第036話 番号が違う
> 【第七支部 覚知記録】
> 覚知 ── 十二月十四日 十六時十分。
> 入電 ── 携帯電話。警察本部より転送。転送 ── 四十秒。
> 発信地 ── 丘の上 二丁目。
> 第一声 ──「番号が違う」
> 出場 ── 第七支部 全隊。
「番号が違う」
尾花律子は用紙を引き寄せた。時刻を分まで書く。秒は書かない。転送の秒だけは、別の欄に書く。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです」
「あの、番号が違うって……ぼく、違うとこに掛けました」
子どもの声になる。十歳くらいで、息が上がっている。
「番号は、間違っていません。ここで合っています。そのまま話してください」
「合ってますか」
「合っています。切らないでください」
尾花は用紙の右の欄へ、転送、十歳前後、と書いた。書いた紙を、左手で当直の側へ半分だけ送る。
「お名前を教えてください」
「森田拓です。四年生です」
「森田さん。今何処におられるか教えてください」
「にれの木公園です。丘の上の二丁目の。落ち葉のところから、けむりが出てます」
尾花はそこだけ、聞こえたとおりに書いた。けむり、と書いて、煙とは書き直さない。
「森田さん。炎が見えるかどうか教えてください」
「見えません。下の方が、たまに赤いです」
「森田さん。その落ち葉の山に、近付かないでください。今おられる場所から動かないでください」
「動きません。あの、児童館があります。すぐ横に」
尾花の右手が止まった。止まったのは、書く欄を選ぶ分になる。
「森田さん。児童館に、人がいるかどうか分かりますか」
「います。三時からのが終わって、まだ帰ってない子がいます」
「森田さん。ご自分では中へ入らないでください。大人の方が近くにおられますか」
「先生がいます。呼びます」
通話の向こうで、走る音がした。走る音が止まって、大人の声が近付いてきた。
「代わります」
「森田さん。代わる前に、一つだけ聞いてください」
「はい」
「火と、けがと、病気は、一一九になります。次からは、一一九へ掛けてください。今日のは、ちゃんと届きました」
「……はい」
尾花はその返事を書かなかった。書く欄が無い。
用紙の一番下に、背後の音を書く。子ども、風、鉄棒。三語になる。
鉄棒の音は、みぞれが当たっている音になる。
*
十六時十分の三階は、電気を点けたばかりだった。
十二月の半ばになると、この時刻でもう手元が暗い。点けるのは、外が暗くなってからではなく、紙の字が読めなくなってからになる。
寺尾剛が大鍋に水を張っていた。夕方の一回目になる。
「班長、まだ四時ですよ」
「張っておく。みぞれの日は、帰ってきた奴が先に湯を欲しがる」
二文で言って、鍋の縁を布で拭いた。
灰谷蒼汰は索を膝の上へ広げて、端から端まで指で送っていた。三年、出る前に必ず一度やる。
「四本です。みぞれだと、表だけ濡れて中が乾きます」
表と中で乾き方が違うと、締めた時の伸びが揃わない。揃わない索は、伸びる方から先に食い込む。
七尾ひかりは、火傷の道具の隣へ、低い体温のための道具も出していた。冬は、この二つを一緒に出す。
火の傍にいた人と、火から離れて外にいた人が、同じ現場から一緒に出てくる。
火群迅は非常階段の一番下にいた。みぞれの当たる位置に立って、上着を着ないまま外を見ている。
みぞれは、雨より重い。当たった場所が、すぐには乾かない。
逢坂澪は受信席の斜め後ろに立っていた。手にはコーヒーがある。砂糖も牛乳も入っていない。
十二月の落ち葉の量を見ていた。市が集めた分で、先月の二倍になる。
二倍になるのは、木が一度に葉を落とすからになる。落ちる日は、寒さが一段下がった翌日に決まっている。
集めた葉は、公園ごとに一か所へ寄せる。寄せてから、業者が運ぶ。運ぶまでの日数は、公園によって違う。
速水が受信席で、地図の束を膝に載せたまま動かなかった。
「今日は出しません」
「出してください」
速水は地図を出した。丘の上二丁目を、間違えずに出した。
梅木あかねが地下二層から上がってきた。手に工具を提げている。
「宮ヶ瀬さん。メディックの後扉、蝶番がまた伸びてます」
「伸びました。開け閉めの回数に耐える蝶番を、まだ作れていません」
宮ヶ瀬佳代は逆から言う。出来ていることを先に言わない。
*
分析に入ると、澪は喋らない。
盤面に丘の上二丁目が出る。にれの木公園は、児童館と並んでいる。
公園と児童館の間に、塀は無い。植え込みが一列あるだけになる。
落ち葉の山は、公園の北の隅に寄せてある。北の隅から児童館の建物まで、十二メートルある。
十二メートルは、離れているようで離れていない。乾いた日の火の粉は、その倍を飛ぶ。
この日はみぞれになる。みぞれの日に、火の粉は飛ばない。
飛ばないので、乾いた日より安心されやすい。安心された分だけ、見つかるのが遅れる。
今日の煙は、五日前から出ていたわけではない。だが、五日前から出ていても、誰も見に行かなかった。
飛ばない代わりに、地面を這う。這った先が植え込みになる。植え込みの下は、去年の葉が積もったままになっている。
「アンサー」
> ── はい。
「にれの木公園、落ち葉の搬出の予定を」
> ── 十二月九日に集積、搬出は十二月十七日の予定です。
「五日置かれている」
> ── 五日です。同じ公園で、去年は集積から搬出まで二日でした。
「延びた理由は」
> ── わかりません。
アンサーは返事の前に一度、上を向いた。頭の受話器の形が、天井を向いてから戻る。
澪は盤面の公園の南半分を消した。残したのは、北の隅と、植え込みと、児童館の北の壁になる。
児童館の北の壁には、窓が三つある。三つとも、床から六十センチの高さから始まる低い窓になる。
低い窓は、子どもが外を見るために付いている。
外を見るための窓は、内側から開ける。開けると、床の高さで空気が入る。
澪は左手を下ろした。
「座標、出た」
五人が動いた。下ろした瞬間に動く。この人の手が下りるまで、誰も一歩も出ない。
「丘の上二丁目、にれの木公園の北の隅。落ち葉の集積、五日置き。児童館まで十二メートル、間に植え込み。館内に児童が数名、低い窓が三つ」
迅は最後まで聞いていない。「児童館」で走り出している。澪は最後まで言い終えた。
久遠寺修司が受信席の後ろで立ち上がった。
「何人だ」
「まだ出ていません。回線は、いま五本空いています」
「第七支部 ── 出場!」
*
ポールは二本ある。迅が一番に握った。掌が焼ける。焼けるのを毎回やる。一階で装備を背負い、階段で地下三層へ下りる。
地下三層の扉が上がった。
「三層、開放!」
宮ヶ瀬佳代が盤の前に立っていた。この日は湿度の記録を、盤の隅に出したままにしてある。
「一号から五号、出場!」
丘の上の坂は、この秋に一本が塞がった。塞がった方は、まだ全部は開いていない。
五機は一本目の坂から回った。回った分で、三十秒余計に掛かった。
にれの木公園の入口に、森田拓が立っていた。十歳になる。携帯を両手で持っている。
持ち方が両手なのは、片手だと落とすからになる。この子は、水から上がった夏に一度、そう教わっている。
「消防です。動かなかったな」
「動いてない」
迅はそれ以上訊かなかった。訊かずに、公園の北の隅へ走った。
落ち葉の山は、高さが人の胸ほどある。表は濡れている。濡れているのはみぞれで、上から二センチだけになる。
その下から、白い煙が細く出ていた。
迅は山の手前で足を止めた。止めてから、手の甲を山の表へ当てる。冷たい。表だけが冷たい。
冷たい表の下に熱がある時は、崩すと一度に出る。崩さない方が長く持つ。長く持つ方を選ぶのは、隣に児童館があるからになる。
ひかりが児童館の北側の戸を開けた。開ける前に、指導員へ声を掛ける。
「先生。子どもたちを南側から出してもらえますか。北の窓は開けないでください」
「開けません」
中に、子どもが七人いた。三時からの回が終わって、迎えを待っている子になる。
七人が南側の入口から出た。出る時、一人が北の窓へ寄ろうとして、指導員に肩を持たれた。
寺尾が植え込みの列へハンマーを立てた。植え込みの根元へ、鉄の柱を一本、横に寝かせて置く。
「まあ待て。俺が支える。この植え込みは、下が去年の葉だ」
二文で言って、二本目を落ち葉の山と植え込みの間へ入れた。入れた柱の間が、三十センチの溝になる。
蒼汰が索を二本、公園の樹に渡した。渡した索を、山の上へ低く張る。
「上、任せろ。二本で上を押さえます」
迅が斧の柄を半回転させた。ギアが二度、続けて噛んだ。
「筒先!」
水が出た。山へ掛けるのではない。植え込みと、その下の去年の葉へ掛ける。
燃えているものではなく、これから燃えるものを濡らす。
二十秒掛けた。掛けている間、白い煙は太くならなかった。
太くならないまま、山の真ん中が一度沈んだ。
沈んだ場所から、灰が上へ吹き上がった。
吹き上がった灰が、みぞれに当たって落ちずに止まった。止まった灰が、その場で集まっていく。
集まった形は、低くて広い。高さは三メートル、幅は落ち葉の山と同じになる。
迅が左手首の蓋を跳ね上げた。五人が同じ動作をした。
「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
> サイレン ── 起動。〈逢坂 澪〉〈灰谷 蒼汰〉〈寺尾 剛〉〈七尾 ひかり〉。応答、確認。
反射帯の光が足元から頭まで走った。装甲が下から順に組み上がる。五つの送話口が、同じ高さで止まった。
五人が同時に右手を上げた。耳の高さで止めて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。
みぞれが五人の肩で溶けずに残っている。残ったまま、名乗った。
> 水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
> 声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
> 綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
> 梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
> 息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
>
> 特別災害対策機構、第七支部 ──
> 呼ばれたら、鳴らして、行く!
> 急報戦隊、サイレンジャー!
口上が公園の柵の外まで出た。出た先の歩道で、傘を差した人が三人、足を止めた。
迅がブレスを灰の塊へ向けた。
「トリアージ!」
> 判定 ── 黒。要救助者、内部に確認できません。
「黒」
> ── 回線、残り 三本。
塊が広がった。上へではなく、横へ広がる。
横へ広がる相手は、越えることが出来ない。押しのけて進む。
進んだ先が植え込みになる。植え込みの向こうが、児童館の北の壁になる。
迅は塊と壁の間に入った。入った場所は、三十センチの溝の上になる。
溝は寺尾が作ったものになる。溝の底は土で、土は燃えない。
燃えない場所に立って、迅は下がらなかった。
塊の縁が装甲へ当たる。当たった場所から、熱が来た。膝から下が、はっきり熱い。
熱いのは灰そのものではない。灰の中に、まだ燃えている葉が混じっている。
「押し返せない。広がるだけだ」
澪が公園の入口でソナーを構えた。撃つ前に必ず人数を言う。
「十一名。児童館の南に八、公園の入口に一、歩道に二。塊の中は零。撃てる」
撃った。低い音が塊の腹を通った。通った場所の灰が、下へ落ちた。
落ちた灰の下から、まだ赤いものが見えた。赤いのは、山の真ん中にあった層になる。
「中に一本、まだ燃えてる筋があります。北から南へ通ってます」
蒼汰が索を投げた。投げた索が、塊の北の端に掛かった。
「上、任せろ。掴みません。持ち上げます」
掛けた索を、蒼汰は樹の枝を支点にして下へ引いた。引いた分だけ、塊の北の端が浮く。
浮いた下から、赤い筋が外へ出た。出た筋を、ひかりがナイフの腹で押さえて、地面へ倒した。
斬らずに倒す。倒れた筋の上へ、寺尾が柱を一本、横に置いた。置いた柱の下で、筋は伸びられなくなった。
この日、ひかりはナイフで何も斬っていない。
塊の北の端が浮いたまま、南へ倒れようとした。南は児童館の反対側で、誰もいない。
誰もいない側へ倒れるなら、それでいい。
だが倒れる途中で、塊は向きを変えた。変えた先が、また児童館になる。
「戻るぞ」
迅の声が短い。
蒼汰は引いていた索を、そこで放さなかった。放さずに、逆へ回した。
樹の枝の上で索が滑る。滑った索が、塊の北の端を、持ち上げたまま横へ振った。
振られた塊が、公園の北の隅へ戻る。戻った場所は、もう燃えるものが無い。
「サイレンワイヤー ── 急救斬ッ!」
索の先が塊の腹を、北から南へ縦に抜けた。
抜けた場所から、赤い筋が全部外へ出た。出た筋は、濡れた地面の上で順に黒くなった。
塊が崩れた。崩れた灰が、公園の北の隅で山に戻る。
戻った山が、今度は下から持ち上がった。持ち上がった高さが、児童館の屋根を越えた。
*
地下三層で宮ヶ瀬が盤を叩いた。
「公園の中です。地面が芝で、クレーンのアウトリガーが沈みます」
五機が公園の外の道へ並んだ。サイレンクレーンは歩道の縁石を跨いで、車道側にだけアウトリガーを張る。
サイレンウイングが公園の上を低く抜けた。抜けた風で、みぞれが横へ流れた。
サイレンメディックは児童館の南の入口へ着けて、後扉を開けたまま待っている。
「五機、連結!」
「特災合体 ── サイレンオー!」
サイレンオーが立った。
公園の入口から見上げた森田拓には、脚と、胴の下半分が見えた。歩道の三人には、左手だけが見えた。
その左手は、開いていない。握ったままになる。
> ── 回線、残り 二本。
山が児童館の方へ傾いた。傾いた先は、低い窓の三つになる。
サイレンオーは掴まなかった。掴まずに、左腕を児童館の北の壁に沿わせて、上から下へ立てた。
立てた腕が、壁と山の間で一枚の板になる。
山は窓へ届かない。届かない分だけ、公園の側へ戻る。
寺尾の声が回線に入った。
「板になった。窓へは行かん」
迅が言った。
「今だ」
右腕の放水砲が開いた。
「サイレンオー ── 全消斬ッ!」
水が出た。斬るのではなく、押す形で出る。
押された山が、公園の北の隅で潰れた。潰れた先で、体が保てなくなる。
灰は灰に戻った。戻った灰が、みぞれと混ざって、その場で黒い泥になった。
黒い泥は、もう飛ばない。飛ばないものは、翌朝そのまま袋に入る。
袋に入れば、搬出の日を待つ必要が無くなる。待たせていたのは、量ではなく順番の方になる。
歩道に、三十人ほどが集まっていた。傘を差している人と、差していない人が半分ずつになる。
拍手が起きた。起きたのは歩道からで、公園の中からではない。公園の中には、まだ子どもが出ていない。
十六時四十九分に、児童館の七人が迎えの車へ移った。
誰も怪我をしていない。北の窓は、三つとも閉まったままになる。
指導員が迅の前へ来た。四十くらいの女で、上着を着ていない。
「北の窓、開けなくてよかったです」
「開けたら、床から入る」
迅はそれだけ言って、公園の方へ戻った。
落ち葉の山の跡に、六十くらいの男が立っていた。市の委託で、この公園の落ち葉を集めた人になる。
「昨日、隅の分だけ燃やしたんです。水を掛けて、消して帰りました」
誰も返事をしなかった。返事をする係が、この場にいない。
消したつもりで帰った人が、この街では毎年、何人か出る。数える欄は、どの用紙にも無い。
落ち葉の山の中は、外からは冷たい。冷たい表を触って、消えたと思うのは、間違えやすい方の間違いになる。
間違えやすい方の間違いを、この街はまだ誰にも教えていない。
男はもう一度、同じことを言った。二度目は、少しだけ小さかった。
三度目は言わない。代わりに、跡の泥をスコップで一度だけ返す。返した下から、まだ乾いた葉が出てきた。
男はその葉を見て、スコップを地面へ置いた。置いてから、両手を膝に当てて、しばらく立っていた。
乾いた葉は、この山の一番下にあったものになる。上から水を掛けても、そこまでは届かない。
寺尾が横から、柱を一本抜いて肩に担いだ。
「消えてなかった。それだけだ」
二文にならなかった。この人が一文で止めるのは、めったに無い。
公園の入口で、森田拓がまだ立っていた。携帯は両手で持ったままになる。
ひかりがその前へ行って、同じ方を向いて立った。
「森田さん。もう電話は切って大丈夫ですので、家の人へ掛けてもらえますか」
「もう掛けました。指令の人が、切る前に言ってくれたので」
拓は携帯をポケットへ入れた。入れてから、右手を耳の高さまで上げて、掌を外へ向けた。
誰も教えていない。夏に一度、川の中洲から、この形を見上げている。
ひかりは同じ高さまで自分の手を上げた。上げてから、下ろすのを少し遅らせた。
遅らせた分だけ、拓は自分の手を先に下ろした。下ろしてから、もう一度上げ直した。
二度目の方が、高さが揃っていた。
公園の柵の外に、傘を持った人影が立っていた。
傘は開いている。みぞれが降っている。
開いた傘は、その人の上ではなく、隣に立っていた指導員の上へ差し掛けられていた。
指導員は上着を着ていない。子どもを七人出す間、ずっと外にいた。
「濡れますから」
声はそう言った。指導員が振り向いた時には、傘だけがその場に残っていた。
残った傘は、開いたまま、地面に立っていた。柄の先が、みぞれで濡れた土へ二センチ入っている。
差していた人の顔を、誰も見ていない。
*
支部へ戻ると、武藤とうふ店の豆腐は、もう玄関の内側にあった。
朝の五丁が、そのままになる。この日も、誰も三階へ上げていない。
寺尾が笊を出して、五丁を移した。移してから、角を確かめる。
「崩れとらん。みぞれの日でも崩れとらん」
梅木が地下二層で、サイレンメディックの後扉を見ていた。蝶番は、秋から少しずつ伸びている。
「今日は南側だけ十一回開けました」
「十一回です。回数を数えなくていい蝶番を、まだ作れていません」
宮ヶ瀬は工具を置いた。置いてから、それ以上は足さなかった。
毎回、作れなかったものを一つ言う。三年、欠かしたことが無い。
戸倉が工具箱の蓋を閉めながら、梅木の方へ小さく言った。
「支部長、迅さんの報告に足す行数、いつも三行です」
「本人に言ってあげたらどうですか」
「言いません。四行目を足されるので」
澪は受信席の裏で、市の落ち葉の記録を出していた。
公園ごとに、集積から搬出までの日数が並んでいる。短いところは二日、長いところは八日になる。
八日置かれる場所は、市内に三か所ある。三か所とも、隣に人の集まる建物が建っていた。
その並びを見る欄は、どの用紙にも無い。
澪は自分の地図に付箋を一枚貼った。丘の上二丁目、にれの木公園。これで十六枚目になる。
付箋には何も書いていない。
三階の食堂で、寺尾が湯豆腐を出した。みぞれの日の椀は、湯気が立たずに上へ抜ける。
食べ終わらないうちに、二階の受信席で、電話が鳴った。
> 【第七支部 出場記録】
> 臨場 ── 十六時十七分。所要 ── 七分。
> 保留 ── 一件。最長 ── 三十六秒。
> 未着 累計 ── 零。
> 損壊 ── 丘の上二丁目 にれの木公園 落葉集積 全量 焼損。植込 一列 一部 焼損。
> 園内芝地 十二メートル 泥化。
> 救助 ── なし。避難 ── 八名。
> 転送 ── 四十秒。覚知の遅れとして記録。
> 本件、処理 ── 完了。
> ── 入電。




