第一話 仁義の対価は異世界で
キィィィィィ――ッ、ドォォォン!!
鼓膜を突き破るような急ブレーキの音と、鈍い衝撃。
視界が上下に激しく揺れ、次に意識が捉えたのは、ひび割れたアスファルトと、生暖かい血の匂いだった。
(あぁ……。これで、終わりか……)
遠くでサイレンの音が近づいてくる。
【狂狼】だなんだと裏社会で恐れられ、何百人も斬り伏せてきたこの俺が、まさかトラック一台に引導を渡されるとは。滑稽すぎて笑いも出ねえ。
(……救えなかったな。
攫われた若い衆も……ケジメも、全部……投げ出しちまうのか……)
『大丈夫ですか! 声、聞こえますか!』
『急いで担架を! バイタル確認…心拍が低下しています!』
救急隊員の叫び声が、遠くに感じる。
薄れていく意識の中、俺は自分の不甲斐なさを噛み締めていた。
死への恐怖なんてねえ。
ただ、やり残した仕事が多すぎる。
〖あはは! 最高だよ君。
最期に思うことが、自分の死への後悔じゃなくて他人の心配だなんてね!〗
突然、騒がしい声をかき消して、軽薄な声が脳内に響いた。
「……誰だ、てめぇ……」
〖そうだなぁ、神様とでも名乗っておこうか。君たち人間にはその方が分かりやすいだろうしね!〗
(走馬灯が流れるってのは聞いたことがあるが……こんな胡散臭い野郎と知り合った覚えはねえぞ)
〖ひどいな。……胡散臭いだなんて心外だなぁ…〗
(! 俺は今、喋ってねえはずだ……)
〖言っただろう、神様だって。心の声を読むなんて、朝飯前の前だよ。
さて、無様に事故死した君をあざ笑いに来た……わけじゃないんだ〗
真っ白な空間に、俺の意識だけが放り出される。
そこには、自分の前髪をいじっている男が立っていた。
〖単刀直入に言おう。異世界転生、興味ないかい?〗
(……ねえな)
〖うんうん、そうだよね、興味……えっ!? 今なんて!?
人類の99%が望んでいる異世界転生に興味がない!?〗
(俺はその1%だ。……で、ここはどこだ。三途の川にしちゃあ、殺風景すぎるだろうが)
〖ここは僕の精神世界だよ。……うーん、困ったな。君ほどの逸材を逃すのは惜しい。
……そうだ! 君が死の間際に気にしていた“攫われた後輩たち”、僕の力で助けてあげてもいいよ?〗
ぴくり、と俺は反応した。
(……てめぇが攫ったのか?)
〖心外だなぁ! たまたま、君の組織の全戦力が集結している場所に、若い衆を運ぶ車が迷い込むように“運命”を操作してあげるだけさ。
……でも、ただ働きはねぇ。チラッチラッ〗
(……てめぇ、俺の“身内”を交渉の道具にしやがったな。
いいぜ、その話……乗ってやる。
だが、もし若い衆に指一本でも触れてみろ。
たとえ神だろうが仏だろうが、地獄の底まで追い詰めてケジメ取らせるからな。
……詳しい話をしろ)
〖やったー! 交渉成立! (^^)vそれじゃあ、まずは僕がいかに美しく、偉大で、素晴らしい存在かという点からじっくり教えようか!〗
それから、体感で約二時間が経過した。
(……おい。おい、てめぇ!!)
〖ん? なんだい? 何か分からないことでもあったかな?〗
(分からないことがあったかな?
じゃねぇよ!
この講釈でわかったことは、てめぇがたまらなく自分のことが大好きなことだけだぞ!)
〖はいはい。
じゃあ特に追加の使命とかもないから、いってらっしゃい!〗
(てめえ……話の9割がどうでもいい自慢だったじゃねぇか!)
ホギャー! ホギャー! ホギャー!
気がつけば、俺は全力で泣いていた。
叫ぼうとしても、声はすべて産声に変換される。
(……ここは、どこだ?)
視界はぼやけ、身体に力が入らねえ。
ただ、鼻を突くのは血の匂いではなく、布きれと乳の匂いだった。
(……はっ! 言わなきゃいけねえセリフが!)
前世で読んだ漫画の知識が、無意識に口をついて出る。
ホギャ、ホギャ、ホッギャ(……知らない、天井だ)
『■△◑▲◁▲▲◑★☆……!』
『■◁△△♢△▲♢†……!?』
枕元で、女2人が必死に何かを叫んでいる。
だが、その言葉は一つも理解できねえ。
どうやら言語までは前世のままとはいかなかったらしい。
『★◁▲▽◁◑……ウィル』
(ウィル……?
この女…使えそうだな。)
最後だけが、妙に鮮明に聞こえた。
(俺の名前か。……ウィル、か。
裏の道を歩んできた俺には、少しばかり綺麗すぎる名前だが……)
俺は、小さく柔らかな自分の拳を見つめた。
二刀の重い刀の感覚はない。
だが、この小さな体には、狂狼の魂が確かに宿っていた。
(……ガキのフリしてりゃ、好き放題できそうだな)
こうして、伝説の極道の第二の人生
いや、赤ん坊生活が幕を開けた。
あれぇ?思ったより進んでないぞー?
さてさて、皆さんこんにちは。まだ転生しかしていません。笑 始まった本編。不穏な自称神 是非お楽しみに。誤字に気づいたら連絡お願いします。星⭐、ハート❤が励みになります!コメントもどしどし送ってください!それではまたヾ(^_^)




