453.奇抜な魔杖職人
俺とアルヴィンは訓練を指導しているリリアンさんの元に来た。
「この杖が原因なの?」
「はい」
「使ってみてもいい?」
「気を付けてください!」
リリアンさんは杖を地面に付ける。
するとアルヴィンの時よりも広範囲がスライム化して、全員が体半分を飲み込まれた。
「なるほど。使用者には影響なしね」
リリアンさんはスライムの上を歩く。
「リリアンさん。スライムを操作できるみたいなんで、俺達を押し上げてスライム化を解除してください」
「スライムを操作?んー。なるほどね。魔力操作と同じね」
リリアンさんはぶつぶつ言いながらスライム化を解いた。
「ライルくん。アルヴィン。これは販売しちゃダメ」
「あーやっぱりそうなりますよね」
「魔力量で範囲、魔力操作で操作。これが販売されたら、戦争だろうが泥棒だろうがし放題よ」
アルヴィンは少し落ち込んでいた。
初めて作った杖が販売禁止はさすがにつらい。
「アルヴィン、あなたのエクストラスキルで作る杖は、この杖と同じような危険なものかもしれない。魔杖を売るのは諦めた方が良いわ」
「そうですよね……。『奇抜な魔杖職人』ですからね…」
アルヴィンはより落ち込んだ。
「でも監督してくれる人がいればいいわ」
「え?」
「ライルくん。ライル商会に入れちゃいなさいよ。ライル商会なら素材もたくさんあるから、売れる杖が見つかるかもしれないし。この杖をちゃんと扱えるようになれば、冒険者としてでも困らないわ」
「俺は大歓迎なんですが…。どう?」
「え?いいんですか?売れるかわからないんですよ?」
アルヴィンは戸惑っていた。
「うーん。売れなくてもいいんだけど、俺は売らないって決めるんじゃなくて、売って良い相手か判断したいな」
「売ってもいい相手?」
「うん。例えば騎士団の役職ある人とか、民に優しい領主だとか。この杖で悪さを絶対にしない人。その判断は俺やアルヴィンだけではできない。多分アルヴィンのお父さんにも難しいと思う。だけどうちにはリリアンさんやヒューズさんがいるし、セフィーナさんもいるし、ラドニーク辺境伯もいる。だから判断ができない時に相談に乗ってくれる人がいる環境が良いかなとは思う。まあこんな強力な杖でアルヴィンがモンスターを倒しまくってるのを見たいってのもある。だからライル商会に入ってほしい」
「…わかりました」
アルヴィンは真剣な表情で俺を見た。
「ライルくん。かっこいい発言の後にごめんね」
「はい?」
「アルヴィンには、ちゃんとお父さんから魔杖に魔力を登録させる方法をちゃんと聞きに行かせてね」
「ん?魔力を登録?」
「杖って使ってると使用者の魔力に馴染んで他の人が使いにくくなるの。魔力を登録することで買ってすぐ他の人が使いにくくできるの」
「え!」
「魔杖を買う場合は店がその作業をしてくれるのよ」
「え?うちの弟子達の杖は?」
「あれは馴染んだのよ。ダンジョンのドロップアイテムなんかもそう。盗まれるのが嫌な人は魔杖店に持って行くわね」
「アルヴィン、知ってた?」
「そういえばそんな作業をしていた気がします」
「うん。すぐに聞きに行こう」
「は、はい」
俺達がアルヴィンの実家に向かおうとすると、リリアンさんが口を開く。
「待ちなさい!2人だけでちゃんと説明できるの?」
「え?できますよ」
「はぁー。ライルくんは色々端折るから!私も付いて行くわ」
そう言って3人でアルヴィンの実家に向かった。
俺とアルヴィンはリリアンさんに付いて行く。
「リリアンさんはアルヴィンの実家に行ったことあるんですか?」
「グリモ魔杖店は修理とか調整でよく行くわ。私の杖はダンジョン産だから買ったことはないんだけどね」
杖を使う魔法使いには有名な商会のようだ。
「アルヴィンは修理とか調整はできるの?」
「出来ます。実家では杖を作れなかったので修理や調整を手伝ってました」
修理や調整が出来るだけで十分すぎる。
冒険者達がヤルクから魔杖店がある店まで行かなくて済むのはデカい。
歩いて行くと雰囲気のある建物に到着した。
「ここがお店よ。グリモ准男爵は店内にいるかしら?」
「はい。この時間ならいると思います」
「そう。なら入りましょうか」
俺達は店の中に入る。
店の中は物凄い量の杖が飾られていた。
「すごいな」
『鑑定』をしてみたが、同じような効果の物が多い。
量産型の杖なのだろうか。
アルヴィンが店の奥に入っていく。
俺達は付いて行く。
すると奥には痩せ細ったおじさんがいた。
俺達に気付き、驚いている。
「アルヴィン、それとリリアン様。あとそちらの少年はライル様かな?」
「お久し振りです。グリモ准男爵」
リリアンさんが頭を軽く下げる。
「はは。やめてください。ここでは店主とお客様ですから。それで何かご用事ですか?倅が何かしましたか?」
「いえ。ちょっと座って話をさせていただけますか?」
「なるほど。簡単に話せる話じゃないんですね。ではこちらへどうぞ」
俺達はさらに奥の部屋に入った。
「それでお話とは」
グリモ准男爵の問いかけられると、リリアンさんは俺を見た。
「ライル商会のライルです」
「お噂は聞いております。ラウノ・グリモです。一応准男爵という爵位を授かってます」
グリモ准男爵はとても腰が低い。
「実はアルヴィンをうちの商会で働かせたくて、許可をいただきたいのと魔杖に魔力を登録させる方法をアルヴィンに教えてもらいたくて」
「倅をライル商会にですか?それに魔力登録ということは…。アルヴィン、杖を作れたのか!」
「うん」
グリモ准男爵は嬉しそうにしていたが、グリモの反応を見て何かを察したみたいだ。
「倅の作る魔杖に問題が?」
「そう。アルヴィン。見せてあげて」
「はい。父さん、これ」
アルヴィンは杖をグリモ准男爵に渡す。
「ほー。なるほど……。これは…」
グリモ准男爵は杖の性能がわかるみたいだ。
「周囲をスライム化。これだけでもすごいがスライム化したものにも特性を付けられるみたいですね。中心の核はスライムの核だな?他の3つは?」
「マグマスライムとポイズンスライムとサンドスライムの核です」
「はは。これは凄い」
グリモ准男爵は嬉しそうにしていた。
息子が作った初めての杖を愛おしそうに見ていた。
「お話の内容はわかりました。アルヴィンをよろしくお願いします」
グリモ准男爵は頭を下げた。
「いいんですか?」
「はい。うちではこの杖を管理することも売ることも難しいです。英雄が4人も所属しているライル商会が一番安全だと感じました」
「なるほど」
「ありがとう。父さん」
アルヴィンも頭を下げた。
「ライル商会さんに迷惑をかけないように、数日で教えられることはすべて教えよう」
「うん。わかった」
何の障害も無くスムーズに話が進んだ。
ここまでスムーズだと、なんか申し訳なくなってきた。
「グリモ准男爵」
「はい。なんでしょう」
「杖の素材ってどんなものを使ってます?」
「ん?主にトレントの木材です」
「うちから安く提供しましょうか?エルダートレントの木材も少量ならお売りできます」
「本当ですか?」
「正直、アルヴィンと定期的に連絡を取りたいと思いますし、アルヴィンも魔杖作りで相談する相手が必要だと思うんです。ライル商会にはリリアンさんのような魔法の達人はいますが、魔杖に詳しい人がいないのでアルヴィンの相談を受けてくれる代わりに安く提供するというのはどうですか?」
「ぜひお願いしたい」
俺は細かいことをグリモ准男爵と話しあった。
話し合いは無事に終わった。
グリモ魔杖専門店に木材を卸すのはアルヴィン。
その他の素材も求められれば安く売ることに。
そして今回の杖の魔力登録はグリモ准男爵にお願いした。
アルヴィンには明日からやってもらいたいこともあったので、グリモ准男爵からの魔杖作りを改めて教わるのも延期してもらった。
アルヴィンには明日から英雄達とダンジョンに潜ってもらう。




