表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/89

第八十話『望まぬ再会』

 天平が永久封殺監獄に入り二日目。

 現在はハチと二人である場所を目指している。

 涎蝗と大鬨という二体の癲恐禍霊に敗北したことでさらなる戦力が必要と考える天平にハチがそれならと、ある提案をしたのだ。


「冷気を操る寄処禍?」


「そうだ。俺より後くらいに入って来た奴で、それなりに強かった。仲間になるなら戦力になる筈だ」


「仲間になってくれるのか?」


「俺もそうだったが、ここにいる奴らは出る方法がないと思ってる。だから無為に時を過ごしてる。出る方法があると知れば協力する筈だ」  


 二人はしばらく歩き、やがて開けた場所に出る。

 そこにあったのは、


「氷の……城?」


 氷で建造された西洋風の巨大な城。

 

「その寄処禍が自分の能力で作ったのさ。涎蝗とかに襲撃されてしょっちゅう壊れてるがな」


 言いながら、ハチが城へ向かう。

 天平も城を見渡しながら、後を追う。

 城壁の周りには白装束の女たちが群がり、幾つにも積み重なって肉の梯子を作り、今にも内部に侵入されそうになっている。


「早く行ったほうが良いな。頼む」


「ああ」


 天平は憑霊術を発動。

 それぞれ明星の球体に乗り、浮遊して移動する。

 そのまま城壁を越え、内部に侵入。

 そこで、


「これは珍しい客だな」


 男が声をかけてきた。

 天平も知る男が。


「お前……青駕来……!?」


 声をかけてきたのはあお たぎり

 かつて私刑人と呼ばれた寄処禍犯罪者。

 天平との戦いに破れ、ここ永久封殺監獄に投獄されていた。


「なぜ驚く? 僕をここに送り込んだのは君だろう。帚木天平。むしろ僕が驚くべき場面だ」


「……なら驚けよ」


「驚けと言われたら驚くものも驚けないな」


「なんだこいつ……」


「知り合いか? 俺の知ってる寄処禍はこいつじゃないが……」


「ああ、まあな」


「僕は居候させてもらってるのさ。家主に話があるなら、僕が代わりに聞こう」


「なんでお前に……」


「どうせなら、こいつも誘えば良いじゃないか」


「ええ……?」


 ハチの提案に露骨に嫌そうな顔をする天平。

 英二や廻とは違い、青駕来は生きるか死ぬかの瀬戸際レベルの死闘を演じた相手。

 その相手と手を組むのにはいささか心理的な抵抗があるようだ。


「話が見えないんだが? そもそも君が何故ここにいるのかも分からないし」


「少しやらかしたんだよ」


「やらかしとやらの内容に興味があるね」


「教える必要がねえよ」


「やれやれ。嫌われたな」


「好かれる要素ねえだろ……」


「それで? 誘うとは?」


「……」


 話したがらない天平を見てハチは溜息を吐いて、代わりに説明をする。

 禊の池の存在、そこに行くことを阻む塞坐に対抗するための戦力が必要なこと。

 青駕来はハチの話を興味深そうに聞く。


「なるほどね……。話は分かったよ」


「どうだ? お前も仲間にならないか?」


 ハチの言葉に青駕来は考えるような仕草を見せる。


「考える必要があるか? ずっとここにいたい訳じゃないだろう?」


「そうでもないさ」


「なに?」


「僕はそこの帚木天平に敗北して、ここにいる。敗北者として監獄でおとなしくしておくことにさほど不満はないね」


「本気で言ってるのか?」


「本気さ。だが……そうだな。どうしても、と言うなら仲間になってやっても良い。そう例えば、帚木天平が仲間になって欲しいと、ちゃんと口に出して言うのならね」


「はぁ?」


 思いがけない青駕来の言葉に素っ頓狂な声をあげる天平。


「なんだ、そんなことか。言ってやれよ、帚木」


「えぇぇ……」


 あからさまに嫌そうな顔をする天平。

 二人の関係性を知らないハチはそれを不思議そうに見る。


「言いたくないのならしょうがないな。家主を呼んでくるとしよう」


「帚木。どういう因縁があるのか知らんが、意地を張るのはよせ。ここから出るのが最重要じゃないのか?」


「う……んん……ん?」


 唸る天平。

 すると後方で何かが潰れたような音がした。

 振り向いた天平が見たのは白装束の女。

 城壁を越え、落下したのだ。

 上を見ると、同じように白装束の女たちが次々と落下して内部に侵入してくる。


「げぇっ!」


「帚木! さっさと言え!」


「んん……」


「おい! 帚木!」


「ぐっ……! 力を貸してくれ青駕来!」


 天平が叫ぶ。

 青駕来は口角を上げ、向き直る。


「"たんしょう"」


 憑霊術を発動。

 紫黒色の光が発生し、天平とハチの間を抜け、後方から迫っている白装束の女たちに命中。

 光を浴びた白装束の女たちは汚泥と化して崩れ落ちていく。


「強力な力を持っているようだな……」


 それを見たハチが感心したように言う。

 一方の天平は不満気な顔で青駕来を見る。

 青駕来はそれに薄い笑みを返す。

 その間にも城壁を超えて白装束の女たちが落ちてくる。

 その数はどんどん増えている。


「おい青駕来。さっさともう一人を呼んでくれ。あんな奴らの相手してられないぞ」


「ああ、そうだな」


 青駕来が城の内部に行こうと動く。

 その瞬間、


「"れんいん"」


 強烈な冷気が発生し吹き抜ける。

 その冷気は城壁を超え落下してくる白装束の女たちを凍結させ動きを封じ込めた。


「ううっ!」


 突如として発生した冷気が魂まで裸に剥かれたような寒さをもたらす。

 凍える天平たちのもとに一人の男が歩み寄る。


「もう少し城壁を高くしとくべきだったかな」


「楾」


 現れたのは男。

 年齢は二十歳前後で顔に火傷の跡がある。

 

「アンタがここの?」


「ああ。はんぞう 由起央ゆきおだ。脱獄するんだって? 俺も仲間に入れてくれよ」


「なんだ。聞いていたのか」


「ここは音が響くからねえ。で、どうなんだ?」


「もちろんだよ。そもそもアンタを誘いに来たんだし」


「それじゃ、さっさと行くとしよう」



           ☆



 青駕来滾と楾由起央という強力な戦力を得て、天平たちは茉琳たちの元に戻った。

 しかしそこで、新たな問題が発生する。

 

「串間……お前たちが蛇蝎のリーダーだった奴か」


 自己紹介をしている際の青駕来のその発言で、彼が蛇蝎のメンバーを殺して回っていた人物である事に串間兄弟が気づいた。

 そして今まさに一触即発の状態となっている。


「過去の事は水に流せよ」


「ざけんじゃねえ! こいつにうちの連中が何人殺されたと思ってやがる」


「だからってな。どのみち今の状態じゃ復讐のしようもないじゃんよ」


「それよ。どのみち死にゃしねえんだから、一発二発入れさせろ。それでチャラにしてやる」


「無抵抗でいたぶられろと? お断りだね」


 青駕来が肩をすくめる。

 その態度に串間兄弟の苛立ちは増す。


「なら一回、気の済むまで殺り合ったらどうだ? それでこの件は終わりだ」


「……俺たちはそれで構わねえ」


「僕も構わないよ。もう彼らに興味はないし、わざわざ自分から痛い思いをしたがるのも理解できないけどね」


「てめえ……!」


「どっちからやるんだ?」


 ハチが串間兄弟にどちらから戦うのかを問う。

 英一がそれに答えよとする前に青駕来が口を開く。


「二人同時に来ると良い。一人ずつじゃ戦いにすらならない」


「どこまでも舐め腐ってやがるな……!」


 青駕来のその言葉で二対一で戦うことに。


「"蛇紋"!」


「"炥蠍"!」


「"腐端正"」


 三人同時に憑霊術を発動し戦いが始まる。

 英一は地面を鞭で何度も打ち、それによって出来た亀裂を蛇に変えて青駕来へけしかける。

 青駕来はそれに紫黒色の光を放つ。

 彼の憑霊、腐端正の能力は光に触れたものをドロドロに腐らせる能力。

 紫黒色の光に触れた蛇たちは汚泥と化して地面に落ちる。


「オラァ!」


 英二は一気に距離を詰め、炎の鋏を突き出す。

 しかし、あっさりと掴まれた手首が腐り落ちる。


「ぐ……あああああああっ!」


 絶叫する英二。

 手首の再生を待たず、逆の鋏を突き出す。

 それを援護するように英一が巨大な蛇を生成し差し向ける。


「……時間の無駄だな」


 それらを冷たい目で見る青駕来。

 彼が放つ紫黒色の光が輝きを増す。


「"泥濘ぬかれ"」


 粘性を増した光が波紋のように広がり串間兄弟を呑み込む。

 泥のような光に足を取られた二人はそのまま沈み込む、やがて全身が汚泥と化した。


「こんな連中、足手まといなんじゃないか?」


 嘲笑うような青駕来の言葉は天平に。

 しかし天平は眉間に皺を寄せたまま言葉を返さない。


「奴らが回復したら、もう絡んでこないように言っておいてくれ」


 そんな天平に対し、青駕来は薄く笑みを浮かべそう言うと、場を離れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ