第六巻 扉と出場記録抄
鳴ったら出る 鳴らんでも出る
出たら誰かが 待っている
── 第七支部 一階の壁書き
間に合わなかったぶんを、誰かがまだ数えている。
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> 【第七支部 出場記録抄 第六号】
> 巻 ── 第六。
> 期間 ── 十二月から、三月まで。
> 隊員 ── 六名。
> 回線 ── 八。
> 未着 累計 ── 一。
> 以下、記録を開く。
◆ ここまでのこと(読まなくても本編は読めます)
災いが、作られている。作った側は殺しに来ない。声だけを消していく。
火は見えている。人は叫んでいる。それでも、掛かってくる電話は一本しかない。
だから、呼べた人がいるかどうかで、全部が決まる。
鳴瀬市を受け持つのは、特別災害対策機構〈サイレン〉第七支部。
受信回線は八本しかない。隊員が変身すると、その本数が減る。
強くなることと、街が呼べなくなることが、同じ数字で動く。
春から始まって、二度目の秋が終わった。二年と八か月が過ぎている。
一年目の冬の終わりに、行けなかった件が一つ出た。
丘の上から掛かった電話が、四分十二秒、繋がらないまま切れた。
その一件の第一声の欄には、何も書かれていない。線が五本だけ引いてある。
二年目の夏に、隊員が一人増えた。
増えた一人は、三年前にこの隊へ助けられた側になる。
◆ 言葉
・覚知 各話が始まる時刻。分まで書いて、秒は書かない
・第一声 通報者が最初に言った言葉。各話の題になっている
・所要 覚知から着くまでの時間。短ければよいものではない
・保留 待たせてしまった通報。締めに秒数まで印字する
・未着 行けなかった件。減らない。今は一になっている
・回線
八本しかない。変身で一人一本、重装で二本、合体でもう一本ふさがる。
ふさがった分だけ、市民が繋がらなくなる。毎回ゼロに戻る。
六人目だけ増やせる。増やすと言った回だけになる。
・連結
二人で一本。一人では使えない。片方が動くと、もう片方も動く。
街に回線を返せる、ただ一つの形になる。
・トリアージ
倒す前に、腕輪が敵に色を出す。黒は倒す。黄は待つ。緑は逃がす。
赤は中に人がいて、必殺を撃てない。
色が出ない日が一度あった。その日は、隊員が自分で決めた。
・決めの型
変身のあと、右手を耳の高さに上げて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。
街の側でも、これをやる人が出はじめた。誰も教えていない。
◆ 空欄
指令の用紙には、書く欄が決まっている。欄が無いものは、書けない。
呼ばなかった人の欄も、繋がる場所まで何分歩いたかを書く欄も、無い。
欄の外にあるものを、一人だけ、白い付箋で数えている人がいる。
◆ 六人の隊員
・火群 迅 二十八歳 サイレンレッド
扉の前で、手の甲を一度だけ当てて熱を見る。主語を言わない。
自分の怪我に気付かない。「行くぞ。先に着く」
・逢坂 澪 三十二歳 サイレンブルー
考えている間は左手で右耳を塞ぐ。下ろした時には、もう答えが出ている。
付箋に日付と場所と件数しか書かない。「座標、出た」
・灰谷 蒼汰 二十五歳 サイレンイエロー
最年少。索を三巻き持って歩く。雨の日は一巻き多い。
投げたものは必ず回収する。「上、任せろ」
・寺尾 剛 四十六歳 サイレングリーン
最年長。人数分より一つ多く湯を出す。余った一つは自分が飲む。
打ち込んだ柱を抜かない。「まあ待て。俺が支える」
・七尾 ひかり(ななお ひかり) 三十歳 サイレンピンク
現場では走らない。押している人の手が止まるからになる。
息を整えるのに七つ数える。長さを三年変えていない。「息、返すよ」
・桐島 奏 十八歳 サイレンゴールド
三年前、この隊に助けられた側になる。敬語を崩さない。
要救助者には、まず名前を訊く。誰かの前に立った回を、自分で数えている。
・サイレンアンサー
第七支部の応答系。戦わない。合体しない。
変身の音声も、判定も、記録の読み上げも、この声になる。
返事の前に、必ず一度、上を向く。「わかりません」と言える。何度も言う。
◆ 支部の人々
・久遠寺 修司 五十七歳 第七支部長
短く訊く。感想を言わない。行けなかった件の数を掲示板から下ろさない。
・尾花 律子 四十五歳 指令室・受信担当
場所を訊く。名前を訊く。切らないでくださいと言う。
急ぎでない用は代表番号、急ぐ時は百十九番。分けて言い続けている。
現場には出ない。六人は、この人に礼を言わない。
・宮ヶ瀬 佳代 三十九歳 整備班長
発進の合図を出す。新しい道具は、全部この人の手から出る。降ってはこない。
毎回、作れなかったものを一つ言う。
・戸倉/梅木/佐波/速水/須永 整備班と通信
互いを、本人のいないところでだけ認める。
「本人に言え」「言いません」で、いつも終わる。
◆ 街の人
・武藤 徳三 旧市街のとうふ屋
毎朝七時十分に置いていく。置いていく数は、季節で変わる。
・梶本 千代 丘の上三丁目
呼べば来ることを知っている。それでも、一度も呼んでいない。
・室谷 山側の郵便配達。繋がる場所を知っている
いくつあるかは、まだ誰にも言っていない。
◆ 変身と名乗り
左手首の蓋を跳ね上げる。「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
六人目だけ、道具が違う。掌に載る大きさで、上に電話と同じ円盤が付いている。
ダイヤルを一・一・九と回す。「急報 ── 通報!」
> サイレン ── 着信。〈桐島 奏〉。回線、増設。
水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
名を持っていく、影の現場 ─── サイレンゴールド!
特別災害対策機構、第七支部 ──
呼ばれたら、鳴らして、行く!
急報戦隊、サイレンジャー!
名乗るのは装備になる。強さは名乗らない。締めに所属を言う。
この紙には、あと一行分の余白がある。
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◆ 道具と機体
共通の武器〈サイレンギア〉は、柄を半回転させると形が変わる。
筒先で流す。斧で割る。鉤で引く。個人の武器は六つ。
六人目の杖にだけ三つの形がある。〈聴〉と〈盾〉と〈呼〉。
五つを繋ぐと放水砲になる。「五器、連結!」台座を置くのは、支える人からになる。
六人目は加わらない。系統が違う。
一号ファイヤー、二号レスキュー、三号クレーン、四号メディック、五号ウイング。
合体する前に、消防車として働く。発進の合図は整備班が出す。
「五機、連結!」「特災合体 ── サイレンオー!」
傷は持ち越す。軽い傷は次の日、中くらいは三日、大きい傷は八日。
同時に直せるのは二機まで。あふれた分は、順番を待つ側の欄へ移される。
◆ 向こう側
・災厄機関〈サイレンス〉 災いを作る。そこから出る声だけを消す
・ダンマリ 黒い戦闘員。顔に送話口が無い。消える時も何も言わない
・禍体 災いが形を取ったもの。人の形は取らない
中に人がいることがある。何故いるのかは、誰も説明しない
・自力 素手で戦う。自分の怪我を、自分で手当てする。
呼べるのに呼ばない。「手は、自分で巻け」
・遠慮 傘を差している。顔は見えない。
雨の日に人へ傘を差す。差してから災いを置く。「ご迷惑ですから」
・統計 紙を挟んだ板を持って、数を数えている。
言う数字は、いつも合っている。合っている数字で、結論だけが違う。
・首魁
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◆ この巻で起きること
二年目の十二月から始まる。冬がもう一度来る。
冬は火の季節になる。同じ旧市街を、二度目に書く。
行けなかった件が一つある状態で、この巻は始まる。その数字は減らない。
六人でやれることと、六人でも足りないことが、そろそろ分かれてくる。
どちらに分かれるかは、その日に決まる。決めるのは、いつも掛ける側になる。
> 以上、記録抄。
> 本編は、次の頁から始まる。




