第070話 詰まってる
> 【第七支部 覚知記録】
> 覚知 ── 八月十七日 十七時五十五分。
> 入電 ── 携帯電話。発信地 ── 中央駅前 三丁目。
> 第一声 ──「詰まってる」
> 出場 ── 第七支部 全隊。
「詰まってる」
尾花律子は用紙を引き寄せた。分まで書いて、秒は書かない。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです。今おられる場所を教えてください」
「中央駅前三丁目の、地下の駐車場です。二層あるうちの、上の層」
「お名前を教えてください」
「柏木です。柏木 昭。ここの係員をしてます」
「柏木さん。何が詰まっているか、教えてください」
「ポンプの吸込みです。桝の蓋を開けて覗きました。落ち葉と、土嚢の袋が入ってます」
「今、水が何処まで来ているか教えてください」
「上の層の、東側の床に来てます。足首の下です」
「下の層は」
「もう入ってると思います。スロープが下へ向いてますから」
尾花は右の欄へ、中央駅前三丁目、地下駐車場、排水閉塞、浸水進行、と書いた。四つ並べてから、二層、と足した。
「柏木さん。中に人が残っているか、教えてください」
「三人です。車を取りに来た人が三人。一人は、下の層の階段室の前にいます」
「その方は、扉を押していますか」
「押してます。開かないって、さっきから」
「では、伝えてください。押すのをやめて、扉から離れて、車の屋根より高いところへ上がってください」
「言います。声、届くかな」
「届かなければ、上の層の東の隅から呼んでください。そこが一番、下へ抜けます」
「行きます」
尾花はそこで秒を書いた。書いてから、次を訊く順を変えた。
「柏木さん。スロープを歩いて下りないでください。水はそこを通ります」
「下りません」
「隊が出ます。着くまで、上の層で待っていてください」
尾花は枠を見た。八つのうち、光っているのは一つになる。
*
八月十七日の三階は、雨だった。夕立になる。窓を閉めても、樋を落ちる音が入ってくる。
武藤とうふ店は七時十分に置いていく。八月は五丁になる。武藤は数える時、一丁ずつ声に出す。一、二、三、と来て、四だけ「四つ」と言い、そこから五へ戻る。三年、誰も直していない。棚の上の紙は、まだ読めない。六か月目に入った。
寺尾剛は椀を六つ並べていた。並べてから、六つ目の位置を確かめる。端になっている。
「まあ待て。今日は降る。降る日は、汁を先に温める。戻ってからでは間に合わん」
二文で言って、寺尾は鍋の火を落とした。落としてから、蓋を載せる。
灰谷蒼汰は索を膝の上に広げて、端から端まで指で送っていた。三年、出る前に必ず一度やる。
「索は四本、乾いています。地下は濡れるので、一本だけ乾いたまま残します」
言ってから、一本を別の袋へ入れた。入れてから、また出して、結び目を解いてもう一度結ぶ。
残すと言った索を、いつも一本余分に持っていく。三年、この手順が変わらない。
七尾ひかりは酸素の残りを見てから、七つ数えた。七つで戻る。数え終わってから、袋の口を締め直した。
桐島奏が、その横で自分の袋を締めていた。締め方が同じになっている。
「七尾 ひかりさん。地下では、何を先に出しますか」
「明かりです。手当てより先に、見えるようにします」
「覚えます」
奏は袋の一番上へ、明かりを入れ替えた。入れ替えてから、蓋を閉める。
入れ替えた分、下にあったものが一つ落ちた。落ちたものを拾って、また同じ場所へ入れる。順番は、二度目で覚える。
逢坂澪は受信席の裏で、中央駅前の図を出していた。三丁目のところに、地下二層の輪郭が入っている。
「中央駅前三丁目の地下駐車場は、二層で百四十台です」
「排水は」
「ポンプが三基。二基が常用で、一基が予備になります」
久遠寺修司が掲示板の前から振り向いた。未着累計の欄には、一と書いてある。三月の終わりから動いていない。
「三基とも動くか」
「動いています。動いていても、吸えていません」
澪は言ってから、図の縁を指で押さえた。押さえたのは、線を引く前の癖になる。
火群迅は自販機の前にいた。一番下の段を押す。理由を言ったことがない。缶を取って、指の腹で口を一度拭いてから開ける。
覚知の音が鳴った。
須永が受信席の端で、中継の表を見ていた。
「中央駅前は、全部繋がってます。今日は」
言ってから、須永は自分の言い方に気付いて、口の中で言い直した。言い直した方は、誰にも聞こえなかった。
戸倉が地下三層から上がってきた。手に、ファイヤーの排水の口の網を持っている。
「宮ヶ瀬さん。網、また詰まりました。二週間で三度目です」
「詰まりました。詰まらない網は、まだ作れていません」
宮ヶ瀬佳代は逆から言う。出来ていることを先に言わない。
「目を粗くすると、粗くした分だけ中へ入ります。中で詰まると、外からは取れません」
網は三年前から同じものになる。三年で、詰まった回数は数えていない。数えていないのは、数えても網が変わらないからになる。
言ってから、宮ヶ瀬は網を戸倉へ返した。返した網の目には、まだ何か挟まっている。
澪が中央駅前の図を机へ広げた。広げてから、三丁目の地下の輪郭に指を置いた。
「中央駅前三丁目、地下駐車場。二層。上の層に係員一名、下の層に三名います」
「水は」
「上の層で足首の下。下の層は、膝から上になります」
「入口は」
「車のスロープが一本、階段室が二本。階段室の扉は、内側へ開きます」
「内側だと」
「水が溜まっている側から押すことになります。開きません」
久遠寺は短い質問しかしない。三年、感想を言ったことがない。
「アンサー」
> ── はい。
「地下三丁目の排水を」
> ── ポンプ三基、毎分の能力は合計で設計の量に足ります。……吸込み桝の点検記録は、三年前が最後になります。
「詰まっているものは」
> ── 分かりません。落ち葉と、袋、という通報がありました。それ以上は、開けてみるまで出ません。
「土嚢の袋は」
> ── 春の風の回で、市が配ったものになります。回収の記録が、ありません。
「何枚配りました」
> ── 市内で四千二百枚です。……戻ってきた枚数は、記録にありません。
アンサーは、分からないことを分からないと言う。三年、そこだけは変わらない。
尾花の席で、二本目が光った。取るまでに、一分六秒あった。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです。……はい、同じ駐車場ですね。隊が向かっています。地下へ下りないでください」
置いてから、保留の時間を用紙へ書いた。書いた数字に、線は引かない。
澪が図の縁から指を離した。
「座標、出た」
*
地下二層のポールを、迅が最初に下りた。二段飛ばしで踊り場を抜けて、下りきる前に走りはじめる。アンサーは一段ずつ下りる。三年、この対比が変わらない。
「発進」
合図は整備班が出す。六人ではない。
中央駅前三丁目に着いたのは、十八時三分になる。所要は八分だった。
地上は降っていた。一時間に六十ミリになる。歩道の縁石を越えて、車道の水が歩道へ乗っている。
六十ミリは、この街の下水が受けられる量を越えている。越えた分は、低いところへ行く。低いところは、駅前では一か所しかない。
乗った水は、駐車場のスロープへ向かっていた。スロープの口が、街で一番低い場所になる。
柏木昭は、その口の横に立っていた。五十九になる。合羽を着ていて、袖の先だけ捲ってある。捲ったのは、桝の蓋を開ける時になる。開けたのは、三年ぶりだった。
開けた蓋は、口の脇に立て掛けてある。裏側に、開けた日の日付が鉛筆で書いてあった。書いたのは三年前で、その下に何も足されていない。
「東の隅から呼びました。返事はありました」
言ってから、柏木はスロープの下を指した。指した先は、暗い。照明は点いている。点いていても、水の面で光が散って、奥が見えない。
迅がスロープの口へ立った。立ってから、水の入る量を見る。
入る幅は五メートル。深さは五センチ。五センチでも、五メートル分が下りていく。
地下は、上から見ると入口しか見えない。中で何が何処まで来ているかは、下りるか、音を通すかでしか分からなかった。
「上、任せろ」
蒼汰が索を歩道の車止めへ取った。取ってから、二重に回す。
「索は四本。スロープの手すりまで、二十二です」
澪が歩道からソナーを構えた。撃つ前に必ず人数を言う。
「四名。上の層に一。下の層に三。撃てる」
撃った。低い音が床の中を通っていく。通った音が、水の高さを返してきた。
「下の層、膝の上まで来ています。三人は北の柱の上にいます」
柱の上にいる。車の屋根より高いところへ、自分たちで上がっている。
伝わっていた。東の隅から呼んだ声が、届いている。届いた先で、三人は扉を押すのをやめている。
押すのをやめさせるのは、押している人にとっては何もしないことになる。何もしないでいてもらうのが、一番伝わりにくい。
奏がスロープの口へ来た。棒を出して、先を広げる。
「盾」
一語だけ言って、スロープの入口へ立てた。
流れてくる水が、そこで割れた。割れた分だけ、下りていく量が減る。
減った量では止まらない。それでも、三分だけ遅くなる。三分あれば、三人は柱から階段室まで行ける。歩ける深さのうちに動いてもらう分の時間だった。
奏は、その計算をしていない。していないまま、そこに立っている。立っている足首まで、水が来ていた。
寺尾がハンマーを担いで、歩道の縁へ回った。回ってから、足で三か所を踏む。
「まあ待て。ここは蓋の上だ。二歩ずらす」
二文で言って、寺尾は二歩ずらした場所へ柱を三本打ち込んだ。三本を横に並べて、頭をスロープの側へ倒す。
「水の向きを変える。全部は止められん」
打ち込んだ柱は、抜かない。街に一つ増える。
スロープの下から、音が返ってきた。
「トリアージ」
迅が左手首の蓋を跳ね上げた。ブレスが色を出す。
> 判定 ── 黒。要救助者、内部に確認できません。
「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
> サイレン ── 起動。〈逢坂 澪〉〈灰谷 蒼汰〉〈寺尾 剛〉〈七尾 ひかり〉。応答、確認。
「急報 ── 通報!」
奏がダイヤルに指を入れた。一を回して、指を戻す。もう一度、一を回す。三度目に、九を回した。
> サイレン ── 着信。〈桐島 奏〉。回線、増設。
> ── 回線、残り 三本。市内 受信可能 九。
増やした。この日は、増やす日になる。
降っている。降っている日は、掛かってくる数が増える。増える側へ、一本足した。
迅は右手を耳の高さへ上げた。掌を外へ向ける。五人が続けた。
雨が掌に溜まった。溜まる先から、腕を伝って落ちていく。
> 水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
> 声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
> 綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
> 梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
> 息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
> 名を持っていく、影の現場 ─── サイレンゴールド!
>
> 特別災害対策機構、第七支部 ──
> 呼ばれたら、鳴らして、行く!
> 急報戦隊、サイレンジャー!
声は雨に潰れた。潰れた分だけ、スロープの中へ落ちていく。下から、返事のように水の音が上がった。
禍体は、吸込みの桝の中から立った。
人の形をしていない。入るものと出ないものが同じ場所で溜まり続けて、溜まったまま形になっている。詰まったものが動かない。動かないことが、形になっている。
音は、水が回りながら止まる音だった。一か所ずつではなく、三つの桝が同じ拍で鳴る。
迅がギアの柄を回した。噛む音が、水の音の下から出てくる。
「鉤!」
引く形にした。引く先は禍体ではなく、吸込みの桝の中の袋になる。
鉤が袋の口へ入った。入れてから、上へ引く。
袋は破れた。破れた先から、落ち葉が全部出た。
出た分だけ、詰まりが濃くなる。桝の水面が、そこで一度だけ下がってから、また上がった。
「戻せ」
迅の返事は短い。理由は付けなかった。
蒼汰が索を桝の縁へ回した。回してから、袋の残りを索の輪で受ける。
「上、任せろ。袋は六枚。輪で受けるのは、二枚ずつです」
二枚ずつ上げた。三度で六枚になる。上げた袋は、歩道の縁へ並べた。並べた六枚とも、市の名が印刷されている。
ひかりが階段室の扉の前へ入った。扉は、内側へ開く形になっている。
「押さないでください。私が上から開けます」
言ってから、ひかりは扉の上の欄間の板を外した。外した穴から、下の水が上の層へ抜ける。
抜けた分だけ、扉の両側の水位が揃った。
揃ってから、扉が開いた。押した人ではなく、水が開けた。
開いた先に、三人が立っている。膝から上まで濡れていて、三人とも自分の足で立っていた。
斬った回数と、助けた回数を数える。ひかりはこの日、板を一枚斬って、三人を上げた。
澪が二度目のソナーを構えた。
「零。下の層に零。桝の中に零。撃てる」
撃った。音が三つの桝を通って、一番奥で返ってきた。
「三基目の桝が一番深いです。予備の分になります」
予備は、三年動いていない。動いていない分、一番溜まっている。
迅が桝の縁へ立った。立って、そこから動かなかった。
押された。二度、三度と続けて、同じ肩に来る。当たる音が、水の音の下で鈍く鳴る。
迅は引かなかった。位置を変えなかった。変えないまま、後ろで三人がスロープを上がっていく。
上がりきったところで、初めて足を出した。
「サイレンアックス ── 急救斬ッ!」
刃が、溜まる向きを横から断った。断たれた先で、詰まったものが同じ場所にいられなくなる。
落ち葉と袋は、ただの落ち葉と袋になって桝の底へ落ちた。落ちた先から、水が抜けていく。
蒼汰が索を解いて、手繰った。三本とも巻き取りへ収める。収めてから、端を指で一度送る。
乾いたままの一本は、袋の中にある。使わなかった一本は、次の日も乾いたまま入っている。
*
地上へ上がった三人は、駐車場の入口の庇の下に立っていた。三人とも、膝から下が濡れている。
柏木昭が、その横で人数を数えていた。三人になる。二度数えて、二度とも三人だった。数えた後で、駐車券の控えを見て、車の数と照らした。十一台のうち、三台分が合った。
「うちの駐車場です。うちの、ポンプです」
誰にも向けていない。言ってから、柏木は続けた。
「三年前から、蓋を開けたことがなかった」
「開けていただいたので、詰まっているものが分かりました」
ひかりがそう言った。一度返してから、頼む型で続ける。
「あと少しだけ、この三人と一緒にいてもらえますか」
柏木は頷いた。頷いてから、合羽の袖を下ろした。捲っていた分が、そこで元に戻る。
歩道の向かいに、人が立っていた。
八月の夕方で、降っている。その人の手元に、紙を挟んだ板があった。板も紙も、濡れていない。
立っているのは〈統計〉になる。板の紙を一枚めくった。
「地下駐車場の浸水は、市内で年に一・二件です」
声はそう言った。めくった紙を、雨の中で持ち替える。
「十年で十二件。うち、人が閉じ込められた件は二件になります」
誰も言い返さなかった。
「二件のうち、一件が今日です。もう一件は、七年前になります」
言ってから、〈統計〉は板を閉じた。閉じてから、庇の下の三人の方を見なかった。
七年前の一件も、この駐車場になる。〈統計〉は、そこは言わなかった。
言わないことは、間違っていない。訊かれていない。
七年前も、蓋は開いていなかった。開ける決まりはある。決まりがあることと、開けることは別になる。
〈統計〉は、歩道の水の中を歩いて、駅の方へ行った。歩いた足元だけ、水が動かない。
スロープの下で、水が持ち上がった。
持ち上がったのは、下の層の分になる。三年分の詰まりが抜けて、一度に上がってきている。
上がった水が、スロープの口を越えて、そこで立った。立った高さが、駅前の庇より上へ行く。
*
地下三層で宮ヶ瀬が盤を叩いた。
「駅前の広場には立てません。下が地下街です。西の車寄せの、杭のある側だけ使えます」
「発進」
合図は整備班が出す。
サイレンファイヤーが車寄せで立った。レスキューが右へ、クレーンが左へ、メディックが右の脚へ、ウイングが背へ回る。
立つ時、四本の脚が杭の頭へ乗った。乗った分だけ、地下街の天井へ荷重が行かない。
> ── 回線、残り 二本。市内 受信可能 九。
庇の下から、四人が見上げていた。雨が強い。傘を差している人はいない。
見上げているのは、庇の下と、駅の連絡通路の窓からになる。
サイレンオーの左手は、握ったままだった。開かない。その握った左腕を、迅は駐車場の換気塔へ寝かせた。
寝かせた腕が、塔の口を開けたままにした。開いた口から、下の水が押し上げられて上へ抜ける。
抜けた先は、雨の中になる。落ちてくる雨と、上がってくる水が、同じ場所ですれ違った。すれ違う音が、地上の何処からでも聞こえた。
水の柱は、寝かせた腕の外側から回り込もうとした。回り込む先には、駅の改札がある。
右腕が動いた。開く方の掌が、柱の腹を横から押した。押した場所で、水が薄くなる。
薄くなった中から、三基目の桝の蓋が出てきた。三年、開けられていない蓋になる。
「サイレンオー ── 全消斬ッ!」
押し出した掌が、蓋を横から抜いた。抜けた先で、柱が形を保てなくなる。
水は、スロープへ落ちた。落ちた水が、そこから下へ戻っていく。
戻る音のあと、ポンプの音が三つとも同じ高さになった。三基目だけ、少し遅れて揃う。三年、動いていなかった分になる。
*
地下三層で、戸倉がファイヤーの排水の網を洗っていた。目に挟まっていたものを、爪で一つずつ外す。
「三度目です。四度目も、多分来ます」
「来ます。来ない網は、まだ作れていません」
宮ヶ瀬は工具を置いて、それ以上は足さなかった。
須永が中継の表を畳んでいた。畳んでから、戸倉に言った。
「あの人、袋を破ったあと、戻せと言いました」
「本人に言え」
「言いません」
それで終わった。須永は表を棚の二段目へ入れた。
三階の食堂で、寺尾が汁を温め直した。八月の椀は、五丁分になる。
先に温めておいた分になる。戻ってから温める手間が、この日は要らなかった。
六つ目の椀に注ぐ時、寺尾は量を確かめた。多くしていない。もう、多くしなくてよくなっている。
多くしていたのは、二度になる。二度で足りた。三度目からは、他の五つと同じにした。
尾花律子は受信席に残った。用紙を綴じて、次の一枚を出す。この日の保留は、一分六秒になる。件数は一件だった。
九本あった。降っている日で、一件で済んでいる。
降る日の受信は、平年で四十件を越える。この日は三十八件だった。増えた一本の分が何処へ効いたかは、数字の上では出ない。
第一声の欄には、詰まってる、と書いてある。漢字のままにした。この人は、何が詰まっているかを名指し出来ている。
蓋を開けて覗いた人になる。開けたのは三年ぶりで、開けたから分かった。分かってから掛けるまでに、四分あった。四分のうちの何分が迷いだったかは、用紙に書く欄が無い。
六人は、この人に礼を言わない。
> 【第七支部 出場記録】
> 臨場 ── 十八時三分。所要 ── 八分。
> 保留 ── 一件。最長 ── 一分六秒。
> 未着 累計 ── 一。
> 損壊 ── 中央駅前三丁目 地下駐車場 吸込み桝 三基 蓋 脱落。階段室 欄間 一枚 破損。
> 下層 車両 十一台 水没。スロープ 舗装 一部 洗掘。換気塔 一基 変形。
> 救助 ── 三名。搬送 ── なし。避難 ── 一名。
> 仮設 ── 支柱 三本 設置。撤去 ── 未定。
> 受信 ── 回線 増設 一。市内 受信可能 九本。
> 市内 地下駐車場のうち 吸込み桝の点検記録が三年以上無いもの 十四か所 ── 記録なし。
> 本件、処理 ── 完了。
> ── 入電。




