第024話 音がしません
> 【第七支部 覚知記録】
> 覚知 ── 九月十七日 十七時五十二分。
> 入電 ── 携帯電話。発信地 ── 丘の上 四丁目。
> 第一声 ──「音がしません」
> 出場 ── 第七支部 全隊。
「音がしません」
尾花律子は用紙を引き寄せた。時刻を分まで書く。秒は書かない。第一声を、聞こえたとおりに書く。何の音かは、まだ書かない。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです。今何処におられるか教えてください」
「丘の上の四丁目の、公園です。滑り台のある、小さい公園」
「お名前と、何の音がしないのかを教えてください」
「宮川です。高校二年です。おじさんが倒れてて、胸に耳を当てたけど、音がしません」
尾花の手が止まった。止まったのは一瞬になる。止まってから、書く欄を一つ飛ばして、下の段へ移った。下の段には、順番が印刷されていない。ここから先は、覚えているとおりに訊く。
この段へ移るのは、三年で二百回に満たない。移った日は、たいてい長くなる。長くなった日を、この人は数えていない。数えているのは別の人になる。
「宮川さん。その方の肩を叩いて、大きな声で呼びかけてください」
「呼びました。返事しません」
「周りに人がいるかどうか教えてください」
「二人います。犬の散歩の人と、小学生」
「宮川さん。犬の方に、AEDを持ってきてもらってください」
「AEDって、何処に」
「公園の入口の、掲示板の下にあります。無ければ、丘の上四丁目の集会所です」
「言います。……行きました」
尾花は用紙の右端へ、時刻を書いた。十七時五十三分になる。覚知から一分になる。この一分で、この人は掛ける側の手を三つ動かした。呼びかけ、応援、道具になる。
「その方の胸とお腹が動いているか、十秒だけ見てください」
「動いてません」
「では、胸の真ん中を押します。両手を重ねてください」
「押します」
「一分間に百回から百二十回です。胸が五センチ沈むくらい強く押してください」
「五センチ」
「強く、速く、止めないでください。数は私が数えます」
尾花は数えはじめた。声の高さも、数える速さも変わらない。
数えている間、この人は用紙を見ない。見ると速さが乱れる。乱れると、押している側の手も乱れる。
三年で、この人が数えた回数を、本人だけが知っている。
「一、二、三、四 ──」
背後で、当直の階段が鳴った。
*
十七時五十二分の三階は、窓が半分閉まっていた。
九月の後半になると、夕方から風が冷たくなる。窓を全部開けていられる季節が、この日で終わった。
寺尾剛が汁を火に掛けていた。夏の間は昼までだった湯を、また夕方まで出すようになっている。
「班長、湯が戻りましたね」
「戻った。彼岸を過ぎたら夕方は冷える。汗が引く時が一番冷える」
二文で言って、蓋を半分ずらした。
七尾ひかりは、資器材の棚の前にいた。棚の一番上に、心臓を動かすための道具が二つ並んでいる。
二つとも、月に一度、動作を確かめる。確かめる日は月の頭と決めていて、この日ではない。それでも、この人は上の段を見た。見てから、下の段の副木の数を数え直した。
棚の前で数え直すのは、待っている時の癖になる。数える対象は何でもいい。数えていれば、息が上がらない。
灰谷蒼汰は索を三本、背負い袋に入れていた。四本のうち一本は、伸びたまま干してある。
「三本で行きます。四本目は、まだ戻ってません」
逢坂澪は受信席の斜め後ろに立っていた。手にはコーヒーがある。砂糖も牛乳も入っていない。
立ったまま、市内の音の記録を見ていた。見ていたのは仕事ではない。九月の当直表を作り終えて、手が空いていたからになる。
その表に、一つだけ抜けている行があった。
丘の上四丁目の防災行政無線が、この日の十七時に鳴っていない。夕方五時のチャイムになる。
鳴らなかった記録は残る。残るだけで、誰も見に来ない。市の設備の記録は、故障の届が出て初めて開かれる。届が出るのは、たいてい一週間ほど後になる。
火群迅は非常階段の一番下にいた。立ったまま、靴の紐を結び直している。この日は一度で済ませた。
尾花の背中が前に出た。前に出てから、数を数えはじめた。
その数え方を聞いて、ひかりが棚の前から動いた。
*
分析に入ると、澪は喋らない。
盤面に丘の上四丁目が出る。児童公園は一つしかない。滑り台と、砂場と、鉄棒が一つずつある。
救急の隊は、市内に十二隊いる。この時刻、丘の上を受け持つ隊は二つとも出ていた。三番目に近い隊が来るまで、十四分掛かる。
十四分というのは、押す側の手にとっては長い。押される側にとっては、もっと長い。
澪は十四という数字を出したあと、二枚目の盤面を出した。防災行政無線の記録になる。
十七時のチャイムは、市内百二十一箇所で鳴っている。鳴っていないのは一箇所だけになる。
丘の上四丁目、児童公園の柱になる。
「アンサー」
> ── はい。
「丘の上四丁目、児童公園。十七時のチャイムが鳴っていない。故障の記録は」
> ── ありません。点検は先月です。異常なしと出ています。
「今、その柱に電気は来ているか」
> ── 来ています。……鳴らない理由は、わかりません。
アンサーは返事の前に一度、上を向いた。頭の受話器の形が、天井を向いてから戻る。
澪は二枚目を消さなかった。消さずに、一枚目の上に重ねた。
重ねると、公園の砂場のあたりで二つの印が並んだ。倒れた人と、鳴らない柱になる。
澪は左手を下ろした。
「座標、出た」
五人が動いた。下ろした瞬間に動く。この人の手が下りるまで、誰も一歩も出ない。
「丘の上四丁目、児童公園、滑り台の北、砂場の縁。救急隊は十四分。こちらが先に着く」
迅は最後まで聞いていない。「砂場の縁」で走り出している。澪は最後まで言い終えた。
久遠寺修司が受信席の後ろで立ち上がった。
「先着は」
「こちらです。回線は五本、空いています」
「第七支部 ── 出場!」
*
ポールは二本ある。迅が一番に握った。掌が焼ける。焼けるのを毎回やる。一階で装備を背負い、階段で地下三層へ下りる。
地下三層の扉が上がった。
「三層、開放!」
宮ヶ瀬佳代が盤の前に立っていた。この日は徹夜の三日目になる。昨日も同じことを言っていた。その数え方が四日続いた月が、今年に入って二度ある。
「一号から五号、出場!」
サイレンメディックが先頭に出た。この隊形はめったに取らない。取るのは、火が無くて人が倒れている日になる。
「二つとも積んだ。ただし片方は、電池がもたない」
「電池の残りは何割ですか」
「六割だ。足りるとは言わない」
ひかりは返事をしなかった。返事の代わりに、後扉の内側で袋の口を開けた。開けた袋の中身は、車が止まる前に順番へ並べておく。着いてから並べると、そこで十秒落ちる。
丘の上まで六分掛かる。坂を上がる分だけ遅くなる。
澪の声が耳に入った。
「市民が使えるのは三本。今、掛かっているのは一本になる。その一本が、公園から切れていない」
尾花はまだ数えている。数えている声が、車内の回線にも薄く入ってきた。
「二十八、二十九、三十」
迅は速度を落とさない。坂の下の信号で一度だけ止まって、そこでも数を聞いていた。
公園の入口で車を降りた。降りた先に、自転車が一台倒れていた。荷台に部活の袋が括ってある。倒れた向きが公園の中を向いている。停めたのではない。降りた勢いのまま、置いていったことになる。
砂場の縁に、四人いた。倒れている六十くらいの男と、その胸を押している女子高生。少し離れて、犬を連れた男と、小学生が立っている。
女子高生は、両手を重ねて押していた。肘は伸びている。押す位置は、胸の真ん中になる。
押しながら、口が動いていた。
「五十四、五十五、五十六」
ひかりが走った。走って、砂場の縁で膝を落とした。
落とした膝の位置は、押している女子高生の隣になる。正面ではない。
代わろうとしなかった。
「宮川さん。そのまま続けてもらえますか」
「え」
「止めないでください。私は隣にいます」
女子高生は押し続けた。腕は震えている。震えているのに、押す深さが浅くなっていない。
押しながら、こちらを見た。
「あの、代わらないんですか」
「代わります。ただし、手が離れる時間を作りたくないので」
ひかりは女子高生の肘の外側に、自分の掌を軽く添えた。添えただけで、押していない。
「息、返すよ」
七つ数えた。数える長さを変えない。三年、一度も変えていない。
その七つが、女子高生の押す速さと合った。合わせたのではない。初めから同じ速さだった。
尾花が電話で渡した速さと、この人が三年変えていない速さが、同じところに来ている。二人とも、そのことを知らない。
蒼汰が犬の男からAEDの箱を受け取った。受け取って、蓋を開ける。
「電源、入れます。音声、出ます」
箱の蓋の内側で、緑の灯が点いた。
灯は点いた。音声は出なかった。
*
音が消えたのは、そこからになる。
女子高生の数える声が、五十九で止まった。止まったのではない。口は動いている。
小学生が犬を呼んだ。呼んだ口も動いている。犬が吠えた。吠えた口も開いている。
公園から、音だけが抜けていた。抜けたのは音だけになる。風は吹いている。木は動いている。動いているのに、葉の擦れる音が無い。
砂場の上に、砂が浮いていた。浮いたまま、落ちてこない。落ち葉も三枚、同じ高さで止まっている。
止まっている場所の輪郭が、そのまま柱の形になった。透き通っていて、境目が無い。
高さは滑り台の三倍ほどある。幅は、砂場を丸ごと覆うだけある。
迅が左手首の蓋を跳ね上げた。跳ね上げる音が、自分の耳にも届かない。五人が同じ動作をした。
「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
> サイレン ── 起動。〈逢坂 澪〉〈灰谷 蒼汰〉〈寺尾 剛〉〈七尾 ひかり〉。応答、確認。
反射帯の光が足元から頭まで走った。装甲が下から順に組み上がる。五つの送話口が、同じ高さで止まった。
組み上がった瞬間に、五人の間だけ音が戻った。装甲の送話口が、互いを繋いでいる。
五人が同時に右手を上げた。耳の高さで止めて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。
> 水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
> 声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
> 綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
> 梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
> 息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
>
> 特別災害対策機構、第七支部 ──
> 呼ばれたら、鳴らして、行く!
> 急報戦隊、サイレンジャー!
口上は、砂場の外へ一歩も出なかった。滑り台の脇で止まって、そこで消えた。
砂場の四人は、その口上を聞いていない。聞こえていないので、誰も顔を上げなかった。
迅がブレスを柱へ向けた。
「トリアージ!」
> 判定 ── 黒。要救助者、内部に確認できません。
「黒」
ひかりは砂場から動かなかった。動かずに、女子高生の肘の外側の掌を、そのまま置いている。
女子高生の手が、遅れはじめた。遅れる理由は疲れではない。数が聞こえないからになる。自分の声が自分に届かないと、人は速さを保てない。
ひかりは掌を肘から肩へ移した。移して、肩を叩いた。一定の間隔で、叩き続ける。
叩く音は、女子高生にも聞こえていない。聞こえていないが、触れている拍は届く。皮膚は、耳より鈍い。鈍いぶん、消されにくい。
女子高生の手が、その拍に戻った。
蒼汰が箱を持ち上げた。音声は出ないままになる。灯だけが点いている。
「上、任せろ。パッドは絵の通りに貼ります」
貼った。貼る位置は、箱の蓋の内側に絵で描いてある。右の鎖骨の下と、左の脇の下になる。
貼ってから、全員が手を離す合図を出した。声ではない。手を上げて、下ろした。
女子高生は合図で手を離した。離した手を、胸の上で組まずに、膝の脇へ下ろしている。すぐ戻せる位置になる。
箱が動いた。動いたことは、灯の色が変わったことで分かった。
男の体が、一度だけ跳ねた。跳ねたのは肩と踵になる。胸ではない。押していた側の手には、その震えが直に伝わる。
ひかりが女子高生の肩を二度叩いた。二度は、再開の合図になる。
押しはじめた。再開までに掛かったのは、三秒になる。
柱が砂場の外へ膨らんだ。膨らんだ先が、公園の柵を越える。
寺尾がハンマーを打った。柵の外側の歩道へ、鉄の柱を二本、斜めに入れる。
「入った。ここから先へは膨らめない」
二文で言って、柱の間に体を入れた。膨らんだ透明が、寺尾の背に当たって止まった。
当たった場所で、装甲の反射帯が一本、消えた。塗料が剥げたのではない。光っていない。
澪が公園の入口でソナーを構えた。撃つ前に必ず人数を言う。
「五名。砂場に四、歩道に一。柱の中は零。撃てる」
撃った。低い音が柱の真ん中を通った。通った場所だけ、砂が落ちた。
落ちた砂の音が、そこだけ戻った。戻った幅は、人が一人立てるくらいになる。
迅がその穴へ入った。斧は右手一丁になる。
「サイレンアックス ── 急救斬ッ!」
斧が柱を下から上へ割った。割れた場所から、浮いていた落ち葉が三枚、一度に落ちた。
落ちた三枚の音が、砂場の四人にも届いた。
柱は割れたまま、公園の外へ出た。出た先の坂で、上へ伸びる。伸びた先が、坂の上の給水塔と同じ高さで止まった。
地下三層で宮ヶ瀬が盤を叩いた。
「坂の上です。上からは入れません」
五機が坂の下から上がってきた。サイレンメディックだけが公園に残っている。後扉を開けたまま、そこを動かない。
サイレンレスキューの器具箱が七つある。蒼汰は五つ目までを開けて、索を全部出した。それでも足りなかった。
七つ目を開けた。中に、予備が一巻き入っている。規定外になる。
誰も何も言わなかった。蒼汰も何も言わずに、それを担いだ。
サイレンクレーンが坂の途中でアウトリガーを張る。四本目が、半拍遅れて張られた。
サイレンウイングが風下から入って、坂の上を横に抜けた。
「五機、連結!」
「特災合体 ── サイレンオー!」
サイレンオーが立った。
公園から見上げた小学生には、脚と、胴の下半分が見えた。犬を連れた男には、左手だけが見えた。
その左手は、開いていない。握ったままになる。
女子高生は見上げない。押し続けている。数は、まだ聞こえていない。
柱が坂の上で細くなる。細くなった先を、サイレンオーが左腕で押さえた。握ったままの左手が、坂の路面へ押し付ける。
押さえた場所から、坂の下まで音が戻った。戻った順は、上から下になる。
寺尾の声が回線に入った。
「戻った。下は空だ」
迅が言った。
「今だ」
右腕の放水砲が開いた。
「サイレンオー ── 全消斬ッ!」
水が出た。斬るのではなく、押す形で出る。
押された柱が、坂の上の空き地へ運ばれていく。運ばれた先で、体が保てなくなる。
保てなくなった透明が、砂と落ち葉に分かれて落ちる。落ちた音が、坂の下まで届いた。
届いた先の公園で、女子高生の数える声が戻る。
「百二十七、百二十八、百二十九」
途中から数え直していない。音が消えていた間も、この人は数え続けていた。数え続けられたのは、肩に拍が届いていたからになる。
十八時六分に、救急隊が着いた。
着いた時に、男の胸は自分で動いていた。動きはじめたのが、AEDの後になる。何秒後かは、誰も測っていない。
ひかりは女子高生の手を、両手で肘から外した。外してから、その両手を膝の上に置いた。
「宮川さん。手を握ったり開いたりしてもらえますか」
「え、なんで」
「そのままにすると明日動かないので、開いてもらえますか」
女子高生は握って開いた。三度目で、指が震えた。
「震えてます」
「震えます。それだけ押したので」
ひかりは、それ以上言わなかった。言わずに、担架の高さを合わせた。
合わせてから、扉を閉めて、閉めた側の手で二度、縁を叩いた。合図になる。
搬送先は市民病院になる。着くまでに二十分掛かる。その二十分の間、この人の胸は自分で動いていた。動きはじめた時刻を、誰も測っていない。測る欄は、用紙のどこにも無い。
女子高生は砂場の縁に座ったままだった。座ったまま、右手を耳の高さまで上げた。掌を外へ向ける。
誰も教えていない。
公園にいた四人のうち、その形を作ったのは一人だけだった。
小学生がそれを見て、同じ形を作った。作ってから、犬を連れた男を見上げた。
男は作らなかった。作らずに、犬の綱を持ち直した。持ち直してから、公園の出口へ歩いていく。
誰も、この人を責めない。作る人と作らない人が、同じ公園に立っていただけになる。
*
支部へ戻ると、梅木が公園から回収したAEDの箱を拭いていた。
「音声、出なかったそうですね」
「出なかった。ただし、動作はした。灯は正しく変わっている」
宮ヶ瀬は箱を開けて、中の記録を出した。出してから、蓋を閉めた。
「音の出る部分だけが働いていない。壊れてはいない」
戸倉がサイレンメディックの後扉の蝶番を見ていた。開けたまま四十分置いた扉になる。
「四十分開けっぱなしで、下がってません。この扉は丈夫です」
蒼汰は七つ目の器具箱を閉めていた。閉めてから、使った予備の一巻きを、また七つ目へ戻した。
戻すために、支部の予備をそこへ入れ直している。この人は、七つ目を空にしない。空にしておくと、次に足りなくなった時に開ける場所が無くなる。
規定では、器具箱は六つになっている。七つ目があることを、書類に書いたことは一度も無い。
梅木がそれを横から見ていた。見てから、戸倉に言った。
「灰谷さん、代わらなかったそうです。七尾さんも。押してた子の手を、最後まで止めなかったって」
「本人に言ってやったらどうだ」
「言いません。当たり前だと思ってるので」
宮ヶ瀬が工具を置いた。置いてから、一言だけ足した。
「音の出ない場所で鳴る道具を、まだ作れていません」
毎回、作れなかったものを一つ言う。三年、欠かしたことが無い。
澪は受信席の裏で、二枚目の盤面をもう一度出していた。
丘の上四丁目の柱は、十八時のチャイムを鳴らしている。故障ではない。
鳴らなかったのは、十七時の一回だけになる。
澪は自分の地図に付箋を一枚貼った。丘の上四丁目、児童公園。これで七枚目になる。七枚のうち、四枚は三年で一件しか通報が来ていない場所になる。残りの三枚は、そうではない。
付箋には何も書いていない。
三階の食堂で、寺尾が汁を配った。ひかりは最初に食べ終えた。寺尾がまだ配っている途中で終わっている。
「もう?」
「もう」
二階の受信席で、電話が鳴った。
> 【第七支部 出場記録】
> 臨場 ── 十七時五十八分。所要 ── 六分。
> 保留 ── 一件。最長 ── 二十六秒。
> 未着 累計 ── 零。
> 損壊 ── 丘の上四丁目 児童公園 柵 三枚。歩道 舗装 二箇所。
> 傷病 ── 一名。心肺停止。市民により蘇生処置。搬送時、自己心拍あり。
> 通信 ── 丘の上四丁目 防災行政無線 一基。十七時のみ不鳴。以後、正常。
> 本件、処理 ── 完了。
> ── 入電。




