1-1(表紙あり)
どうして___どうしてこうなった!!??
さっきまで普通の会話だったはずだ!なぜわたしは部屋の隅っこに追い詰められてる!?
しかも相手はわたしの憧れる大先輩、そんな人に壁ドンされているこの状況・・・。
普通に考えたら最高のシチュ!・・・じゃなくて!
「せ、先輩・・・、どうしたんですか急に・・・」
「あら、誘ってきたのはあなたからよ?私はそれに応えてあげてるだけなのだけれど」
ひいいいい近い近い顔が近い!
顔だけじゃない声も!胸も!
相変わらず羞恥心とか躊躇いとかぶっ壊れてるんじゃないかなぁ!この人!
「ちょっと、先輩ちか・・・」
「ん、なぁに?」
鍵のかかった部屋、中には二人きり、 先輩の透き通るような声、何も起こらない筈がない!
ホントにどうしてこうなったんだっけ_______。
皆さん初めまして!
私の名前はモア!【非合法組織特定及び対策機構・潜入部サイバー課】に所属する捜査官です!
略して「非特」と呼ばれるこの組織は、日本に点在する隠れた犯罪集団を未然に特定し、事件発生・拡大の前に対処するという大切な役割を担っています。
そんな非特でのわたしの役割は捜査を円滑に進めるための情報収集や現場でサポート!
・・・だったのですが、去年突然1年間の研修を理由に今までいた東京の本部を離れ、大阪の支部に移ることになってしまったのです。
今日は研修が終わって1年ぶりの本部帰還、少しの間だったとはいえ非特に入ってからずっと本部勤めだったわたしにとってはすごく懐かしさを感じます。
でも本部に戻ってこれた以上にわたしにとって嬉しいことは______。
「クロナ先輩!!お久しぶりです!!」
「あら、お帰りなさいモア」
診療室と書かれた部屋の扉を勢いよく開けると、そこには黒くて長い髪をなびかせながら振り返る女性が1人、わたしが非特に来てからずっとお世話になっている憧れの大先輩、クロナ先輩だ。
部署はわたしと同じ潜入部だけど、サイバー課よりも危険度の高い現地での情報収集をメインに動く潜入課所属、いわゆる本物の潜入捜査官だ。
顔もスタイルもモデル顔負けで、本業の片手間で新人の指導や職員のメンタルケア等のカウンセラーもこなしてしまうほどのしごでき人間!
「予定より随分と到着が早かったわね」
「へへ~、先輩に早く会いたかったので!」
「たまに連絡も取ってたでしょう?」
「それでもです!」
「ふふ、ありがと。でも、だからって診療室の扉を勢いよく開けるのはダメ」
人差し指でおでこをつつかれる、怒り方も素敵だ・・・。
「帰って来て早々悪いけど、さっそくお仕事よ」
「ええ~~~!?少しは休ませてくださいよ!鬼!ワーカーホリック!」
「私も一緒って言ったら?」
「行きます」(真顔)
我ながらちょろい、でも先輩も一緒となったら話は別なのだ。
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「今回はひと月前に違法薬物の栽培疑惑のタレコミがあった科学工場への潜入よ。」
「1ヶ月も放置してるってことは緊急性は低いんですよね?
しかも盗聴器を仕掛けてくるだけの簡単な任務なのに、なぜわざわざ多忙な先輩が引き受けたんです?」
「情報の信憑性が薄かったから後回しにしていたっていうのもあるけど、研修で成長したモアの腕試しには丁度良いと思ってね。あなたが帰ってくるまでわざと泳がせてたのよ」
「ムゥ・・・なんか変にプレッシャー感じるんですけど」
本部に戻って来てから初めての任務、しかもいきなり先輩と一緒に行くことになるだなんて。
嬉しい反面先輩から変に期待されてるような気がしてなんだか落ち着かない・・・。
「もしかして緊張してる?」
「うっ・・・!シ、シテマセンケド・・・?」
図星を突かれつい片言で返してしまった。
「その調子だとちゃんと成長してるのか疑わしいわね。」
「そ、そんなことないです!確かに今は頼りないですけど、わたしだって成長してるんですから!」
「ふーん、そう・・・」
なんか自分で自分の首を絞めた気がしなくもないけど、先輩の役に立ちたくて頑張ってきたのは紛れもない事実だ。
釈然としない気持ちを誤魔化すかのようにいそいそと任務用のボディスーツに袖を通す。
「だったら確かめてみる?」
「へ?」
「あなたが本当に成長してるかどうか」
前のファスナーを上げ終えると突然先輩からそう言われ、後はもうされるがままだった。
身長も身体能力も負けているわたしはあれよあれよと壁際に追い込まれ、そして冒頭の状況に至ったのだ。
・・・・・・いやいやいやいやいや!!?
至ったのだじゃないし!文脈見返してもサッパリ分かりませんけど!?
一体わたしの何が先輩のやる気スイッチを押したんだ!?
何がきっかけだ思い出せ、何か、何か何か何か何か・・・
「確かめてみる?」「本当に成長してるかどうか」
って言ってたけど、まさかこの人肉体的な意味での成長って勘違いしてる!?
じゃなきゃこんな密着するような状況考えられないっていうか!
違うんです先輩!そういう意味じゃなくて、なんかこう捜査官としての能力値的なとこが成長してるって言いたかったわけで・・・。
とにかく誤解!誤解を解かないと!
「せ、先輩ちょっと・・・!」
そう言って振り払おうとした手の平に柔らかい感触が当たる。
恐る恐る目を開けてみると先輩のおっぱいがわたしの手の中に・・・
先輩のおっぱいがわたしの手の中に!!!?
ヤバい終わった、いくらわざとじゃないとはいえ先輩の胸を触るとか恥ずかしさと罪悪感でまともに顔見れない。
「・・・少しからかい過ぎたかしらね」
うつむいて固まってるわたしに先輩は変わらずいつも通りの口調で話しかける。
「私も久々にあなたに会えて少し舞い上がってたかも。
診療室に忘れ物を取ってくるから、その間に準備済ませちゃいなさい。」
そう言って先輩はわたしの頭を軽く撫で、更衣室を出て行った。
さっきまでパンク寸前だった思考回路が冷めていくのと同時に、壁にもたれながらわたしはゆっくりとその場に座り込む。
・・・先輩はズルい、いつだって余裕があってかっこよくて、わたしの助けなんかいらないんじゃないかって思うくらいたくましい。
本当にわたしはあの人を支えられる存在になれるんだろうか・・・。
鳴りやまない心臓の鼓動を抑える余裕なんてあるはずなく、静まり返った更衣室の虚空をわたしはただ見つめることしかできなかった。
大丈夫、いつも通り、平常心平常心
更衣室に後輩を1人残し、足早に診療室へと戻りながら何度も心の中で彼女は呟く。
大丈夫、大丈夫
扉を開けて中に入り、目を瞑り深呼吸をする。
大丈夫、大丈_____、
そう言いかけた直後、先刻の更衣室でのやり取りがフラッシュバックして思考が停止する。
なんとか再起動しようと、かろうじて発した彼女の最初の一言は______
やっっっ、て、しまっっ、た・・・!!
舞い上がってるのはどっちよ!顔見られなかったわよね?
ホントはちょっとからかって終わりにするはずだったのだけれど、
まさかあんな、あんなっ・・・!
でもあの子、自分のこと「頼りない」なんて情けないこと言うから、ちょっと焚き付けたくなってしまったんだもの。
確かにモアの普段の能力値は平均レベル、けど実戦で窮地に陥った時の発想力や行動力は私以上のものを発揮してきた。
事実、彼女の実力はこれまで一緒に任務をこなして何度も見てきている。
でも肝心の本人にはその自覚がない。
そんな子が自分を卑下するような言い方してたら、少しは嫉妬してしまうじゃない。
・・・ダメね、こんなところあの子の前で見せるわけにはいかない。
なんとか気持ちを持ち直さないと。
再び冷静さを取り戻そうと両頬をグニグニと手先で混ぜる。
忘れたものを手に取り診療室をあとにしようと振り返ると、ふと近くにあった姿見が目に入る。
そこには頬を赤らめ、額には汗をかき、依然として表情を隠し切れない自分の姿があった。
・・・・・・・ズルいなあ
思わず漏れ出た本音、任務開始まで1時間を切っている、後輩に醜い姿を見せまいと再び両頬を混ぜ合わせるのであった。




