第十七話:旅の始まり、その一歩
第一章、終了です!長くなりましたが、ついに旅をするレネードとイアンを書けると思うとわくわくしています。どうかこれからも見守ってください!
〜翌日〜
「さあ、準備はいいかい?」
「ああ、備えられるものは全て備えた」
遂に、旅が始まる。オレは自然と心臓の鼓動が速まっていることが分かった。緊張か、興奮か、不安か。胸の高まりは、収まりそうにない。
「なら行こうか!新生勇者パーティ、初めての第一歩だ!」
「気合いが入ってるな」
「そりゃあもう!旅の始まりだもの!ワクワクが止まらないでしょ?」
イアンはかつてなく高揚していた。よっぽど旅に出られることが嬉しいのだろう。オレにも旅への期待はある。しかし、その入り口はいつも狩りのために入る森だ。あまり気を張らなくていいと思えた。
「それはそうだが……しばらくはオレの知っている森と変わらないはずだからな、落ち着いて行くつもりだ」
それを聞いてイアンはピタッと固まった。
「……あー、そうだといいね。うん」
「?歯切れが悪いな、どうしたんだ」
イアンの様子が明らかに変だ。なにかあるのだろうか。
「えっと、先に謝っとくよ、ごめん」
「は?それは、どういう」
「じゃあ、行くよ!」
「はっ、まさか」
言い終わる前にイアンはオレを掴み、
キィンッ
光速で森に突っ込んだ。
「っとぉ。よし、じゃあここからは歩いて進もう!」
「…まえ、」
「……えっと、レネード大丈夫?」
ブチギレていい。本気でそう思った。
「イアンっ、お前っ!!これは一体、どういうことだっっっ!!!」
怒りが、オレのもう一つの顔を解放させた。
「あー、レネード、一回落ち着いて…」
「落ち着いてられるかっっ!!」
もう止められなかった。イアンの言葉全てはオレの怒りを逆なでするばかりだ。
「おまっ、光速は使わねえみたいな話だったろうがっっ!!昨日の説明はどういうことだこのホラ吹き勇者様がぁっっ!!」
「ごめんって、ちょっとこれにはワケが」
「人の初めての一歩台無しにする奴があるかこの外道勇者っ!!ふざけんじゃねえぞコラァ゙っ!!」
いつものオレなら到底出てこないような暴言と言い回しが飛び出している。だがもう止まれない。そう思った。
「お願い、話聞いて」
しかし、イアンがそう言った途端、オレの目をくらませるように一瞬光を放った。
「っ!……ちっ」
溢れる怒りが一瞬、軟化する。それは流石にオレも言い過ぎたと思わせるには充分だった。イアンはオレの怒りがぶり返す前にあたふたと話し始める。
「えっとね、実はこの森さ、普通に歩いて抜けようと思ったら半年はかかる」
「で?」
「だから、一ヶ月っていうのは俺の短距離光速移動込みでの計算で、」
「だから?」
「その、つまり……」
そこで一気に歯切れが悪くなったのを見ると、イアンはこのことが自分の非でしかないことを理解しているのだろう。
「つまりお前は部分的にしか光速を使わないというのを省略して話したあげく、通常の踏破距離の説明すら省いていたと」
「う……すいません」
自分で言葉にしてみると、怒りはまた湧き上がってくる。怒鳴り散らかす前にこの場を離れるべきだと思った。
「帰る」
「まっ……待って!!」
イアンは縋るようにオレの装備を引っ張る。こうなったら全部言い切ってしまうしかない。
「こんな説明不足のまま人への配慮もないようなやつと旅なんかできるか!!オレは帰る!!」
「お願い行かないでマジでごめん次からはちゃんと言うから許してお願い」
驚くほど早口でイアンは謝罪をオレに言い渡す。こうも下手に出られて怒り切れるほど、オレは怒りっぽくはなかった。
「なんで踏み出す前に言わなかった」
「……」
「言え」
言いづらそうにするイアンの胸ぐらを無理矢理掴む。この方法はさっさと聞き出したいときに有効だ。ふと母さんを襲いに来たという奴らにもこうしたことを思い出した。
(まさか、勇者にもすることになるとはな)
「踏み出す一歩は大きい方がいいかなと」
それはなんとも実にくだらなく、幼稚な言い分であった。だが嘘は付いていなかった。
「……っんなくだらないことが理由だとは思いたくなかったな……」
本当にそう思っていたと分かると、掴んでいた手も力が抜けてしまう。それと同時にこの旅は必要なんだと思い出し、それと同時に怒りも収まった。
「はぁっ、もういい。で、どっちに行くんだ」
「本当にごめん、ありがとう。地図によると……こっちだね」
「この奥には何がある」
今度こそ説明不足は許さない。間髪入れずに詳細を話すよう促した。
「動物が多いね。数も種類も。いろんな巣が点々と並んでる。まあ、無駄に足音立てなかったら大丈夫かな」
「さっきオレが叫んでたのは大丈夫なのか」
知覚能力の高い動物たちがオレたちを警戒するんじゃないかとオレは思った。
「それは大丈夫だね。近くにある巣の持ち主は活動範囲も広くないよ……それにしても、レネードってブチギレると性格変わるんだね……」
「あ゙ぁ?」
一瞬また口調が荒くなっていることは分かった。先ほどの余韻か、はたまた人に言われたのが気に食わなかったのかはオレ自身もわからなかった。どっちもと言えばそれまでだが。
「怒んないでぇっ。ほら、いつもは冷静沈着って感じで、あんな口調荒れ荒れじゃないじゃん?別人かと思うくらい違うかったよ」
「元はといえばお前のせいだがな」
「ご、ごめぇん」
イアンの情けなく謝る声を聞いて、オレは思った。コイツ、人のこと言えないだろ。
「別人といえばイアンもずいぶんと前より印象が変わったぞ」
「えっ、そう?」
意外そうにイアンは聞き返してくる。自覚が無いことにオレは心中で驚いていた。
「底のしれない明るいエリートスパルタ勇者様かと思えば、急に優しくなるところが気持ち悪いし、さっきなんて子どもの戯れ言を聞いたかと思ったぞ」
「うっ……あんまり思い出さないで」
怒りの感情が復帰するかもしれないと恐れたのか、イアンはそう言った。まあ「帰る」ともオレは言ったししょうがないか。しかし…
「まったく、本当に心配だ。こんな勇者で皆は安心できるのか?」
「そこは大丈夫だよ。俺には実力があるし、会話も得意だから」
自慢げにそう語っているが、オレには子供の口約束と同じようなもののように感じた。
「そうか、化けの皮は剥がれないようにしろ」
「化けの皮って……」
そんな会話を交えつつ、しばらく森の中を歩いていった。




