夜の浜辺
「ご飯食べ終わったから、ちょっと浜辺散歩してきます〜」お風呂から上がり洗い物をしてるおばあちゃんに声掛ける。
「まあまあ、お熱いね〜行ってらっしゃい。
でも明日は夜出歩かないでね。
忌み日だから。」おばあちゃんが手を止めて話す。
「何ですかあ?その忌み日って?」優が聞く。
「御神さまが村を散歩する日なのよ。毎月18日は夜出歩くの禁止なのよ、この島は。」おばあちゃんが話す。
「ほら、前に御神さまは人が苦手と言ったでしょう?
だから夜に人と出会うと帰ってしまうから、その日だけは人間が夜6時以降家から出ては行けないんだよ。」
浜辺には半月が星々と共に美しく輝いている。
「カフェも民宿もろくに絵描き村の話できなかったでしょ。
優はその為にこの島来たんだから、どうしたいか?
腹割って話して。
でも、危険は忘れないで。」淳から話す。
「まずさ、本当に贋作なのか?僕は素人なんで分からないんだよね。」優が素直な感想を話す。
「メトロポリタン美術館とか知ってる?」淳が聞く。
「有名なアメリカの美術館だよね?」優が返す。
アメリカは歴史が浅いから収蔵品はほとんどここ100年くらいで集められたものなんだけど…その中でニセモノじゃないかと思われてるのは何%だと思う?」淳が聞く。
「う〜ん、1割くらい?」優が答える。
淳が優の腰に手を回して捕まえる。
「ブブーッ!6割がニセモノだと言われてるの。
つまり巨大なレプリカ美術館と呼ばれてるのよ。」
「エエッ!」と優が驚くが腰を引けないように捕まえられている。
「それだけニセモノ贋作は普通に出回ってるの!
確か去年も中国の贋作村が摘発受けてたわ。
生まれた時からゴッホ専門に描いてた村民も居たそうよ。」
「マネ以降の印象派や近代作家は素人でもマネしやすいからね、贋作の格好の的なのよ。」もう優が驚くのを諦めた。
「分かったよ。贋作って普通なんだと言いたいんだね。」
淳の手をほどいた。
「鑑定士なんて宝石やブランド鞄みたいにハッキリした仕事じゃないのよ、絵画は。
どちらかと言えば、投資家同士が脱税目的で売り買いする時の
不動産の司法書士さんの仕事が、絵の鑑定士の仕事なの。」
淳はゆっくりと浜辺を歩く。
「その絵が本物か?言える人は、もうこの世に居ないんだよ、正直。」
月を背に言ってはいけない真実を語る。
「僕の友達は、アイツはそれに苦しんだのかな?」優が下を向く。
「いや、そんなメンタルの問題だけじゃないみたいだよ。
詐欺の掛け子みたいに身分証明書も携帯も取り上げて
この島に閉じ込められてたと思うよ。
その遺言、手紙だったんでしょ?
かなり傷んでたでしょ?検閲されまくって。
彼は死にたくなかったと思うよ。ただ脱出する方法が自殺しか無かったんだよ。」
淳がまた語ってはいけない現実を話す。
優の心が保つか分からないが…
「そんな…そこまで…」優が浜辺に座り込む。
「お金が動くと、人はどこまでも残酷になるから。
絵もお金になると言うことは不動産と同じだよ。
贋作描いた人間を生きてこの島から出す訳にはいかないんだよ。」
絵画の業界は、地面師の世界と同じなのだ。
金と欲に彩られたドロドロの人の業の沼なのだ。




