483.鬼の隠れ家①
なんか緊張してきた。
俺は[鬼の隠れ家]で下準備をしている。
「ライルくん。シトラス胡椒のソースを味見してもらえる?」
「はい」
手伝いにはブライズさんが来てくれてる。
「マスター。シビーハキリオエテマス」
そしてワーもいる。
「なんか緊張してきた」
「かなり良いメニューが出来たと思うよ」
「そうですか?ブライズさんにそう言われたら少し安心してきた」
ブライズさんの言葉で少し落ち着いてきた。
「マスター。そろそろ開店しますか?」
ゴーレは料理以外の手伝いで来てくれていた。
「そうだね。夕日も沈んだし。そろそろかな」
「では暖簾を出して、照明をつけてきます」
ゴーレはそういうと店の外に出た。
少し待つとラドニークさん御一行がやってきた。
セフィーナさんとナターシャさんはワインレッドのドレスを着て、首には小さなダイヤが散りばめられたネックレスを付けていた。
「いらっしゃいませ」
「おお。なんかすごいな」
ラドニークさんは入り口近くに置かれているライル商会のロゴの像を見て驚いていた。
「ラドニークさん達はこちらに」
俺がカウンター内から案内すると、ゴーレが椅子を引いて4人を座らせてくれる。
「国王様待ちますよね?」
「そうだな。さすがに待たないと」
いつもと空気感が違うせいか、セフィーナさんとアイザックさんは緊張しているみたいだ。
4人の髪型はいつもと少し違った。
ヴァイオレットは男性陣もセットしたのだろう。
そんなことを思っているとオステオさんとカヴァーグさん、そして国王が入店した。
ラドニークさん達が立ち上がろうとするが、国王は手ぶりで座るように伝える。
オステオさんとカヴァーグさんはこの世界の私服。
国王はヤルク商会のパーカーを着ていた。
「ライル。雰囲気があって良い店だな」
「国王様が来られる前提で作ったので」
「今日は美味しい料理を楽しみにしてるぞ」
「ありがとうございます」
ゴーレの案内で3人は席に座った。
国王様は同行者を連れて来なかったみたいだ。
「やはりラドニークはいたか。それにカラッカ夫人か?」
「国王様。ご無沙汰しております」
「病気だと聞いていたが」
「少しずつですが回復したので、夫がお世話になっているライルさんの御厚意に甘えさせていただきました」
「そうか。セフィーナもアイザックもヤルクぶりじゃな」
国王に声を掛けられ、2人は緊張しながらも口を開く。
「「お久し振りです。国王様」」
「あれから何度もヤルクに行こうとしたんじゃがフェイロに止められてな。今度またお忍びで行くからその時は頼むぞ」
「「はい」」
お忍びでくんな。
国王がカラッカ家に触れたので、俺は口を開く。
「[鬼の隠れ家]にご来店ありがとうございます。国王様がお忍びで来る前提で作った店なので、今日以降の開店について説明をさせてもらいたいのですが、まずはライル商会自慢の野菜を堪能しながらお話を聞いていただきます」
俺がそういうとブライズさんとゴーレが6種類のドレッシングリストを見せる。
「サラダにかけるドレッシングが6種類から選べます」
「ライルくん。おすすめはどれかな?」
カヴァーグさんが質問してきた。
「うーん。おすすめはゴマ醤油ですね。そういえばアルルハド領に行けずにすみません」
「はは。こんな素敵なお店を作ってたんだ。忙しかったんでしょ?」
「そうですね。でも必ず行きますから」
「ぜひ。じゃあ僕はライルくんのおすすめのゴマ醤油で」
「承知しました」
カヴァーグさんの言葉にゴーレが返事をした。
7人の前に木の小さなボウルに入ったサラダと白い陶器に入れられたドレッシングが運ばれる。
そしてセフィーナさん以外の人にはシャンパングラス。
セフィーナさんには冷たい緑茶が運ばれる。
「うちの自慢の野菜です。お召し上がりください」
7人はサラダを食べていく。
驚いたのがセフィーナさんとアイザックさんは箸を選ぶのは当然だが、ラドニークさんも箸を選ぶとは思わなかった。
そういえば元の世界の料理を結構食べたんだった。
「お店の説明をします。[鬼の隠れ家]は俺の気が向いた時に開店します。開店した時は店の入り口に暖簾が出て、照明が付きます」
「なるほど。わかりやすいの」
国王はサラダを頬張りながら言う。
「国王様が出来るだけ護衛なしでお食事が出来るように、この店は招待制にしています」
俺は5種類の鍵を出す。
「今後はこの鍵を持っている人か持っている人の同行者でないと店に入れないです。カヴァーグさんにもあげますね」
俺は国王とラドニークさんとオステオさんとカヴァーグさんに鍵を渡す。
「ライル。なんで4本も渡したんじゃ?」
「4本渡した理由はご自身のが1本、この店を紹介してもいいと思った人に渡す用が3本です」
「ほーなるほど」
「宝石がバラバラな理由は、ないとは思いますが鍵を渡した相手が店で何かをしたときにまとめて出禁に出来るからです」
「ははは!なるほどな。簡単に渡せなくなったな」
国王は俺の話を聞いて笑っている。
「みなさんを信頼しているので、鍵を渡す人も良い人だと思っていますよ」
カヴァーグさんは嬉しそうに俺を見ているが、ラドニークさんとオステオさんは顔を引きつらせている。
変な人に渡したことをだしに、俺に変なお願いをされたくないのだろう。
「説明も終わったので、どんどん料理を進めていきますね」
俺がそういうとゴーレが食べ終わったボウルを回収し、ブライズさんが陶器の平皿と小皿を7人の前に置く。
「シビーの刺身の食べ比べです。シビーも部位によって味が違います。右から大トロ・中トロ・赤身・カマトロ・ツノトロ・中落ちです。醤油とお好みでワサビを付けてお食べください」
俺がそう言うと陶器のとっくりとおちょこが大人達に前に置かれる。
「お酒はヤルク酒の辛口です。刺身に合うので是非」
みんなが刺身を食べ始める。
「ん!シビーにはこんなに脂があるのか?」
「はい。国王様が食べた大トロは特に旨みや脂が多く、口に入れると溶けていきます」
「うん!うまい」
国王様は満足そうだ。
「ライル。このツノトロ?ってシビーのどこなんだ?」
オステオさんの質問に俺は頭を指差す。
「頭の肉ですね。少量しか取れないのでかなり貴重です」
「頭の肉なのか…」
オステオさんは口に入れるたびに、目を閉じて味わっていた。
シビーの刺身をみんなが食べている間、俺は鉄板に魔力を注いで加熱する。
その様子を見てラドニークさんが口を開く。
「ライル。何をするんだ?」
「ここで調理の様子を見せて料理を提供するんです」
「おお。いいな。レストランライルでも調理は見えるが、ここではわざわざ見せるんだな」
「そうです」
鉄板にオリーブオイルを広げる。
「次はキノコのソテーです」
ワーが1口サイズに切ったシイタケとホワイトマッシュルームとエノキを持ってきた。
「ありがとう」
俺はそれを受け取り、鉄板で炒める。
「ライル。酒の追加を頼んでいいか?」
「はい。ヤルク酒でいいですか?」
「ああ。頼む」
ブライズさんがすぐにとっくりを持ってきた。
炒めたキノコに胡椒とレモン汁をかける。
陶器の黒の平皿に盛って、パセリをかける。
「出来上がりました。キノコのソテーです」
みんなの目の前にキノコのソテーを置いて行く。
俺が調理している間にゴーレがパンを7人の席に配っていた。
このメンツだとパンよりもお酒の減りが早そうだ。




