482.裁縫部門の本気
昨晩は最強部隊が大活躍だった。
裁縫部門の母さんとマリーさんは、俺のせいで貴族慣れをしてるのですぐにナターシャさんと仲良くなった。
ヴァイオレットが案を出して、アリソンがドレスや下着のデザインを書く。
シモンとキリーがその場で布を作って切ってを繰り返し、すぐに小1時間で長袖の黒のドレスが出来上がった。
驚いたのがヴァイオレットの指示でシモンが作った布がシースルー生地だった。
そんなものを作ったせいで、ラドニークさんは完全にナターシャさんに惚れ直していた。
俺は母さんの指示でマジックマネキンを持ってきていた。
カラッカ邸では黒の生地でしか作れなかったので、色が付いているドレスや服や下着は今日届けることになった。
開店日にはヴァイオレットが何故かヘアアレンジをするそうだ。
この世界のあんまり発展していない化粧道具で、娼婦として人気になっているヴァイオレットだから失敗することはないだろう。
俺は[鬼の隠れ家]にガルスタンと来ていた。
「ライル様。鍵は3種類用意しました。どれにします?」
「どれもいいね」
ガルスタンはお客に渡す鍵を作ってきてくれた。
しかも3種類で選べるのが良い。
魔法の鍵みたいな見た目のおしゃれな鍵を選ぶ。
「これにしようかな。これを20本用意してほしい。小さくていいから宝石とか付けられる?」
「できますよ」
「じゃあ4本ずつに分けて、それぞれ違う宝石を付けて」
「わかりました。ジュエルアイアイのダイヤとルビーとサファイアとエメラルドとアメジストの在庫があるのでそれを付けます」
「うん。お願い」
ガルスタンは扉に鍵を設置する作業を始めた。
▽ ▽ ▽
ヤルクに戻り、裁縫部門の様子を見に行く。
するとアイザックさんとセフィーナさんが母さんとマリーさんに捕まっていた。
「あれ?何してるんですか?」
「ヴァイオレットちゃんに良い案をもらったの。ナターシャさんに作ったドレスをセフィーナちゃんにも作ろうと思って」
「お揃いってことか。すごいいいね。でもアイザックさんは?」
「アイザックさんも綺麗な服の方が良いでしょ?」
「まあそうだね」
セフィーナさんは嬉しそうにしているが、アイザックさんは助けてほしそうな目線で俺を見ている。
「母さん」
「どうしたの?」
「国王様がヤルクにいた時の服装で来るかもしれないんだ。だからナターシャさんとセフィーナさんは着飾ってもいいけど、アイザックさんが着飾っちゃうと国王様に対して失礼になっちゃうかも」
「ま!それはダメね。じゃあかしこまってない服にするわ」
アイザックさんは俺を見続ける。
アイザックさん。
ごめん。俺には説得できない。
俺はアイザックさんから目を逸らした。
「母さん。ナターシャさんの所には夕食後行こうと思うんだけど大丈夫?」
「わかったわ。任せて!セフィーナちゃんも行くわよね?」
「え?え?」
セフィーナさんはどうすればいいかわからずにいた。
「せっかくのお揃いなら当日にしたら?ナターシャさんが驚いた方が良いんじゃない?」
「そうね。それがいいかも」
母さんは服を作って着せ替えるのが本当に好きみたいだ。
時々暴走気味になるけど、好きにやらせてあげよう。
▽ ▽ ▽
夜になり、母さんと共に王都のカラッカ邸にやってきた。
母さんはナターシャさんの着替えの手伝いに行き、俺はラドニークさんと客間で待っていた。
「何着作ったんだ?」
「えードレス3着と服5セットと下着5セットです」
「かなりの額になりそうだが、ナターシャが嬉しそうでよかった」
ラドニークさんは笑顔で言った。
「ナターシャさんには秘密ですが、同じドレスをセフィーナさん用で作ってます」
「それはナターシャも嬉しいはずだ。まあドレス3着追加ぐらいなんでもない」
「あとイルデンがネックレスと指輪を作りました。これはセフィーナさんのもです」
「な!」
「これの支払いはしないでいいですよ。ラドニークさんからの贈り物ってことで明日2人に渡してあげてください。貸しってことで」
「はぁ。これは呑むしかないな」
ラドニークさんは嬉しいのか悲しいのかよくわからない表情をしていた。
数分後、母さんとナターシャさんが戻ってきた。
ナターシャさんワインレッドの長袖のロングドレスを着ていた。
やはり腕部分はシースルー生地になっている。
母さんが手に持っているモコモコの奴は肩に羽織る物だろう。
寒くなってきたから、かなり気の利いたアイテムだ。
ナターシャさんの姿を見た瞬間、ラドニークさんが立ち上がる。
「ナターシャ……素敵だ」
「そう?変じゃない?」
「いや全く変じゃない。とても綺麗だよ。ナターシャ」
少し居心地の悪い空気になった。
そんな空気を断ち切るように俺は口を開く。
「えー。明日は夕方頃にセフィーナさんとアイザックさん。それとヴァイオレットと母さんがやってきます」
「ああ。わかった」
「店の入り口の照明が光っていたら開店している合図なので。あと馬車を置くところがないので使用人の方と上手くやってください」
「問題ない」
必要な話は全部したはずだ。
俺と母さんはカラッカ邸をすぐに出た。
本当になんか居心地が悪い空気だった。
「母さん。明日もよろしくね」
「うん。任せなさい。貴族のことはわからないけど、あのドレスで大丈夫よね?」
「大丈夫なはずだよ。ラドニークさんも気に入ってるみたいだったし」
「そうね。あの形の服も売り出しちゃおうかな」
「うーん。買う人と着る場所が平民だと難しいかもね」
「少しアレンジできるか考えてみるわ」
本当に裁縫部門は母さんのやる気に支えられていた。




