成長
僕も武器を持つ。鉄製の物よりも想像剣の方が自由が利く。パールや父さんのアドバイスと、自分の経験を基にして刀身を作る。
刀身の部分に渦巻く風。威力を上げれば全てを斬り裂く刃となるだろう。だが加減さえ間違えなければ、精々相手を転ばせる程度。必要なのは、怪我ではなくてみんなの進化。
「では、始めぇい」
振り下ろされた太い腕。同時にキハのペイント弾が飛来。連射もできるとは聞いてないぞ。
しかし風の刃は便利な物。風圧を強めれば防御壁の役割も果たす。動かずに攻撃を凌いでいると僕の左右からイオンさんとアグルさんが近付く。二人とも左下へ剣を構えて右への斬り上げの用意。前回よりも速さを増した動作に少し驚くが、キハの銃弾をしゃがんで躱すと近付く二人を風圧で転ばせた。
「風刃剣が厄介だ。俺が抑えるから次は四人で一斉攻撃を頼む」
風刃剣ね。なら水の刃は水刃剣。炎ならば炎刃剣かな。今回の名前は気に入った。
などと考えている間に転んでいた二人は立ち上がる。キハの指示通りにもう一度左右からのコンビネーションアタック。しかし前方には誰もいない。弾の軌道に注意を払いながら、僕は待避のために前へ踏み出す。
「甘いぞレン。私の成長を感じてくれ」
キハの弾と左右の攻撃に意識を全て注いでいた。右斜め前方の死角からパールが突きを繰り出す。恐らく後ろからはセイラちゃんの攻撃が来るだろう。
僕は風刃剣を後ろへ向ける。そして風圧を利用してパールに向けて跳ぶ。目的は体当たりではないので、彼女の体を掠めて着地。
後ろの四人は後回し。先にキハを倒す。僕はもう一度風圧を利用して突進し、一気に間合いを詰める。
「いや速すぎて当たりやしないって」
接近寸前に放たれた弾丸。最後の抵抗をも難なく回避した僕。風圧を強めキハのペイント銃を斬り落とす。そして彼の右のこめかみに風刃剣を当てた。一人目撃破。残り四人。
「レンが怪我するのも嫌だけどこのまま負けるのも嫌だ。だからみんな。頑張れー!」
背中から聞こえるキハの声。僕もみんなも思ってることは同じ。お互いに怪我をさせずに勝つ。だとすれば戦術も読めるハズ。
一人倒して一息吐いてもいない。次の手を思考しようとしていた時。
「レンさん。リベンジさせてもらいます」
先ほど同様の構えで突進してくる影。勢いを強めた風に舞い上がった砂に紛れて、右上へと斬り上げるアグルさん。
既の所で反応速度に体が追い付く。僕の右腕を彼女の剣が掠める。振り上げた反動を利用して、勢い良く振り下ろされる剣。
「怪我しないようにとか考えてないよね?」
後ろへ飛び退きつつ僕は問い掛ける。だが返事はなく、代わりに繰り出される横薙ぎ。
さっきのキハも、目の前のアグルさんも、後ろから迫る三人も。前回の模擬戦と同じ人物とは思えない速さ。繰り出される攻撃も、僕への対処を考えた連携も。
「フレアさんとの模擬戦。ただ闇雲に戦っていた訳ではないわ。進化し続けるレンさんの成長速度を超え、私が全員を守る」
アグルさんの言葉に、僕は何故か父さんの教えを思い出す。




