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第七十八話『外縁部』

「……やっと着いた」

  

 鳥羽を倒した後、天平たちは外縁部を目指して歩き続けていた。

 そしてようやく内縁部と外縁部を区切っている城壁へと辿りついた。

 間世は常に夕暮れで時計も無いため正確には分からないが、それなりの時間がかかったことだけは確かだ。


「おっそ」

  

 そんな三人に四輪バギーの上に寝そべった茉琳が冷たく声をかける。

 彼女は鳥羽から奪ったこの四輪バギーでいち早く辿りついていた。


「このガキャ……」


 青筋を立てる英二だが、言い争う気力は無いようだ。


「この門を抜ければ外縁部か?」


 目の前にある城門を見て天平が言う。


「そうだ。行ったことはねえがな」


「なんでも、特に危険度の高い囚人が向こうにやられるんだとよ」


「へえ」


 城門の扉を押し開く。

 その向こう側には内縁部と同じような風景が広がっていた。


「別にこっちと変わらねえじゃねえか」


「油断するなよ。外縁部には"さやります"って奴らがいるらしい」


「なんだよそりゃ」


「"禊の池"がある場所を"あわきはら"って言って、そこに囚人たちを行かせない役割を持ってるらしい」


「ようは看守だろ。ブチのめしゃいい」


 外縁部に踏み入る四人。

 周囲を警戒しながら進んでいると、白いヒラヒラした物体が複数近づいてくるのが見えた。


「なんだ?」


 四人全員がそれを凝視する。

 やがてハッキリと見える。

 近づいてきているのは、女。

 白装束に身を包んだ身長五メートルはありそうな巨大な女たちだ。


「アレが塞坐とかいう奴か?」


「分からない。でも味方じゃないのは確かだ」


「□□□─」


 不明瞭な声で呻き、身体を横に揺らしながら走ってくる白装束の女たち。


「"明星"」


「"しゅらくじゃく"」


「"もん"」


「"かつ"」


 四人同時に憑霊術を発動し、応戦。

 

「□□□─」


 白装束の女たちは天平たちの元まで辿りつくと、腕や足を振るって攻撃を仕掛けてくる。


「くたばりやがれ!」


 英二が炎の鋏で白装束の女の一人を捕らえる。


「□□─!」


 鋏で締め付けられながら炎で炙られ、苦悶の声を漏らす白装束の女。

 そのまま真っ二つにしてやろうと、英二は締め付ける力を強める。

 しかし、


「□□□□□─!」


 白装束の女の四肢がボゴボゴッと嫌な音を立てながら膨張。

 そのまま炎の鋏から強引に抜け出す。


「なにっ!? ごふっ!」


 間髪入れずに膨張した腕で英二にラリアット。


「英二! このっ……!」


 吹き飛ぶ英二に一瞬だけ視線をやり、英一は鞭を振るう。

 彼の憑霊である蛇紋の能力は無機物に蛇を模した亀裂を入れることで、そこから蛇を生み出し使役するというもの。


 英一は周囲の地面に何度も鞭を叩きつけ、無数の亀裂を入れる。

 その亀裂の形にそって無数の蛇が生まれた。

 蛇たちは一斉に白装束の女たちに襲いかかる。

 

「□□─!」


 白装束の女たちは振り払おうとするが数が多い。

 首筋や手足に噛みつかれ、呻く。


「うざったいっての!」


 その隙を突いて茉琳が髪を束にして白装束の女たちをなぎ払う。


「"明星・射光"──"きん"」


 空中を吹き飛ぶ白装束の女たちに天平が二本のレーザービームを放つ。

 それは二人の白装束の女の頭部を正確に貫き、行動を停止させる。

 四人はその後もまぁまぁのコンビネーションを発揮して着実に白装束の女たちを倒していく。

 だが全滅には遠い。


「おいおい……」


 英一が心底うんざりといった声音で呟きを漏らす。

 その視線の先には、こちらへ一心不乱に走ってくる白装束の女たち。


「まだ来るのか……!」


 天平も英一と同じようにうんざりとしながら、向かってくる白装束の女たちにレーザービームを放つ。


「ん?」


 白装束の女たちに向けてレーザービームを連発する天平が、他にも接近して来ているものに気づく。


「蜂?」


 天平の言う通り、それは蜂。

 けたたましい羽音を響かせながら、猛スピードで飛行してくる。


「新手か!」


 英一も気づき、迎撃の態勢をとる。

 しかし、蜂の群れは天平たちではなく白装束の女たちに向かう。

 そしてその首筋に針を刺す。


「□……□……」


 針を刺された白装束の女たちは全身を真っ青にして力なく倒れ込んだ。


「なんだ……?」


「お前たち」


 困惑する天平たちに声が。

 その主は二十歳くらいの青年。

 かつてむしという組織に所属していた寄処禍、ハチだ。


「騒ぎすぎだ。あの白装束の女たちは音に呼び寄せられるんだ」


「アンタは?」


「自己紹介は後だ。ついてこい」


 ハチはそう言って踵を返し、すたすたと歩いて行く。

 天平たちは顔を見合わせ、やがてゆっくりその後を追った。


 しばらく歩いて辿りついたのは、巨大な岩に隠れるようにしてひっそりと立つあばら小屋。

 中に入るともう一人の男がいた。

 タンクトップ姿で年はハチと同じくらいに見える。

 天平はこの男を知っている。


「お前……殃祚の……!」


「あん? 帚木天平じゃんよ。なんでこんなとこにいんだ?」


 もう一人の男──かいは怪訝そうな表情を浮かべて言う。


「知ってるのか? 廻」


「こいつは禍対の人間じゃんよ」


「そうなのか。まぁ、この状況だ。遺恨は忘れろ」


「別にこいつに恨みはないじゃんよ。それより、なんかやらかしたか?」


「そんなとこだよ」


「それで? 俺らを連れてきた理由は?」


 天平たちの会話に英一が割り込む。


「まずは自己紹介をしよう。俺はハチだ。お前らは?」


 ハチに促され、天平たちはそれぞれ名乗る。

 自己紹介を受けたハチは頷き、先程の英一の質問に答える。


「お前らにあそこで暴れられちゃ迷惑だからだ。あの白装束の女どもが寄ってくるからな」


「あれなんなんだ?」


「知らん。ひたすら外縁部を徘徊してる気味の悪い奴らだよ。相手するだけ無駄だ」


「ずっとここで息潜めてるわけ?」


「仕方ないだろ。出る方法はないんだ」


 茉琳の馬鹿にしたような物言いに、ハチは不機嫌そうに言い返す。


「出る方法があるって言ったら、どうする?」


「なんだと?」


 怪訝な表情を浮かべるハチと廻。

 天平は二人に禊の池という存在についての話をする。


「信じられないな。なんでそんな物がある場所を監獄にするんだ」


「隊長の話によれば拝揖院がこの島を監獄にした後で発見されたって」


「間抜けな組織じゃんよ」


「それじゃマズイからって囚人をそこに行かせないためにさやりますっていう奴らがいるらしいんだけど……知ってるか?」


「さやります? 知らないじゃんよ」


「あの癲恐禍霊どもがそうじゃないか? 獄卒のようなマネをしてるからな」


「え? 癲恐禍霊がいるのか?」


「なんだよ? その癲恐禍霊ってのは」


 癲恐禍霊を知らない英一たちに天平が説明を行う。


「はぁん。そりゃ確かにこんな場所で獄卒として働かせるにゃお誂え向きな連中じゃねえのか」


「癲恐禍霊が複数はかなり厄介だな……」


「アタシたちには不死身の身体があるんだから余裕でしょ」


「不死身だろうが戦闘能力で劣ってたらどうにもならねえじゃんよ」


「そもそも癲恐禍霊どもも俺たちと同じ状態になってる。条件は同じだぞ」


「げ……マジ?」


「だからって、ずっと此処にいたい訳じゃないだろ?」


「協力して禊の池を目指そうと言いたいのか?」


「そうだ」


 ハチの問いに天平がきっぱりとした口調で答える。

 ハチはしばらく考える。


「お前は禍対の人間だろう? それが犯罪者と一緒に脱獄するのか?」


「出た後で、もう一度捕まえるさ。俺の手でな」


「はっ。舐められたもんじゃんよ」


「良いだろう。手を組んでやる」


 禊の池を目指す仲間に新たにハチと廻が加わった。

 しかし、それを阻まんとする者がすぐそこまで迫っていた。

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