450.ロックシトラスと茶葉
翌日、ブライズさんの提案でロックシトラスの使い方を考えることになった。
俺とブライズさんとアヤノで工場エリアに籠ることに。
皮が岩のように硬い柑橘類というのはわかっている。
サオラル共和国のハラジの飲食店では、水にロックシトラスを絞った飲み物が提供された。
スッキリするが、ただの水だ。
「これを切るのが大変なんだよね…。だからあんまり試作品を作る気が起きなくて」
「そうだね」
ブライズさんは大きな斧のような物を取り出した。
ブライズさんはロックシトラスを思い切り切断した。
実は半分に割れた。
硬い皮が分厚くて実が少ない。
「初めて切ったときも実が少ないからどうしようか悩んじゃったんだよね」
「実が少ないから、あの味の薄さだったのか」
ハラジの飲食店の水を思い出した。
アヤノはロックシトラスを舐めた。
「うん?これって何だろう…」
目を瞑りながら思い出そうとしてる。
俺も舐めてみる。
柑橘系なのは間違いない。
「知ってる気がするんだよな」
俺がそういうと、アヤノは小さい声でつぶやく。
「はい。たぶんゆずな気がします」
「あーそうかも」
ブライズさんが変に思わないように考慮してくれたんだろう。
「ゆずなら和食ですね。スイーツにも使えるかな?」
アヤノはそう言いながらスプーンで実を皿に移した。
「ブライズさん。多分これ、レモンとロックシトラスは使い方が似てます」
「そうなのか。違いは?」
「うーん。好みですかね…。ロックシトラスのほうが香りが強くて酸味が弱い気がします」
「そうか。香りか」
ブライズさんも使い方を悩んでいるようだ。
「多分こういう使い方が出来ます」
アヤノはロックシトラスの皮をおろし器で削っていた。
「あー香りが凄い」
「焼き魚とかにかけたりすると香りが立って特別感が出ます」
「ほーそういう使い方か」
「使って慣れないと難しいかもです。ブライズさんならすぐだと思いますよ」
「そうか。アヤノちゃんが言うなら、少し使ってみようかな」
同じ『料理』を取得している3人だが、元々の素質というものはやっぱりあるなと感じた。
ブライズさんとアヤノはやっぱりすごい。
そんなことを思っていたら、アヤノが俺を見て声をあげた。
「あ!忘れてた」
「ん?」
「茶葉です!ヤルクとサリルハムで作ってもらってた種類を加工しました」
「え?もしかして!」
「はい!紅茶2種類と緑茶1種類できました」
「おー!」
「サリルハム産も緑茶にしたのですが、あまり向いてなかったので」
「てか緑茶?」
「はい!」
まさかの朗報で俺のテンションが上がった。
「抹茶もいけるってこと?」
「抹茶は茶葉を積む前に何かをしないといけなかったんで、まだできてないです」
「そっか。まあ緑茶はデカい!」
俺は久々に緑茶が飲みたくなった。
「もう少しロックシトラスを試した後に美味しいケーキと一緒に出しますね」
「お!楽しみだ」
俺達はロックシトラスの試作を続けた。
▽ ▽ ▽
昼過ぎ。
丁度甘い物が欲しい時間だ。
ロックシトラスの試作会では、スイーツで使うこととジャムにすることが決まった。
お酒もできるかもしれないので試してみることに。
レモン果汁やロックシトラスの果汁ももしかしたら売れるかもという話も出たが、今は一旦保留となった。
工場エリアにはセフィーナさんがやって来ていた。
そして珍しく陶芸のクトムもいた。
クトムは職人気質で、ほとんど作業場にいて外に出ない。
付き合いが悪いわけではないが、こういう場にいるのは珍しかった。
「クトムさんに急須と湯呑みを作ってもらったんです」
そう言ってアヤノはお茶を淹れ始めた。
「紅茶とは違う飲み物なんですよね?」
「はい。飲んだらわかると思いますが、渋みとか旨みを感じると思いますよ」
「渋みですか。コーヒーのような楽しみ方?」
「そうですね」
セフィーナさんはコーヒーに砂糖を結構入れる。
緑茶を楽しめるだろうか。
目の前の湯呑みに緑茶が入れられた。
湯呑みも急須も黒っぽくて凄いいい。
そしてアンコが入った和菓子も目の前に置かれた。
「モナカを作りました。まだ練習中ですが、いい感じに作れたと思います」
「モナカを作ったの?」
「はい。頑張りましたよ」
アヤノはドヤ顔だ。
「緑茶の渋みとモナカの甘さが合うと思いますよ」
「モナカですか。聞いたことないですね」
「僕もです」
セフィーナさんとクトムはモナカをかじる。
「ん?アンコですね。皮がぱりぱりでいいです」
「美味しいです!」
2人の反応はいい。
そして緑茶を飲む2人。
「はー。僕はかなり好きです」
「なるほど。渋みとはこういうことですね。コーヒーの苦味とはまた違いますね」
2人は感想を述べながら食べ続けた。
「クトムさんが作った急須と湯呑みも緑茶が流行ればいっぱい売れると思います」
「わかりました。もう少し形とかを考えてみます」
クトムは嬉しそうに答えた。
「次は紅茶です。ヤルク産とサリルハム産の2種類。ティーポットとティーカップもクトムさんに作ってもらいました」
「がんばりました。アヤノさんに急須とティーポットの違いを何度も教えてもらっていい物が出来たと思います」
正直、俺も急須とティーポットの違いなんか分からない。
クトムは本当に頑張ってくれた。
アヤノは白を基調としてティーセットで紅茶を淹れ始めた。
「ヤルク産とサリルハム産の味は違うのか?」
「かなり違うと思います。サリルハム産は少しサオラル共和国の紅茶のサオラルードに似ていました」
「そうなんだ」
こういう細かい専門的なことはお手上げだ。
俺達の前に2つずつティーカップが置かれ、紅茶が注がれる。
「まずはこっちかな」
俺は1つ目を飲む。
2人も俺に続いて飲み始める。
「ん?軽い感じがするけどおいしいな。香りも花の香りみたいなのを感じる」
「渋みが少ないです。本当にいい香りですね」
「そうですね。さっきの緑茶と全く違うので、サリルハム産ですね!」
セフィーナさんはどや顔で答えた。
「あっ。ヤルク産です」
アヤノは気まずそうに答えた。
「え!同じ茶葉でこんなにも変わるんですか!?」
「はい。もう1つのサリルハム産ともまた違いますんで」
アヤノに言われるがまま、俺達はもう1つの紅茶を飲む。
「うっ。渋みが凄い強いですね」
セフィーナさんは少し苦手みたいだ。
「香りは甘いですね。面白い」
クトムは意外と好きそうな反応だった。
「これはミルクティーにして呑むのをお勧めします」
そういうと牛乳が入った小さな陶器を持ってきた。
クトムはそれを見て、使い方を知ったみたいだ。
「ミルクティーか。いいな」
俺は牛乳を入れて飲んでみる。
「いい。美味いね」
「ですよね。これが合うかはわからないですが、一緒に食べてください」
アヤノはさっきの試作品作りで作ったロックシトラスのパウンドケーキを出した。
「このケーキも少しロックシトラスの苦味を感じますが美味しいですよ」
俺達はパウンドケーキを食べながら紅茶を飲んで、ゆったりとした時間を過ごした。




