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急報戦隊サイレンジャー ~呼ばれたら、行く。呼べないなら、見つけに行く~  作者: 智珠
第四巻

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第四巻 扉と出場記録抄

   鳴ったら出る 鳴らんでも出る

   出たら誰かが 待っている


             ── 第七支部 一階の壁書き


     間に合わなかったぶんを、誰かがまだ数えている。


*


> 【第七支部 出場記録抄 第四号】

> 巻 ── 第四。

> 期間 ── 四月から、七月まで。

> 隊員 ── 五名。

> 回線 ── 八。

> 未着 累計 ── 一。

> 以下、記録を開く。


◆ ここまでのこと(読まなくても本編は読めます)


 災いが、作られている。作った側は殺しに来ない。

 災いの周りから、声だけを消していく。


 火は見えている。人は叫んでいる。

 それでも、指令センターに掛かってくる電話は一本しかない。


 だから、呼べた人がいるかどうかで、全部が決まる。


 鳴瀬市を受け持つのは、特別災害対策機構〈サイレン〉第七支部。隊員は五名。

 受信回線は八本しかない。隊員が変身すると、その本数が減る。

 強くなることと、街が呼べなくなることが、同じ数字で動く。


 春から始まって、夏と秋と冬を越えた。一年が過ぎている。


 冬の終わりに、行けなかった件が一つ出た。

 五人が別の場所で二十六分かけている間に、丘の上から掛かった電話が、

 四分十二秒、繋がらないまま切れた。


 その一件の第一声の欄には、何も書かれていない。

 線が五本だけ引いてある。


◆ 言葉


・覚知(かくち)  災害を知った時刻。各話はここから始まる。分まで書いて、秒は書かない

・第一声(だいいっせい) 通報者が最初に言った言葉。各話の題は、その日の第一声になっている

・所要(しょよう) 覚知から着くまでの時間。短ければよいものではない

・保留(ほりゅう) 回線が塞がって、待たせてしまった通報。締めに秒数まで印字する

・未着(みちゃく) 行けなかった件。一度増えると、二度と減らない。今は一になっている


・回線(かいせん)

 受信回線は八本しかない。隊員が一人変身すると一本、合体するともう一本ふさがる。

 ふさがった分だけ、市民が繋がらなくなる。毎回ゼロに戻る。翌日には八本に戻っている。


・トリアージ

 倒す前に、腕輪が敵に色を出す。


  黒  中に人がいない。倒してよい

  黄  人がいる。待てる。人を出してから撃つ

  緑  自力で出られる。壊さず、逃がす

  赤  人がいる。危ない。必殺を撃てない


 色が出ない日が一度あった。その日は、隊員が自分で決めた。


・必殺

 個人は武器の名に「急救斬(きゅうきゅうざん)」を付ける。

 五つを繋いだ〈サイレンバスター〉は「特災合技・全消」。撃つのではない。流す。

 サイレンオーは「全消斬(ぜんしょうざん)」。押し切って、災いそのものを消す。


・決めの型

 変身のあと、右手を耳の高さに上げて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。

 道具も広さも要らない。三歳でも出来る。街の側でも、これをやる人が出はじめた。


◆ 空欄(くうらん)


 指令の用紙には、書く欄が決まっている。

 時刻の欄、場所の欄、人数の欄、背後の音の欄。


 欄が無いものは、書けない。

 呼ばなかった人のための欄は、この用紙に無い。

 助けようとして二人目になった人のための欄も、無い。

 掛けた人が、繋がる場所まで何分歩いたかを書く欄も、無い。


 欄の外にあるものを、一人だけ、白い付箋で数えている人がいる。


◆ 季節


 四月から始まる。二度目の春になる。

 春は野火と強風の季節になる。風が変わると、旧市街の路地に灰が入る。


 季節は一年で一巡して、三年で終わる。冬は三度来る。同じ旧市街を、三度書く。


◆ 五人の隊員


・火群(ほむら) 迅(じん) 二十八歳 サイレンレッド

 階段は二段飛ばし。扉の前で、手の甲を一度だけ当てて熱を見る。

 主語を言わない。理由も付けない。自分の怪我に気付かない。

 「行くぞ。先に着く」


・逢坂(おうさか) 澪(みお) 三十二歳 サイレンブルー

 考えている間は左手で右耳を塞ぐ。手を下ろした時には、もう答えが出ている。

 付箋に日付と場所と件数しか書かない。名前は書かない。

 「座標、出た」


・灰谷(はいがい) 蒼汰(そうた) 二十五歳 サイレンイエロー

 最年少。索を三巻き持って歩く。雨の日は一巻き多い。

 投げたものは必ず回収する。焦げても、千切れても、端だけは持って帰る。

 「上、任せろ」


・寺尾(てらお) 剛(ごう) 四十六歳 サイレングリーン

 最年長。人数分より一つ多く湯を出す。余った一つは自分が飲む。

 打ち込んだ柱を抜かない。街に柱が増えていく。

 「まあ待て。俺が支える」


・七尾 ひかり(ななお ひかり) 三十歳 サイレンピンク

 現場では走らない。走って入ると、押している人の手が止まるからになる。

 息を整えるのに七つ数える。長さを三年変えていない。

 「息、返すよ」


・サイレンゴールド

   ─


◆ 五人を呼ぶ声


・サイレンアンサー

 第七支部の応答系になる。戦わない。合体しない。

 階段を一段ずつ降りる。いつも遅れて来る。返事の前に、必ず一度だけ上を向く。

 「わかりません」と言える。便利ではない。


◆ 支部の人々


・久遠寺(くおんじ) 修司(しゅうじ) 五十七歳 第七支部長

 短く訊く。感想を言わない。

 行けなかった件の数を、掲示板から下ろさなかった。


・尾花(おばな) 律子(りつこ) 四十五歳 指令室・受信担当

 時刻を分まで書いて、秒は書かない。背後の音を三語だけ書く。

 現場には一度も出ない。六人は、この人に礼を言わない。

 「はい、鳴瀬市消防指令センターです」


・宮ヶ瀬(みやがせ) 佳代(かよ) 三十九歳 整備班長

 新しい装備は、全部この人の手から出る。降ってこない。

 毎回、作れなかったものを一つ言う。作れたものは言わない。


・戸倉 健/梅木 あかね/佐波 悠/速水/須永 整備班と通信

 互いを、本人のいないところでだけ認める。

 「本人に言え」「言いません」で、いつも終わる。


◆ 街の人


・武藤(むとう) 徳三(とくぞう) 旧市街のとうふ屋

 毎朝同じ時刻に支部へ届けに来る。豆腐を丁で数えない。

 「三十六だ。丁は言わん」


・梶本(かじもと) 千代(ちよ) 丘の上三丁目

 坂の中ほどの、板塀の低い家に住んでいる。

 呼べば来ることを知っている。それでも、一度も呼んでいない。


・細田 サチ(ほそだ さち) 商店街東端の乾物屋の二階

 膝に編みかけを載せている。

 切らないでくださいと言われたことを、覚えている。


◆ 変身と名乗り


 左手首の蓋を、右手で跳ね上げる。開いた蓋が、受話器の形になる。


 「急報 ── 出場!」


> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。


  水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!

  声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!

  綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!

  梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!

  息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!


  特別災害対策機構、第七支部 ──

  呼ばれたら、鳴らして、行く!

  急報戦隊、サイレンジャー!


 名乗るのは、装備になる。強さは名乗らない。締めに所属を言う。


 一階の壁に貼ってある紙には、七行ある。

 字が入っているのは、五行だけになる。


◆ 手に持つ道具


 共通の武器を〈サイレンギア〉という。柄を半回転させると形が変わる。

 筒先で流す。斧で割る。


・サイレンアックス 迅  二丁ある。普段は片手で一丁だけ使う

・サイレンソナー  澪  壁越しに撃つ。撃つ前に必ず人数を言う

・サイレンワイヤー 蒼汰 投げたら必ず回収する

・サイレンハンマー 寺尾 打ち込んだ柱は残る。街に増えていく

・サイレンナイフ  ひかり 斬った回数と、助けた回数を数えている


・サイレンバスター 五人 五つを繋いだ放水砲になる

  順番は変えない。台座を置くのは、いつも支える人からになる。

  「五器、連結!」


◆ 五つの機体


・サイレンファイヤー 一号 緋  大型水槽付ポンプ車  胴と頭

・サイレンレスキュー 二号 黄  救助工作車      右腕

・サイレンクレーン  三号 深緑 クレーン付重機    左腕

・サイレンメディック 四号 桃  高規格救急車     右脚

・サイレンウイング  五号 藍  消防防災ヘリ     背と左脚


 合体する前に、まず消防車として働く。発進の合図は整備班が出す。

 「五機、連結!」「特災合体 ── サイレンオー!」


 左の掌は開かない。三号が畳んだアウトリガーが、そのまま拳になっている。

 誰も直さない。誰も、そのことに触れない。


 傷は持ち越す。回線は毎回ゼロに戻るが、機体の傷は戻らない。

 軽い傷は次の日に直る。中くらいの傷は三日、大きい傷は八日かかる。

 同時に直せるのは二機までになる。


◆ 向こう側


・災厄機関〈サイレンス〉 災いを作る。そこから出る声だけを消す

・ダンマリ  黒い全身の戦闘員。顔に送話口が無い。消える時も、何も言わない

・禍体(かたい) その回の災いが形を取ったもの。人の形は取らない


・自力(ジリキ)

 幹部。素手で戦う。自分の怪我を、自分で手当てする。

 助けを呼ばない。呼べるのに呼ばない。差し出された手を取らない。

 「手は、自分で巻け」


・遠慮(エンリョ)

 幹部。傘を差している。顔は見えない。

 雨の日に、人へ傘を差す。差してから災いを置く。

 「ご迷惑ですから」


・首魁

   ─


◆ この巻で起きること


 二年目の四月から始まる。一年前と同じ季節が、もう一度来る。


 行けなかった件が一つある状態で、この巻は始まる。

 その数字は減らない。減らないまま、隊は次の当直に入る。


 強くなる。強くなった分だけ、書式の数字が悪くなる。

 所要が伸びる。回線が減る。待たされる人が増える。


 それを本文では嘆かない。数字にだけ出る。


> 以上、記録抄。

> 本編は、次の頁から始まる。

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