460.入れ替え戦
俺は午前中から闘技場にやってきた。
ゴトフとイタロは緊張していなさそうだが、他の7人は緊張していた。
俺は緊張をほぐすために言葉をかける。
「みんな、今までした授業を思い出して。授業と言えないくらい辛くて痛かったでしょ?他の生徒が武術と魔法学でそんな辛い思いしてると思う?」
みんなは俺の言葉通りに自分達が今までした訓練を思い出したのか顔が引きつる。
「卒業試験を思い出して。俺や弟子達よりも強い英雄達に教えてもらったんだよ?それに俺のテイムモンスターにもボコボコにされた。今更緊張する必要ある?俺やヒューズさん達より強い奴が対戦相手にはならない」
「そうですよね」
「ヒューズさんに直接教えてもらったんだ」
「先生みたいに容赦がない相手なんていない」
みんなの顔色は少しずつ良くなっていった。
「ライル先生」
学園の関係者だと思う人が控室にやってきた。
「対戦表です」
俺は紙を渡される。
「相手が指定した人?」
「はい」
「これでいいの?」
「へ?そ、そのようですが」
俺の質問にその人は首を傾げていた。
俺は紙を見て笑みがこぼれてしまった。
第1試合はカイゼ。
第2試合はアルヴィン。
第3試合はブリギッタ。
「みんな、戦う人が決まったよ」
俺がそういうと、みんなは注目した。
「相手さんは高位の貴族は相手にしたくないみたいだ」
俺の言葉で追加合格の4人の内の誰かが選ばれたのだとみんな気付いた。
「えー第1試合はカイゼ、第2試合はアルヴィン。第3試合はブリギッタ。平民や准男爵を押しのけて、俺とのつながりを作りたいみたいだね。出場する3人には約束してもらいたいことがある」
「約束ですか」
「うん。圧倒的に倒せ。簡単に押しのけて座れる椅子じゃないことを全生徒に目に焼き付けろ」
「わかりました」
「うん」
「やります!」
3人はやる気が出たようだ。
「じゃあルフレッテ、行くよ」
「へ?」
「試合に出ないんだから仕事をするよ」
「はい!」
俺はルフレッテを連れて控室を出た。
▽ ▽ ▽
「対戦相手にカイゼを選んだ理由は?」
「ライル先生の授業を受けるのにはふさわしくないと思ったからですね。追加試験でカイゼという獣人が合格したのもまぐれ。私は運悪く不合格になってしまったので、ライル先生の授業を受け権利を取り戻すためにカイゼを選びました」
ルフレッテは対戦相手のインタビューをしていた。
自己紹介をされたが名前は憶えていない。
3人のうち1人は試験中に態度が悪かった奴だ。
「今聞かせてもらった話は、ライル商会で出版する冊子に掲載するからね!たぶん3人は人気者になっちゃうな」
俺は3人が気分よく話すために持ち上げまくった。
俺と繋がりたいとかめんどくさいし子供を使う奴らは気に食わないから、この調子の乗った様子を国内に知ってもらうつもりだ。
恥ずかしくて今後手を出してこないだろう。
「ライル。自分の生徒を信じてないのか?」
ヤイダラール先生は不思議そうに俺を見ている。
インタビュー内容を嘘だと言われたとき用の証人として連れてきていた。
「え?そんなことないですよ」
「ならいいが」
ヤイダラール先生は俺が何をしたいかを理解していないようだ。
「審判はヤイダラール先生?」
「ああ。その予定だ」
「なら安心です」
「安心?」
「多分ちゃんと判断できる人じゃないと大惨事になりますから」
「おい。どんだけ強く鍛えたんだよ」
ヤイダラール先生の顔は引きつっていた。
▽ ▽ ▽
最初はカイゼの試合だ。
「カイゼ、緊張してる?」
「少し…」
「この試合が終わったら騎士団や貴族から色々誘いが来るぞ」
「え!でも俺はライル商会に…」
「入りたいの?」
「は、はい」
カイゼは申し訳なさそうに言った。
「カイゼはきっかけがあったら入れたいなとは思ってた。だけどピンとくる仕事がなくてね」
「そうですか…」
「まあ入りたいと思ってくれてるなら、ちょっと考えてみるよ」
「本当ですか!!」
「この試合で圧勝したらだけどね」
「はい。圧勝してきます」
カイゼは舞台に上がる。
相手は追加試験で調子に乗っていた奴。
派手な剣を持ち、金属製の鎧を着ている。
ヤイダラール先生も舞台に上がり、掛け声をかけた。
「始め!」
その瞬間、カイゼは全速力で移動して拳を鎧の上から腹に当てる。
鎧は凹んだ。
「びゃっ!」
対戦相手の変なうめき声が聞こえたと思ったら、既に舞台の上には姿が無くなっていた。
「しょ、勝者カイゼ!」
ヤイダラール先生は驚きながらも試合終了の号令をかけた。
やっぱりうちの生徒が負けることなんてありえなかった。
▽ ▽ ▽
2試合目はアルヴィンだ。
「ライル先生。粘王の杖を使っていいですか?」
「マグマスライムとポイズンスライムにするのは禁止ね」
「はい!」
アルヴィンは英雄達とのダンジョン攻略で中々活躍したらしい。
戦闘に自信が付いたようだ。
父親にもらった魔法師の杖と粘王の杖を切り替えて戦うのだろう。
アルヴィンは粘王の杖を握って舞台に上がる。
舞台に上がるとヤイダラール先生に何かを伝え、ヤイダラール先生は頷いている。
「では試合を開始!」
ヤイダラール先生は開始の掛け声をかけると、舞台から降りた。
すると舞台がスライム化し、対戦相手を飲み込む。
身体は完全に飲み込まれ、頭だけ出ている。
ジュワジュワ言いながら、対戦相手の装備から気泡が出ている。
アルヴィンは何かを対戦相手に伝え、対戦相手は降参をした。
▽ ▽ ▽
最終試合はブリギッタ。
「さっきカイゼに伝えたんだけど、この試合が終わったら貴族や騎士団から声が掛かると思うよ」
「え!カイゼは喜んでましたか?」
「ん?」
「カイゼは私とライル商会に入るために頑張ろうって言ってて…」
「あーなるほど」
唾を付けたかった2人はライル商会が第一候補だったみたいだ。
「カイゼにはライル商会に来る?って話した」
「え…」
「あ!ブリギッタも入りたいなら入る?」
「いいんですか?」
「うん。まあ色々話は来るだろうから、よく考えてからでもいいから」
「わかりました」
ブリギッタの顔はキリっとした。
「あ!圧勝じゃなかったら、今の話は無しで」
「わかってます。あんなに鍛えてもらったんです。圧勝します」
ブリギッタはそう言って舞台に上がる。
開始の合図から数秒で対戦相手を倒して帰ってきた。




