第26話 ” 運命の綾織りなす乙女達”
ギルド地下の螺旋階段を下るにつれ、ひんやりと澄んだ静寂が私達を包む。
ラティさんの魔導ランプを頼りに、許可された者しか入れない重要物品保管庫へ。
「価値の高い押収品だけがここに移されたんです。ナオさん達が水葉ブランドで着飾る姿を一番に見られるなんて、役得ですよ」
振り返るラティさんのプラチナゴールドの尻尾が、嬉しそうに揺れている。
魔導鍵で重厚な鉄扉が開かれると、神聖な空気が流れ出し、無数の魔石灯が点灯した。
光の中に浮かび上がった光景に、私達は息を呑んだ。
「「「わぁ……」」」
部屋の中央。黒いベルベットの台座に、3着のドレスがトルソーに着せられ待っていた。
流れる水のようにしめやかで、葉脈のように繊細な魔術回路を織り込んだ芸術の極致『水葉』。
「ギルマスがナオさん達にはこれだって、事前に選んでいたんですよ」
ラティさんに促され、私達は吸い寄せられるように歩み寄った。
ルナリスが、震える指先を伸ばす。台座に添えられた鑑定書には『月下美人の聖衣』の銘。
光を透かす『雲竜の糸』が幾重にも重ねられ、動くたびにオーロラのような輝きを放つ。
肩から胸元はミスリル銀の繊細なレースで守られ、ふわりと広がるスカートの裾には星屑のように真珠とサファイアが散りばめられている。
さらに層の間に極薄の希少素材『星涙石』のアーマーが挟み込まれ、優雅さを損なわずに刃を弾く機能性も完璧。
「……わたくし……などが、このような清らかな、衣を」
「ううん、違うよルナリス」
躊躇う彼女の背中を、私はそっと押した。
「誰よりも深い愛で私達を包んでくれるルナリスにピッタリだよ。貴女が流した涙も、耐え抜いた時間も、全部輝きに変えて、これからは貴女自身を輝かせるの」
ルナリスは潤んだ瞳で私を見つめ、そっと袖を通す。
深淵の闇すら浄化しそうな『銀の姫』にこそふさわしい、清楚で可憐なドレスアーマー。
虹色に輝く銀の髪と青銀の瞳に合わさって、神秘的な輝きを放っていた。
反対側には、深い森の静寂と知的な輝きを宿した一着。
紗雪のために選ばれた『翠蘭の賢者』。
「……美しい、ですね」
紗雪が感嘆の吐息を漏らす。
濃いエメラルドグリーンの生地を基調とし、コルセット部分はアンティークゴールドの金属骨格が華奢なラインを包み込む。
古代魔導人形の内部機構を意匠に昇華したみたいな機能美。
スカートは前が短く後ろが長いスタイルで、随所に防御結界を自動展開する『魔導硝子』のアーマーパーツが隠されてる。
胸元の大粒のエメラルドも、マナを貯蓄できる加工が施されているみたい。
「古代魔導王国の技術と現代の美学の融合……まさに、魔導人形である私のためにあるようなドレスです」
袖を通した紗雪の姿は、知性と癒しを象徴するかのよう。
「似合ってるよ、紗雪。すごく……大人っぽくて、綺麗」
「ふふふ。ナオに見惚れてもらえるなら、本望ね」
最後は私。
中央の台座に飾られた、重厚で攻撃的、それでいて柔らかな美しさを持つ『夜明けの黒百合』。
光を吸い込むような漆黒の生地にはダイヤモンドダストが織り込まれ、星空のように瞬く。
アシンメトリーなデザインで、左肩には黒竜の鱗のマント、『運命の縦糸』を思わせる金の鎖と刺繍が飾られている。
大胆なスリットの入ったスカートは裏地が真紅で、歩むたびに表情を変える。
その攻撃的な雰囲気を和らげるように、『闇色の琥珀』を削り出して作られた艶やかな黒百合の花弁が咲き誇っていた。
半透明のシフォンリボンが優美に絡みつき、夜の闇を統べる妖艶な女王様みたい。
「……これが、私の」
袖を通すと、ドレスが肌に吸い付くように馴染み、完璧なフィット感に歓喜の鳥肌が立つ。
あぁ……幸せすぎる〜。
今なら私、世界で一番可愛いって胸を張って言える!
「ひめしゃまぁ……きれぃ」
はっと、声の方を勢いよく振り返る。
お着換えの間、ラティさんに用意してもらったふかふかクッションを、並べた椅子に乗せた簡易ベッドでまだ眠りについていたはずのアメリアス。
記憶が…!?
うっすらと開いた薄紫のアメジストの瞳に、魔導灯の灯りを輝かせてきらきら、きらきらと、写り込む私たち3人の鮮やかな姿。漆黒と深紅、純白、翠のグラデーション。
それぞれの色が互いを引き立てあって、調和してる。
ほにゃっと笑ったアメリアスはけれど、またそっと瞳を閉じて、すやすや、すやすや、眠りに落ちる。
「んぅ……きれぃ……。おっきいけーき、いっちょ……たべゆ」
むにゃむにゃと、また夢の中へと落ちていくアメリアス。
その無防備な寝顔が、私達の幸せの訪れの何よりの証。
かつて、才能がわからなくて泣いていた私。
優しい追放……でも、居場所がない事には変わらなくって、一人ぼっちだった私。
それが今はこんなにも美しいドレスを纏い、愛おしい、深く深く繋がり合った仲間に……家族って呼んでも良いのかな……囲まれている。
「ふふ、壮観ですね」
ラティさんが、うっとりとした溜息をもらした。
「第13番外縁区……いえ、中央大陸広しと言えど、これほど美しいパーティはなかなかいませんよ。『奇跡の黒姫』……その名に恥じない、最高の姿です。ナオちゃん、本当に……おめでとう」
優しい笑顔に見つめられ。
うん、そうよね。
一人じゃなかったんだよね。
私を見守って、助けてくれた人もいた。
いろんな人と運命を交わらせて、私はここまで来たのよ。
最高に素敵な運命を織り成して、最愛の人達と、支えてくれる人たちと、幸せいっぱいに!
私は、ガーターポーチからすっかり手になじんだ巨大な片刃の、美麗な大剣を取り出し、魔導灯の灯りに高く掲げる。
私はもう才能の分からない、すぐに追放されちゃう可哀そうな子じゃない。
運命を織り成して、悲運は焼き尽くして、最高のハッピーエンドを掴み取る『復讐の百合姫』♪
「行こう、みんな」
私は、鏡の中の自分に向かって、そして大切な新しい『家族』に向かって、最高の笑顔を向けたの。
「このドレスに負けないくらい素敵な冒険が、私達を待っているはずだから!」
地下の宝物庫に、愛し、支え合う。運命交わらせし乙女達の銀鈴のような笑い声が響き渡る。
それは新しい伝説の、世界を幸せへと導く、運命の綾の音。




