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第八十四話『大乱戦』

「むむむ! 千堂殿、苦戦しておられるな。拙者も刀を握って……ぬ!?」


 千堂を見てひとりごちる大鬨。

 その後襟をぐいっと引っ張られ、放り投げられる。


「なにが──」


 訳も分からぬまま宙を舞う大鬨。

 次の瞬間には、


「邪魔!」


「ぐぬおっ!?」


 拳状に編まれた髪に殴りつけられた。


「な……なにが……。ぬ? 是永殿?」


 地面に叩きつけられた大鬨。  

 頭を擦りながら周囲を見渡すと、是永が立っている。  

 彼が大鬨を引っ張り、茉琳の攻撃への盾にしたのだが、悪びれた様子はまったく無い。


──一人いないな……


 戦いの手を一旦止めてこちらを見る犢と玻流夏に視線を返す是永。

 それを茉琳が攻撃するが、大鬨が防ぐ。

 是永はそれを見もせずに犢たちの方へ。

 そこに、ようやく回転から解放された凶幇が降り立つ。


「凶幇。お前がいながらこの有り様はなんだ?」


「返す言葉もないな。しかし、なぜお前が?」


「侵入者だ」


「侵入者? 奴らか……」


「奴らは俺が始末する。お前は囚人どもを静かにさせろ」


「ああ」


 凶幇が言葉を返した、その瞬間、


「おらっ!」


「なん……ぐっ!?」


 凶幇が消え、変わりに茉琳が現れ、髪の拳で殴りつけた。

 纏う光でダメージこそないが、衝撃でよろめく。


「なんだ……?」  


「凶幇殿!?」  


 先程まで茉琳のいた場所には凶幇。

 茉琳と交戦していた大鬨ともども困惑している。

 これはもちろん天平の仕業であり、彼はさらに凶幇と大鬨に向けて攻撃を放つ。


「"明星・射光"──"光芒桔梗"!」  


「──っ!?」


「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 五芒星状の光線が放たれ、凶幇と大鬨に直撃。

 大爆発が起きて砂塵が吹き荒れる。

 

「相変わらず派手な技だ」


 背後から青駕来が声をかける。

 傍らにはハチ。

 二人は追いかけてくる白装束の女たちの処理をしていた。


「だが、どうせ再生する。戦うだけ無駄じゃないか?」


「そりゃ戦わなくて良いならそっちが良いけどな」


「刃向かう気も無くすくらい叩きのめしてやればいいさ。その後でゆっくりと禊の池とやらを探せばいい」


「……随分な自信だな」


 大鬨よりひと足早く凶幇の再生が終わる。

 しかし次の瞬間には再び茉琳と入れ替わる。

 入れ替わった茉琳はまだ再生中の大鬨を殴りつける。

 

「ぐぬおおっ!?」


 天平はその間を駆け抜けて是永と凶幇に接近する。


「調子に乗りすぎだ……」


「うっ!?」


 声と視線に殺傷能力を与え、天平の身体を斬り裂く。

 しかし天平は怯まず走り続ける。


「はしゃぐなガキが」


 是永が斬りかかる。

 天平はあえて避けず剣を受け、そのままカウンターで拳を放つ。


「ぐっ!」


 剣を引き抜き距離を取る是永。

 それと入れ替わるように凶幇が迫る。

 その凶幇の腕が一瞬のうちに斬り落とされる。


「なに?」


「君、禍対の子やろ。俺の弟知ってる? 帶刀夏鳴太いうんやけど」  


 やや離れた位置から声をかけるのは玻流夏。

 彼がいま遠雷居坐で凶幇の腕を斬り落としたようだ。


「俺のこと知ってるのか……?」


「前に会ったんやろ?」


 玻流夏の視線の先には犢。

 千堂と交戦しながら天平に手を振っている。


──アイツ……


 天平は犢を見るが、リアクションは返さず玻流夏に視線を戻す。


「……知ってるもなにも同じ隊だし、もっと言うならクラスメイトだよ」


「そうなん? 仲良うしたってや」


 凶幇と是永に攻撃を繰り出しながら言う玻流夏。

 一方の天平はその言葉に眉間に皺を寄せる。


「どういうつもりでそんなこと言うんだ? 夏鳴太はアンタを殺したがってるぞ」


「そらそやろな」


「いつまでお喋りしているつもりだ?」


 是永が天平に斬りかかる。

 しかし、


「是永ぁ!」


 茉琳が殴りかかる。

 是永は纏っている光のおかげでダメージはないが、鬱陶しそうに顔をしかめる。


「ぬおおおっ!」


 さらにそこへ大鬨が飛んでくる。

 至る所が腐敗し、火傷も負っている。

 青駕来とハチの二人相手では癲恐禍霊といえど、そう簡単にはいかないようだ。


「どいつもこいつも……」


「なんや盛り上がってきたなぁ」


「っ!?」


 突如、首元に衝撃を受ける是永。

 ダメージはないがよろめく。

 茉琳はその隙を見逃さず追撃を仕掛けるが、やはりダメージは与えられない。


「あれ? 首刎ねたつもりやねんけど」


 是永に攻撃をした玻流夏がゆっくりとした足取りで近づいてくる。 

 天平より先に凶幇が迎撃に近づこうとするが、


「ん?」


 別の敵の接近に動きを止める。

 それは蛇。

 長い胴体からさらに無数の蛇が生えた異形かつ巨大な蛇だ。

 英一は天平たちが来てからずっと大地をむち打ち、これを作り出した。


「邪魔だ」    


 声と視線に殺傷能力を付与し蛇を斬り刻む。  

 しかし、いかんせん巨大かつ数が多い。

 凶幇は霊力に殺傷能力を付与し光の槍を生成。

 投擲しようとするが玻流夏に腕ごと斬り落とされる。


「おらっ!」


 その状態の凶幇に英二が蛇とともに突撃。 

 身体を斬り刻まれるが、痛みにも慣れたのか、構わず突っ込む。


「なんだかアッチは楽しそうだな〜」


 天平たちの戦いを少し離れた位置から見ている犢は、千堂を相手にしながら呑気に呟く。


「行きたいなら行けばいい」


「背中からばっさりやられるのは嫌だなぁ」


 千堂の言葉に薄ら笑いで返す犢。


「一緒に行こうか!」


「なんっ!?」


 犢が踏み込むと、千堂の身体が浮き上がり、後方へと移動を始める。

 これは遡蒐の能力の一つである血の反発を利用したもの。

 犢と千堂の体内にある血液を反発させることで犢が千堂に近寄ると千堂の意思に関係なく彼の身体は後退していく。


「待つじゃんよ」 


 どんどん移動していく二人を廻も追う。

 これにより場にいる全員が狭い範囲に密集することになる。


「なにしに来んねん……おっと!」


 それを横目に見ていた玻流夏に天平が殴りかかるが、寸前でかわされる。


「アンタをブチのめして夏鳴太に突き出してやるよ」


「それは困るわ。あんま会いたないねん」


「がああああああああああっ!」


 英二の絶叫が響く。

 全身を細かく斬り刻まれ、肉片となって散らばる。

 その近くには大蛇が全身に光の刃を突き立てられ伏せている。

 凶幇は次に英一を狙う。


「"泥濘れ"」


 そこに紫黒色の光が迫る。

 凶幇はそれを回避。

 青駕来は追撃しようとするが、


「ぐっ!」


 背後から是永に斬りつけられる。

 彼の足元には茉琳とハチが倒れている。 


「凶幇。千堂。代われ。侵入者どもは俺がやる」


 指示を出す是永。

 凶幇と千堂は素直に指示に従い標的を囚人たちに移そうとする。

 だが事はそう簡単には運ばない。


「待ちなよ」


 汚泥が是永を襲う。

 ダメージは与えられないが、足に絡みつき、動きを阻害する。

 

「"娵絡搦・散刃乱"」


 それを茉琳が髪の刃で襲う。

 これもダメージは与えられないが、振り乱される髪の刃が触れるたびに是永の纏う光が弱まっていく。


「鬱陶しい」


 強引に抜け出す是永。

 その背後から血の砲弾が襲う。


「っ!?」


 吹き飛ぶ是永。


「ちぃ!」


 千堂は再び標的を犢に移す。

 しかし、それよりも速く、


「うっ!?」


 凶幇が視線を送り、斬りつける。

 首元に筋が入り血が噴き出る。

 犢は自身の能力ですぐさま止血するが、それがなければ致命傷になりかねない。


──なにされた?


 首元を押さえ思考を巡らす犢。

 しかし、すぐに考えるのを止める。


「廻!」


 廻の名を呼びながら大量の血液を生成。


「"独楽・転颶"」


 瞬時に意図を察した廻は抖擻発動により竜巻を発生させる。

 それは大量の血液を巻き込み、巨大な赤い竜巻となる。

 天平や凶幇が迎撃しようとするより速く、


「バァン!」


 犢が叫び、赤い竜巻が破裂。

 周囲一帯を吹き飛ばす。


「ぐおおおおおおおおおおおっ!」


 派手に吹き飛ぶ天平。

 しかし派手さの割りにはダメージはあまりない。


「無茶苦茶だな……ん?」


 起き上がりながら、不意になにかに気づく。


「そういや楾はどこだ?」


 小さな呟き。

 それは近づいてくる異音に掻き消される。

 

「げ……この音」


 顔をしかめ、音のする方向に顔を向ける。

 そこにいたのは飛来する大量のバッタ。

 それから逃げるように、こちらへ駆ける男。


「え……?」


 天平はその顔に見覚えがあった。


「なんで……」


 バッタの羽音が聞こえなくなるほど心臓がやかましく鼓動する。

 目の前に迫る男。

 それは入隊試験の際に禍霊に見せられた忘却していた過去の記憶にいた男。


「父……さん?」

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