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第八十二話『招かれざる客』

 永久封殺監獄で激闘が起きているのと同じ頃。

 異却囹では異変が起きていた。


「ん?」


「どうした?」


 モニタールームで一人の職員がそれに気づく。


「いや、予定のないヘリが来てるんだよ」


「また確認ミスじゃないのか? 前もあったろ」


「マズイな。署長に怒られちまうよ」


 職員はそう言いながら、護送車を手配する。


 一方のヘリポート。  

 拝揖院の所有する高速ヘリコプターから降りてきたのは三人の男。

 一人は浄衣と呼ばれる真っ白な狩衣を着た男。

 寄処禍組織"殃祚"の頭領、ながなだれ

 それに続くのは甚平風の赤いジャケットを着て、ダボっとした黒のサルエルパンツを履いた少年、とく


「ここが異却囹のある島かいな。なんや辺鄙な場所やなぁ」


 最後に降りてきたのは浅葱色の着流しを着た青年。

 腰には日本刀を佩いている。

 帶刀たてわき 玻流夏はるか

 弟の夏鳴太を除く家人を皆殺しにして出奔した男だ。


 その三人の元へ異却囹から出発した護送車がやって来る。

 護送車から降りた職員たちは崩たちを見て困惑する。

 通常の移送ならばスーツを着た数人の職員と拘束された犯罪者の組み合わせになる筈だが、今回はそれぞれに好きな服装をした三人組。

 拘束された犯罪者らしき人物もいない。


「お前たち……何者だ!?」


 目の前の三人が拝揖院の人間では無いと判断した職員たちは腰のホルダーから特殊警棒を抜き警戒を強める。

 一方の崩たちは涼しい顔だ。 


「玻流夏」


 崩に名を呼ばれた玻流夏は黙って腰に佩いた刀を抜く。


「"遠雷えんらいさら"」


 刀の名を呼び、一振り。

 それとまったく同じタイミングで職員たちの首が刎ねられた。


 蠱業物十三振の一振り、遠雷居坐。

 玻流夏を担い手とする蠱業物であり、その能力は刀身を時間経過を伴わず(・・・・・・・・)に伸縮させるというもの。

 つまり、反応して回避することは不可能。

 敵対者は今の職員たちのようになにが起きたのかも分からないまま、首と胴体がお別れすることになる。


 玻流夏はなんの感慨も無さそうに血振りをして刀を鞘に収める。

 それと同時にけたたましい警報が鳴り響く。

 ヘリポートには当然、監視カメラが設置されている。

 今しがた起きた惨事もばっちり映っているし、異却囹に伝わっている。


「もうちょい静かに行ったほうが良かったんとちゃいます?」


「遅かれ早かれ騒ぎになるさ」


 崩はそう言うと、異却囹に向けて踏み出す。

 しかし次の瞬間、妙な音が響いたかと思うと、夕焼け空が三人を照らす。

 

「……遠隔での禍仕分手か。手間が省けたな」


 崩の言う通り、今しがた起きたのは異却囹による遠隔禍仕分手による間世への強制転移。

 永久封殺監獄は中央にあるエレベーターからしか現世には戻れない。

 たとえ間世に魂が囚われていないとしても、禍仕分手での帰還は不可能なのだ。

 侵入者に対する異却囹の防衛プロトコルだが、当の崩たちの目的はこの永久封殺監獄にある。


「さて。では目的の人物を探そうか。二手に別れよう。犢と玻流夏は二人で行動しなさい」


「え〜」


 崩の指示に露骨に不満そうなリアクションをする犢だが、指示に従い玻流夏と一緒に行動を開始する。

 崩はそれを見て微笑み、別の方向へ歩き出した。



           ☆



 一方の異却囹。


「よし。連中は最下層に行ったな」


 防衛プロトコルを指揮する是永がモニタールームで呟く。


「俺はこのまま下に降りて連中を始末する。お前たちは待機だ。まだお仲間が来るかもしれんしな」


 部下にそう指示を出し、エレベーターに向かい、永久封殺監獄まで降りる。

 崩たちを転移させたのは外縁部のため、是永は城壁へ向かい外縁部に出る。

 そこで、


「珍しい客だなぁ。こんな場所でなにしてるんだ?」


 涎蝗が声をかけてきた。


「……涎蝗か」


 是永は涎蝗をチラリと見て歩き続ける。


「無視か?」


「虫はお前だろう」


「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッ!」


 唾を飛ばしながら大笑いする涎蝗。

 是永はしかめっ面をして歩を早める。


「侵入者どもがいる。暇なら片付けるのを手伝え」


「侵入者ァ? こんなとこにかよ」


 是永はそれ以上はなにも言わず去っていく。

 涎蝗はそれを見て翅を広げ飛んでいった。


 涎蝗と別かれ外縁部を進む是永。

 彼のもとにまた別の人物たちが現れる。


「これはこれは。看守長殿じゃないか」  


 現れたのは青駕来。

 その後ろから天平、茉琳、ハチもやって来る。

 彼らは逃げた千堂を追っている。


「貴様ら……」


「お前……」


 四人に険しい視線を向ける是永に茉琳がそれ以上に険のある視線を向ける。

 彼女の永久封殺監獄行きを決定したのが他ならぬ是永なのだ。


「久園茉琳……。ハッ。その男に唆されたようだな」


 見下すような笑みを浮かべ言う是永。


「お前のような未熟な精神の人間が力を持つと始末に負えない。ここでおとなしくしていろ」


「ふざけんな。絶対でていってやる!」


 茉琳はそう言うと憑霊術を発動し、攻撃を仕掛ける。


「あ、オイ!」


 天平が制止しようとするが間に合わない。

 茉琳は伸びた髪を拳状に編み、是永を殴りつける。


「ふん……」


 是永は最小限の動きで回避。

 茉琳はそれを追って攻撃を繰り返すが、すべて回避される。


「お前らの相手をしてる暇はないんだが……」


 呆れたように言いながら、是永が右手をかざす。

 

「"たて"」


 是永が自身の憑霊の名を唱える。

 ボウッと淡い光が発生し、それが剣に変わる。

 翅を立てた状態の蝶のガードが特徴的な西洋剣だ。


「やるしかないか……」


 是永が憑霊術を発動したのを見て天平たちも戦闘態勢に入る。


「"娵絡搦・散刃乱"」


 茉琳は髪を刃に変え振り回す。

 是永は回避する素振りすら見せず、髪の刃が命中。

 しかし、是永には傷はつかない。

 彼の身体を淡い光が包んでおり、それが攻撃を無効化しているようだ。


「"明星・射光"」

  

 天平がレーザービームを放つ。

 命中するが、こちらもダメージはない。

 是永は天平には目もくれず、茉琳に斬りかかる。

 茉琳はそれを素早い動きで回避。

 是永はもう一度、剣を振るう。

 茉琳は同じように回避しようとするが、


「なんっ……!?」


 まるで金縛りにでもあったように身体が硬直し動かない。

 そのまま、斬り裂かれた。


「ああああああああああっ!」


 鮮血が飛び散り、茉琳の悲鳴が響く。


「くそっ!」


 天平が再びレーザービームを喰らわせる。

 しかし、ダメージはやはりない。

 青駕来とハチからも攻撃が飛ぶが、結果は同じだ。


「ぐうううううううっ!」


 その間にも是永は茉琳に追撃をかける。

 

「やめろ!」


 天平は是永と距離を詰め、接近戦に切り替える。


「自分より一回り以上も年下の女の子を甚振って楽しいか?」


「少なくとも不快ではないね」


 是永が剣を振るう。

 天平は球体との位置交換で回避。

 そのままカウンターを浴びせるが、ダメージはない。

 そこにさらにカウンターで是永が剣を振るう。

 球体との位置交換で回避しようとする天平だが、能力が発動せず、身体も動かない。

 なす術なく斬り裂かれる。


「がああっ!」


──クソッ……! どういう能力だ!?


 肉体の再生を待ちながら是永の能力について考える天平だが、見当もつかない。

 是永は天平には目もくれず相変わらず執拗に茉琳を痛めつけている。


「この……やめろって!」


 天平はレーザービームを放つ。

 それと同時に、


「"泥濘れ"」


「"蜂夥陋・擲身炮てきしんほう"」

 

 青駕来とハチが抖擻発動による攻撃を放つ。

 それはやはり是永にダメージを与えられない。


「気づいたか?」


「……ああ。纏ってる光が……弱まったな」


 青駕来の言葉に天平が返す。

 彼の言う通り、是永の纏っている光は今の攻撃を受けた瞬間に弱まった。

 既に元に戻った今の状態と比べると著しく弱々しい光になったのだ。


「どういう能力かは分からないが、際限なく攻撃を無力化できるわけではないようだ」


 光明を見出す天平たち。

 しかし状況は刻一刻と変わる。


「ん? げっ!」


 どこからか地響きのような足音が聞こえ、天平がその方向を見ると、白装束の女たちが走って来ている。


「またアイツらかよ!」

 

 天平がしかめっ面で叫ぶ。

 そこに茉琳が吹き飛んでくる。


「茉琳?」


 それをやった是永はどこかへと走って行く。


「逃げんのかよ!」


「お前らの相手をしてる暇はないと言ったろ」


「くそっ!」


「おい茉琳!」


 是永を追う茉琳。

 その茉琳を天平が追い、青駕来とハチも続く。   

 そして、その後方からは白装束の女たちが迫る。

 奇妙な追走劇が始まった。

 

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