡先輩ノースリーブも素敵〜♡」なんて言って勢いで誤魔化すところだろう。
だが今回は違う、前提が違う。
ヒバリとの間で繰り広げた幼稚な口喧嘩を聞かれたかもしれないのだ(原因はそこだけじゃない気もするが)。
いや、でもワンチャン、ワンチャン直前までイヤホンしてて聞こえなかったとかない?
いやある!あるはず!あるに違いない!
あると言ってくれ!
「キ、キャー・・・、先輩肩出しニットも素_____」
「モア、ヒバリ、ちょっと来なさい」
「「はいぃっ!!」」
ヒバリには煽り倒され、ナオヤの正体もわからずじまい
ただ先輩に醜態を晒しただけの昼休みはこうして過ぎていったのだった。
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クロナ合流1時間前
「報告は以上です、詳しい内容は報告書の方をご覧ください」
締め切られたカーテンから漏れ出る僅かな光だけが室内を僅かに照らす。
先日モアと臨んだ任務の報告に訪れていた私の他に、部屋にはもう1人。
「うん、ご苦労だったねクロナくん」
「その呼び方はやめてくださいと言っているでしょう、本部長」
「あはは、すまんすまん。
だが君こそ、いつ私を『ミヤビ』と名前で呼んでくれるようになるんだい?」
「一生呼びませんよ、あなたの名前だけは」
鋭い目つきで私を見る彼女の名は
東京本部のトップにして日本中の非特支部を統括する総指揮官『ミヤビ』。
年齢や経歴はおろかその他一切の情報が不明、私が秘特に来て丸5年になるが未だに彼女の素性だけは全く把握できていない。
「つれないねぇ、モアくんが来てから随分物腰柔らかくなったと聞いていたんだが」
「否定はしません」
「少なくとも最初に出会った頃とは大違いだ、
『元犯罪組織の幹部』だった君がここまで改心するとはね」
「その話はもう終わったことでしょう
それに貴方の口からモアの話題を出されるのは不愉快なのだけれど」
「不愉快、か。君がそれを言うのかい?」
「どう言う意味ですか?」
「当初君もあの子を利用しようとここに連れてきたんじゃないのかい?」
「っ_____!!」
落ち着け、やけになるな。
この人は私の反応を見てただ面白がってるだけだ。
出会った当初は、モアに限らず確かに自分の身に降りかかる損得感情で物事を判断していた節はある。
けど今は違う。
今は心からあの子のそばにいたい、そばで見守りたいと思っている。
「この話、もしモアに話したら・・・」
「分かってるさ、後が怖いからね。
けど君は墓場までこの事実を持ってくつもりかい?」
「覚悟の上よ。それに私は易々と死ぬつもりもないわ」
「・・・・そうか」
これ以上この人と話していたら今日一日モアに合わせる顔がなくなってしまう。
正気を保てているうちに早く退散しよう。
「そういえば、確か今日だったろう。モアくんとヒバリくんの抜き打ち実技検査」
「ええ、私が担当することになってます」
「よろしく頼むよ」
「言われずともです」
相変わらず本音が読めない人だ。
浮かべた笑みの裏側を読み取ることを早々に諦め、足早に部屋を後にした。
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さて、午後から予定通り抜き打ちの実技試験なのだけれど、2人はどこに________
「誰の尻が大きいですって!?」
「言ってないが!?」
食堂から聞こえてきた元気な2つの声。
探す手間が省けてよかった。
そういえば、私がいない時って2人は何を話しているのだろうか。
見つからないよう死角を駆使して近づくと、どうやらモアが不在だった時の話をしているようだった。
「2人だけの秘密作っちゃったり〜」
2人だけのって・・・ああ、ヒバリと張り込み捜査した時の話ね。
「2人でご飯食べたり〜」
監視中に食べた携帯食のことかしら。
「お泊まりなんかもして〜」
確かに泊まり込みで捜査したけれども・・・。
「裸の付き合いもしましたね〜」
シャワールームでたまたま一緒になっただけでしょう!?
しかも個室で分けられてるから同じシャワーを使ったわけではないから!
さっきから言い方に含みがあるような気がするのだけれど・・・。
モアが誤解しないうちに止めた方が良さそ_____。
「わたしだって先輩のおっぱい触ったもん!!」
この子はどこで張り合ってるの!!!?
せっかく忘れかけてたのに!
思い出したら顔に出て、モアにカッコつかないからあえて話題に出さなかったのに!
ああもう、もうもうもう________!
「2人とも・・・」
「ク、クロナさん・・・」
「いつからそこに・・・?」
どんな顔をして2人に話しかけたかは覚えてない。
少なくとも平常心ではなかったことは確かだ。
だが結果的に、掘り返された記憶と2人の会話は先刻までの本部長との息苦しいやりとりを上書きするには十分な良薬だった。
そう前向きに捉えておこう。




