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血で汚れた手に救いを  作者: 森人
旅路、新たな出会いへ
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第十八話:箱はどんなものも便利である

第二章の始まり!しばらくは森を進んでいきます!中々新しい出会いを書けないのですが、この2人の会話は書いてて結構楽しいです。

ふと、前方にある森の雰囲気が変わっていることが分かった。


「気配が変わっている。ここはどういう場所なんだ?」


イアンはサッと地図を見て答える。


「ここはさっきと違って、魔獣の溜まり場になっているね」


「魔獣の溜まり場……ダンジョンに向かう道中と似ているな」


オレはダンジョン攻略のために家からダンジョンまでの道のりを思い出していた。前回は通り抜けるだけで良かったが、今回はしっかり倒しながら行かないといけない。あの時ですら厄介だったのだから、今回は相当苦しい状況になると分かった。


「あれは本当に小規模な部類だったけど。今回は本当に数が多いよ。対処に苦労すると思う」


「つまり……()()の出番ということだな?」


オレが示したのはイアンの言う『禁忌』の一つ。一度開いてしまえば周囲を永遠の眠りへ誘う、『永眠の禁忌(ソメイユ・パンドラ)』。


「なんでそんなに嬉しそうなのさ……」


「オレの判断がコレを見つけ出したと思うと、オレはイアンを出し抜いたんだと思えるからな」


あのときオレがこの箱に惹かれたのは偶然じゃない。そう理解しながらも、まるで全知全能のようなイアンを本気で驚かせたと思うと、どうしても嬉しさがこみ上げてくる。


「そんな理由……?ちょっと不安だなあ。それに操られたりしてるんじゃない?」


「それは分からない。だが、今の最適解なのは間違いない。というわけで開けるぞ」


やれやれとでも言うように、イアンは呆れた顔をしながらも、止めはせず、光の弓を携えて進んでいった。


「『永眠の禁忌(えいみんのきんき)』」


そう口にすると箱が開き、薄水色の霧が溢れ出し、拡がっていった。襲いかかってくる魔獣を一度払いのければ魔獣は眠って動かなくなり、魔力結晶を残して消えていく。しばらくそうしていると、魔獣が向かってくることもなくなり、所々に魔力結晶が置かれているところや、魔獣が消失していくのが見えた。


「おー、どんどん倒れていくね」


「そういえば、魔力結晶は回収するのか?」


「そうだね。俺の『プライベートボックス』に入れるから、全部拾っちゃって」


「『プライベートボックス』?なんだそれは」


魔力結晶を拾い集めながらオレはイアンに問いかける。


「自分だけが使える空間みたいなものだよ。こんなふうに、使いたいと念じるだけでその空間に物を入れたり、出したりできる便利なスキルさ」


そう言ってイアンは何もない空間に腕を出し入れした。


「オレには教えてくれないのか?」


「これのスキルシートは今手元に無いんだ。それに魔力消費もきちんとするから、今のレネードには扱いきれないと思うよ」


「オレの魔力量はそんなに低くないぞ。限界もちゃんと分かってる」


だから教えろ、と、オレは言外の圧をかけるようにイアンを睨みつける。しかしイアンはあっけらかんとして言い放つ。


「それは知ってるよ。でも、今覚えてもリターンがあんまり無いでしょ?レネードは元々自分の邪魔にならない程度の荷物で充分なんだから」


「それはそうだが……」


その言い分は、覚えさせない言い訳にも聞こえた。


「ま、どうしてもっていうなら、もう一個装備を手に入れるときになったら教えてあげようかな」


なぜそうまでして教えたくないのかという疑問が顔に出ていたのか、イアンは妥協案を出してくる。しかし、それはオレからすれば悪夢の再来と言っていい。


「まさかまた一人で事前情報無しのダンジョン攻略をさせるつもりか?」


「そこはレネード次第。まあ新しい装備は当分先だろうね。その装備にはまだ伸び代がたくさんある」


しかしこう言っているということは、もう一つ装備を用意するというのは決定事項なのだろう。イアンの場合、それをまた固有装備にしようとか言ってきそうだと心の中で戦慄する。


「……まあ、今はそれで納得しておいてやる」


今はこういうしかなかった。『プライベートボックス』も、【生活魔法】に似ている気がしたから知りたかったが。


「ありがと。それにしてもその箱、思った以上に便利だね」


イアンが感心したように『禁忌』見つめる。あの時の警戒した目は一体どこに行ったのやら。だが悪い気はしなかった。


「魔獣を安全かつ大量に倒せているからな。勢いが衰える様子もないし、ただただ強力な広範囲攻撃をばら撒き続ける便利な箱だ。そういえば『プライベートボックス』も箱の部類なのか……やはり箱は万能な道具だな」


「いやそこまで飛躍はしないでしょ……一般的な箱にはこんな能力ないんだよ?」


オレの発言にいきなりイアンはオレを訝しげに見つめる。


(なんだその人を心配しているような目は)


だがオレはそれを無視して話し続ける。


「だが箱という形状や用途が様々な能力に合っていることは確かだろう?つまり箱は万能ということだ」


「んな無茶苦茶な……というかレネード、なんでそんなに箱を高く評価してるんだい?」


やはりイアンも気になるのか箱の魅力が。しっかり語ってやらないといけないな。


「それはもちろん、便利だからに決まっているだろう。物をコンパクトに収納・分類するのは、家庭において重要だ。プライベートの隠匿にも開示にも役立つ。なにより、わくわくするだろう?何をどう入れようか、どんな箱にしようか。インテリアとしても使える。箱には夢と希望が詰まっているんだ。宝箱なんかはまさにそれじゃないか」


「箱に関してここまで熱く語られるとは思ってもいなかったよ……さてと、今どれくらい進んでるかな」


自分から聞いてきたくせに無視してきやがったコイツ。神は勇者の人材選びを間違えたんじゃないかと思いつつも、道のりがどれほどかはオレも気になっていたため、地図を覗き見た。


「この魔具は時間も見ることができるのか」


以前使ったときはわからなかった機能があることに驚いた。現在の時間を見れる地図とはなんなんだと思ったが、魔具に関してはオレは無知であり、持っているのが勇者というのもあってその疑問は胸の内に秘めることになった。


「前使ったときに気づかなかった?まあ、でかでかとは表示されてないけれど」


「地図に描かれた道筋を見るのに必死だったからな……そんな余裕はなかった」


「そっか。」とだけイアンは言って、改めて時間と地図を確認する。


「そろそろお昼だし、ちょうどいい時間になったら休憩にしようか」


地図を見て何度か頷いたあと、オレに向かってイアンはこう言った。オレはその発言にかなり不安になった。


「魔獣の巣窟の中で休憩するのか?危ないだろう。この箱も絶対というわけではないだろうに」


オレは魔獣の巣の近くを避けていても魔獣からの襲撃があった夜を思い出した。魔獣の巣窟でそれと同じような休み方は絶対にできない。かと言って、この箱に頼りきりで休むことはしたくない。


「そこは大丈夫。“絶対”を見せてあげるから」


そう言うイアンはかつてないほど自信ありげで、少し誇らしげにも見えた。

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