1-3
「先輩!出口の確保完了しました!」
『・・・・・・・・・・』
「どうかしましたか?」
『_____ぃわ、ぁ_____と』
ダメだ、雑音がひどくて上手く聞き取れない・・・。
通信阻害?まさかバレた?
いや、考えろ、さっきまで普通に会話できてたんだ、必ず何か原因があるはず。
場所を変えればもしかしたら・・・。
『モ__ァ!返ジしてモア!』
「先輩!良かった無事で・・・」
入り口から少し離れたところでようやく通信が安定したが、この時のわたしはなぜ先輩がここまで焦っていたのか気づけていなかった。
『なるほど、それでモアの方でも異常が起きてたのね』
「『も』ってことは、先輩の方でも何か?」
『・・・実際に見てもらった方が早いわ。』
先輩から送られてきた動画に映っていたのは、出口まで続く廊下を赤い線状の光がびっしりと張り巡らされている光景だった。
「これって・・・センサートラップ!?」
『タイミング的にも急に通信が安定しなくなったのはこれが原因ね』
「でも先輩ならこのくらいのトラップ余裕なんじゃ・・・」
『私も最初はそう思ったわ・・・』
続けて送られてきたのは先輩が予備で持っていた銃弾をセンサーに向けて弾き飛ばす動画だったが、
ジュッ!!
「銃弾が・・・溶けた・・・?」
『鉄すら溶かす「レーザートラップ」、この中を掻い潜っていく勇気は私にはないわ』
「・・・・・・・・・・」
完全に想定外の事態 どうして 原因は? 決まってる 出口のロック 解除したから わたしのせいで 反省は後 まずはトラップの解除 でもバレるリスク そもそも解除可能? 先輩の救助 いやそれこそどうやって 落ち着け 方法は? 先輩が わたしのせいで 死___
『モア!!』
「・・・っ!」
『あれこれ試してる時間はないわ、一つだけ確認してちょうだい』
「・・・」
『レーザートラップの解除はできる?』
「・・・やってみます」
何やってんだわたしは。
出来もしないことあれこれ考えて、挙句の果てには先輩の足引っ張って。
工場の警報が鳴ってないってことは、まだ潜入がバレたとは限らない。
しっかりしろモア!
今この状況を何とかできるのは自分だけなんだ!
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現場で想定外の事態が発生した時、少ない手段でどれだけ多くの情報を得ることができるかが生存と任務達成の鍵になってくる。
先輩が連絡手段の確保よりもトラップの解除を優先したということは、つまりはそういうことなのだろう。
『_______ザッ、ザザッ______』
相変わらず元いた場所じゃ雑音がひどい。
移動したいけど、ここ以外に工場のセキュリティにアクセスできそうな場所を探している余裕はない。
かといってトラップを無効化しようとコードを書き換えても、一定時間で書き換えたところから自動で元に戻ってしまう。
・・・落ち着け、大丈夫、変えられないところばかり考えるな。
書き換える箇所と順番を決めて戻ったところからまた書き直し、これを繰り返せば・・・。
『ザッ_____、・・・__・・・』
雑音が弱まった!
「先輩!わたしの声聞こえますか!?」
『大ジョ__ブ、聞コエてるわ』
狙い通り!不安定だけど全く聞こえないよりマシだ。
『雑ォンがひどィ____ことは、元の___所からは動ケてナイって考えて良ィのね?』
「は、はい・・・。それとトラップのプログラムなんですが____」
『分かっテルわ。レェザ____が消ェたり点い____繰り返してる。持続してトラ____プを停止させるノハ難しそゥね』
「でも逆に、起動するタイミングと避けられそうな場所を把握しておけば・・・」
『ええ、突破できる』
他にもレーザーの配置は停止⇆起動で変化はないこと、レーザーの停止時間は最長12秒であることを共有する。
『10びょ___、10秒間隔デ____ーザーを消スコ___はできそう?』
10秒を連続で・・・、正直言ってかなり厳しい。
本来スピードよりも正確性が重視されるプログラミング作業、今回はそのどちらも求められる。
焦ってたったひとつでも入力ミスをすれば赤い光がたちまち先輩に牙をむく。
本当にわたしにでき___。
いや、やれる!
ていうかできないと先輩が死ぬ!それだけは絶対嫌だ!
「やれます!!」
『最ショイ外のタイ___グはモアにまカセ___わ』
「はい!」
『いくわよ、3、2、1・・・』
合図と同時にわたしもレーザートラップの解除作業を開始する。
最初の10秒は成功、その次も成功、着々と出口に近づきつつある。
『ハァ、ハァ・・・』
イヤホン越しで先輩の息がどんどん荒くなっていくのが聞こえる。
焦るな、落ち着けわたし、焦るな、焦るな焦るな焦るな焦るな焦____
ザシュッ!!!
突然、耳障りな鈍い音が響く。
何、何の音?何かを引き裂いたような・・・
「先輩?」
『・・・・・・・・』
「応答してください先輩!」
『・・・・・・・・』
「ねぇ!!返事っ、返事してってば!!」
嘘、噓噓噓、わたしどこかミスってた?
泣きそうになるのをこらえて必死に呼びかける。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だヤダヤダヤダ!
わたしのせいで先輩が、先輩が_____
『___ア、__モア』
「____っ!!!」
良かった・・・、生きてた、先輩生きてた。
やっと聞こえた先輩の声を聞き漏らすまいと、震える手で必死にPCを操作する。
『少___カスっただケょ、心パイ____ないわ』
「あ・・・・ぁ・・・」
上手く返事ができない。
当然だ、一瞬とはいえ本当に全て終わったと思ったのだから。
『モア』
続けて先輩が声をかける。
『信じてるから』
「・・・!!!」
雑音の中でもハッキリと聞こえたその一言で我に返る。
『期待してるんだから』『信じてるから』
・・・ずるいよ先輩。
たった一言で焚き付けられちゃうんだからさぁ。
この人に期待されるだけでわたしは何でもできる気がする。
この人が信じてくれるだけでわたしは勇気をもらえる。
こんな人になりたい 期待に応えたい
もう泣くな 取り乱すな
わたしならできる
何てったって、わたしの今日の作業スピードは過去イチなんだから!!
「いきます!!」
返答はない、あっても雑音がひどくてよく聞き取れない
構うな、手を止めるな
コードが書き換わる、もう一度
コードが書き換わる、もう一度
コードが書き換わる、もう一度______
バンッ!
3回ほど繰り返したところで下から扉が開く音がした。
「先輩っ・・・!」
イヤホン越しに先輩の呼吸音がはっきりと聞こえ、無事脱出できたことを確信する。
潜入の痕跡が残っていないかを確認し、わたしも急いで現場を後にする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ハッ・・・!ハッ・・・!」
思ったより時間がかかってしまった。
先輩の位置情報を頼りに急いで合流地点へと向かう。
あと20メートル、あと10メートル、あと・・・。
「先輩っ!!」
「モア・・・」
「良かった、無事・・・で・・・」
月明かりが差し込んで先輩の姿がはっきりと見える。
怪我は、どうやらなさそうだ。
いや、それより問題なのは・・・。
「先輩、その、前・・・」
「ああ、レーザーが当たった拍子でね・・・あまり見ないでくれると有難いのだけれど」
あの時聞こえた音はスーツのファスナーが壊れた時の音だったらしい。
へそ下にかけて中央から引き裂かれ、胸の谷間が露になってしまっている。
「胸が揺れた弾みで当たっちゃったのよ、私もまだまだね」
それだけじゃない。
尋常じゃないくらいの汗の量。
なぜ気づかなかったのだろう、銃弾すら溶かすほどの高温のレーザーが窓のない密閉空間を埋め尽くせば、一瞬で室内の温度は上昇する。
何の事前情報もなくそんな状況に陥れば、脱出以前に脱水症状を起こしてまともな判断もできなくなってしまうだろう。
妙に息が荒かったことにも、やたらと短期決戦の姿勢だったことにもようやく腑に落ちた。
けどひとつ、まだひとつ納得いってないのは_____。
「こんな姿で戻るわけにはいかないし、誰か迎えを呼んで______」
連絡を取ろうとする先輩を背後から抱きしめる。
「モ、モア・・・?」
「・・・バカ」
「え?」
「バカバカバカっ!先輩のバカぁ!!」
「えっ、えぇ??」
「絶対死んだと思ったんですから!声聞こえないし!不安だったし!だからわたし助けようと必死こいで!かと思ったらスーツ掠めただけとか!オチとしては最悪ですよ!」
「だからごめんってば・・・」
「バカァ・・・!」
知るもんか!
元々合流したら文句言うって決めてたんだから!
この際だ、言いたいこと全部言ってやる!
全部、全部全部全部全部______!
「心配・・・させないでよ・・・」
あれ・・・。
わたしこんなこといいたかったんだっけ?
他にも言いたいことあったはずなのに。
ダメだ、全部吹っ飛んじゃった。
「ごめんね、モア」
「・・・・・・・・」
「でも、何とかしてくれたでしょ?」
「・・・・・・・・」
「感謝してる」
今まで張り詰めてた緊張が解けるように、先輩を縛ってた腕の力が緩んでいく。
「・・・先輩」
「なに?」
「汗くさ・・・」
「なら離れなさい」
それでもしてやられっぱなしは悔しいからせめてもの意趣返し。
久しぶりの先輩との合同任務はこうして終わりを遂げたのだった。
数日後
あの日、わたしと先輩が潜入した工場では案の定違法薬物が栽培されていたことが発覚した。
場所は先輩が最後に盗聴器をしかけた倉庫の隣の部屋、確かにあんな忍び込んだ奴絶対殺すマンなトラップしかけておいて何もないはずないもんね。
だが厄介な問題がひとつ残ってる、それは____。
「うへぇ~~~、報告書終わらな~~いぃ~~~~・・・」
「じゃんけんで負けた方が書くってモアから言い出したんでしょ。文句言わないの」
「へーい」
あれから先輩はいつも通りだ。
あの日わたしがおっぱい揉みしだいたことも、半べそかいたことも一切言及してこない。
いや、わたしとしてはあの不敬罪は忘れたままでいてほしいんですけどね!うん!
何はともあれ、こうしてわたしの日常は戻ってきたのだった。
「そうだ、任務で必要になるかと思って借りてた道具、結局使わなくて返すの忘れたから、ちょっとナオヤのところ行ってくるわね」
「はーい、いってらっしゃ~・・・・」
ん?んん??
「せ、先輩、今なんて・・・」
「え?ああこれ?先月研究部が開発したやつなんだけど_____」
いや違う、そうじゃない、そこじゃない
「あのナ、ナオヤって・・・?」
「あ、そういえば言ってなかったわね。
モアが大阪研修に行ってる間に研究部に配属された子なんだけどね、______」
ダメだ、何ひとつ頭に入ってこない。
ていうか先輩、何その嬉しそうな顔。
え?ナオヤって、男、男の_____
は、はぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!??




