第八十一話『会敵』
青駕来と楾が加わり八人となった天平たち一行は二手に分かれて禊の池の探索を行うことにした。
組み合わせは天平と茉琳と青駕来とハチ、楾と廻と串間兄弟。
楾たちは内縁部から続く門の後ろ側のエリアを周ることになった。
「おたくらはなんで監獄行きなんかになったわけ?」
歩きながら楾が三人に問いかける。
「……俺ら兄弟は蛇蝎って犯罪組織を率いていたが、そこを潰されちまったんだよ」
「へぇ。そっちは?」
「……俺も似たようなもんじゃんよ」
「ふぅん。俺は元々は拝揖院の人間なんだよ。だが色々あって放逐されちまった。直属の上司からね。この顔の火傷もその上司にやられたんだぜ」
「別に興味ないじゃんよ」
「冷てえなぁ。ここで会ったのもなにかの縁だろ?」
「監獄での縁なんざ、ろくでもねえ縁だ」
他愛もない会話をしながら歩き続ける四人。
やがて廃村のような場所に辿りついた。
村の奥の方の霧がかった場所には鳥居がある。
「いかにもって感じじゃんよ」
「早くも見つけたっぽいなぁ」
「つーかてめえは数年もここにいて気づかなかったのかよ?」
「こっち側には来たことねえからなぁ。出る方法があるなんて考えもしなかったしよ」
呑気に会話をかわしながら鳥居に近づく四人。
やがて鳥居の下に誰かがいることに気づき立ち止まる。。
「まぁ、ここがそうなら番がいるわな」
そこにいたのは身長二メートルは優に越すであろう大男。
筋骨隆々な上半身を晒し、下半身は血で薄汚れた馬乗り袴を着用している。
「……ここになんのようだ。囚人ども」
威圧感のある低い声が響く。
串間兄弟や廻はやや気圧されるが、楾は笑みを浮かべて一歩踏み出す。
「禊の池ってのを探してんだ。その鳥居の向こうにあるんじゃねえかと思ってね」
「……そんなものはない」
「ああ、そう。でも一応、確かめてえな。通してくんない?」
「断ると言ったら?」
男の言葉に楾がニヤリと笑う。
「手荒な真似をしなきゃならなくなるなあ!」
そう叫んで距離を詰め、蹴りを放つ。
「やめておけ」
男はそれを片手であっさり止める。
足首を掴み、そのまま投げ飛ばした。
「"独楽"!」
「"蛇紋"!」
「"炥蠍"!」
残された三人も憑霊術を発動し、戦闘が始まる。
「やめろと言っている」
「がっ!?」
男が言った瞬間に三人の身体に無数の裂傷が刻まれ、血を噴き出す。
「なにがっ……!」
男の名は凶幇。
塞坐の実質的な頭領である癲恐禍霊。
その能力は殺傷能力の付与。
今の攻撃は自身の声と視線と常時はなっている恐怖の波動に殺傷能力を付与し、三人を一瞬のうちに切り刻んだのだ。
「"独楽・転颶"」
傷の癒えた廻は素早く体勢を立て直し竜巻を発生させる。
しかしそれは凶幇の蹴りで軽く破られる。
「おいおい……ぐっ!?」
再び全身を切り刻まれる廻。
廻に遅れて体勢を立て直した串間兄弟もなにかをする間もなく再び全身を切り刻まれ打ち伏せる。
「"瀲胤"」
強烈な冷気が吹き荒ぶ。
凶幇はとっさに飛び退き、視線を冷気が吹いてきた方向へ向ける。
そこから今度は巨大な氷塊が飛んでくる。
凶幇は無言で右手を水平にあげる。
すると淡い光が発生し、やがてそれは槍のような物質と化す。
これは自身の霊力に殺傷能力を付与することで霊力そのものを凶器に変えたのだ。
凶幇はそれを掴むと槍投げの要領で氷塊目掛けて投擲。
一撃で粉砕することに成功した。
さらに幾つもの槍を生成し、射出。
「うおっ!」
氷塊の後方にいた楾を襲う。
楾は氷の壁を作って防ごうとするが、次々と飛来する槍に砕かれる。
「ぐっ……おおっ!」
防ぎきれず、槍が突き刺さる。
槍は刺さった瞬間に炸裂し、楾の身体ごと爆ぜる。
「この程度の実力でよく挑んできたものだ」
いつの間にか接近していた凶幇が蹴りを放つ。
無事だった左腕で防ごうとするが、声に付与された殺傷能力で切り落とされる。
そのまま蹴り飛ばされ、再生を始めていた肉体をぐちゃぐちゃにしながら吹き飛んだ。
地面に力なく倒れ込み、悠然とこちらを見下ろす凶幇を見る。
「こ、こいつ強えええええ……」
☆
一方の天平組。
どこからともなく湧いてきた白装束の女たちに取り囲まれ、対処に追われていた。
「こいつら、何体いるんだよ?」
悪態をつきながら光線を放つ天平。
他の三人も各々の力で白装束の女たちを屠っていく。
白装束の女たちを全滅させたタイミングで一人の男が近づいてくる。
旧日本軍の軍服を着た男だ。
高めの襟とウエストを絞った軍衣に膨らんだ短袴、そしてマントを羽織り如何にも青年将校然としている。
「人間……だよな? 囚人か」
近づいてくるその男を見ながら天平が呟く。
「私は千堂という」
男の名乗りを受け天平たちも名乗る。
「それで? 囚人たちが徒党を組んでなにをしてるんだ? まさか散歩というわけでもないだろう?」
「ああ。禊の池って場所を探してるんだよ」
その言葉に千堂の眉が上がる。
「そこで俺たちを間世に縛り付けてる力を消せば現世に戻れるんだ」
天平は構わず話を続ける。
「ただ場所も分からないし塞坐って番人みたいな奴らもいて大変なんだよ」
「そうか……」
「アンタも仲間に……うおっ!」
勧誘しようとする天平。
その言葉を待たずに千堂は腰に提げた軍刀を抜いて斬りかかる。
「なにすんだよ!?」
飛び退く天平。
他の三人も千堂を取り囲むようにして距離を取る。
「なにを? 君が言うところの番人なのだから当然の行為だろう」
「は? ……まさかアンタ塞坐か? 囚人だろ?」
「囚人であり塞坐でもあるということだ」
「意味分かんねえ!」
天平がレーザービームを放つ。
他の三人も千堂を敵と認識し攻撃を放つ。
「"魂響"」
千堂が呟くと周囲の地面が盛り上がる。
そしてひとりでに持ち上がり、礫となって天平たちを襲う。
「くだらない」
青駕来は飛来する礫に紫黒色の光を浴びせ汚泥に変える。
それを踏みつけ千堂に迫るが、
「"魂響"」
「──っ!?」
千堂から衝撃波が放たれ吹き飛ばされる。
「どういう能力だ?」
青駕来は千堂の能力を大地を操る能力だと考えていたが、今の攻撃を受け改める。
「念力か?」
「どうでもいいでしょ! ぶっ潰せば終わりだよ!」
茉琳が拳状に編んだ髪で殴りつける。
「"魂響"」
千堂が両手を広げる。
すると少し離れた場所にある草原の大量の草が抜け、宙を舞う。
それらが一つに纏まり、東洋的な竜の形になり茉琳に襲いかかる。
「なにこいつ!」
茉琳は攻撃対象を千堂から竜に変える。
髪の拳に代わり、千堂には大量の蜂が迫る。
千堂はそれを素早く軍刀で斬って捨てる。
「"泥濘れ"」
粘性を帯びた光が津波のように押し寄せる。
千堂は跳躍。
そこに、
「"明星・射光"」
天平からレーザービームが放たれる。
軍刀を盾にし直撃は避けたが、衝撃で吹き飛ぶ。
落下地点に蜂の群れが迫る。
千堂は空中で軍刀を放り投げ両手で印を組む。
「タニヤタ・ウダカダイバナ・エンケイエンケイ・ソワカ」
千堂が真言を唱える。
これは密教系の呪術であり、雨を降らせるもの。
視界が白くかすむ程の大雨が降り出し、蜂の群れが叩き落とされる。
「"魂響"」
着地した千堂が呟くと、地面に落ちた雨水が逆巻き、幾重にも分かれて鞭のようにしなる。
それが天平たちに襲いかかる。
「妙な力を使う奴だ」
水の鞭をかわす青駕来。
しかし降り続ける雨が鞭の数を無限に増やしていく。
回避難度は増していき既にハチはかわしきれていない。
その中で、
「っ!?」
天平が遂に千堂に最初のダメージを与える。
降り注ぐ雨粒の一つと位置を入れ替え、一瞬で背後を取った。
「いつの間に……!」
軍刀を振るう千堂だが、それを雨粒と入れ替えられる。
無手となった右手を掴まれ、引き寄せられ、腹に膝蹴りを入れられる。
「ぐっ……このっ……おっ!?」
次の瞬間には雨粒の一つと入れ替えられ空中から真っ逆さま。
大量の雨を降らせるたことが天平相手には不利に働いている。
それに気づいた千堂は雨を止める。
「あの力……掛祀禍終を発動せずに使えるようになったのか?」
天平が球体以外とも自在に位置を入れ替えるのを見て呟く青駕来。
以前に戦った時よりも天平が力を増していることに無意識に笑みを浮かべている。
「"泥濘れ"」
そのまま粘性を帯びた光を天平に向けて放つ。
「おい……」
天平は自分と千堂の位置を入れ替える。
「があああああっ!」
光を浴びた千堂の身体が汚泥と化す。
叫ぶ千堂だが、すぐに再生する。
「狙い通りだ」
「どうだかな」
笑みを浮かべ言う青駕来に呆れたように返す天平。
「"魂響"」
周囲の地面が隆起する。
天平と青駕来がそれを破壊する頃には、それをやった男の姿は消えていた。
「逃げたか……」
「僕と君の二人が相手では分が悪いと悟ったんだろうさ」
得意気な青駕来。
天平はそれを無視。
──囚人のくせに塞坐の一員ってなんなんだ?
考えるのは今の今まで戦っていた相手。
名を千堂 空良治。
異却囹に収監される前の肩書きは大日本帝国陸軍"呪術将校"。
蠱業物十三振の一振り、泥犁芙蓉の担い手。




