第一章 その3 友達
大変遅くなり申し訳ございませんでした。学校等の兼ね合いから週1投稿になるかもしれませんが、新連載も考えてはいます。短編や番外編も、気分でちょくちょく上げていこうとは思っています。
「……は?」
大正、四年?
ここは……大正時代?
つまりそれは……そうれそれは……
ああ、駄目だ意味がわからない。
鈴芽が全く意味がわからず混乱しているのを横目に男性は鈴芽を怪しむ。
「君の言うレイワとやらも分からないし…君は何者だ?それに君の服は何だ?」
男性が顔を顰めて言った。
鈴芽はあっ、と気付く。
今の鈴芽の服装はグレーのトレーナーにカーキ色のスカート、スニーカー。明らかに周りとは違う。恐らく人々がチラチラ見てきたのはこの服装が原因だろう。
男性が鈴芽を胡乱な目で見る。
「君は一体なんなんだ?今の年号も分からないようだし……走っていたし迷子か?」
男性は鈴芽に色々と訊いて来たが、急いでいると言っていたからか自分からなにかしようとしていない。今なら寧ろ好都合だ。
「え!?えっとその大丈夫です!急いでいるようなので私はそのこれで!ありがとうございました!」
鈴芽はそして回れ右して走り出した。後ろから男性の「あ、ちょっと待て!」という声が聞こえてくるが無視してその場を逃げた。
しばらく走り少し離れた公園にやってきて深呼吸をする。
そして考える。鈴芽は必死に情報を整理しようとする。情報を元に何かを導き出せるといいが……
男性によると今は大正四年らしい。嘘をついているようには見えないし恐らく本当だろう。
そして鈴芽のいた時代は令和四年。西暦に直すと2022年。確か1925年くらいに大正が終わって14年だったか。そこから遡ると大正四年は1915年のはず。
2022年から1915年を引くと100年以上前。つまり鈴芽は100年以上前の世界へやってきた。
ならこれは……さっきも思ってた……そして予想した中の一つ……そう正に、所謂……
「タイムスリップ……ってやつ……!?」
「いやいやいやいやいやファンタジーじゃないんだから!」
鈴芽は笑って否定するが……
(ああ……でも……やっぱり?変だし明治大正時代みたいだな……とは思ってたけどさ……)
心当たりは一つある。烏山で蝶の石を抜いた事。その後に祠の中が光って急に引き込まれた気がした。あれが原因かだったのだろうか。
いや、そんなことよりずっと大変な問題がある。
これからどうしよう!
現代に帰る方法を探すしかない。
そのためには一人では多分ほぼ不可能。もしかしたらこの時代には何かしらの伝承は伝わっているかもしれないが。しかし無我夢中で走りすぎて一人で烏山にはもう戻れない。
そうとなれば、あれをつくるしかない。
そう……協力者!
「協力者……大人がいいけど大人は危険かもだし……子供の方が案外秘密はバラさなかったりだからな……」
現役10歳だからこそわかることだ。秘密はバラす子はバラすが以外に子供は秘密を守ることもある。そう簡単には口を滑らさないような子。そんな子を協力者にすればいい。
じゃあどうやってその協力者をつくるか。普通に考えたら……
「友達をつくる⋯?」
「って凛華や萌香じゃあるまいしそんな事簡単に出来ないに決まってるじゃん!」
一瞬考え直ぐに無理だと判断する。もしこれが現代ならまだしも、ここは大正時代だ。そう簡単にできるものでもない上、先ず話が合うかも分からない。
……どうしよ
仕方なく鈴芽はあてもなく歩くことにした。
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「はぁ……」
鈴芽は途方に暮れ俯いて歩いていた。
まだ友達こと協力者はつくれていないが、一人でもなんとかならないかとなにかヒントになる様なものが無いか探しながら歩いていた。
でも雨上がりなのか水たまりが多くて歩きづらい。
水たまりを避けることに専念していて完全に余所見をしていたその時、
「わ!」
前から来た人とぶつかった。
バシャ!
(っう……)
ぶつかった衝撃で鈴芽は思わず後ろに尻餅をついた。
しかし運が悪いことに後ろには水たまりがあった。
(あ!泥水!)
スカートに泥水が染みて靴にも浸水している。上の服にも泥水が撥ねてしまっている。
(うわー最悪⋯大正時代で服汚すとか⋯)
「ごめんなさい!」
ふと少女の声が降ってきて鈴芽は顔を上げた。すると、鈴芽と歳も変わらなそうな少女が体を真っ二つに折って鈴芽に向かって頭を下げていた。
「ごめんなさい、本当に申し訳ございません。私が前を向いていなかったから……貴方の服を汚してしまって……」
少女が消え入りそうな声で謝罪を繰り返す。
突然それが目に飛び込んできたものだから鈴芽もフリーズしてしまいなんと返そうか分からなくなる。
「え⋯…いや、その、大丈夫です。余所見をしていた私も悪かったので。あの、その顔を上げて下さい。」
鈴芽はなんとか言葉を考えながら愛想笑いをして答えた。そりゃ怒っていない訳では無いが鈴芽だって余所見をしていたのだし、目の前でこんな必死に謝っている人がいたら怒る気もなくなるというものだ。
すると少女が恐る恐る顔を上げる。
今にも泣き出してしまいそうな表情の少女は声を震わせてもう一度鈴芽に謝った。もうそこまでされるとか逆に申し訳なくなる。鈴芽はもう服の件は後回しにしてとりあえずこの場をどうにかしようとした。
「本当に、申し訳ございません。」
「い、いえいえ、その、もう謝らないで下さい。私だって悪かったで……」
この子一体何回謝る気だろう。さっきも同じ会話をした気がする。
とても不安そうな目をした、赤毛混じりの茶髪を二本のおさげにして、無地の小豆色の着物を着ている少女。顔にはそばかすがあり痩せてて猫背。いかにも真面目で気が弱そうな子だ。
(まあこの子責める気になれないし……服はどうにかしよう……いずれ乾くだろうし……でもな……)
「ごめんなさい……あの⋯そのお着物……ではないようですが服が汚れてしまいましたしもし、よろしければ洗濯するので、その間の服として私の服をあげましょうか?」
「え?」
突然の少女からの打診で鈴芽は一瞬思考が止まる。
つまり、鈴芽の服を洗濯してくれるだけでなく自身の服も貸してくれるのか。
そうなのだとしたら願ってもないことだ。
(え……良いの?良いの?良いの!?嘘!マジ!?じゃあ多分着物だろうし着物なら浮かないじゃん!えめっちゃラッキー!)
不幸中の幸いというやつだろうか。
鈴芽が一人で黙ってこれらの事を考えていると、少女はまた焦ったのかおろおろしだした。
「あ!その、嫌だったら全然いいんです!ごめんなさい服汚した身でありながら図々しい物言いでしたよね、本当に申し訳ありません。その、もし気に障った様でしたら今の言葉忘れてもらって!」
鈴芽が口を挟むまもなく少女は一気に話す。
完全に鈴芽が腹を立てているのだと思っているのだろうか、本当に気の弱い。おまけに緊張してるのかあっちこっち下を向いて目だけをキョロキョロさせながら話している。
「いやその……全然怒ってませんし図々しいだなんて思ってませんよ……あの、じゃあ、お気持ちに甘えて、そうさせてもらいたいです。」
「本当ですか……?いえ、疑っている訳じゃないんです、不快にさせたらごめんなさい。その……えっとじゃあ、私の家に来て貰えますか?なんだか図々しくてごめんなさい。」
「全然大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
「いえ、私が汚してしまいましたし⋯」
―――――――――――――――――――――――
少女が先導して歩いている。
鈴芽は歩きながら思った。この少女、さっき考えた協力してくれる友達にしてみようか。
この少女なら真面目そうだし、こういう子は案外秘密を漏らさない。めちゃくちゃ気弱そうなのが少し不安だが……どうしても不安なら少し脅しても、何て少しクズな事も考えていた。
そういえば、まだ互いの名前を知らない。なんだかんだ名乗れてなかった。
でもなぁ……突然話しかけるのなぁ……
鈴芽は凛華達程社交的ではない。全然話すことはできるが、無言の場で自分から話し始めるのは余り得意ではない。
いや、でも絶対少女からは訊いて来ないだろう。
「えっと……ねえ、あなたの名前は何て言うの?」
鈴芽は腹を括り思い切って少女に話しかけた。
突然話しかけられた少女は驚いた顔をした。
「え、私の名前ですか……?私は、若山幸子と申します。」
「幸子ちゃん?あ、私の名前は倉内鈴芽だよ。」
「鈴芽さん…」
鈴芽はそのまま幸子に一気に話を持ちかける。
「えっと……ねえ、幸子ちゃん。もしよろしければ、私と友達になってくれない?」
できる限り愛想を良くし笑顔で話す。
凛華に昔習った事を思い出す。
初対面の人と友達になる時は、にっこり笑顔を浮かべ、物腰柔らかにゆっくりと話し、相手の目を見る。早口にならないよう、独りよがりにならないように話す。意外に難しいと思いながら鈴芽は話した。
突然こんな話して大丈夫かな……?と鈴芽が幸子を見たら、案の定幸子はフリーズしている。
「幸子……ちゃん?」
「えっと……その……友達、ですか?」
「うん……幸子ちゃんいい子そうだし……是非とも友達になりたいなぁって……嫌かな?」
「いえ全然嫌だなんて!その、もちろん、喜んで!」
「じゃあ、これからよろしくね、幸子ちゃん。」
鈴芽が握手をしようと手を出すと、幸子は驚いた顔をした。いや、なんだろうこの手は、と言った感じか。
大正時代では握手の文化がないのだろうか。鈴芽が手を引っ込めようとしたら幸子がそっと鈴芽の手を掴んできて、握手を交わした。
戸惑っているようだが、鈴芽が変に手を出しただけで終わらなくて良かった。
「はい、よろしくお願いします。あ、あの、私実は周りから、その幸子でも全然いいんですけど、幸とかさっちゃんとか呼ばれていて……」
「本当?じゃあさっちゃんって呼んでもいいかな?私のことも好きに呼んで!鈴芽さん以外で!」
「はい、全然大丈夫です。えっとじゃあ……鈴ちゃん、と呼んでもいいですか?」
「うん!オッケー!」
「おっけー……?」
「あ……大丈夫!そうだ、敬語、やめない?」
「あ、分かりました。」
「言ったそばから……」
「あ、ごめんなさ…ごめん。」
「あ全然気にしないで!そうだ、さっちゃんは何歳なの?」
「私は、10歳だよ。四月から、尋常小学校が五年生になるよ。」
同い年だったのか。
「同い年だね!私も10歳だよ。四月に、五年生。あと二歳下、春に三年生になる妹の芽衣っているんだよね。」
「妹さんがいるんだ!いいなぁ、妹がいたら可愛いだろうなあ。私は三つ上の春に中学二年生になる姉の累っているんだよ。」
「お姉さんがいるんだ!いいなぁ、私姉だからお姉さんも欲しかったなあ……妹は確かに可愛い所もあるけど、うるさいし段々ナマイキになっていくしさぁ……」
「姉なんて、いい事ばかりじゃないよ。いつもお姉ちゃんのお下がりだし下の子だから姉の言うこと聞けとか……お母さんにお姉ちゃんはできたのにって言われたり……私は妹が欲しいな。お姉ちゃんって付いてまわってくれるような可愛い子が。」
「それね、小さいうちだけで私はまだだけど、友達の所とかはお姉ちゃんとか呼ばなくなって名前呼びで段々離れていって関わんなくなるって⋯…」
「でも、一人っ子も憧れるかなあ。」
「兄弟姉妹がいないって、どんな感じなんだろうね。」
「私は3歳までそうだっけどね〜」
「どんな感じだった……」
二人はその後も話に花を咲かせながら歩いて行った。
鈴芽は勘違いしていますが大正時代は1926年までで15年までです。




