表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/83

第十一章 祝福 chapter06

「主文 被告人は無罪」

彩花はこの1年半で、何度泣いただろう。最初の一文が耳に飛び込んで来た時、すでに心は一杯になっていた。ひかるが裁判長の言葉を要約しながらメモに書き込む。

「本件は、被告人が令和〇年11月頃、機微技術国際流通及び国家安全保障に関する管理法、以下『MTS法』と言う、に基づき輸出が規制されている機微技術を経済産業省の許可なく国内の商社を通じてチェコ等国外に輸出したとして、同法違反に問われた事案である」


「争点は、当該技術がMTS法に掲げる規制対象に該当するか否か、また、供述調書に任意性はあるか、にある。証拠調べの結果、当該技術は神経ガス生成の機構としての専用性を有するものではなく、ある種の改良を加えなければ軍事転用可能性の現実的可能性は認め難い。また、供述調書にも任意性は認められない」


「したがって、被告人の行為がMTS法に違反するとは認められず、犯罪の証明がない。

よって、刑事訴訟法第336条により、被告人を無罪とする」


「なお、本判決に不服がある場合は、判決の言渡しの日の翌日から起算して14日以内に控訴の申立てをすることができますので、念のため申し添えておきます」


「以上で本件の審理は終了します。閉廷」


検察側は即日、控訴断念を発表。ここに木賊事件は完全終了となった。

判決後、裁判所から釈放指揮書が東京拘置所に送られた。これをもって、治は正式に釈放される。9月18日午後、父と娘、祖父は、気持ちをぶつけ合うように抱き合った。東京拘置所の前に、笑顔の花が咲いた。逮捕から数えて557日ぶりのことである。


「さ、帰ろう」

家族3人が抱き合う姿を目に収め、九印のボス弁・葉桜は、くる、と背を向けた。黒く長いシャツの裾が風に遊ぶ。葉桜の声は、こういうときはいつも明るい。

「そうですね、今日は家族水入らずで」

裁判経験者のひかるには分かっていた。判決が出たとて〝普通〟の日々を取り戻すことがどれだけ難しいかを。今回は無罪判決が出た。それはニュースになる。しかし「木賊事件は濡れ衣だった」と拡散してくれる者は、どれほどいるだろう。

人々の興味はすでに他のものへと移っているのだ。昨日も今日も、必ず明日も、熱い事件、苦い出来事が、人々の意識に飛び込んでいく。そう、人と人との間には、日々、新しい澱が降り積もっているのだ。

それでも、区切りは必要だ。再び歩き始めるためには、何か儀式があるといい。治と浩志が勝ち取った「無罪判決」も、その儀式だ。ひかるは木賊工業の再興を信じている。


ひかるが葉桜の後ろをついていく。つい、思いが小さく声になる。

「本人は怒るかもしれないけど、やっぱりでっかい背中だな」

「聞こえたんだけど……。あんた、給料下げるよ」

「労働者に法の加護を! 正義の裁きを!」

「あら、正義ってのは人それぞれ違うのよ」

姉妹のように帰っていく女2人。人は人に支えられる、それを知っているのが彼女たちである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ