小話:親離れ
「最近、あの子は何をしているのかしら……」
突然、父親の家業を継ぐと言って一人暮らしを始めたっきり、その獲物たちを送るばかりで文の一つもない息子を、彼女は心配していた。彼女の気がかりはもう一人の息子のこともあった。本当の親ではないとはいえ、息子同然に暮らしてきた彼も、何も言わずに家を飛び出していってしまった。息子が夫の家業を継いで狩人になったのはそれが分かってすぐだった。もちろん親として応援はしているが、まだ若い彼らがいきなりひとり立ちを始めていくことに、時代の変化とそれについて行けていない自分の心を歯痒く思った。夫は必要なことは教えたから大丈夫だと言うが、心配しないのは違う。しかし、何かしら行動を起こすことも違うと感じていた。
二人の息子がそれぞれの道を歩み始めて約一年。狩人の息子から届いたものはいつもの獲物ではなく、手紙の封筒であった。今まで一緒に過ごしてきた時すら書いたことも無かったのにと驚き、夫も呼んでその手紙の内容を見た。そこには、沢山の出来事が書かれていた。
勇者を名乗る人物が現れたこと。勇者パーティに誘われたこと。【生活魔法】を褒められたこと。強力な装備を手に入れるために、ダンジョンに一人で行く準備をしたこと。特訓で自分が殺される幻覚を見せられたこと。ダンジョンを攻略するために魔生物を錬成して食べたこと。ダンジョンの中での攻防。新しい装備が手に入ったこと。この手紙を書いた翌日に、旅に出ること。そして、最後の手紙の下に小さく『ボクが責任を持って、いつか成長しているレネードを、親であるお二人にお見せします。
今代勇者 イアン・ライレス より』と書かれていた。
何通かの手紙になっていることから、少しずつ書きためて、一気に送ってきたのだろう。小さなこの文章は、勇者様が書き加えたのだろうが、レネードはこんな文章を人に加えさせるだろうか。もしかしたら、こっそり書いたのかもしれない。これだけで勇者様の人柄が少し見えた気がした。丁寧で、硬すぎない人なのだろう。今のレネードには振り回してくれる人がいる方がいい。出会ったこともない人を信頼するのはどうかと思いつつも、レネードとの信頼関係がこの手紙で見えてきて、大丈夫だと思えた。
「やれやれ、また俺が狩人として戻るのか。継ぐって言ったくせに勝手なやつだ」
夫はそう言うが、顔は笑っている。この人は私と同じ気持ちだということがよく分かった。
「なら、しばらくは向こうで過ごす?ソウ」
「そうしようか。レミ」
早速荷造りを始め、あの小屋へ行く準備をする。我が子二人への心配は募るばかりだが、きっと大丈夫だと言い聞かせた。
イアン・ライレス
イアンのフルネーム。ライレスは勇者の家系。




