終章 chapter01
治と浩志の無罪放免から5日、秋分の日を迎えていた。週明けから2人は出勤となる。無罪の報告のため会社に行った彼らに「もっと休んでいては」と皆は言ったが、治たちの答えは同じだった。
「古いタイプの技術屋なんで、働かないと落ち着かないんだ。それに、付き合いの途切れた取引先に挨拶回りをしないと」
現実問題として木賊工業の経営は、かなり危ういものになっていた。経営陣の返答に一番安心したのは、経理担当課長だった。
「お父さん、じいちゃん。今年はトクサ祭りをしようと思うんだ」
「ついこないだまで裁判だったのに? 社員のみんなにも迷惑をかけたんだし、そんな……無理じゃないか?」
父と祖父が難色を示すのは分かっていた。それでも木賊工業の若き広報担当者はこの1週間、現場の篠原や事務員の植田奈緒美たちに根回しを済ませていたのだ。
「でも社員の皆さん、乗り気なんだよ」
「いや、しかし……。田中さんは何と?」
「下がった企業価値を高めるには、体力と勢いのあるところを見せていきたい、って。もうプレスリリースも作ってくれてるんだ」
裁判費用捻出のため、田中優子との契約は停止していたが、治と浩志の復帰を機に、木賊工業は再びコンサルタントとして優子を迎えることになっていた。
「あの人にも迷惑を掛けてしまったなあ、うちのコンサルについてくれてたんだから」
「逆に何度も謝られたんだよ。『輸出補助金の申請書も捜査資料に使われたかもしれない』『高い技術力をアピールしたことが無用な詮索を生んでしまった』って」
「それがあの人の仕事なんだし、うちを社員のように内側から支えてくれていた。迷惑かけたのはこっちなんだよなあ」
「その人がトクサ祭りをやるべきって言ってくれてるんだから、従おうよ」
準備期間は僅かに3週間。「自分からも皆の意見を聞いてみるよ」というのが、明日から現場復帰する社長の答えだった。




