第二話 俺!誕生!
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ウィル視点
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(頼む! もう一度……もう一度だけ、今のを見せてくれッ……!)
俺ことウィルと呼ばれている赤ん坊は、視界の端で起きた現象に、釘付けになっていた。
部屋の隅、親父らしき男が、棚の上の埃を払おうとした時のことだ。
軽く指を動かし、短く何かを呟いた瞬間、空気が変わった。
ふわり、と。
見えない手に導かれるように、棚の上のコップが宙に浮いたのだ。窓は閉まっている。
風が吹いたわけじゃねえ。
コップは重力に逆らうかのようにブレイブの手元まで滑り込み、吸い込まれるように彼の掌に収まった。
(……魔法か。物理法則を捻じ曲げる、この世界の武器……!)
ヤクザとして頂点に上り詰めるには、まずそのシマの武器を知るのが鉄則だ。
前世じゃ、ハジキの射程も知らねえような素人から、冷たい東京湾に沈んでいった。
一刻も早く、今の現象を分析し、俺のモノにする必要がある。
なのに、この体は、俺の意志を一つも反映しやがらねぇ。
オーギャ! オギャギャギャ!!(おい、見てんじゃねえ!
もう一回だ、もう一回今のをやってみせろと言ってんだよ!)
俺は必死に腕を伸ばし、ブレイブの手元を指し示そうとした。
だが、赤ん坊の腕は短く、視界はまだ不安定だ。必死の要求は、ただのマヌケな産声として部屋に響き渡る。
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父親視点
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『おや、ウィル。どうしたんだい? そんなに大きな声を出して』
父親は、掃除の手を止めてベッドの上の息子を見下ろした。
生後間もないというのに、ウィルの瞳は驚くほどはっきりしている。
貧乏貴族とはいえ、かつては権勢を誇った武門の家系だ。
この子の激しい気性は、先祖返りの類かもしれない。
ウィルは小さな手足をバタつかせ、俺の顔と、先ほど動かしたコップの間を必死に往復して見ている。
『ははは、そうか。
魔法をみたいのかい? 好奇心旺盛なのはいいことだ』
俺が軽く指を回し、微風を起こしてウィルの頬を撫でてやると、彼は一瞬「これだ!」と言わんばかりに目を見開いた。
だが、次の瞬間には顔を真っ赤にして、さらに激しく叫び始めた。
『よしよし、元気なのは分かったよ。
お父さんは、お前がいつか立派な魔法使いか剣士になって、この家を興してくれるのを楽しみにしてるからね。』
息子の成長を楽しみに思いながら、俺は愛おしさを込めてその頭を撫でた。
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ウィル視点
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(……違う! それだけじゃねえ!
その力の、もっと根源の部分を見せろってんだよ!)
俺の必死の要求に、親父は満足げな笑みを浮かべて部屋を出ていこうとする。
チッ、これだから堅気の人間は話が通じねえ……!
苛立ちを込めて叫び声を上げたその時、入れ替わりで一人の影が近づいてきた。
俺の母親だ。彼女は慈愛に満ちた、だが俺の意図を1ミリも汲み取っていない、聖母のような微笑みを浮かべていた。
『▼♤▲★▼△……∥」■▷▽?』
(……相変わらず、何を言ってんのかサッパリわからねえ。
……おい、母ちゃん。そんな優しい目で俺を見るな。
俺が欲しいのは慈悲じゃねえ、情報だ。
親父を呼び戻して、さっきの風の練り方を――って、おい!)
母親の手が、俺の小さな脇の下に差し込まれる。
ふわり、と浮遊感。
かつて関東を震え上がらせた【狂狼】が、こともあろうか、女一人に軽々と高い高いをされている。
オギャギャ!?(ち、違う! 俺は空腹じゃねえ! 断じて腹なんか減ってねえんだ! やめろ、よせ、やめてくれぇー!!)
だが、その叫びは母親の耳には元気な産声としてしか届かない。
それどころか、赤ん坊の本能は、俺の鉄の意志とは裏腹に、近づいてくる甘い香りに無意識の期待を抱いてしまった。
(……クソッ、体が……俺の体が、本能に負けようとしてやがる……!
これじゃあ、ただの乳飲み子じゃねえかッ!
やめろ……来るな……!)
しかし、抗いも虚しく、温かな肌の感触と、脳を麻痺させるようなミルクの匂い。
(……情けねえ。死ぬほど情けねえが……。
……っ、ふぅ。……これ、意外と……悪くねえじゃねえか……)
敗北。完敗だ。
伝説のヤクザの知略は、抗いようのないおっぱいの魔力によって、完膚なきまでに沈黙させられるのだった。
(……見てろよ。……あと数ヶ月したら、この体ごと叩き直してやる……!)
(……あれは良かったなぁ)
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ウィル・■■■■■
使用可能魔法 なし
視認した魔法 《微風》
《微風》:風を小さく起こし、ものを浮かせる。
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【ウィルの独り言】
「親父の風、ありゃあシノギにゃ使えねえが、タバコの火を貸す時だけは便利そうだな。」
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