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第八十三話『乱戦』

 廃村。

 塞坐の頭領である癲恐禍霊──凶幇と楾たちの戦いはまだ続いていた。


「死ねボケが……っ!?」


 燃える蠍となって突撃する英二の首が飛ぶ。

 凶幇の能力は殺傷能力の付与。

 視線に殺傷能力を付与すれば対象をみるだけで殺傷することが可能だ。


「"独楽・転颶"」


 廻の抖擻発動により複数の竜巻が発生。

 それが凶幇を取り囲み、やがてその範囲を狭めて押し潰そうとする。


「お前の能力、詳細は分からねえが生物以外にゃ使えねえんじゃん?」


 廻の読みは正しい。

 凶幇が付与するのは殺傷能力であり、破壊能力ではない。

 殺傷とは命あるものを害すること。

 そのため命ないものには視線や声に殺傷能力を付与した攻撃は行えない。 

 しかし、


「それがなんだ?」


 凶幇は冷たい声音で呟き、自身の霊力に殺傷能力を付与し淡く輝く薙刀のような武器を作り出す。

 そして、それを一閃。

 竜巻を切り裂き、消滅させた。

 能力の応用で霊力に殺傷能力を付与し凶器を作り出す。

 これで、欠点はカバーされている。


「ちっ……があっ!」


 竜巻が消え凶幇の視界が開ける。

 凶幇の視線に晒された廻は全身から血を噴き出す。

 すぐさま廻から視線を外し、薙刀で飛来する氷塊を斬り砕く。

 

「ん?」


 砕けた氷塊から大蛇が飛び出す。


「くだらん」


 大蛇は英一の憑霊術で生み出された命あるもの。

 凶幇の能力対象となる。

 小さな呟きと冷たい視線に付与された殺傷能力で一瞬のうちに屠られる。

 

「おらよっ!」


 大蛇を盾にするようにして接近していた楾が氷で生成した大剣を振るう。

 淡く輝く薙刀と氷の大剣が打ち合う。

 楾はその間にも凶幇の視線に晒されているが、彼は自らの全身を薄い氷の膜で包むことで能力をシャットアウトしている。

 

「お前が一番強いようだが……」


 凶幇の薙刀が氷の大剣を打ち砕く。


「俺には敵わない」


 武器を失った楾に薙刀で斬りかかる。

 しかし楾はニヤリと笑う。


「後ろ、気をつけろよ」


「なに? ──っ!?」


 背中に手で触れたのを感じた瞬間、凶幇の全身が縦方向に高速回転し、あらぬ方向へ飛んでいく。

 それをやったのは、もちろん廻。

 彼は触れたものを回転させる能力を持つ。


──馬鹿な。この俺が背後からの接近に気づかないわけが……


 凶幇は心中の言葉をそこで切る。

 彼は見た。

 廻が薄べったい氷の円盤のような物体に乗って浮遊していることを。

 廻は走ってではなく浮いて来たのだ。

 ゆえに足音が聞こえなかった。

 廻の霊気を感じることは出来ただろうが、彼の乗っている氷の円盤は楾の能力で作られたもの。

 それからは当然、楾の霊気が発されている。

 目の前で武器を打ち合っていた楾の霊気と判別がつかなかったのだ。


 結果として凶幇は背後からの不意打ちを喰らい、無様に空中を回転するハメになっている。

 独楽の回転は廻が込めた霊力が尽きるまで続く。

 力尽くで止めることは凶幇ほどの強者でも不可能だ。

 そして廻は一度に込められる最大量の霊力を込めた。

 回転は当分は止まらない。 


「上手く行ったじゃんよ」

 

「ああ。今のうちに鳥居の向こうにお邪魔しよう」


 鳥居へと向かおうとする楾たち。

 しかしそこに、予期せぬ乱入者たちが現れる。


「やや! 凶幇殿! なにゆえ回っておられるのか!?」


 現れたのは大鬨。

 その後ろには千堂がいる。

 彼は天平たちから逃げた後、一直線にここへやって来た。

 大鬨とはその途中で会ったのだ。


 乱入は続く。


「なんや。えらい賑やかやなぁ」


「あれ? 廻いるじゃん」


 千堂たちとは逆の方向から現れたのは玻流夏と犢。

 その二人を見て廻は目を丸くする。


「犢! 助けに来てくれたのか!?」


「んなわけないじゃん。別の用だよ。まぁ、ついでに助けてはあげるけど」


「ほんで? どういう状況なん? これ」


 廻は二人に事情を説明。

 天平がいること、その天平から禊の池なる存在を聞き探していること、塞坐という連中がその障害だということ。


「ならアイツらを殺せば良いんだね」


「どうやって殺すねん。不死身なんやろ」


 呑気な会話を続ける犢と玻流夏。

 その間に千堂と大鬨が迫る。  


「"魂響たまゆら"」  


 大鬨が幾つもの刀と槍を生成。

 それを千堂が能力で空に浮かべ、射出。


「"あかね"」


 犢が右手をかざす。

 バチバチと音を立てて赤い閃光が迸り、血の砲弾が放たれ、飛んでくる刀と槍を粉微塵に破壊する。


「あれ、父さんの探してる人じゃない?」


「そうっぽいな」  


 玻流夏は答えながら千堂目掛けて刀を振るう。

 それと同時に千堂の首が飛ぶ。

 

「──!?」


 首を刎ねられた千堂だが、すぐに再生する。


「やっぱ殺せへんやん」


「その刀……遠雷居坐か」


 千堂は軍刀を抜き、距離を詰める。

 それを援護するように、背後の大鬨は矢を射出する。


「てめえら!」  


 千堂の横合いから英二が鋏を突き出す。

 

「いきなり現れて、随分なはしゃぎようじゃねえか。俺らは眼中にねえってか!?」


 怒りを露わにする英二。

 彼は千堂たちと犢たちのちょうど真ん中にいたが、双方ともまるでその存在を気にかけない。

 取るに足らない存在と見なされている。

 それが英二には我慢ならないようだ。  


「誰? あれ」


「同じ囚人だよ。一緒に行動してんだ」


「ふうん」


 興味なさげに英二を見る犢。

 今まさに千堂によって斬り捨てられている。


「邪魔だ」


「ぐうううっ!」


 袈裟斬りを浴びて倒れる英二。

 それを庇うように蛇の群れが現れる。


「俺の弟になにしやがる!」


「先に手を出してきたのは向こうだ。きちんと躾けておけ」


 軍刀を振り回し、蛇を斬って捨てていく。

 そのまま、鞭を振りかざす英一に斬りかかろうとするが、


「どーん!」


 血の砲弾が飛来し炸裂。

 千堂と英一、二人まとめて吹き飛ばす。


「ぐっ……!」


「がああああああっ!」  


 千堂は寸前に気づき、ダメージを最小限に抑えたが、英一は直撃。

 腹部から股下にかけて欠損する大ダメージを負う。


「てめえ! 仲間じゃねえのか!」


「え? 誰と誰が?」


 傷が再生し立ち上がっていた英二が叫ぶ。

 それを受けた犢はニヤニヤと笑いながら小馬鹿にしたようなリアクションを見せる。


「おい! コマ野郎!」


「俺の本来の仲間はこいつらだからなぁ。ま、ここまでじゃんよ」


 英二は次に廻に向けて叫ぶ。

 廻は多少、気まずそうな表情を浮かべ肩をすくめて言葉を返す。


「クソが!」


 激昂した英二は標的を犢に変更。

 突撃しようとするが、


「邪魔だと言っている」


「ぐうっ!?」


 背後から軍刀で刺し貫かれる。

 それをした千堂は倒れる英二を踏みつけ、駆ける。


「奴らなら私が始末してやる」


「誰を始末するって?」


 向かってくる千堂に向け、犢は血の砲弾を放つ。


「"魂響"」  


 千堂が纏うマントがピンと張り詰める。

 やがてそれは千堂ごと宙に浮き、彼を飛行させる。

 それにより血の砲弾を避け、犢に接近。


「アンタ蠱業物持ちでしょ? 今は持ってないはずだけど、その力はなんなわけ?」


 軍刀を血の刀で受け止める。


「私のことを知っているのか?」


「アンタ目当てで監獄くんだりまで来てんねん」


 そこに玻流夏も加わる。

 廻も加わろうとするが、大鬨から飛んでくる矢の対処に当たる。


「お前らあんまり悠長にしてる余裕はないじゃんよ。あそこで回ってる奴が自由になったら……」


「ああ、アレ? そんなに強いの? 癲恐禍霊って言ってもピンキリだけど」


 廻に言われ、犢は未だに空中を回転し続けている凶幇に視線だけをやる。


「ピンもピンの方じゃんよ」


「ほな俺が相手したろか」


「不要だ。お前ら三人とも私が始末する」


「舐めすぎでしょ」


 犢たちがギアを一段階上げようとするなか、凶幇の回転が終わりを迎えようとする。

 それと同時に、場には新たな乱入者たちが到着した。

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