2話
俺とルーディスは平民街にきていた。
粗雑な石造と木造とが入り乱れるこの風景はなかなかどうにも印象的ではないか。
昔も、よくお忍びをして怒られていたな。
…もうずっと昔のことだ。もうあの町に戻ることは無いだろう。
横のルーディスはどうにも余裕を欠いていて俺の方を見つつ、キョロキョロしつつという様だ。不意に急に俺から離れる。
「どうした、ルーディス嬢。俺の格好がおかしいか?」
「いや、むしろよく似合っているなぁ、と。こうして見てみると、威風堂々、みたいな感じでザ・貴族さん、ですね。」
今の俺の服装は、漆黒の丈の長い外套に、やや襟のたった透き通るような白のシャツ、外套と同じ色の、また丈の長いパンツである。いい生地を使った重厚なコートだ、確かに金はかかっていようという代物であるのだが。
「いや、これは一般的な貴族のそれではない。貴族はこんなに装飾が少なく色が渋い服を好まないものだ。」
これのコンセプトは、さしずめ吸血鬼か何かだろう。もちろん自分でこんな服を選んだわけでは無い。所長とリーヴィアが勝手に選んで着せてきたのだ。人が滅多に外出をしないからと言って、面白がっているのだろう。
「そういうものですか。でも、平民からすると立派なお貴族様です。横を歩いていて気後れしてしまいます…。」
「そういうお前も、服装には、十分に貴族の風格があるぞ。歩く姿勢さえ直せば、俺が横にいなくても貴族として応対されるだろう。一度やってみるといい。」
「つまり、お貴族様に成り切るんですね。」
「そうだ。お前も中央研究室にいる以上、多少なりとも貴族と関わることがある。優雅な振る舞いを身につけておくに損はなかろう。よければ今やってみるのはどうか?姿勢は俺が見てやろう。」
貴族の小難しい挨拶などは俺も知らないが、姿勢などについては所長などに厳しく教えられたからな。人に教えることができるほどには習熟しているはずだ。
「やってみたいです!ありがとうございます、シルヴァーヌスさん!」
「ああ、その前に。シルヴァーヌスという名は長いだろう。同僚なのだから、シルヴァと呼んでくれて構わない。」
「ありがとうございます、シルヴァさん。では、私のこともルディと。じゃあ、レクチャーよろしくお願いします!」
「それでは、ルディ。厳しくつけていくので頑張ってついてくるように。」
まさか、世間知らずの貴族まがいである俺が生きているうちに人に所作を教えるとは。愉快なこともあるものだ。
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「少し違う。腰は直線状に、一本の板が入ったようにする。…首を曲げるな、顎を出すな。首が垂直になっておらねば、魔物のような見た目になるぞ」
「魔物!?」
こいつ、予想だにせぬ筋力の劣り様だな。姿勢の維持も叶わないとは…。力が弱い平民とは、如何に生きれば斯様に成るのか。
「…まあ、先程までよりは幾分改善されただろう。そろそろ視察に入るぞ。案内したまえ。実際に魔術を利用している現場に行きたい所だが」
「任されました!…ふう。今日一日中この姿勢ですか?本当に…?」
…震えている。少々面白いため、暫く放置してみることとしよう。
「ま…まずは、ガラス工房に…行ってみますか!リーヴィアさんが…か、開発した『一定量、一定圧で空気を送り続ける魔術』と『液体を綺麗な平面に整える魔術』を、使って、いますよ
…ふう、貴族っていつも…こんな、姿勢でいるん…ですか」
「慣れればそう辛いものではない。さあ、行くぞ。」
リーヴィアや所長が人を弄らずにはいられない所以が、俺にも理解できそうだ。




