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第七十六話『永久封殺監獄』

 エレベーターが地下三階につき扉が開く。

 その先に広がるのは大地。

 視線を上げれば夕暮れの空が広がっている。


「ここ……間世?」


 刑務官に促されエレベーターから天平は周囲を見渡しながら呟く。


「特殊な結界で地上の間世と繋がってんのさ。つまり島の間世そのものが第三階層だ」


「おい」


「別に良いだろ。このくらい」


 たしなめる同僚にそう答えて男は天平の拘束衣を緩める。


「分かってると思うが、もうカプセルは胃に溶けてる。なにをしようが、ここからは出られないぜ」


「おい。もう行くぞ」


「分かってるよ」  


 二人の刑務官が去る。

 残されたのは天平と刑務官の一人が持っていたトランクケース。

 それを開くと拘束衣を着る前に着ていた制服が入っていた。

 天平は拘束衣からそれに着替える。


「さてと」


 腰に手を当てて周囲を見渡す。

 遠くの方に城壁のような物が見える。

 それは天平のいる場所をほぼ中心にして一帯を囲んでいる。


「ここが内縁部か。あの城壁の外が外縁部だよな」


 天平は喬示から異却囹最下層の永久封殺監獄と呼ばれるこの場所についての知識を得ている。


「まずは外縁部を目指さないと」


 その知識を頼りに行動を開始する。


「それにしても、完全に野放しなんだな〜。どうせ間世からは出られないからなんだろうけど」


 周囲を見渡しながらひとりごちる。

 天平の言う通り、周りには看守はおらず、とうぜん監視カメラの類もない。

 囚人である天平は完全に自由の身となっている。 

 とはいえ、既に天平の魂は間世に囚われている。

 試しに両手を叩いてみるが、やはり戻れない。


「行くしかないな」


 天平はそう言って遠くに見える城壁を目指して歩き出す。


「しっかし……」


 歩きながら周りを見渡す。


「みんな生気がないな」


 周りには他の囚人たちもいる。

 彼らは一様に地面に座り込み、微動だにしない。

 口は半開きで目も虚ろだ。


「まぁ、こんな場所にずっといればそうなるか……」


 周囲を城壁に囲われた荒地。

 とうぜん暇を潰せる娯楽など存在しない。

 そんな場所で死ぬことすら出来ずに終わりのない時を過ごすことになる。

 廃人のようになってしまっても無理はないだろう。


「ん?」


 しばらく歩くと、男女の言い争うような声が聞こえた。

 天平は小走りで声の聞こえた方へ向かう。

 そこにいたのは一人の少女と、二人組の男。

 少女は水色の髪に露出の多い服装をしていて、天平と同じ年齢くらいに見える。

 もう一方の二人組の男。

 こちらは天平も知る人物たちであった。


くし兄弟?」


 そこにいたのは天平が以前に戦った串間英二と、その兄である串間英一。

 二人は蛇蝎という反社会的組織を率いていたが、天平と梓真に敗北しここに投獄されていた。


「そりゃいるか……なにしてるんだ?」


 離れた位置から様子見をする天平。

 しばらくすると英二が憑霊術を発動。

 英二の憑霊は"かつ"と言い、炎で象られた蠍の鋏と尾を生やす能力を持つ。 

 その能力を発動して燃える蠍となった英二が水色の髪をした少女へ襲いかかる。


「おいおい!」


 天平はたまらず飛び出し、英二に背後から飛び蹴りを浴びせた。


「ぐえっ!」


「英二! なんだテメェは!?」


 英一が天平に鞭を振るう。

 天平はそれをバックステップで回避。


「武器の持ち込みも許してるのか?」


「テメェは……ティン平!」


 立ち上がった英二が天平を見て叫ぶ。


「その呼び方やめろよ……」


 げんなりした表情になる天平。


「知り合いか?」


「俺をここ送りにしたガキだよ」


「なに? コイツが?」


「なんでテメェがここにいやがんだ?」


「色々あるんだよ……」


「なにかやらかしたか? ザマアねえな!」


「うるさいな……。それよりお前ら、女の子ひとり相手になにしてんだ?」


「向こうからケンカ吹っかけて来たんだよ」


「はあ? そんな訳……」


「ねぇー」


 少女の声が響く。

 天平は視線をそちらに向ける。


「アンタもソイツらの仲間? んじゃ一緒にしばくから」


「へ? いや……」


「"しゅらくじゃく"」


 天平の返答を聞きもせず、少女が憑霊術を発動する。

 顎のラインより上に切り揃えられた水色の髪が地面につく程に伸びる。

 次の瞬間にはその髪の毛が一斉に天平に襲いかかる。


「うおっ!?」


 いくつかの束に分かれて襲い来る髪を避ける天平。

 

「ちょっと待って! 仲間じゃないし、君に危害を加える気もないよ!」


「そんなのカンケーないし! 男はとりあえず一回シメる!」


「なんでだよ!?」


「あんたバカァ? 男ばっかりの空間にアタシみたいな美少女が一人でいたらどうなるか想像できないのか?」


「美少女って自分で言うか……?」


 少女の攻撃を捌きながらツッコむ天平。


「男なんて女を性的に搾取する事しか頭にないんだから! 変な気起こさないように痛めつけて上下関係分からせとくんだよ!」


「そんな無茶苦茶な……うおっ!?」


 右手首を髪の毛に絡め取られる。


「しまっ……うおおおおおおおおっ!」


 そのまま高速で振り回され、岩石に叩きつけられる。


「いって……ん?」


 岩石に叩きつけられ傷を負った天平。

 しかし、その傷があっという間に塞がり癒える。


──そうか。今の俺は間世の住人。生者と死者の間にいるみたいなものなんだ。なら……。


 天平は右手で銃の形を作り、少女に狙いを定める。


「"明星・射光"」


 レーザービームを発射。

 正確に少女の右肩を射抜く。


「いっつ!」


 痛みに悶絶し、衝撃で尻もちをつく少女。

 傷はすぐに癒えるが、天平はその隙を見逃さず素早く近づき、少女に覆いかぶさる。


「このっ……やっぱり身体が目的かっ!」


「違うよ! とりあえずおとなしくしてくれ!」


「はーなーせー!」


「俺はここを抜け出したいだけだ。君も男だらけの空間がどうとか言ってたよな。一緒に出よう。協力してくれよ」

 

「ハァ? 出る方法なんてある訳ないじゃん。アタシたちもう人間じゃないんだぞ」


「あるんだよ。俺は知ってる」


 天平のその言葉に少女が動きを止める。


「おい。その話、俺らにも聞かせろ」


 そこへ串間兄弟も近づく。


「良いけど、この子になにもするなよ」


「するなもなにも、仕掛けてきたのはそのガキだぞ!」


「そうなのか?」


 天平の問いに少女は舌を出す。

 天平は溜息を吐いて少女から離れ、手を差し伸べる。


「俺は帚木天平。君は?」


「……おん りん。茉琳でいい」


「茉琳ちゃんね」


「ちゃん付けキモ」


「…………………」


「それで? ここから出る方法ってのは?」


「あ、ああ……」


 英一に促され、天平が話を始める。


「あの城壁の向こうに外縁部って領域があるよな? その何処かに"禊の池"って場所があるらしいんだ」


「"禊の池"?」


「そこで水浴びをして身体を清めれば現世に戻れるようになるらしい」


「らしいらしいって本当かよ」


「隊長から聞いた話だ」


「隊長ってのは禍対とかいうとこのか。まぁ賭けてみる価値はあるな。どのみちここにいても干上がるだけだ」


「四人で協力して"禊の池"を目指そう。茉琳もそれで良いよな?」 


 天平の言葉に茉琳は鼻を鳴らす。


「変な真似したらブチのめすからな」


「誰がするかよ。お前みてえな色気のねえガキによ」


「んだとぉ!?」


「んだコラ!」


「やめねえかお前ら!」


 取っ組み合いをしだす茉琳と英二。

 それを怒鳴りつける英一。

 先の思いやられる急造チームの結成に天平は溜息を吐いた。

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