第三巻 扉と出場記録抄
鳴ったら出る 鳴らんでも出る
出たら誰かが 待っている
── 第七支部 一階の壁書き
助けて、と言っていい。
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> 【第七支部 出場記録抄 第三号】
> 巻 ── 第三。
> 期間 ── 十二月から、三月まで。
> 隊員 ── 五名。
> 回線 ── 八。
> 未着 累計 ── 零。
> 以下、記録を開く。
◆ この頁について
読まなくても本編は読めます。先の巻の中身は載せていません。
◆ ここまでのこと
災いが、作られている。作った側は殺しに来ない。
災いの周りから、声だけを消していく。
火は見えている。人は叫んでいる。
それでも、指令センターに掛かってくる電話は一本しかない。
だから、呼べた人がいるかどうかで、全部が決まる。
鳴瀬市を受け持つのは、特別災害対策機構〈サイレン〉第七支部。隊員は五名。
受信回線は八本しかない。隊員が変身すると、その本数が減る。
強くなることと、街が呼べなくなることが、同じ数字で動く。
春に始まって、夏と秋を越えた。行けなかった件は、まだ一つも無い。
秋の終わりに、五人の武器を繋いで一つにする道具が出来た。
繋げるのは五つまでになる。六つ目の口は、まだ付いていない。
◆ 言葉
・覚知 災害を知った時刻。各話はここから始まる。分まで書いて、秒は書かない
・第一声 通報者が最初に言った言葉。各話の題は、その日の第一声になっている
・所要 覚知から着くまでの時間。短ければよいものではない
・保留 回線が塞がって、待たせてしまった通報。締めに秒数まで印字する
・未着 行けなかった件。一度増えると、二度と減らない。今は零になっている
・回線
受信回線は八本しかない。隊員が一人変身すると一本、合体するともう一本ふさがる。
ふさがった分だけ、市民が繋がらなくなる。毎回ゼロに戻る。翌日には八本に戻っている。
・トリアージ
倒す前に、腕輪が敵に色を出す。
黒 中に人がいない。倒してよい
黄 人がいる。待てる。人を出してから撃つ
緑 自力で出られる。壊さず、逃がす
赤 人がいる。危ない。必殺を撃てない
・必殺
個人は武器の名に「急救斬」を付ける。
五つを繋いだ〈サイレンバスター〉は「特災合技・全消」。撃つのではない。流す。
サイレンオーは「全消斬」。押し切って、災いそのものを消す。
・決めの型
変身のあと、右手を耳の高さに上げて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。
道具も広さも要らない。三歳でも出来る。
◆ 空欄
指令の用紙には、書く欄が決まっている。
時刻の欄、場所の欄、人数の欄、背後の音の欄。
欄が無いものは、書けない。
呼ばなかった人のための欄は、この用紙に無い。
助けようとして二人目になった人のための欄も、無い。
欄の外にあるものを、一人だけ、白い付箋で数えている人がいる。
◆ 季節
十二月から始まる。一度目の冬になる。
冬は火の季節になる。空気が乾いて、木が縮む。
一月と二月で、旧市街の路地が一番細く見える。
季節は一年で一巡して、三年で終わる。冬は三度来る。同じ旧市街を、三度書く。
◆ 五人の隊員
・火群 迅 二十七歳 サイレンレッド
階段は二段飛ばし。扉の前で、手の甲を一度だけ当てて熱を見る。
三年、真空引きの音が鳴りきるのを待ったことが無い。
「行くぞ。先に着く」
・逢坂 澪 三十一歳 サイレンブルー
考えている間は左手で右耳を塞ぐ。手を下ろした時には、もう答えが出ている。
付箋に日付と場所と件数しか書かない。名前は書かない。
「座標、出た」
・灰谷 蒼汰 二十四歳 サイレンイエロー
最年少。索を三巻き持って歩く。雨の日は一巻き多い。
投げたものは必ず回収する。焦げても、千切れても、端だけは持って帰る。
「上、任せろ」
・寺尾 剛 四十五歳 サイレングリーン
最年長。人数分より一つ多く湯を出す。余った一つは自分が飲む。
打ち込んだ柱を抜かない。街に柱が増えていく。
「まあ待て。俺が支える」
・七尾 ひかり(ななお ひかり) 二十九歳 サイレンピンク
現場では走らない。走って入ると、押している人の手が止まるからになる。
息を整えるのに七つ数える。長さを三年変えていない。
「息、返すよ」
・サイレンゴールド
─
◆ 五人を呼ぶ声
・サイレンアンサー
第七支部の応答系になる。戦わない。合体しない。
消火器ほどの円筒に、受話器の形の頭が乗っている。腕は無い。
階段を一段ずつ降りる。いつも遅れて来る。返事の前に、必ず一度だけ上を向く。
「わかりません」と言える。便利ではない。
◆ 支部の人々
・久遠寺 修司 五十六歳 第七支部長
短く訊く。感想を言わない。壁の紙に、今月の数字を自分の字で書く。
・尾花 律子 四十四歳 指令室・受信担当
時刻を分まで書いて、秒は書かない。背後の音を三語だけ書く。
現場には一度も出ない。六人は、この人に礼を言わない。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです」
・宮ヶ瀬 佳代 三十八歳 整備班長
新しい装備は、全部この人の手から出る。降ってこない。
毎回、作れなかったものを一つ言う。作れたものは言わない。
・戸倉 健/梅木 あかね/佐波 悠/速水/須永 整備班と通信
互いを、本人のいないところでだけ認める。
「本人に言え」「言いません」で、いつも終わる。
◆ 街の人
・武藤 徳三 六十八歳 旧市街のとうふ屋
毎朝同じ時刻に支部へ届けに来る。豆腐を丁で数えない。
「三十六だ。丁は言わん」
・梶本 千代 丘の上三丁目
坂の中ほどの、板塀の低い家に住んでいる。
呼べば来ることを知っている。それでも、一度も呼んでいない。
◆ 変身と名乗り
左手首の蓋を、右手で跳ね上げる。開いた蓋が、受話器の形になる。
「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
変身は、電話が繋がる工程になっている。だから、繋がらないことがある。
水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
特別災害対策機構、第七支部 ──
呼ばれたら、鳴らして、行く!
急報戦隊、サイレンジャー!
名乗るのは、装備になる。強さは名乗らない。締めに所属を言う。
一階の壁に貼ってある紙には、七行ある。
字が入っているのは、五行だけになる。
◆ 手に持つ道具
共通の武器を〈サイレンギア〉という。柄を半回転させると形が変わる。
筒先で流す。斧で割る。
・サイレンアックス 迅 二丁ある。普段は片手で一丁だけ使う
・サイレンソナー 澪 壁越しに撃つ。撃つ前に必ず人数を言う
・サイレンワイヤー 蒼汰 投げたら必ず回収する
・サイレンハンマー 寺尾 打ち込んだ柱は残る。街に増えていく
・サイレンナイフ ひかり 斬った回数と、助けた回数を数えている
・サイレンバスター 五人 五つを繋いだ放水砲になる
順番は変えない。ハンマーが台座、アックスが砲身、ワイヤーが吊り、
ソナーが照準、ナイフが銃口になる。
台座を置くのは、いつも支える人からになる。
「五器、連結!」
◆ 五つの機体
五つとも、戦うために作った機械ではない。
合体する前に、まず消防車として働く。
・サイレンファイヤー 一号 緋 大型水槽付ポンプ車 胴と頭
・サイレンレスキュー 二号 黄 救助工作車 右腕
・サイレンクレーン 三号 深緑 クレーン付重機 左腕
・サイレンメディック 四号 桃 高規格救急車 右脚
・サイレンウイング 五号 藍 消防防災ヘリ 背と左脚
発進の合図は、隊員ではなく整備班が出す。
連結は三号のクレーンから始まる。
アウトリガーを張って、四本目だけが半拍遅れる。直していない癖になる。
その半拍の間に、残りの四機が入る。
「五機、連結!」
「特災合体 ── サイレンオー!」
左の掌は開かない。三号が畳んだアウトリガーが、そのまま拳になっている。
誰も直さない。誰も、そのことに触れない。
傷は持ち越す。回線は毎回ゼロに戻るが、機体の傷は戻らない。
◆ 向こう側
・災厄機関〈サイレンス〉 災いを作る。そこから出る声だけを消す
・ダンマリ 黒い全身の戦闘員。顔に送話口が無い。消える時も、何も言わない
・禍体 その回の災いが形を取ったもの。人の形は取らない
・自力
幹部。素手で戦う。自分の怪我を、自分で手当てする。
助けを呼ばない。呼べるのに呼ばない。差し出された手を取らない。
「手は、自分で巻け」
・遠慮
幹部。傘を差している。顔は見えない。
雨の日に、人へ傘を差す。差してから災いを置く。
「ご迷惑ですから」
・首魁
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◆ この巻で起きること
冬になる。四か月分の当直で、火が一番多い季節になる。
通報の掛け方を間違える人が出てくる。
間違えても、繋がる。繋がるまでに、少しだけ時間が掛かる。
その少しが、記録の上では数字になって残る。
行けなかった件の数は、この巻の頭では、まだ零になる。
> 以上、記録抄。
> 本編は、次の頁から始まる。




