第063話 流されてる
> 【第七支部 覚知記録】
> 覚知 ── 六月二十九日 八時四十分。
> 入電 ── 携帯電話。発信地 ── 旧市街 二丁目。
> 第一声 ──「流されてる」
> 出場 ── 第七支部 全隊。
「流されてる」
尾花律子は用紙を引き寄せた。分まで書いて、秒は書かない。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです。今おられる場所を教えてください」
「旧市街の二丁目、丸金の角です。用水の、東側」
「お名前を教えてください」
「武藤です。豆腐屋の武藤徳三」
尾花は名前の欄へ書いた。書いてから、手を止めなかった。三年で二度目の名前になる。一度目は、自分の店の前だった。あの時は、火が出る前に豆腐を置いていた。
「流されている方が見えているか、教えてください」
「見えてます。頭だけ。四十メートルくらい先です」
「今、道に立っているか、教えてください」
「立ってます。膝の下まで来てます」
「そこから、水の来ない側へ下がってください。歩いて渡らないでください」
「渡らんです。渡れんです」
「膝の下でも流されます。下がってから、また話してください」
尾花は右の欄へ、旧市街二丁目、道路冠水、用水路と道の境不明、要救助者一名 流下中、と書いた。四つ並べてから、通報者 現場残留、と足した。
「下がりました」
「ありがとうございます。流されている方が、どこで見えなくなったかを覚えておいてください」
「まだ見えてます」
「見えている間は、そのまま見ていてください。追いかけないでください」
「追わんです」
「その水路が何処へ入るか、教えてください」
「新道の下です。あそこで潜ります」
尾花はそこで秒を書いた。潜る、という一語が出てきた。潜った先は、道の下になる。
「隊が出ます。着くまで、その場所で待っていてください」
「動かんです」
尾花は枠を見た。八つのうち、光っているのは一つになる。
三日で二百ミリ降っている。それでも、光っているのは一つだった。
*
六月二十九日の三階は、朝から窓が閉まっていた。閉めても、雨の音が入ってくる。屋上の樋から落ちる水が、下の非常階段の踊り場を打っている。その音が、三日続いていた。
武藤とうふ店は七時十分に置いていった。六月は四丁になる。三日降り続けても、置く時刻は変わらない。三年で、一度も落としたことがなかった。落とさない理由を訊いた者もいない。
寺尾剛は長靴を並べていた。五足のうち三足は、底の溝が浅くなっている。並べてから、深い二足を端から二番目と三番目に置いた。
「まあ待て。溝の減った靴は、水の日に減る。浅いのは俺と迅が履く」
二文で言って、寺尾は自分の分を先に取った。取ってから、迅の分をその横へ置いた。誰にも訊かずに決めている。
灰谷蒼汰は索を膝の上に広げて、端から端まで指で送っていた。三年、出る前に必ず一度やる。雨の日は、送るのに時間が掛かる。
「索は三本、乾いているのは一本です」
言ってから、乾いた一本を上へ、湿った二本を下へ分けた。分けてから、湿った方の端を握って、水気を絞る。絞っても、乾かない。
七尾ひかりは酸素の残りを見てから、七つ数えた。七つで戻る。数え終わってから、袋の中の毛布の数を数え直した。三枚を四枚にする。
四枚目は、下へ敷く分になる。上から掛けるだけでは、下から冷える。三年で、そこだけは何度も直した。
増やしたのは、水だからになる。水から上げた人は、上げた後で冷える。六月でも冷える。ひかりは、そこを毎回、道具の数で言う。
逢坂澪は受信席の裏で、旧市街の水路の図を出していた。市の下水道課から借りた写しで、開いている区間と、蓋のある区間が色で分けてある。
「旧市街二丁目の用水は、開いているのが百八十メートルです」
「その先は」
「新道の下へ入ります。入ると、四百メートル出てきません」
久遠寺修司が掲示板の前から振り向いた。未着累計の欄には、一と書いてある。三月の終わりから動いていない。
「柵は」
「ありません。境に何も立っていません」
澪は言ってから、図の縁を指で押さえた。押さえたのは、線を引く前の癖になる。
火群迅は自販機の前にいた。一番下の段を押す。理由を言ったことがない。缶を取って、指の腹で口を一度拭いてから開ける。この日は飲まずに、そのまま卓へ置いた。
覚知の音が鳴った。鳴った音の下で、寺尾が長靴を一足ずつ、持ち主の方へ押した。
佐波悠が地下三層から上がってきた。手に、排水の管を短く切ったものを持っている。
「宮ヶ瀬さん。レスキューの床、水が抜けません。三日で溜まりました」
「溜まりました。溜まらない床は、まだ作れていません」
宮ヶ瀬佳代は逆から言う。出来ていることを先に言わない。
「抜く穴を足すと、下から入ります。入る方が困ります」
言ってから、宮ヶ瀬は管を受け取って、切り口を指で撫でた。撫でてから、机の端に置く。置いた場所には、同じような切れ端が四つ並んでいた。四つとも、まだ使われていない。作りかけを捨てないのは、いつか形になるからではない。同じところで詰まったことを、忘れないためになる。
梅木が受信席の横で、無線の防水の口を締め直していた。締めながら、佐波に言った。
「三日で、これが六回目です。締めても、締めても緩みます」
「緩むのか」
「緩みます。乾いてる日は緩みません」
誰も直せとは言わなかった。梅木も直せとは言わなかった。締め直すのは、そのために置いてある仕事になる。
澪が旧市街の図を机へ広げた。広げてから、二丁目の水路の線に指を置いた。
「旧市街二丁目、丸金の角の東。用水路に一名。流下中です」
「速さは」
「毎秒一メートル半から二メートル。歩く速さより、少し速くなります」
「新道までは」
「百八十メートル。今の位置から、百四十です」
「時間は」
「一分半あるかないかになります」
久遠寺は短い質問しかしない。三年、感想を言ったことがない。
「アンサー」
> ── はい。
「新道の下の暗渠を」
> ── 内径一メートル二十。長さ四百十メートル。……途中に段差が二箇所あります。段差の形は、記録にありません。
「入ったら」
> ── 出るまで、こちらからは何も出来ません。出口は川沿い一丁目の吐き口になります。
「入れないためには」
> ── 入口で止めることになります。入口の格子は、去年の秋に外れたままです。
「誰が外しました」
> ── 分かりません。市の記録では、点検の日に付いていました。その次の記録が、まだありません。
アンサーは、分からないことを分からないと言う。三年、そこだけは変わらない。
尾花の席で、二本目が光った。同じ二丁目の、別の番号になる。取るまでに、一分三十秒あった。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです。……はい、同じ用水ですね。隊が向かっています。道と水路の境が見えていませんので、そこから動かないでください」
置いてから、保留の時間を用紙へ書いた。書いた数字に、線は引かない。
澪が図の縁から指を離した。
「座標、出た」
*
地下二層のポールを、迅が最初に下りた。二段飛ばしで踊り場を抜けて、下りきる前に走りはじめる。アンサーは一段ずつ下りる。三年、この対比が変わらない。
「発進」
合図は整備班が出す。六人ではない。
旧市街二丁目に着いたのは、八時五十一分になる。所要は十一分だった。
着いてすぐに分かるのは、道が無いことだった。
道と用水路は、色が違うだけになっている。片方が濁っていて、片方も濁っていた。一メートルの深さがある方と、五センチしかない方が、同じ面で繋がっている。
境の目印は、電柱と、店の看板の並びだけになる。並びを見れば線が引ける。見なければ引けない。
この道は、三日前まで普通の道だった。境が消えたのは、水が増えたからだけではない。柵が無いからになる。柵が無いのは、三日前も同じだった。
武藤徳三は丸金の角に立っていた。六十八になる。膝の下まで水が来ている場所から、十歩下がっている。
配達の荷台は空だった。七時十分に置き終えてから、そのまま戻る途中になる。
「まだ見えてます。あの、電柱の三本目のとこ」
言ってから、武藤は指を差した。指を下ろさなかった。
迅がその方を見た。見て、そのまま水へ入った。止まらなかった。止まると、見えている場所が変わる。
「入るな、って言われました」
武藤がそう言った。誰にも向けていない。
入る側と、入らない側が、そこで分かれる。分かれる場所に線は引いていない。それでも、六人は自分の側を知っている。
水は膝の上まであった。冷たい。六月の水ではない。三日で山から下りてきた分になる。迅は歩かずに、片足で底を探ってから体重を移す。同じ動きを、一歩ずつ繰り返した。探る足が止まる場所が二か所あった。二か所とも、そこから先が水路になる。
境の上を歩いている。歩いているところが境になる。武藤の側から見ると、迅の立っている場所だけ、道の縁が見えた。
蒼汰が索を新道の橋の欄干へ取った。取ってから、二重に回す。
「上、任せろ。橋まで四十です。索は五十あります」
索を水面の上へ渡した。渡した高さは、水面から六十センチになる。流れてくるものが、そこで一度止まる。止めるためではなく、掴ませるための高さになる。掴めなかった時のために、寺尾が下流にいる。
寺尾がハンマーを担いで、暗渠の入口の手前へ回った。回ってから、足で二か所を踏む。
「まあ待て。ここは底が抜けてる。二歩戻る」
二文で言って、寺尾は二歩戻った場所に柱を三本打ち込んだ。三本を横に並べて、頭を上流側へ倒す。
「格子が外れてる。代わりを立てる」
打ち込んだ柱は、抜かない。街に一つ増える。
澪が橋の上からソナーを構えた。撃つ前に必ず人数を言う。
「一名。水中に一。暗渠に零。撃てる」
撃った。低い音が水の中を通っていく。通った音が、流れてくるものの位置を返してきた。
「二十二メートル。左岸寄りです。頭が上がっています」
坂上明夫は、頭を上げていた。六十四になる。仰向けではない。しがみつくものを探して、両手を前に出している。
出した手が、蒼汰の索に当たった。
当たって、掴めなかった。掴めないまま、その下を通る。
「掴まなくていいです。仰向けになってもらえますか」
ひかりが橋の上から声を掛けた。届いたかどうかは分からない。それでも、掛ける。
坂上は仰向けになった。なってから、寺尾の柱の三本目に当たって、そこで止まった。
「トリアージ」
迅が左手首の蓋を跳ね上げた。ブレスが色を出す。
> 判定 ── 黒。要救助者、内部に確認できません。
「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
> サイレン ── 起動。〈逢坂 澪〉〈灰谷 蒼汰〉〈寺尾 剛〉〈七尾 ひかり〉。応答、確認。
迅は右手を耳の高さへ上げた。掌を外へ向ける。四人が続けた。
水の中に立ったまま上げたので、掌に雨が溜まった。溜まる先から、流れて落ちていく。
> 水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
> 声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
> 綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
> 梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
> 息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
>
> 特別災害対策機構、第七支部 ──
> 呼ばれたら、鳴らして、行く!
> 急報戦隊、サイレンジャー!
声は雨に潰されて、遠くまで行かなかった。行かなかった代わりに、丸金の角の武藤には届いた。
> ── 回線、残り 二本。
禍体は、暗渠の入口の中から立った。
水の形をしていない。水が同じ向きへ流れ続けて、流れたまま形になっている。境の無い側から立ち上がって、道と水路の区別を、さらに消していく。
音は、水が石を打つ音だった。一つずつではなく、道の幅ぜんぶが同じ拍で鳴る。
迅がギアの柄を回した。噛む音が、水の音の下から出てくる。
「筒先!」
水を出した。出した水は、流れへは当てない。道の側から押して、境の線を作り直す。
押された水が、一本の筋になった。筋の内側が道で、外側が水路になる。筋は消えていく。消える前に、ひかりが通る。
ひかりが柱の三本目の場所へ入った。入ってから、坂上の脇の下へ手を入れる。
「頭から先に、上げますね」
上げてから、横向きに寝かせた。仰向けにはしない。
坂上は咳をした。咳をしてから、水を吐いた。吐いてから、また咳をする。震えは、上がってから強くなった。六月の雨で、体温が下がっている。
ひかりは毛布を四枚のうちの二枚使った。一枚を下へ敷いてから、一枚を上から掛ける。敷く方を先にする順番を、三年変えていない。
斬った回数と、助けた回数を数える。ひかりはこの日、一度も斬らずに一人を上げた。
澪が二度目のソナーを構えた。
「零。水中に零。暗渠に零。撃てる」
撃った。音が暗渠を通って、四百十メートル先の吐き口から返ってきた。返ってくるまでに、四秒あった。
「段差が二つ。三十メートルと、二百六十メートルです」
入っていたら、その二つを通っていた。誰もそれを言わなかった。言わない代わりに、寺尾は三本の柱の頭を、もう一度上流へ向け直した。
蒼汰が索をもう一本、道の側の電柱へ取った。取ってから、水面の下へ沈める。
「上、任せろ。境の線に沿わせます」
沈めた索が、水の中で一本の線になった。線の外へ出た足が、そこで戻される。
迅が線の上を歩いた。歩いた先が、禍体の腹になる。
「サイレンアックス ── 急救斬ッ!」
刃が、流れの向きを横から断った。断たれた先で、水が同じ向きへ行けなくなる。
水は、ただの水になって用水路へ戻った。戻った先で、道と水路の境が、また色の違いだけになる。
蒼汰は電柱と欄干の索を解いて、手繰った。二本とも巻き取りへ収める。収めてから、端を指で一度送る。
*
坂上明夫は、丸金の角の軒下で毛布に包まっていた。救急はまだ来ていない。三日目の雨で、市内の救急は出払っている。
武藤徳三が、その横に立っていた。まだ帰っていない。
「見えとりました」
誰にも向けていない。言ってから、武藤は続けた。
「見えとって、何も出来んかった」
「見ていてもらえたので、場所が分かりました」
ひかりがそう言った。一度返してから、頼む型で続ける。
「もう少しだけ、傍にいてもらえますか」
武藤は頷いた。頷いてから、坂上の毛布の端を、下へ押し込んだ。押し込む手つきが、豆腐を箱へ入れる時の手つきと同じになる。
誰も、そのことに気付かなかった。
道の向かいに、傘を差さずに立っている人がいた。
六月の雨で、降っている。降っているのに、その人の肩は濡れていない。
立っているのは〈統計〉になる。手元の紙を一度めくった。
「三日で、冠水の通報が二百十四件です」
声はそう言った。めくった紙を、雨の中で持ち替える。紙は濡れていない。
「そのうち、人が流された件は三件になります。百四十分の一以下です」
誰も言い返さなかった。
三件のうちの一件が、軒下で毛布に包まっている。名前がある。坂上明夫、六十四。三年前まで、この道を自転車で通っていた。今朝も、押して通ろうとしていた。押していたものは、まだ水の中にある。
〈統計〉は、その方を見なかった。見ないまま、紙をもう一度めくった。
「昨年の同じ時期は、四件でした。減っています」
言ってから、道の東へ歩いていった。歩いた足跡が、冠水した水面に残らない。
残らないのは、水の上を歩いているからではない。踏んだところの水が、動いていないからになる。動いていないものには、跡が付かない。
武藤が、その方を一度だけ見た。見て、すぐに坂上へ向き直った。
向き直ってから、自分の掌を耳の高さへ上げた。上げてから、掌を外へ向ける。三年前の春、自分の店の前でやっていたのと同じ形になる。
誰も教えていない。教わったのでもない。
用水路の水が、そこで盛り上がった。
盛り上がったのは、暗渠の分になる。四百十メートルの中に溜まっていたものが、全部、入口から戻ってきている。
戻った水が、新道の橋の高さを越えて、そこで立った。
*
地下三層で宮ヶ瀬が盤を叩いた。
「道の上には立てません。下が空洞です。橋の袂の、杭を打ってある側だけ使えます」
「発進」
合図は整備班が出す。
サイレンファイヤーが新道の橋の袂で立った。レスキューが右へ、クレーンが左へ、メディックが右の脚へ、ウイングが背へ回る。
立つ時、四本の脚が杭の上へ乗った。乗った分だけ、冠水した道の側へ荷重が行かない。
> ── 回線、残り 一本。
軒下から、武藤が見上げていた。坂上は毛布の中から見ている。二人とも、外へは出ない。出ると、また膝の下まで水が来る。
見上げているのは、店の庇の下と、二階の窓からになる。
サイレンオーの左手は、握ったままだった。開かない。その握った左腕を、迅は用水路の縁へ寝かせた。
寝かせた腕が、百八十メートルの開いた区間の縁を、一本の線にした。
線の内側が水路で、外側が道になる。色ではなく、形で分かれた。
水の柱は、寝かせた腕の外側から回り込もうとした。回り込む先には、丸金の角がある。
右腕が動いた。開く方の掌が、柱の腹を横から押した。押した場所で、水が薄くなる。
薄くなった中から、去年の秋から外れたままの格子が出てきた。鉄の枠だけが残っていて、桟が全部無い。
「サイレンオー ── 全消斬ッ!」
押し出した掌が、枠を横から抜いた。抜けた先で、柱が形を保てなくなる。
水は、用水路へ落ちた。落ちた水は、暗渠へ入って、四百十メートル先から出ていく。
落ちる音は、三日目の雨の音の中で、ほとんど分からなかった。
*
地下三層で、佐波がレスキューの床の水を掻き出していた。掻き出した先から、また溜まる。
「今日で四回目です」
「四回目です。四回で済む床は、まだ作れていません」
宮ヶ瀬は工具を置いて、それ以上は足さなかった。
梅木が無線の防水の口を、また締め直していた。今日で七回目になる。締めながら、佐波に言った。
「あの人、水の中を歩く時、一歩ずつ底を探ってました」
「本人に言え」
「言いません」
それで終わった。梅木は口金を締めて、面を下ろした。
三階の食堂で、寺尾が湯を沸かした。六月の椀は、四丁分になる。
長靴は五足とも、玄関の内側に伏せてあった。伏せたのは寺尾で、溝の浅い二足を一番風の通る場所へ置いてある。乾くのは遅い。それでも、明日の朝までには乾く。
乾いても、溝は戻らない。戻らないまま、また水の日に履くことになる。寺尾はそれを分かっていて、新しいのを買えとは言わない。言えば、その分だけ誰かが動く。
尾花律子は受信席に残った。用紙を綴じて、次の一枚を出す。この日の保留は、一分三十秒になる。件数は一件だった。
第一声の欄には、流されてる、と書いてある。漢字のままにした。この人は、何が起きているかを名指し出来ている。
名前の欄には、武藤徳三、と書いてある。三年で二度目になる。一度目は、自分の店の前だった。
六人は、この人に礼を言わない。
> 【第七支部 出場記録】
> 臨場 ── 八時五十一分。所要 ── 十一分。
> 保留 ── 一件。最長 ── 一分三十秒。
> 未着 累計 ── 一。
> 損壊 ── 旧市街二丁目 用水路 護岸 一部 崩落。暗渠 入口 枠 一基 脱落。
> 道路 舗装 一部 洗掘。丸金前 側溝蓋 二枚 流出。
> 救助 ── 一名。搬送 ── 一名。避難 ── なし。
> 仮設 ── 支柱 三本 設置。撤去 ── 未定。
> 市内 道と用水路の境に柵の無い区間 六十三か所 ── 設置予定 記録なし。
> 本件、処理 ── 完了。
> ── 入電。




