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第七十七話『ゲーム』

「早く行こう」


 英一に怒鳴られて取っ組み合いを止めた二人にそう言って天平は歩き出す。

 目指すはまだまだ遠くに見える城壁。

 他の三人も続いて歩き出すが、遠くからエンジンの駆動音が聞こえてきた。


「この音は……」


「チッ。面倒だな」


 その音を聞いた串間兄弟が顔をしかめる。

 天平がその理由を聞こうとする前に答えはやって来た。

 現れたのは黒の四輪バギー。


「元気か!? 虜囚ども!」


 そう言いながら四輪バギーから降りるのは刑務官の男。


「……誰だ?」


鳥羽とば わたる。副看守長だ」


 天平が小声で問うと、英二が同じく小声で答える。


「ここには看守なんていらねえんだが、アイツは時々やってきては囚人を痛めつけていきやがる。イカれたサド野郎だよ」


「なにをコソコソと喋っている!? 串間英二! 悩みがあるなら私が聞こう! 囚人のメンタルヘルスも重要だ!」


「どうする?」


「選択肢は二つだ。アイツが満足するまで無抵抗で痛めつけられるか、さっさとブチのめして先を急ぐか」


「なら決まりだな」


 英一にそう返し、天平は素早く鳥羽と距離を詰める。


「むっ!?」


 そして蹴りを放つが、鳥羽は素早い反応で回避。


「帚木天平! 新人だな! 歓迎するぞ! 元気があってよろしい!」


「そりゃどうも」


「しかしこれはなんの真似だ!?」


「俺たちは外縁部に行きたいんですよ。邪魔しないでもらえませんか?」


 天平のその言葉に鳥羽が眉をひそめる。


「外縁部に? あんな場所に何の用だ? あそこは殆ど地獄のような場所で、行ったって良いことなんてないぞ! それよりもここで穏やかな虜囚ライフを過ごしたまえ!」


「虜囚ライフって……お断りですよ!」


 再び蹴りを放つが、これもかわされる。


「ならば仕方ないな。少し痛い目を見てもらおう」


 鳥羽はそう言って、腰のホルダーから警棒を抜く。

 拝揖院の武器製造部門で作られる特殊な警棒だ。


「ふっ!」


 それを素早く振り抜く。


「"明星"!」   


 天平は憑霊術を発動し応戦。

 球体との高速位置シャッフルで撹乱し、攻撃を放つ。


「おっと!」


 鳥羽はそれを軽くいなす。


──流石に副看守長は伊達じゃないな……


「"しゅらくじゃく"」


「"もん"」


「"かつ"」

 

 他の三人も憑霊術を発動。

 それを見た鳥羽は素早く交代し距離を取る。


「こちらも本気で行こう! "樗蒲かりうち"」


 鳥羽も憑霊術を発動。

 上空に六つに区切られたルーレットホイールのような円盤が出現。

 さらに五人全員の頭部に積み重なったコインのような物も出現する。


「なんだこりゃあ?」


「"ちょぼいち"という賭博を知っているかな? 知らなくても問題はない。ルールは簡単だ」


 鳥羽は言いながら、上空にある円盤を指差す。


「あの円盤に一から六までの数字が書かれているだろう? 好きな場所に頭上のチップを賭けるんだ。そしてサイコロを回し、出た目の数字に賭けていた者の勝ちだ」


 天平たちは自分の頭上に積み上がっているコインを見上げる。 

 よく見ると、それぞれ色が違う。


「そのチップは私たちの霊力や体力、生命力といった力なる物すべてを物質化したものだ。全部で百枚ある。一度に描けられるのは最大で八枚。勝者は賭けた枚数×四のコインを得、敗者は賭けた分のチップを失う。ここまで良いかな?」


 鳥羽が四人を見る。

 天平たちがなにも言わないでいると、


「良いかと聞いているんだぁー!!!」


 突然、激昂。

 額に青筋を浮かべ、息を荒げる。


「良いけど」


 天平が引き気味に答えるとニッコリと笑い説明を続ける。


「つまりだ、最大八枚賭けて勝利した場合、三十二枚のチップを得ることが出来る。その分だけ力が増す。逆にそれ以外の者は賭けた分だけチップが減り、力も減る。それを繰り返してチップが尽きた者から脱落し、最後に残った一人が勝者だ」


「チップが尽きたらどうなるんだ?」


「無論、死ぬ。だが安心したまえ。君たち間世の住人には生も死もない。しばらく衰弱状態になるだけさ。そこを痛めつけて性根を叩き直してやろう」


「やってみろボケ!」


「では始めよう。好きな数字に最大八枚までの好きな数のチップを賭けたまえ。私は最後で良い」


 鳥羽がそう言うと、各々がチップを賭ける。

 天平は一、茉琳は三、英一は六、英二は二に賭ける。 

 チップは天平と英一は四枚、茉琳と英二は八枚を賭ける。

 そして最後に鳥羽が四番に八枚をベット。


「さぁ。第一ゲームだ」


 鳥羽が言うと上空から巨大なサイコロが落ちてくる。

 それは地面を跳ね、何度かコロコロと回転し、やがて止まる。

 上に出た目は──四。 


「私の勝ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 鳥羽が叫ぶ。

 鳥羽の頭上のチップが増える。

 一方の天平たちは賭けた分のチップを失う。


「がっ!?」


 鳥羽が一瞬で距離を詰め、天平の腹部に拳を叩き込む。


「どうした? 反応が鈍いぞ?」


 鳥羽は得たチップ分、力が向上し、天平は逆に失ったチップ分、力が低下している。

 先ほどまでより明らかに速くなった鳥羽の攻撃に、先ほどまでより反応速度の鈍くなった天平は対応が遅れてしまった。


「失せやがれ!」


「おっと」


 膝をつく天平に追撃をしようとする鳥羽を、英一が鞭を振るって追い払う。


「第二ゲームだ!」


 再び全員がチップを賭け、サイコロが回る。

 出た目は鳥羽の賭けた数字。


「また私の勝ちぃぃぃぃぃぃぃ!」


「テメェ! イカサマしてやがんだろ!」


「なんだと!? この私が……イカサマなんてするかぁ!」


「ごふっ!」


 二回目も八枚賭けた鳥羽は新たに三十二枚のチップを手に入れた。

 それにより先ほどまでよりもさらに速くなった。

 英二を反応も出来ない速度で蹴り飛ばす。


「自分がそういうことをする人間だからといって他人までそうだと考えるな!」


 鳥羽の言う通り、彼はイカサマはしていない。

 サイコロはなんの意思もなくただ転がっているだけ。

 術者である鳥羽本人にもコントロールは出来ない。

 つまるところ鳥羽渡という男はただひたすらに運の良い男なのだ。


「第三ゲームといこう!」


──くそ……マズイな……なんとかしないと。


 チップを賭けつつ、焦る天平。


──掛祀禍終は使えない。あの位置交換能力があれば勝てるのに……


 全員がチップを賭け終わり、サイコロが回る。

 出た目とそれぞれの賭けた数字を照らし合わせる。

 またもや鳥羽の勝利。


──くそっ!


 天平が円盤を睨む。

 すると、


──えっ?


 鳥羽のチップと茉琳のチップが入れ替わった。


「アタシの勝ち!」


「なにぃ!?」


 三度目も八枚賭けをしていた茉琳が三十二枚のチップを得る。


「あそこに賭けていたのは私だった筈だが……!?」


 英二と交戦していた鳥羽はチップの位置が入れ替わった瞬間を見ていない。

 訝しんではいるが、自分の記憶違いを疑っているようだ。


──出来た?


 一方の天平は今しがた起きた現象に驚いている。

 自分と球体以外の位置交換は掛祀禍終発動時にのみ使える能力の筈だが、掛祀禍終を発動していない今の状態でも使えたからだ。


──能力が向上してるのか? 良く分からないけど、これなら勝てる。


 第四ゲームが始まる。

 勝者はまたしても鳥羽。

 しかし天平が鳥羽のチップを茉琳のチップと入れ替える。

 

「見たぞ! 今! チップが入れ替わった! 貴様の仕業だなぁ! 帚木天平!」


 今回は円盤を注意深く見ていた鳥羽。

 自分のチップが茉琳と入れ替わったのを見て、天平のやった事だと確信。

 その天平を潰す為に、突撃。

 しかし、


「ぬおっ!」


 槍のようになった青い髪を突き出される。

 やったのはもちろん茉琳。


「邪魔だ!」


 茉琳を排除しようとする鳥羽だが、そこに串間兄弟も加勢し、手間取る。

 その間に第五ゲームが始まる。

 天平の位置交換によって勝者はまたしても茉琳。

 この時点で茉琳と鳥羽の保持チップ数が逆転。

 茉琳が激しい攻勢をかけ、串間兄弟もそれに続く。


「ぐっ……このっ……!」


 戦闘能力や技能では鳥羽は三人よりも遥かに上。

 この状況にあっても凌いでいるが、それも時間の問題だ。


──どうする!? 能力を解除するか!? いやしかし……


 ゲームが終了する前に中止すれば、変動した能力も元に戻る。

 しかしその場合、素の能力で万全の状態の四人を相手にしなければならない。

 その状況で勝てるかは分からない。

 そんなふうに悩んでいるうちに第六ゲームが始まる。

 結果は言うまでもなく茉琳の勝ち。


「終わりだ!」


 茉琳が髪を拳状に編み、猛スピードで放つ。

 警棒を突き出してガードしようとする鳥羽だが、


「ぐ……おおおおおおおおおおおおっ!?」


 完全に力負けし、殴り飛ばされた。

 凄まじい勢いで吹き飛び、遥か遠くに消えていった。

 それから数秒して円盤とチップが消えて、変動した能力も元に戻る。

 天平は溜息を吐いて、地面に座り込む。

 位置交換能力の発動にはかなりの集中力を要したようで、疲労している。


「よし。さっさと行くよ」


 茉琳が鳥羽の乗ってきた四輪バギーに跨る。


「おい! なんでテメェが乗るんだよ!」


「アタシの力で勝ったんだから当然でしょ!」


「ティン平の力だろ!」


 またもや言い争いを始める二人を見て、天平と英一は溜息を吐いた。



            ☆



「看守長。鳥羽副看守長が帚木天平と他三名の囚人に返り討ちにあったようです」


「なに?」


「鳥羽副看守長の話だと外縁部を目指しているようです」


──やはり高嶺喬示からアレの話を聞いたのか。


 廊下で部下からの報告を受け、考え込む是永。


「追手を出しますか?」


「放っておけ。外縁部には奴ら(・・)がいるんだ。なにも出来はしない」


「ですね」


 部下は報告を終え、軽く敬礼をして去る。

 

「無駄なことをする」


 是永は歩きながら、嘲笑を浮かべる。

 永久封殺監獄の外縁部には特別な戦力がいる。

 天平たちが目的を達することは無いと確信しているのだ。

 しかし、彼は知らない。

 ここ異却囹にまた別の脅威が迫っていることを。


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