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1-2(表紙あり)

挿絵(By みてみん)

突然ですが皆さん、潜入捜査官ってどんなイメージがありますか?

黒いキャットスーツを着ていたり

敵アジトのトラップを華麗に回避したり

機密情報の入ったUSBを胸の谷間に隠したり(これはわたしだけな気がする)。

そんなかっこよくてセクシーで余裕たっぷりな捜査官をイメージをしていた時期、わたしにもありました。

いや、別に幻想を捨てたわけではないですよ?

現に今目の前にお手本のような人がいるわけですし。

「わたしもそうなれる」と思っていた時期があった、というだけです・・・。

「遅いわよモア!もっとテンポ上げなさい!」

「せ、先輩・・・、待って・・・」

もうすぐ日付が変わろうという最中(さなか)、人目につかないよう素早く路地裏を駆け抜けたり、ビルの上を飛び移る影が2つ。

はい、息を切らして弱音を吐いてるへっぽこの方がわたしです。

かつてイメージしていた理想のわたしは見る影もない。

何てったってクロナ先輩速い!とにかく速い!

わたしは先輩の足を引っ張らないようについて行くのがやっとだった。

「少し見ないうちに体力落ちたんじゃない?」

「いや・・・、先輩がレベチなだけですって・・・」

やっとの思いでビルを登り終えたわたしに先輩が立ち止まって話しかける。

実際先輩の現着スピードは非特の中でも1、2を争うほどの実力だ。

それも最短ルートを見つけて選べるだけの地理、体術、体力を兼ね備えているからこそなのだろう。

あれ?でもそれに付いて行けてるってことは、わたし案外凄いのでは?

「もう少し体力増強メニュー増やした方が良いかしら」

「か、勘弁してください!」

「フフッ、冗談よ」

「もうっ・・・」

一瞬芽生えかけた自信を見透かしたかのようにからかい混じりに釘を刺された。

なんだよぉ!少しは褒めてくれたって良いじゃんかぁ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

23:51 現着


今回潜入する工場はどの入り口にも必ず監視カメラが設置されているため、警備が手薄な屋上からの潜入となる。

①わたしが工場内のセキュリティをハッキングすると同時に、監視カメラの映像データを差し替える

②ハッキング完了後、先輩が中に入り3→1階の順番で盗聴器を仕掛けていく

③最後の盗聴器を仕掛けた地点から最も近い入り口のロックを解除

④先輩の脱出を確認し、わたしも離脱

という算段だ。

唯一想定外だったのはセキュリティを構成するシステムが各階層毎に異なるため

先輩が階層を移動するタイミングに合わせて操作を切り替えなければならないことだが、

緻密に連絡を取り合えばさほど問題はないだろう。

警備体制や工場内の構造も事前に調べて把握できているが、唯一懸念することと言えば・・・

「これだけ事前情報が多いと、逆に不安になってきません?敵の罠とか・・・」

「そうね、何もなければいいのだけれど」

「ちょっ!先輩それフラグ!」

「大丈夫よ、今回も無事帰れるわ」

「どっから来るんですかその自信・・・」

「そうねぇ、強いていうなら_____」

入り口のピッキング作業をしていた先輩が、手を止めてジッとわたしの方を見る。

「・・・・・へぁっ!?わ、わたしですか!?」

「期待してるんだから♡」

「ヒャ、ヒャィィ・・・」

なんだわたし、今日死ぬのか?

いや、さっき先輩のおっぱい揉みしだいた時点で不敬罪になっていてもおかしくないんだ。

だとしてもこんな情けない声出しながら死にたくない!

ていうか先輩は逆に何でそんなに堂々としてるんだ?

我、揉みしだいた張本人ぞ?

一周回って先輩がおかしいのかもしれない。

ハッキング用PCを操作しながらそう結論づけたわたしのこの日のタイピングスピードは、先輩曰く過去最速だったらしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

0:00 任務開始


「それじゃあモア、バックアップよろしくね」

「ええ、先輩もお気をつけて!」

いよいよ潜入開始、緊張感が一気に増幅する。

別れ際のグータッチをし、先輩はすぐに工場の闇の中へと消えていった。

さて、わたしも頑張って先輩をサポートするぞ!


先輩と連絡を取り合いながら順調に3階と2階に盗聴器を仕掛けて行く。

そしていよいよ1階、最後の盗聴器を仕掛けようという時だった。

『んっ、んんっ・・・』

連絡用のイヤホンから先輩の声が漏れ出る。

「先輩?どうかしました?」

『最後の盗聴器を仕掛ける場所、んっ、倉庫の棚のっ、裏なんだけど、はぁ・・・』

んん??

『柱に・・・胸が、つかえてっ、奥まで、届かなっ・・・、んんっ・・・!』

「あ、ああ!なるほど!」

びっくりした、先輩の身に何かあったのかと思った。

わざわざ喘ぎ声出しながら伝えてきたことに関してはあえてツッコむまい。

『もう少しなのだけれど・・・そうだ』

急に何か閃いたかのようなセリフが聞こえた直後、イヤホンの向こうから雑音が聞こえてくる。

ジ、ジジ、ジィィィィィィ・・・

雑・・・音?

・・・じゃない!!まさかこの人!!

「先輩、つかぬことお聞きしますが・・・今何を?」

『柱を胸で挟めばもう少し奥まで届くと思って、スーツのファスナーを・・・』

「いやいいです!それ以上言わなくて!」

何考えてんだこの人!

いくら誰も見てないからって何の躊躇いもなくそんなことできる!?

いやそういえばこの人、前世に羞恥心捨ててきたような人だった。

だとしても任務完遂のためにここまでするとか・・・尊敬しますわ、色んな意味で。

『んっ♡冷たっ・・・』

「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

危なかった、通信越しじゃなければ即死だった。

内装的にも日の光が当たらない部屋、そこの棚が鉄筋製ともあれば尚更だろう。

大丈夫、先輩だってきっとわざとやってるわけじゃない。

きっと任務に夢中になって思わず漏れ出てしまったんだ。

わたしも集中、任務に集中するんだモア。

集中集中集中集中集中___________

『んっ・・・♡んぁっ・・・♡』


  できるかこんなん!!!!!!


もうわざとやってんだろこの人!

こっちは声出さないよう必死にこらえてるってのに!

こんなに一生懸命頑張ってる後輩を惑わせて、一体どうしてくれようってんだ!

『もう、ちょっ、と・・・

よし、設置完了・・・ってどうしたのそんなに息を切らして』

「べ・・・別に・・・」

無自覚なのがなおのこと質が悪い。

合流したら絶対文句言ってやる・・・!

全ての盗聴器を仕掛け終え、最寄りの出口が解錠されるまで倉庫内で待機する。

時間も概ね予定通りだ、モアが研修の成果を発揮するにしても十分な難易度だったろう。

そっと胸を撫で下ろすと同時に、屋上で交わした会話の内容がふと脳裏をよぎった。

モアの言っていた「事前情報の多さ」、これがあるかないかで任務の難易度や成功率は左右すると言っても過言ではない。

本来は限られた情報と現場での即興対応で任務を遂行するのだが、今回は十分なくらい情報が揃い過ぎている。

考えすぎに越したことはない、仮にこれが敵の罠だとしても私1人であれば難なく対応できるだろう。

けどもし、万が一、私の甘い判断でモアに危険が及んだとしたら・・・。

『先輩!出口の確保完了しましたっ!』

「・・・っ!」

耳元から聞こえる無邪気な声が机上の空論を並べていた私の思考を一瞬で現実へと引き戻す。

ホントに、この子は全く・・・。

『どうかしました?』

「何でもないわ、ありがと」

この子の存在があるだけで私はどんな任務も頑張れる気がする。

後輩の存在の重要さを再確認し、帰ったらたまには労ってあげようなんて軽率に考えながら扉を開けると


そこには、生きて返さないという意思を示すかのように、無数の赤い光線が入り口に向かって張り巡らされていた。

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