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第22話 ”私の決意、私の強欲”

 アメリアス。

 狂気と妄執の古代魔導王国の王、多分その亡霊……そんな奴に造られた、人造の生命。

 ずっとずっと、冥府のダンジョンの中で育った少女。


 モンスターと断じて討滅する。

 それが本当に正しいの?


 ルナリスと紗雪の無事が、運命の糸のつながりから伝わってくる。

 2人が無事。害されたとはいえ、その事実が、少しだけ私の心に贅沢を許した。

 甘い、甘い、気持ちを差し込んだ。


「なぜ……なんで私達を殺そうとするの!」


 まだ膝辺りまでしか修復しきれていない右脚の激痛を堪えて、漆黒の大剣を支えに、私は左脚一本でなんとか立ち上がった。黒と金の焔は、私の怒り、そしてルナリスが受けた致命傷への復讐の念に呼応し、紗雪と今は傍にいるルナリスを護るように包み込み、激しく燃え盛っている。


「王しゃまの言いつけだからだよ? ナオ姫しゃまの運命を全部、もぐもぐしたら、ずっとずっと、ナオ姫しゃまとアメリアスは一緒になれるんだって!」


 くるりくるり、その場でくるくる回る少女。


「そしたら、魔導王国も復活するの! アメリアスがもぐもぐして”写し取った”たくさんの魔導王国の欠片と。ナオ姫しゃまの中にある、魔導王国の運命の縦糸が一緒になって、復活しゅるの」


 廻る身体に合わせて、薄紫の髪がふわりと広がる。

 ゴシックロリータドレスの裾がふわりと広がる。


「そしたらもっともっと、ずっとずっと、ナオ姫しゃまと、一緒にいられるの」


 ぴょん、ぴょん。回転しながらスキップするアメリアス。

 満面の笑顔で、何一つ疑いのない澄んだ眼差しで、夜に見た楽しい夢を語るように。


 『ナオ。今なら撃てるよ』

 『援護……いたします』


 黒と黄金の焔の向こうからじっと機をうかがってくれている2人。

 でも、甘いってわかっているけれど、ダメなの。

 一度冷静になってしまった私には、たった1日。でも一緒のベッドで眠って、お買い物をして、ちょっとの間生やしてくれた可愛いお耳と尻尾をモフモフして。クレープを……一緒に分け合って。

 この子をどうしても……憎み切れない。


 だって。ねえ? だって、この子は教えてもらえてない。ただ、悪い大人に操られてた。そうでしょう!?


 うん。

 うん、私らしいのは、何?

 どうするのが良いの?


 運命と復讐の女神様の使徒。何度も追放? された私。

 この子が囚われているなら。

 その運命をこそ、織り直してあげるのが私じゃないの!?



 私は今、初めて。本当に私の意思でこの才能を使う。

 “運命を織る才能”


 ルナリスとの時は、無意識だった。自然とできちゃった。

 でも、使い方はきっともう、分かる。

 わからないといけないんだ!


 あの時の感覚を思い出す。愛おしい銀の姫と私の運命を交わらせたあの時。


 可哀そうだから助ける? ううん、違う。この子は私に懐いて、好きになってくれたの。“お姉ちゃん”って……は、言ってないかもだけど、慕ってくれたの。なら、この子はもう私の家族よ。

 悪い王様なんかの自由にさせない。この子の運命も、未来も、全部私と一緒になるの!


「私の才能、運命を織る才能。どうか私の願いに応えて。可愛い可愛いアメリアス。妄執の王国に囚われた可哀そうな女の子。この子を自由に、私の”妹”に迎える運命を。どうか紡いで、どうか織りなして。私を満たす運命の縦糸とどうか交じり合って!」



 感じる。とてもともたくさんの、なが~い、なが~い、光の糸。

 見える。私の金の瞳が、縦に無限に続く運命の縦糸を映し出す。


 切れて、よじれて、迷走する縦糸も無数にある。

 でも、そんな迷子の縦糸もたくさんの運命の糸が寄り集まって、大きな流れに導いてあげている。


 ひときわ強い輝きを放って、中心を成すたくさんの3色の縦糸。

 漆黒、虹色に輝く銀、灰銀色。きっとこれが私たち3人の運命の縦糸達。

 しっかりと縒り合わされて、絶対に離れないって主張している無数の縦糸達。必ず3本で1本の縦糸を織りなして、たくさんたくさん並ぶ、3色で1本の縦糸。


 膨大な、無限の縦糸。うん、これがきっと私に受け継がれた古代魔導王国の運命。その文化、文明、暮していた人達の運命を、私が受け継いでいる。それが今、はっきりと分かった。

 こんなにも無数の運命がつながって、私を支えてくれている。

 確かに、無限ともいえる運命の縦糸が私の中に息づいている。


「ナオ姫しゃま、お目目、きれい~。金色に光って、きらきら、キラキラ♪」


 くるくる回るのをやめて、両手を”ぐー”にして顎の下に添える、わくわくした表情で私を見つめるアメリアス。

 彼女の薄紫の瞳に映った私の目は確かに、黄金の輝きを強く放っている。


 今の私の瞳には、見える。


「ひどい……そんなに無茶苦茶に……」


 無茶苦茶に絡まった、毛玉みたい。

 無数の切れた運命の糸が、色も無茶苦茶。ぐちゃぐちゃの一つの塊になってる。

 縦糸も横糸もない、滅茶苦茶な糸の塊。雁字搦めに結び合わされて、どうやって解けばいいのかもわからない。


 なにより、この子自身の運命の縦糸はどこ?


 毛玉の中、一際どす黒い糸が、うぞる、うぞる。尺取り虫のように毛玉の周りを這いずりまわる。

 呼応するように、


「うん、王様! わかった」


 わくわくと、声に出して私の瞳に楽し気に魅入っていたアメリアスが急に動き出す。


 古代魔導王国最後の王の亡霊。あのどす黒いのが奴なのね……。


 竜燐に覆われ、鉤爪の生えた手を振りかざし、私を切りさこうと襲い掛かる。


 辛うじて修復の間に合った右脚に力を込め、今度は自壊しないよう加減しつつ大剣の腹で鉤爪の乱打を受ける。


 けれど、やっぱりまともに戦ったことが無い私ではすぐに限界が来ちゃう。いっぱいいっぱい、いろいろな武器の訓練は真面目にしてきたけれど、所詮は実践の伴わない訓練だけ。

 肩、腕、お腹。次々抉られ、血みどろになって行く。

 だんだん目もかすんできて……。


「いただきます♪」


 あぁ。2本の真っ黒な触手が伸びあがる。先端の大きな球がぱっくりと割れて。小柄な私なんてきっと一口で食べられちゃう。

 運命の糸を見つめるため、輝きを秘めたままの黄金の瞳が捉えるアメリアスの運命の糸の塊。

 あの尺取虫みたいな黒い糸が、興奮するように激しく動いてる。


 ズドンッ。

 おなかに響く低音。


 澄んだ鈴の音のような歌声が、私の濁りかけていた意識を洗う。


 右上半身が吹き飛んだ、紫の髪の少女。2本の触手は付け根から抉り飛ばされてる。

 紗雪が放った魔導銃、対物狙撃銃の一撃。


 13の銀剣が、私を守護するように周りを舞い踊り、取り囲む。


「ナオ、もう私達も限界よ。貴女がこれ以上傷つくのを黙って見てなんていられないの」

「そう……です。以前、申しました……通り。これ以上、ナオ……様が傷つかれる事を、みすごせま……せん」


 2人を護る黒と金の焔を抜け、姿を露わにした、銀の姫と、灰銀色の髪の少女人形。

 式典から着たままの白いドレスと、エメラルドグリーンのドレスが朽ちかけたダンスホールに、今ひと時の華を添える。


「ルナ姫しゃまと、さゆ姫しゃまも、あそんでくれるの?」


 身体がえぐり飛ばされていたはずのアメリアス。身体はいつの間にか元通り綺麗な、ほっそりとした少女の姿を取り戻している。あたりに飛び散る血潮だけが、彼女が受けた損傷が現実であったことを物語る。


「ナオ、恨んでくれても構わない。でも、私達にだって優先順位はあるの。貴女を護るためなら……」

「わたくし……達が……恨まれても構いま、せん」


 13の銀剣が一斉に動き出す。3次元的で複雑な連携を見せるその姿は、まさに熟達の騎士達が阿吽の呼吸で敵を追い詰める姿。

 細かな鉤爪の応戦を封殺し。突如にょきりと生えた太い竜の尻尾の横薙ぎを3本が束になって受け流す。

 背中が割れ、巨大な蝙蝠のような皮膜を張った翼が生える。大きく空気を孕むようにたわんだところに、鳴り響く重低音。浮かび上がりかけた少女が床へと叩き落される。千切れ飛んだ翼は、黒い靄……まるでダンジョンのモンスターが消滅するように消えてしまう。


「ぅぅ……」


 全ての出掛かりを潰された薄紫の髪の少女が、低く唸りを上げる。竜の角に、稲妻が蓄積され始める。

 ちりちりと、空気を焦がす独特の臭気が生まれる。

 嫌な予感がして、身長よりも大きな大剣を床に突き立て、後ろに隠れる私。


 目を焼く閃光。自分自身に特大の雷を落とし周囲に被害をもたらす自爆。

 ルナリスの歌がかき消され、空飛ぶ銀の剣は稲妻に打たれ、四方八方へと吹き飛ばされる。

 黒こげの身体が少しづつ再生していくアメリアス。


 ふと、違和感が。

 彼女が抱える運命の糸玉が緩み、ほつけている。おどろおどろしい、混沌とした色の毛玉の奥に何か……。


 傷が再生していくにつれて、毛玉もまたしっかりと絡み合い、中心に見え隠れしていた何かも隠されてしまう。

 もしかして……。


「アメリアス、痛いかもしれないけれど。ごめんね……!」


 覚悟を決める。大きく息を吸い込み、地に突き刺した片刃の大剣を肩に担ぐ。短剣のように軽い、手足のように軽々と操れるそれを。


 打ち合う。

 まだ再生途中、先ほどまでの、私では目で追いかける事も難しかった速度は発揮されず。

 莫大な質量と、威力に、腕だけでは不安を覚えたのか。野太い触手を何本も背中から生やし、腕に、脚に巻き付け、力の足しにして鉤爪で打ち合う薄紫の髪の少女。


 力と破壊力同士の比べあいなら、負けない!

 昔基礎だけは習って、とことん、毎晩一人手が擦り剝けて血まみれになっても振り続けた剣の型を思い出す。

 そんな才能は眠っていなかったけれど、そんなの関係ない。

 必死でもがいた日々を思い出しながら、ひたすらに打ち合う。


 深淵の古竜討滅で上がった位階、そのほとんどすべてが振り分けられたこの力でもって、破壊の嵐を小柄な少女に叩きつける。

 はたから見たらひどい情景かもしれない。なんてふと思うけれど、目の前の少女はもう全身を触手で呑み込んだ異形と化している。辛うじてかわいいお顔と、つつましやかな胸元が見えるだけ。後はもう、極太の触手の塊。

 だから。躊躇なく叩きつける。


「ナオ姫しゃま……ちゅよい!」


 次々と触手が千切れ飛ぶのに、痛みなど一切感じていないのか、嬉しそうに。

 まるで、うん、まさに彼女にとってはそのもの。ただの遊びとして、はしゃぎながら破壊をぶつけ合う。


「やっぱり」


 毛玉がほころんで行っている。どんどん隙間が大きくなる。

 黒い……あの王様の運命の糸と思われる尺取虫みたいなのが、必死に絡みつき、締め上げ、毛玉状態の運命の糸をとどめようとするけれど。


 ズゴンッ。

 再びの重い銃声。下半身が千切れ飛ぶ。


 蕭々と哀切を讃える歌と共に飛来する13の銀剣が全身を貫く。


「きゃ……ぅっ」


 ようやく動きが止まった彼女。少しづつ再生はしているけれど、復帰には時間がかかる。

 そして何より、ついに運命の糸の毛玉がゆるゆるになり、中心が見えた!


 やっぱり、髪や瞳と同じ色。薄紫の綺麗な、けれど今にも消えてなくなってしまいそうなほどに頼りない、か細い糸。

 きっとあれが、この子の運命の糸。

 円環を成すように、終わりと始まりがつながってしまっている。過去にも、未来にも、繋がっていない不思議な、薄紫の運命の糸。


 王様の糸は、腐った内臓の煮込みみたいにドロドロヌタヌタしてて、見ているだけで吐き気がこみ上げてくる。いろんなものがぐちゃみどろに混ざったみたい。中心にあるアメリアスの糸は……今にも切れそうなほど細くて、透き通っていて。触れたら壊れてしまいそうなほど、繊細で優しい薄紫色。何物にも染まっていない、この子色の糸。


 大剣を左手に持ち替え、右手を伸ばす。物理的にそこにあるものではないけれど、想いよ届けと、ありったけの気持ちを乗せて、手を伸ばす。

 見えてはいなくても。心を、縒り合された運命の糸を通じて、感じ取ってくれたルナリスと紗雪が再生の阻害に集中して援護をしてくれる。


 もう少し。

 もうちょっとで届く!!


 その時。


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