469.ヴィラーズの街
翌日、久々にチバラス領ワカチに来ていた。
ゴトフと一緒にサーカスの様子を見るためだ。
「チケットはどこが管理してるの?」
「チバラス領の商人ギルドに協力してもらって販売してるよ。冊子とチラシの効果で2公演なのにもう8割売れてるんだよ」
「カラッカ公演の前から冊子とチラシを配っててよかったな」
「うん。次回の公演をするトカザック領にも冊子とチラシを配ってるから、公演日を早めに決めたいんだよね」
ゴトフは学生なのにめちゃくちゃ働いている。
さすが貴族。
「チバラスの街に行く前に、ゴトフの兄が治めてる街も見てみたいかな。馬車で数時間でしょ?」
「うん。ヴィラーズの街なら馬車で2時間、グリリなら1時間もかからず到着するよ」
ヤルクも発展途中だから、同じ境遇の街が気になっていた。
「ねえ。ヤルクと比べようとしてる?」
「うん。同じ発展途中の街だからな」
「はぁ。ヤルクは発展途上かもしれないけど、他の発展途上の街と一緒じゃないからね」
「え?」
「ライルのスキルの範囲内だけは王都以上なんだから」
「あ!そうか」
「変に期待しすぎないで見てほしい」
「わかった」
俺はゴトフと一緒にグリリに跨り、ヴィラーズの街に向かう。
▽ ▽ ▽
ヴィラーズの街はゴトフの言うようにあまり発展はしていなかった。
しかし領主の息子が治めているからなのか、城壁や門などはしっかりしていた。
「暮らしている人も多いな」
「ソブラから来た人が多いかな」
「なるほど」
ソブラ領が無くなった影響がここにもあったようだ。
「商人ギルドも冒険者ギルドもしっかりあるな。宿屋は少ない。冒険者はあんまりいないのか?」
「そうだね。近くの村がモンスターに襲われたり畑を荒らされたりするから依頼はあるみたい」
「なるほどね。ヴィラーズを目指してくる冒険者はいなそうだな」
「そうだね。カラッカとか他の領に行く途中の街かな」
何となくヴィラーズのことがわかってきた。
冒険者ギルドに寄ってみようかと思ったら、冒険者ギルド前に見覚えのある3人がいた。
「あれ【六迅剣】じゃない?」
「本当だ。マクシリオさんだ」
サオラルで出会ったEランクパーティの【六迅剣】がいた。
【六迅剣】は悪い人達ではないんだけど何かを隠している。
俺のことは卒業試験の試合で知ったらしい。
でもヤルクは知らないのに、ライル商会の料理と危険地域のことを知っていた。
それにDランクよりも確実に強い。
悪意がないから違和感に関して追求していないが、完全に信用することはできない。
「あれ?ライルさんとゴトフさん?」
マクシリオさんが俺とゴトフに気付いた。
「久しぶりですね」
「そうですね。サオラルがバタバタし始めたので、ライルくんに勧められたデスヘルという街に向かってるんだ」
「なるほど」
マクシリオさんの後ろでシロクールさんとネズリナさんは黙っていた。
「シロクールさんとネズリナさんも久しぶりですね」
「お久し振りです」
「お、お久し振りです!」
シロクールさんは冷静な感じがする女性。
ネズリナさんは10代くらいでずっと緊張している。
人見知りなのだろう。
「なんかいい依頼ありました?」
「あー。討伐依頼は全然なかったよ。護衛依頼はあるみたいだから、数日この街で過ごして護衛依頼を受けて移動する予定だよ」
「護衛依頼か。じゃあ冒険者ギルドは寄らなくていいかな」
「そしたらもう移動する?」
「うん」
ヴィラーズの街も見る所が無くなったので、移動しようかと思ってゴトフと話しているとマクシリオさんが口を開く。
「この街は面白いね」
「そうですか?」
ゴトフが首を傾げた。
「珍しい建物があったんだよ!目を引かれてしまってね」
「珍しい建物?」
「街の北の方に珍しい形の教会があったんだよ。九神教の教会かなと思ったけど、違うみたいだったんだよね」
マクシリオさんの話が少し気になった。
「教会ですか?」
「うん。司祭様と少し話したんだけど、何て宗教だっけ?」
マクシリオさんはシロクールさんとネズリナさんを見た。
「ユーシン教という宗教でしたね」
「あーそうそう。なんか僕の理念とは少し違ったけど面白い話を聞けたよ」
マクシリオさんは満足そうに話した。
「そうなんですね。ちょっと俺達も見て来ようかな」
「うん。良いと思うよ。僕達は宿に戻るから付いて行けないけど」
「大丈夫ですよ。それじゃ。デスヘルで会えたら!」
「うん。よろしくね」
そう言ってマクシリオさん達は宿屋に向かった。
俺はゴトフを見る。
「教会か」
「うん。教会関係でクライド様がおかしくなったんだっけ?」
「そう。『鑑定』出来ない変なアイテムが原因でだいぶおかしくなってた」
「ユーシン教か。聞いたことないな」
「ゴトフが聞いたことないとなるとかなり怪しい」
「チバラスの街に行く前に、兄さんにこの話をしても良い?」
「うん」
俺はゴトフに付いて行き、ゴトフの兄の元へ向かった。
▽ ▽ ▽
ゴトフの兄の館にやってきた。
使用人に案内されて客間で待つ。
少しするとゴトフに似た20代前半の男性がやってきた。
「ゴトフ!久しぶりだな」
「アウグ兄さんが元気そうでよかったよ」
アウグさんはゴトフの頭を撫でて、俺を見た。
「それでこの子は?」
「うーん。雇い主?」
「ということはライル商会の?」
「はい。ライル商会の商会長ライルです」
俺は頭を下げた。
「父さんから話は聞いている。まさか実在するなんて」
「はは。実在しますね」
圧凄ジジイは俺のことをそういう説明してるんだ。
「それでゴトフとライルはなんで来たんだ?挨拶の為じゃないだろ?」
「はい。実は…。この街に教会を建てているユーシン教について聞きたくて」
「ん?あーなるほど。最近各地で怪しまれている宗教団体だと思ったのか?」
「そうですね。違うんですか?」
「ああ。ユーシン教はまともな宗教団体だ」
アウグさんは自信満々に言った。
「ユーシン教はこの街を作るときにも手助けをしてくれたし、ソブラ領から来た孤児達や働けない者が暮らせる施設を作っているんだ」
「そうなんですね」
「ああ。仕事がない者に仕事を斡旋したりと、ヴィラーズとしてはかなり助かっているんだ」
俺達が想像している最悪な状態ではないみたいだ。
「すみません。知らない宗教の教会があると聞いたので心配になってしまって」
「ゴトフが心配してくれるのは嬉しいよ。でもユーシン教は問題ない」
「それが聞けて安心しました」
ゴトフは安堵の表情を浮かべた。
俺もめんどくさいことにならなくて安心だ。
「それじゃ僕達はチバラスの街に向かわないといけないので」
「お!そうなのか。もう少し話をしたかったがしょうがない。たまには顔を出してくれよ」
「はい」
「ライルも商売の話でもしに来てくれ」
「はい。是非」
俺達は挨拶を済ませ、館を出た。
「よかったな。危ない宗教じゃなくて」
「うん。安心したよ。想定より遅くなっちゃった。」
「さすがに今日は帰るか」
「そうだね。さすがにヴィラーズの街に寄ってからチバラスの街へ行くのは無理だったね。明日授業だし」
俺達は街を出て、グリリに乗ってワカチへ向かった。




